第6.5話 幕間:舞い上がる団子屋の娘

 ピロロッ。


 ラインの通知音に、葉月はヘアドライヤーを切ってスマホに飛びついた。

 家に帰ってからも、風呂に入っている間も、ずっと連絡が来ないかと待っていた。

 そう、西島からだ。


『お疲れ。森永と渡辺に、間宮が十五年前の事件の被害者家族だと報告した』


 絵文字も顔文字もない、用件のみの素っ気ないラインに苦笑する。

 それに、それを報告しに行った事なんか知ってる。行く前に話していたではないか。

 それでどうだったのかまで言って欲しいのだ。そして今どういう気持ちなのかを──。


『お疲れ様です。大丈夫ですか? ブルトーザーは何か言ってましたか?』


 ──と、絵文字を交えて直ぐに返信したが、それから小一時間は経っている。

 葉月は次第に苛々してきた。

「もおぉぉぉっ! これだから、オ、ジ、サ、ン、はッ! イヤーッ!」

 声を上げ、枕を何度もベッドに叩きつける。

 階下から、母親のいい加減にしなさいと言う声が聞こえて来た。

「もうっ! バカッ! 知らない!」


 ピロロッ。


「来たッ!」

 知らないと言った割に、即座にスマホに飛びつく。

 西島だ。

 

『悪い。バッテリー切れた。

 渡邉が、十五年前の事件も間宮が関わっているんじゃないかと言い出したよ。

 流石に無理があると思うけどな』


 バカバカ! 充電ぐらいしなさいよ!

 心の中でそう叫びながら、鼻に皺を寄せて手足をバタつかせる。


 ピロロッ。


「ん?」

 友達からだろうか。

「今そんな気分じゃないんですけど……」

 そう言いつつ、のろのろとスマホを手にして通知を見る。

 その途端、息を呑んだ。

「ウソ。西島さ──」

 葉月は連投され、通知に表示された短い文を読み、心臓がキュッとするのを感じた。


『ホントは直ぐにお前に電話して声が聞きたかったんだけど、竹さんに捕まった。

 近い内に、また飯行こうな』


「イヤーン!」

 思わず声が漏れる。また、母親が下で怒っていた。

 しかし、葉月はすっかり舞い上がっており、母親の声など何処吹く風だ。

 通知を何度も眺め、ベッドでゴロゴロと転がり、泳ぐように足をバタつかせた。

 

 直ぐに既読を付けないで置こうかな。

 なかなか返事が来ないのが、どんな気分か思い知らせちゃうぞ。


 そう思いつつ、うっかり画面にキスをした。

 瞬時にトーク画面が表示される。

「ヤバ。既読付いた……。よね……」

 葉月は西島がラインを開いていないことを願ったが、結局直ぐに返信した。


『嬉しい! 是非行きたいです!』

 

 ハートを付けるべきか迷ったが、重たいと思われたくなくて、嬉しそうな絵文字だけ付けた。

 そこから何度もトーク画面を確認し、既読を待つ。


 葉月の気力も途切れそうになった三十分後、ようやく既読が付いた──が、返事が来ることはなかった。


 

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