第12話:ブラー古物商店店主モートン

「分け前や補償が嫌なら、こいつらの物を運ぶのを手伝ってくれ。

 昨日も運んでくれた人たちに礼を渡している。

 そのお金で、高いが安全な宿に泊まれば良い」


「分かったわ、運ぶのを手伝わせてもらうわ」

「仕事の正統な報酬ならもらうわ」


 2人の少女がやっとお金を受け取る気になってくれた。

 礼が売値の1割なのも、昨日の売値も教えない。

 教えたら受け取らないと言いそうだから教えない。


「昨日の人たち、また手伝ってくれますか?

 知り合いにも声をかけてください。

 ただし、僕を襲おうとしていた人は除いてください!」


 食堂に昨日手伝ってくれた人たちがいるのは確認していた。

 彼らが推薦してくれた人なら、運んでいる途中で盗んだりしないだろう。

 変な奴は選ばないようにクギを刺したし、大丈夫だろう。


 ★★★★★★


「すみません、買い取りをお願いします。

 ただ、昨日と同じ事情のあるモノなので、その分差し引いて買ってください」


 僕は手伝ってくれる冒険者たちと一緒にブラー古物商店に来た。

 昨日の運び役は、再起不能にしたクソ冒険者から1人少ない人数だった。


 今回は昨日の冒険者たちが力持ちの冒険者を選んでくれたので、俺と2人の少女以外は10人だった。


「昨日の今日で、また勝って奪って来たのか?

 それにしても量が多いな、何人対何人だったんだ?」


「僕1人と19人です。

 この程度の奴ばかりだったら、1000人が相手でも勝てます」


「お前さんがケンカを売ったのか?」


「いえ、クソ冒険者たちが新人、この2人を食い物にしようとしていたので、助けるために勝負に持ち込みました。

 売ったお金を3人で分けたかったのですが、どうしても受け取ってもらえないので、昨日と同じように運び賃を渡そうと思っています」


「そういう理由なら普通に買ってやる。

 これだけたくさんだと、昨日ほど高くは買ってやれないが、買い叩かずにそれなりの金額で買ってやる」


「ありがとうございます、助かります」


「確認するが、お前がケンカを売った訳でもなく、昨日戦った奴らの仲間に襲われたわけでもないんだな?」


「はい、違います、冒険者ギルドに入ったら、2人が襲われている現場だったので、そのまま割って入って戦いになりました」


「だとすると、昨日の奴らと今日の奴らが違うクランと言う事もある。

 同時に2つのクランを敵に回したかもしれない。

 それでも家の帰らずに王都で冒険者になるつもりか?」


「家には帰りませんが、冒険者ギルドに所属する冒険者になる気はありません。

 王都の人たちは、冒険者ギルドに入らずに、地域ごとにまとまっていますよね?」


「ああ、地区の共同体で生活ができるようになっている。

 王都の人間は冒険者ギルドを利用しなくてもやっていける。

 だが王都外から来たお前たちでは、地域の繋がりを利用できない」


「魔境近くで暮らしていたので、普通に何でも作れます。

 商業ギルドや鍛冶ギルドに入って、作った物を売れば良いと思っています。

 魔境で狩った魔獣も売りたいので、商業ギルドか食肉ギルドにするつもりです」


「狩りができるだけなら食肉ギルドが良いのだろうが、細々とした物も作れるのなら、商業ギルドに入るのがいいだろう。

 俺も入っているが、商業ギルドは悪くないぞ」


「ありがとうございます、そうさせてもらいます」


 僕と話しながらブラー古物商店の店主は休みなく査定をしてくれている。

 弟子なのか店員なのか分からないが、30歳くらいの男が羊皮紙に査定額を書く。


 書くだけでなく、真剣な目で僕が持ち込んだ商品と金額を見比べている。

 店を任せられた時の為なのか、独立して自分の店を持つ時の為なのかは分からないが、必死で古物商人としての目を養い経験を積もうとしている。


「19人を相手に勝てるのなら、大口を叩けるだけの実力があるのだろう。

 だが、お前と同じように、見た目と実力がかけ離れている者がいる。

 特に魔術スキルを授かっている者は、信じられないくらい強いぞ」


「御心配ありがとうございます、ですが大丈夫です。

 悪人の多い王都に出てくる以上、奥の手の1つや2つはあります。

 まだ誰にも見せていない技を隠し持っています」


「そうか、ハッタリを言うようなタイプには見えないから、本当に奥の手を隠しているのだろうが、油断するなよ」


「はい、自分だけでなく、この2人も守るつもりですので、油断しません」


「ちょっと待って、私たちを守るって何よ?!」

「私たちは貴男に守られないといけないような弱虫じゃないわ!」


「2人とも現実を見ろ、あの時助けてもらっていなかったら、今頃は地獄を見ていたんだぞ、分かっているのか?!」


 黙って聞いていた、昨日から荷運びを手伝ってくれている、女冒険者が厳しい口調で2人を叱ってくれた。


「それは……」

「分かっていますけど……」


「いいや、分かっていない、何も分かっていない。

 男の冒険者はオトリにされて死ぬ事が多いが、女の冒険者は死ぬ事もできない。

 連中のクランは、女冒険者に売春をさせているんだぞ。

 薬漬けにされて、正気を失って生き続ける事になるんだぞ!」


「そんな、そんな事が許されるのですか?!」

「ここは王都なんですよね、心優しい王様が治めているのですよね?}


「どこの誰に騙されたのか知らないが、王は優しくもなければ賢明でもない。

 人として女として幸せに暮らしたかったら、家に帰るんだ」


 2人の少女と女冒険の会話を黙って聞いていたブラー古物商店店主が、少女2人の疑問に答えた。


「帰れません、王都でがんばって父さんと母さんを幸せにするんです!」

「猟師としての経験と実力なら誰にも負けません!」


「どうしても家に帰れないのなら、女を利用してでも身の安全を確保しろ。

 既にお前たちは悪質なクランに目をつけられている。

 そこにいるお人好しを利用するくらいでないと、王都では生き残れんぞ。

 お前、助けた以上最後までめんどうをみる気なんだろうな?」


「はい、命に賭けて最後までめんどうをみる気です。

 男は女子供を守る者だと両親に叩き込まれて育ちました。

 両親と天国で再会できるように、教えを守って生きていくつもりです。

 僕はショウと言います、覚えていてください。

 店主さんの名前も教えてくれますか?」


「俺の名前はモートンだ。

 2人を助けろと言った以上、多少の助言くらいはしてやる。

 商業ギルドで保証人が必要と言われたら、俺の名前を言え、署名してやる」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る