第25話:頭数狩り

「ちょっと遅くなりましたが、魔境で狩りをします。

 無理はしませんが、油断はしないでください」


 僕はそう言って200人の荷役を連れて東南魔境に行った。

 王都行政官が協力してくれたので、思っていたよりは早く行けた。

 親切な王都行政官は、家臣を派遣して商業ギルドに連絡してくれた。


 商業ギルドと連絡がついたので、エマとリナが王都行政官の屋敷に来られた。

 荷役たちに頼んで2日分のライ麦堅パンを買って来てもらえた。

 王都行政府に預けておく、僕が奪った物の目録を、交換して預ける事もできた。


 羊皮紙に書いた目録は、僕が昨晩書いた物と王都行政官の家臣が写した物だ。

 荷役が欲に負けないように、運ぶ品物を全部書き出していたのだ。

 それを現物と確認して写すだけだから短時間で済んだ。


 それでも夜明け前に魔境に入るはずだったのが昼前になってしまった。

 だから獲物を探す時間も往復する時間も限られている。

 日暮れ前までに王都に戻って商業ギルドに行くのなら、時間が足りない。


 普通なら狩りを諦めなければいけないのだが、運が良いのか悪いのか、東大城門に近い貧民街に寝泊まりできる事になっている。


 閉門までに王都に戻れなくても、狩った獲物を貧民街に置ける。

 氷魔術を使えば品質を落とすことなく保管できる。

 スキルに神運があるのだから当然なのかもしれないが、助かる。


「私たちが獲物を追い込んで来るわ」

「薬草よりも魔獣の方が高く買ってもらえるわ」


 エマとリナが魔境に入って直ぐにそう言って奥に走って行った。

 ずっと200人の荷役を雇う為には、獲物が必要だと思ったのかもしれない。

 無理をしなくても良いのだが、エマとリナのやる気をそぐのも悪いと思った。


 エマとリナが獲物を追い込んできてくれるまで、指弾で鳥を狩った。

 指笛を使って中小の鳥を誘いだして狩った。

 初めて試したが、びっくりするくらいたくさんの鳥が集まって来た。


「行ったわ!」

「任せたわ!」


 1時間ほど早足で魔境の奥に向かっていたら、エマとリナの声が聞こえた。

 荷役たちに無理をさせたくはなかったが、エマとリナの事も心配だった。

 

 ボオオオオオ、ボオオオオオ、ボオオオオオ、ボオオオオオ、ボオオオオオ


 この世界のダチョウがとんでもない勢いで走ってきた!

 エマとリナは、僕なんかよりもずっと経験豊富な猟師だった。

 僕が強いのは異神の加護があるからで、経験があるからではない。


 エマとリナは、前回遭遇して狩ったダチョウの居場所を知っていたのだ。

 はっきりとした居場所は分からなくても、ある程度予測できたのだ。

 だからこそ魔境に入って直ぐに探しに行ったのだ。


 前回19頭狩ったから80頭くらいに減っているはずのダチョウの群れ。

 200kgを越える大きな個体から順に狩る。

 僕とエマとリナが担ぐ5頭以外に50頭も狩れる!


「樹皮をはいでおいてくれ」


「「「「「はい!」」」」」


 僕のやり方を知っている荷役たちが急いで樹皮をはいでくれる。

 狩ったダチョウをしばるロープ代わりの樹皮をはいでくれる。

 担い棒は事前に作っておいたものがあるので、新しく斬り出す必要はない。


 前回と同じように、すごい勢いで走って来るダチョウの首を刎ねる。

 首を刎ねても走っているので、斬り口から血が噴き出て血抜きになる。


 完璧な血抜きができるので、それでなくても美味しいダチョウ肉が、他の誰が狩ったダチョウ肉よりも美味しくなる。


「大城門が閉まる前に王都に戻ります、急いでください」


「「「「「はい!」」」」」


 僕たちはできるだけ急いで王都に戻った。

 荷役たちが息が切れるくらい頑張って走ってくれた。

 重いダチョウを担ぎながら、大城門まで走ってくれた。


「気を付けろよ、高位貴族ほど汚いやり方をするぞ」


 顔見知りになった東大城門の当番兵が小声で警告してくれる。

 王都行政官の配下には良い人が多い、組織は上に立つ者しだいなのだな。


 異神眼を使って高貴族がやるかもしれない汚い手段を見てみた。

 異神眼を使うのを卑怯だと思ってしまうし、神々の介入で簡単に変わってしまう未来だけれど、僕たちの命には代えられない。


 将来やるかもしれない汚い手段は変わるかもしれないけれど、過去にやった汚い手段を確かめたら、何度も使った汚いやり口が分かる。

 その対処法を考えながら商業ギルドに向かった。


「大城門が閉められる前に急いで帰ってください。

 明日は夜明け1時間前に東大城門前に集まっていてください。

 200人とは言いません、貧民街を守る人以外何人来てくれてもいいです。

 女性や子供でも構いません、安全を最優先にして、来られるだけ来てください」


 僕はそう言って200人の荷役に帰ってもらった。

 2日分の日当が2万アル、商業ギルド手数料が4000アル。

 パン代は少し多めに現金で8000アル渡した。


「相変わらずショウさんの獲物は最高級品ばかりですね。

 これだけに肉質の良いダチョウを狩る人はショウさん以外見た事がありません」


「ありがとうございます、これからも高品質を保つように狩ります」


「55頭合計で6万9122アルになります。

 これでよろしければ買取させていただきます」


「はい、その金額でお願いします」


 今日は人数がとても多かったですが、魔境に入ってからダチョウを狩るまでの時間が少なかったので、集められた薬草は種類も量も少なかった。


 それに、王都の外、貧民街で寝起きするとなると、何があるか分からない。

 神様の加護がある僕は病気にならないと思うが、エマとリナが心配だ。

 なので、今日集めた薬草は全部貧民街の夜営地に運んでもらった。


 6万9122アルから日当と手数料とパン代をひいて3万7122アル。

 エマとリナと半分に分けると1万8561アルになります。

 前日までの手持ち金と合わせて338万4441アルです。


「すみません、もう暗くなってしまったので、ホテルまで行くのが怖いです。

 商業ギルドに泊まらせてもらっていいですか?」


 上品な受付嬢は家に帰ってしまったのだろう。

 夜は男性しか残らないのかもしれない、存在感のある年配の受付に聞いてみた。


「はい、どうぞお泊りください。

 商用で遅くなった会員さんや忙しくて帰れなかった職員が泊る仮眠室が有ります。

 案内させていただきますので、ついて来て下さい」


 僕とエマとリナは、存在感のある男性受付に居心地の良い仮眠室を教えてもらえたが、もちろん男性と女性で使う仮眠室は別々だった。

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