第14話:商業ギルド
「すみません、ブラー古物商店のモートンさんに勧められて、商業ギルドへの加盟を考えているのですが、くわしい仕組みとルールを教えていただけませんか?」
僕は商業ギルドの受付嬢に言った。
冒険者ギルドの受付嬢と違って、知性と良識を感じさせる上品な化粧をしたお姉さんだった。
王都に来て3日目、僕はエマとリナと一緒に商業ギルドに来た。
王都の誰を味方にすべきか、異神眼で確認していた。
最初に倒すべき敵がいる冒険者ギルドに行ったが、次に味方にすべき商業者ギルドに行くのは、ブラー古物商店のモートンさんに言われなくても決めていた事だ。
「加盟をお考え下さりありがとうございます。
誤解を防ぐためにくわしく書いた本を渡させていただきます。
分からない所があったら説明させていただきますので、読んでいただけますか?」
「ありがとうございます、いくらですか?」
「加盟された方にお渡しする本なので、入会金に含まれています。
加盟されなかった時に返して頂ければいいですので、まずお読みください」
「ありがとうございます」
上品な受付嬢が渡してくれた本を読んでみた。
商業ギルドに加盟している者は、誰かと揉めた時にギルドが助けてくれる。
加盟している商会や商店は、商業ギルドに欲しい素材や商品を依頼できる。
加盟している商会や商店同士で争うような事があれば、問題の大小にかかわらずギルドが職員を派遣して、仲介や裁定をしてくれるとある。
実際に仲介や裁定をしてもうとなると手数料が必要になるが、冒険者ギルドの不介入に比べると好感が持てる。
少なくとも弱者が強者にふみにじられる可能性が低くなる。
冒険者ギルドの掲示板に張り出されている買取金額と、商業ギルドの掲示板に張り出されている買取金額を比べると、冒険者ギルドの仲介手数料はボッタクリだった。
同じ素材を冒険者ギルドと比べたら、商業ギルドは倍の金額で買い取っていた。
これでは、王都に住む人間が冒険者ギルドに獲物や採取品を売る訳がない。
地域で集まって力をつけ、冒険者ギルドを頼らなくなるのは当然だ。
『商業ギルド基準加盟料』
F級:行商人か屋台(店舗なしで商売をする者)
:登録金:大銅貨5枚
:年会費:小銀貨1枚
:税金 :小銀貨2枚
:商会員は1名に限る
E級:個人商店(街の肉屋や八百屋など3親等までの家族で営む商店)
:登録金:小銀貨1枚
:年会費:小銀貨2枚
:税金 :小銀貨4枚
:商会員は3親等が2名まで
D級:大商店(街ではそこそこ大きな商会・4親等以上の親族や他人を雇う)
:登録金:小銀貨2枚
:年会費:小銀貨5枚
:税金 :小銀貨10枚
:商会員は4親等が3名まで
C級:小規模商会(4店舗以内の支店を持つ商会)
:登録金:小銀貨4枚
:年会費:店舗数と店舗の規模に応じた金額
:税金 :店舗数と店舗の規模に応じた金額
:商会員と保証人が各3人以上必要
:騎士以上の貴族保証人が1人以上必要
B級:中規模商会(9店舗以内の支店を持つ商会)
:登録金:小銀貨8枚
:年会費:店舗数と店舗の規模に応じた金額
:税金 :店舗数と店舗の規模に応じた金額
:商会員と保証人が各5人以上必要
:男爵以上の貴族保証人が1人以上必要
A級:大規模商会(10店舗以上の支店を持つ商会)
:登録金:小銀貨8枚
:年会費:店舗数と店舗の規模に応じた金額
:税金 :店舗数と店舗の規模に応じた金額
:商会員と保証人が各10人以上必要
:子爵以上を含む貴族保証人が3人以上必要
「すみません、商会員と保証人の違いを教えてください」
「商会員は実際に商店や商会を営む者で、借金などの返済義務があります。
保証人は商売をしていませんが、何かあった時に返済義務を負う者です。
商売に参加しない保証人ですが、返済義務を負う分利益が分配されます」
「保証人には大きな責任が生じるのですね」
「はい、一緒に働く家族や親族でなければ、なかなか保証人にはなりません。
大きな商売をやるようになり、取引相手が信用してくれるようになるか、4親等よりも遠い親族を雇うようにならないと、保証人になってくれる人はいません」
「僕がこの2人と加盟するとなると、店が1つでも小規模商会になるのですか?」
「なりますが、それはお勧めできません。
肩を並べて戦ったり、背中を預けて戦ったり、命預けるような経験をした仲間でなければ、共同で商売をするのは争いや失敗の元です。
3人別々で加盟され、商売の経験を積まれるべきです。
お2人は姉妹のようですから、F級で加盟されたら2つの登録ですみます」
「王都の各街はどのような加盟をしているのですか?
