第24話:王都行政官

「昨日強盗団に襲われたのですが、捕らえたら冒険者だったのです。

 商人ギルドの会員として正式に冒険者ギルドを訴えたいのです。

 ただ僕は冒険者ギルドの会員でもあるので、冒険者ギルドの会員同士は、殺さない限り会員同士の争いをとがめないと言う慣例があります。

 どのようにすべきか教えていただけますか?」


 僕とエマとリナは200人の荷役を引き連れて、再起不能にした58人の強盗冒険者と奪った武器や防具を持って、東大城門に行った。


 夜明け1時間前に王都の大城門は開けられる。

 この時間には、王都を出て魔境で狩猟や採取をする人たちが列をなしている。

 それだけ多くの人に見聞きされたら、貴族も冒険者ギルドも罪をもみ消せない。


「ちょっと待ってくれ、あまりにも大きな問題なので俺たちだけでは判断できない。

 王都行政官様の判断をあおぐから、しばらく待っていてくれ」


「こいつらに聞いたら、冒険者ギルドの職員とクランを使って強盗させているのが、有力な貴族、ストックトン宮中伯閣下だと証言しました。

 ストックトン宮中伯閣下が権力を使ってなかった事にするようでは困ります。

 王都行政官様だけでなく、商業ギルドにも連絡したいです。

 この2人を王都の中に入れさせてください。

 2人とも冒険者ですから、入っても問題ありませんよね?!

 それとも、当番兵の方や隊長の騎士様には困る事があるのですか?」


 許可を取らずに、僕たちとは別にエマとリナを王都に入らせても良かった。

 僕と別行動した方が安全かもしれないと少しだけ悩んだ。


 だけど、それよりも、東大城門に集まっている多くの人に事情と顔と名前を知られた方が、エマとリナの安全が買えると思った。


「無礼だぞ、バカな事を言うな、俺たちは強盗団と関係ない!

 疑われるような事は何1つ無い、さっさと商業ギルドに報告してこい!」


 あせった当番兵が僕の誘導に乗せられてくれたので、エマとリナを商業ギルドに行かせる事ができた。


 思っていたよりも早く、たった30分くらいで王都行政官が馬を駆って来た。

 少数の家臣に護られながらやってきた。


「事情は聞いた、屋敷で取り調べるから中に入れ。

 多数の容疑者と大量の証拠を運ばなければいけないから、王都外の者も特別に入都を許可する」


「分かりました、容疑者と証拠を運んでください」


 僕の指示に従って荷役たちが王都の中に入った。

 王都行政官に後に従って正々堂々と王都の中に入った。


 これまでは王都の中に入る事を許されず、王都の民が外に出るために開けられた、東大城門の外側で待たされていたのだ。


 王都行政官を恐れてか、集まっていた人たちが割れるように道をあける。

 いったん解散して、王都中にウワサを広めてくれるかもしれない。


 東大城門の内側から冒険者ギルドの職員であろう奴が様子を見に来ていた。

 もう少し時間がかかっていたら、冒険者ギルドかストックトン宮中伯が介入していたかもしれない。


 東大城門を入って直ぐの右街区には冒険者ギルドがある。

 僕ににらまれて小便をちびっていた下品な化粧をした受付嬢と幹部職員が、殺意のこもった目で僕をにらんでいた。


(殺すぞ!)


 声に出さず、心の中だけで言って、殺気を放ってやった。

 またしても泡を吹いて小便もちびって道にひっくり返った。

 これで冒険者ギルド内だけでなく王都の人たちにもバカにされるだろう。


★★★★★★


「くわしい事情を聞かせてもらおう」


 僕たちは王都行政官の屋敷に案内された。

 王都行政官用の役所ではなく個人の屋敷に案内された。

 王都行政府の人間全員が行政官の味方ではないのかな?


「はい、僕の知る範囲の事を話させていただきます。

 僕が知らない事も、連中を調べてくだされば分かると思います」


「ああ、分かっている、拷問をしてでも全て白状させる」


 僕はできる限りくわしく事情を話した。

 捕らえた冒険者から聞いたと言って、異神眼で知った事も話した。

 冒険者たちからは聞いていない黒幕貴族の名前、ストックトン宮中伯も話した。


「……私の力では黒幕のストックトン宮中伯を捕らえられないかもしれない。

 だが、少なくとも、王都行政官の権限で捕らえられる者は全員処罰する」


「そうしていただけたら安心して暮らせます。

 個人的な事を確かめたいのですが、よろしいでしょうか?」


「何かね、私に分かる事なら答えよう」


「ありがとうございます。

 冒険者ギルドの慣例だと、僕が勝ってあいつらから奪った物は、僕の物になるのですが、今回はどうなるのでしょうか?」


「強盗が良民から奪った物なら良民に返す事になっている。

 ただ、取り返してくれた者に価値の半分に当たる礼をする事になっている。

 良民が礼を払えない場合は、奪い返してもらった品を売って半分に分ける。

 奪い返した者が半分の金を払って品物を手に入れる場合もある」


「彼らが強盗とされなかった場合はどうなりますか?

 ストックトン宮中伯や有力貴族、冒険者ギルドが抵抗して、強盗だったのではなく、冒険者同士のささいな争いだったと言い張ったらどうなりますか?」


「重臣会議の結果しだいだが、冒険者ギルドの慣例通り、君の物になる」


「では行政官様、無理をされずに冒険者同士の争いにしてください」


「私では正義を貫けないと言うのか?!」


「僕には王国内の力関係や貴族間の駆け引きは分かりません。

 なので、王都の民を守ろうとしておられると聞く、行政官様が不利になって辞めさせられるのが心配なのです。

 それに、冒険者同士の争いにしてもらった方が僕の利益になりますから」


「……分かった、確かに今私が辞めさせられたら貧民たちが生きていけなくなる。

 君には悪いが、あいつに貸しを作った方が、やれる事が多くなる」


「ではそのようにお願いします」


「分かった、君が正義よりも利益を優先してくれるなら私も助かる」


「もう1つ教えて欲しい事があるのですが、良いですか?」


「なんだ?」


「王都大城壁外の街区なのですが、王都行政官様の統治範囲になるのですか?

 建国王陛下の理想を聞かせて頂いたのですが、それに従えば王都内ですよね?」


「それはその時の状況と重臣間の力関係で変わって来る。

 魔獣や魔鳥の危険が問題になった今では、王都行政官ではなく宰相閣下や大臣閣下方が決められる事になるだろう」


「魔獣や魔鳥が集まらなければ、ただ住むだけなら問題にされないでしょうか?」


「それなら今の貧民街と同じだから、問題にされないだろう」


「穀物畑を開墾したらどうでしょう?

 魔獣や魔鳥が集まらなくても問題にされるでしょうか?」


「重臣の方々の利益になるなら問題にされないだろう。

 だが目をつけられている君がやったら、魔獣や魔鳥が集まらなくても問題にされ、騎士団や私兵に攻撃されるだろう」


「魔境で捕らえた魔獣を放牧したらどうなるでしょうか?」


「絶対にやるな、王国を攻撃しようとしたと言われて討伐される」

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