第15話:赤い鹿レッドディア

「私たちは1人前の猟師よ、薬草採取くらいお手の物よ。

 私たちだけでなくショウの宿泊代も集めて見せるわ」

「薬草採取なんて片手間よ、鹿くらい私たち2人で追い込んで狩って見せるわ!」


「僕の実力は見てくれたよね?

 2人が追い込んでくれたらどんな魔獣だって確実に狩って見せる。

 その代わり獲物の追い込みは任せたよ」


 僕はエマとリナの3人で南東魔境に行った。

 商業ギルドでF級加盟手続きをして直ぐに南東魔境に行った。


 後々の事を考えて、商業ギルドのある王城に近い南西地区から南大城門を素通りして、東大城門から出て南東魔境に行った。


「商業ギルドの加盟員ショウだな、行ってよし」


 東大城門で人の出入りをチェックしている兵士が言う。


「冒険者ギルドのエマだな、行ってよし」


「冒険者ギルドのリナだな、行ってよし」


 僕たちは王都の市民権を持っていないので、大城門を出入りする時は、毎回入都税として大銅貨1枚払わないといけない。


 だが各種ギルドに加盟している者は、ギルドを通じて王国に税を払うので、准市民として入都税を払わなくてもいい。


 僕たち3人は一般的な冒険者や猟師よりもずいぶん遅い時間に魔境に入った。

 商業ギルドで時間がかかった分遅れてしまった。

 だけど少なくとも僕には、多少の遅れなど不利にならない。


「このまま真直ぐに魔境の奥に向かう。

 向かいながら商業ギルドが買い取ってくれる薬草を採取してくれ。

 良い場所に来たとも思ったら、自由に獲物を追い込んでくれ」


「任せなさい、3人では運べないくらいの大物を追い込んであげるわ」

「絶対に追い込んで見せるわ、ちゃんと狩れるの?」


 絶体絶命の所を助けてもらった反動だと思うが、僕に負けまいと憎まれ口を叩く2人がとてもかわいい。


「ああ、任せてくれ、対人戦だけでなく猟師としての実力がある所も見せるよ」


 僕はそう言って石を放ち、空を飛ぶ中小の鳥を落とす。

 ちょうど良い大きさの石を親指ではじいて、狙った人間を暗殺する指弾術だ。

 落とした中型の鳥は、ニワトリよりは小さいが十分食べ応えがある。


 小鳥も香ばしく焼けば美味しいし、スープにしても美味しい出汁がでる。

 少々高いが、王都には植物油も売られているので、唐揚げにもできる。

 中くらいの鳥を使ってよく作られている定番料理、赤ワイン煮にしても美味しい。


「わ、私たちだって鳥くらい狩れるわよ!」

「そうよ、今は道具がないから狩れないけど、投石器か吹矢があれば狩れるわ」


「時間がある時に投石器と吹矢を作るよ。

 それよりも今は商業ギルドに売る薬草の確保だよ。

 まだ季節的に早いけど、その分高く買ってくれるだろう?」


「任せなさい、革袋一杯の薬草を集めて見せるわ」

「そんな革袋持っていたのね」


 以前作っていた巾着式の革袋を背負い式の革袋から出したら、エマとリナが凄く驚いたが、作った身としては少々うれしい。


 アマテラス様の力を借りて作った革袋だが、お手製を羨望の目で見られるのはとてもうれしい。


 背負い式の革袋も、普段はよくある品物に見えるが、材木で補強して内に織り込んである部分を出せば、頭から1メートルまで伸ばせる特大の特別製だ。

 以前テレビで観た、山の荷運びさんのように多くの荷物を運ぶ事ができる。


 とはいえ、10羽20羽と次々狩る中小の鳥を背負い革袋には入れられない。

 重ねて革袋に入れて潰れてしまったら、鳥の商品価値が下がってしまう。


 自分で編んだ毛糸や麻糸でロープを作っていたので、それで鳥の足を縛り、腰や背負い革袋から吊るして持ち帰る。


「もうここまで来たら狙いの鹿がいるはずよ」

「ええ、私もそう思うわ、ショウ、私たちの実力を見せてあげるわ!」


 エマとリナは鳥を鈴なりに吊るす僕に負けたくないのだろう。

 まだそれほど奥に入っていないのに、鹿を探しに走り出した。

 彼女たちなら僕の居場所を見失わないと信じて、そのまま奥に向かって歩く。


 エマとリナは意地と誇りに賭けて必死で鹿を探したのだろう。

 僕に負けたくない思いで無理をしたのかもしれない。


「鹿がいくわ!」

「逃がしたらタダじゃ置かないわよ!」


 1時間ほどして2人の叫び声が聞こえて来た。

 確かにここで失敗する訳にはいかない。


「僕に加護を与えてくださっているオキナガタラシヒメノミコト様、強大な魔獣を狩れる力を授けてください【身体強化】」


 2人が追い込んでくれたのは、1000kgを軽く超えるような大角鹿ではなかったが、商業ギルドが買い取ると張り出していた赤い鹿、レッドディアだった。


 身体強化した僕なら1000kg超えの獲物でも軽く運べるが、身体強化をしていない僕とエマとリナだと、運べる重さが限られる。


 身体強化を使っている事なんて、冒険者ギルドの戦いで知られている。

 いや、身体強化ではなく、神々の加護で剛力になってと思っているかもしれない。

 神々の加護を考えれば、少々重いレッドディアを運んでも大丈夫だろう。


 エマとリナが追い込んだレッドディアの中で1番大きな個体を狩る!

 肉と毛皮の質を悪くしないように、左右の頸動脈を斬って失血死させる。

 心臓が動いている限り自然に血抜きされるから、美味しい肉になる。


 残った9頭の中で、エマとリナでも運べそうな個体を選ぶ。

 神々の加護を考えなければ、美少女2人が運べる重さは、材木に吊るして2人がかりで担いだとしても、100kg以下になっただろう。


 だが幼い頃から魔境で狩りをしていたと言うエマとリナだ。

 それなりの回数は神々の祝福を受けているはずだ。

 軽く見積もったとしても、200kgを担いで王都まで戻れるだろう。

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