第28話:駆け引き

「因縁をつけて来た騎士と決闘になって手に入れた物です。

 後で問題になってしまうかもしれませんが、買い取ってもらえますか?」


 21人の騎士を殺して手に入れた武器と防具、軍馬や衣服をブラー古物商店に持ち込んで買い取ってもらえるか聞いてみた。


「事情は分かったが、余りにも問題が多過ぎる。

 家ではなく、商業ギルドに買い取ってもらえ。

 ウワサは聞いている、この件の黒幕もストックトン宮中伯なのだろう?

 だったら商業ギルドの存続をかけて、詫びもかねて、高値で買ってくれる」


 ブラー古物商店の店主、モートンさんが助言してくれた。

 王家や有力貴族、王国騎士たちが難癖をつけて奪い返そうとするかもしれない。

 そう思ったから急いで売ってしまいたかった。


 モートンさんなら漢気を出して買ってくれるかもしれないと思ったが、漢気があり過ぎて、自分の利益よりも僕の利益を優先してくれた。


「分かりました、モートンさんの親切は忘れません」


「そう思ったら、今度は訳アリではない普通の物を売りに来てくれ。

 何か買って行ってくれてもいいんだぞ」


「分かりました、大城壁外に家を建てようと思っていますので、必要な物はモートンさんの所で買わせていただきます」


「あてにしないで待っているよ」


 そう軽口をたたき合いました。


 ★★★★★★


「少々お待ちください、マスターを呼んできます」


 僕たちは商業ギルドに来て、モートンさんに言われた事を正直に警備員に話したら、慌てて商業ギルドマスターを呼びに行った。


「マスターが貴賓室で待たせていただいています。

 ご案内させていただきますので、ついて来てくださいますか?」


 ギルドマスターに連絡に行った商業ギルドハウスの警備員ではなく、高級そうな制服を着た、幹部と思われるギルド職員がやってきて言った。

 貴族を迎えるための貴賓室で待っていると言われても困る。


「いえ、困ります、騎士たちから奪った物を置いて行けません」


 僕とエマとリナだけで、21人の騎士たちの装備や軍馬を運べるわけがない。

 東大城門前で僕たちを待っていた、荷役の貧民たち341人に手伝ってもらわないと、とてもではないが運べなかった。


 性根が腐っていたとはいえ王国騎士だ。

 良い戦闘スキルは授かっていたし、神々の祝福もそれなりの回数を重ねていた。


 だから重い武器を振るえたし、騎士鎧などの重装甲防具をつけて戦えた。

 そんな武器や防具を運ぶには、1騎士分で6人8人の荷役が必要だった。


 特に人数が必要だったのは、暴れ出したら危険な軍馬だ。

 自分よりも弱い人間の言う事を聞かないので、8人がかりで手綱を持つしかない。


 もっとも軍馬はとても賢いので、とんでもなく強い僕が命じたら、絶対に逆らわないので暴れる事はない。


 そんな危険な軍馬が21頭もいるから、僕が側を離れる訳にはいかない。

 それに騎士の完全装備は1人分で10億円前後の価値がある。

 今日初めて会った荷役もいるのに、目を離せるわけがない。


「この国の商業ギルドで買い取れないのなら、どこか隣国に行って売ります。

 別に僕はこの国でなくても良いですし、王都でなくても良いのです」


「申し訳ございません、直ぐにマスターを呼んできます。

 今直ぐマスターをここに呼んできます!

 今しばらく、今しばらくだけお待ちください!」


 僕の返事を聞いたギルドの幹部職員が真っ青になって言った。

 慌ててドタバタと階段を登って行った。


「ショウ殿、愚かで身勝手な事を言ってしまいました!

 状況判断もできない私にマスターの資格はない!

 この件が終わったら責任をとって辞任します!

 ですから、商業ギルドを辞めて他国に行くのだけは考え直していただきたい!

 この通りです、ギルドを辞めないでください!

 できるだけ高値で買い取らせていただきます、お願いします!」


 慌てて5階から降りて来たギルドマスターが必死で謝ってきた。

 近くにいた職員たちも同じように頭を下げている。


 今回僕が商業ギルドハウス内で襲われた事情、職員による刺客引き入れを聞いた多くの商会員たちから、問い合わせと苦情が来ているのかもしれない。


 会員の中には、新たな商業ギルドを立ち上げて、自分がマスターになろうと動き始めている人がいるのかもしれない。


 地方にある別系統の商業ギルドや他国の商業ギルドが、王都に乗り込む動きをしているのかもしれません。


「そうですか、だったらいくらで買っていただけるのでしょうか?」


「今直ぐ全額現金を用意する事はできませんが、最低でも1騎士分1000万アルで買い取らせていただきます。

 商業ギルドにあるだけの現金と、約束手形で買い取らせていただきます。

 ショウ殿に損をさせないように、時間をかけて個別で査定させていただき、名のある高価な物があった場合は、不足額を追加で支払わせていただきます」


「分かりました、それで良いです、買い取ってください。

 どのようなものがあったのか、互いに確認しましょう。

 みなさん、買取受付に運んでください」


 1騎士分1000万アルで買い取ってもらえることになった上に、個別にしっかりと査定して、1騎士分で1000万アルを超える場合は差額がもらえる。


 僕に有利な査定なのですが、利益が多い分やらなければいけない事があります。

 売る武器や防具、軍馬や衣服の特徴を互いにくわしく記録しないといけない。

 盗まれたりすり替えられたりしないように、特徴を正確に記録しないといけない。


「運び終えてくださった人には日当とパン代を払いますから、今日はそのまま帰ってください、明日は魔境に狩りに行きますので、同じ時間に集まってください」


 341人に日当50アルずつ払って1万7050アル。

 パン代の20アルずつ渡して6820アル。

 商用ギルドに実績を残すための手数料が3410アル。


 商業ギルドから受け取った現金と約束手形を合わせて2億1000万アル

 元々あったお金も差し引きして2億1335万7161アル。

 もう子ども食堂を始めてもだいじょうぶかな?

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