商会員に家族ではない街の住民も、獲物や採取品を売りに来ていますよね?」
本を読んでいる間、商業ギルドに来て売買している人間の様子も見ていたので、気になる事を聞いてみた。
「街の代表や幹部がD級の大商店登録をしています。
血縁者ではない街の住民は、大商店の店員として売り買いしています。
ただ、商業ギルドで売買する商品は、ギルド自体が扱いたい物か、加盟商会や商店から依頼のあった物に限られます。
それ以外の物は加盟商会や商店に直接売りに行っています」
「こちらに張り出されている素材を集めてきたら、買い取って頂けるのですか?」
「はい、ただし買い取り量に限りのある物は先着順になります」
「商業ギルドで買い取りしていない物を手に入れた場合、買い取ってくれそうな加盟店を教えてくれますか?」
「はい、ご紹介させていただきます」
「それと、F級やE級の登録をしている僕が、2人と一緒に狩った獲物や薬草を売りに来て代金を2人と別けた場合は、問題にならないのでしょうか?」
「対等のお2人を、商会員として扱っていない事の罰が、気になるのですね?」
「はい、その通りです」
「その点は慣例として罰せられない事になっています。
考え方としては、加盟店様が仕入れた物を売った事になります。
ショウ様がお2人から仕入れとして商品を購入されたのですが、支払代金が不足していて、商業ギルドに売った代金で支払われた事になります。
何か問題が起きた場合は慣例が変えられる事がありますが、今はこういう考え方で問題になっておりません」
「ギルド加盟店が慣例を利用して悪質な事を行わない限りは、明文化されていなくても慣例が優先するのですね?」
「はい、その通りでございます」
「慣例集はありますか?」
「ございます、加盟された時にお渡しします」
冒険者ギルドに比べると正しい商取引を行おうと努力している。
「最後に、年度途中でF級からE級に変わった場合はどうなりますか?」
「入会金は差額を払っていただきます。
F級とE級の差額、大銅貨5枚を払っていただきます。
年会費も差額を払っていただくことになります。
F級とE級の差額、小銀貨1枚を払っていただきます」
商業ギルドは月割りや日数割で計算しないのだな。
「分かりました、それなら安心して加盟できます。
F級で加盟させていただきます」
「加盟していただきありがとうございます。
ギルドと共にショウ様の店も繁栄される事を心から願っております」
僕は上品な受付嬢に手続きをしてもらった。
「エマ、リナ、これから魔境に行って鹿茸の取れる鹿を狙おうと思う。
獣や魔獣を見つけられなかったら、薬草を採取しようと思う。
薬草採取はできるか?」
『商業ギルドに張り出されている買取商品の一部』
銀狐をはじめとした狐の毛皮
大角鹿をはじめとした鹿の肉と毛皮と鹿茸
ハハコグサ:茎葉・全草
ナルコユリ:根茎
コブシ :毛におおわれた蕾
オウレン :根茎
スイカズラ:4~5月ごろの花の時期の蕾
アケビ :木質化した茎
イカリソウ:地上部の葉茎
サクラ :葉は香料、樹皮
ウメ :梅の実・梅干、梅酒、梅酢、梅醤、ジャム、梅肉エキス
タンポポ :開花前の全草
ドクダミ :5- 9月の全草
クコ :6 - 8月の葉
ユキノシタ:6 - 8月の葉
アンズ :6 - 7月の仁
アキカラマ:ツ7- 8月の茎
キハダ :梅雨から土用までの外樹皮を取り除いたコルク質
カラスビシャク:6 - 7月の球茎
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