第23話:返り討ち

「何をこそこそとしている、それでも冒険者か?

 狙いは僕なんだろう、だったら夜襲のような卑怯なマネはしなくていい。

 こうして出て来てやったんだ、前回のように全ての持ち物を賭けて勝負だ!」


 僕は貧民街の低い街壁を乗り越えようとしていた冒険者に言い放った。

 卑怯な夜襲をやろうとするような連中であろうと勝負にする。

 そうすれば冒険者ギルドの方針に通り、殺さない限り無罪になる。


「じゃかましいわ、ぶち殺せ!」


「「「「「おう!」」」」」


 冒険者クランの総力で襲って来たのか、全員で58人もいた。

 とはいえ神々から特別なスキルを授かっていない者では僕に勝てない。


 楽して安全に利益を得をしようとするような卑怯者たちでは、神々の祝福回数が少なくて僕に勝てない。


「自分の弱さを思い知るんだな」


 実戦力と心の強さ、その両方の意味で言ってやった。

 こんな連中に何を言ってもムダだと分かっているけど、つい言ってしまった。

 

 手を抜く事なく、2度と誰も傷つけられないように叩きのめす。

 これまでと同じように、両膝と両肘の関節を粉々にして寝たきりにする。

 話す事も食べる事もできないくらい、下あごの骨を粉々にする。


 1人を再起不能にするのに1分もかからない。

 身体強化しているので再起不能にするだけなら数秒で終わる。

 敵が近くにいるなら10秒で2人3人と再起不能にできる。


 だけど、ろくに連携もできていない弱い悪人はバラバラにいる。

 殺すのなら1撃で良いのだけど、再起不能にするには5撃必要になる。

 離れた敵を再起不能にするには、どうしても10秒はかかる。


 半数の29人を再起不能にしたら、残った全員が逃げ出した。

 逃げる敵を追いかけて再起不能にしたが、1人30秒以上かかた。

 58人全員を再起不能にするのに34分もかかってしまった。


 再起不能にした58人を1ケ所に集めた。

 集めた後でエマとリナが残ってくれている夜営地に戻った。


「襲って来たクランを全滅させた。

 また裸にして、手に入れた武具や衣服を売りに行く。

 ただ今回は、襲って来た連中も王都に運ばないといけない。

 集まってくる荷役たちに場所と状況を説明しておいて」


 僕はエマとリナに状況を話して、敵を集めた場所に戻った。

 再起不能にした奴が死んでしまうと、冒険者ギルドの不介入条件と違ってしまう。

 絶対に死なないように、何かあったら治癒魔法をかけないといけない。


 それと、再起不能にした連中の持ち物を確保しなければいけない。

 高値で売れる金属製の武器や防具を取られる訳にはいかない。

 貧民街の人たちは、まだ信じられない。


「よく来てくれました、これが襲ってきた連中と持っていた物です」


 徐々に集まってきてくれた荷役に事情を話した。


「貴方たちを信じていない訳ではありませんが、念のために言っておきます。

 勝負に勝って手に入れた武器や防具はとても高価です。

 目がくらんで盗みたくなってしまうかもしれません。

 僕は1人でこれだけの冒険者を殺すことなく再起不能にできる実力者です。

 僕の目を盗むのは不可能です、盗人として殺されるだけです。

 それよりは、毎日50アルとライ麦堅パンが手に入る方が良いでしょう?」


 僕は貧民街の人たちの理性にうったえた。

 できれば貧民街の人たちを殺したくないし、盗人として突き出したくもない。


「前金代わりのライ麦堅パンをもらっただろう?

 明日は50アルの荷運びの仕事がもらえる。

 俺たちが食べていたような鳥ももらえる。

 そんな仕事が毎日もらえるんだ、少々の金のために罪人になり、女房子供までドレイにされるよりずっと良いだろう?!」


 荷役の代表も集めた人たちにうったえてくれた。

 そのお陰か、最初は欲と理性の間で迷っていた目がきれいになった。

 時間を空けて集まる荷役たち1人1人に、僕と代表で損得を話して聞かせた。


「明日効率的に運べるように準備してくれ。

 今日手伝ってくれた分は、約束していた明日の日当とは別に50アル払う。

 夜食分として20アルのライ麦堅パンも1個ずつ渡す」


「「「「「やったぁ~」」」」」

「「「「「ありがとうございます」」」」」


 人数が増えてきた荷役たちが歓声をあげた。

 最初は疑いととまどいがあったが、徐々に僕を雇い主と認めてくれた。


 荷役の代表の説得も良かったが、何より目の前に58人もの再起不能がいる。

 僕の物を盗もうとしたら、同じ目に会うと理解できるだけ冷静になれたのだろう。


 僕が監督する前で、荷役の人たちが、再起不能になった敵の服を脱がせてくれた。

 大金に変わる金属製の武器と防具は僕が回収した。

 財布も回収したが、汚い衣服には手を付けていなかった。


 貧民街の人たちは僕よりも人間の運び方に慣れていた。

 僕は魔境の木と樹皮でタンカのような物を作ろうと思っていたのですが、荷役の人たちが貧民街のドアや大窓を外したら敵を運べると教えてくれました。


 そのお陰で余計な仕事をしなくてすみました。

 58人分の武器や防具、衣服は1人で1人分運べます。

 再起不能にした敵も、背負って運べば1人で1人運べます。


 でもそれでは、集まってくれた200人全員に仕事を与えられません。

 税金を払っていない200人を王都の中に連れて行けません。


 だからドアや大窓を使って2人で1人を運ぶようにしました。

 勝負の正当な対価として手に入れた武器や防具も、ドアや大窓を使って2人で1人分を運ぶ事にしました。

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