第23話 星稜学園チームの実力
「この調子で点数を広げていくぞ!俺達の勝利は目の前だ!」
「赤松,何でお前が指示しているんだよ!」
試合が再開し,先程と同じように赤松先輩とバスケ部の先輩二人が前に出て攻勢を仕掛けていった。そして,バスケ部の先輩の一人が蒼一郎先輩を早々に抜いてもう一人の方にパスをするとその先輩はシュートを決めようとしていた。
「遙人!パターンC!」
「!?」
だが,その行動を見ると今まで黙っていた拓海は叫んだ。何とその先輩はシュートをしようとした瞬間,バスケ部の部長が来ることに気付いていたのか,そのボールを赤松先輩の方にパスしようと考えていたのだ。
「何ぃ!?」
「拓海ナイス!会長,お願いします!」
だが,そのボールを赤松先輩が取ることはなく二人の間に入った遙人がボールを奪い取ると直ぐに聖人会長にパスした。
「蒼一郎!佐倉君!仕掛けるよ!」
「「おう!」」
3人は一斉に走り出すと,今度は星稜学園チームが誠央学園チームの陣地まで一気に攻勢を仕掛けた。その速攻に前に出ていた先輩達は対応できなかった。
「しまった!御神,桐原!頼んだぞ!」
「分かりました!翔琉,バスケ部の部長の方を頼む!」
「きついことを言ってくれるなぁ,お前は!」
悠人は何とかしてボールを奪い取ろうとするが,3人に見事なコンビネーションを発揮されてしまい,バスケ部の部長に点数を許してしまった。そのプレイを見ると星陵学園の生徒達は大いに歓声を上げた。
「会長達が動き出したぞ!これからが勝負だ!」
「会長!青葉委員長!頑張ってー!」
「佐倉君も頑張ってー!」
観客席からの応援を聞いて,3人は手を振ると,その光景を見た赤松先輩は一瞬,苦い顔をしたが,直ぐにいつもの優雅な顔に戻った。
「何を騒いでいるのやら。まだまだ,こっちと点数は広がっている状況ではないか。応援している星稜学園の彼等は状況を分かっているんだろうか?」
だが,赤松先輩と違い,バスケ部の先輩達はお互いを見合わせて考えた。
「……おい,どう思う?」
「1回だけなら何とも言えないな。もう一度、仕掛けてみるぞ。」
赤松先輩の言葉を他所に先程からずっと怪しいと思っていた二人の先輩は相談すると,先程と同じように仕掛けてみようと思った。
「パターンB!」
「なっ!?」
「すみませんけど,また貰っていきますよ。蒼一郎先輩,頼みました!」
「任せろ!」
遙人はゴール付近までボールを投げると今度は蒼一郎先輩が走り出して高く跳び,そのままシュートを決めて,更に体育館は歓声に包まれた。
「委員長が決めたぞ!!」
「青葉君,そのまま点数追い付いちゃえ!」
「おにぃ,頑張れー!」
その光景を見て風紀委員会のメンバーだけでなく彼の義妹であった葵も声を上げて応援した。そして,先輩達の予想通りであったのか,先程の星稜学園側のプレイは偶然ではなく徐々に点数は縮められて追い抜かれようとしていた。
「佐倉!ナイスシュート!」
そして等々,蒼一郎先輩からパスを受け取ったバスケ部の部長がシュートを決めると誠央学園側と同点になり,誠央学園側は苦い顔をして電光掲示板に映っていた点数を見た。それを他所に,観客席から一際目立つ女子生徒から声が上がった。
「シンく~ん,その調子で頑張ってね~。」
彼女,楓先輩は立ち上がってバスケ部の部長に手を振りながら応援すると彼もまたこちらに手を振り笑顔で応えてくれた。
「……楓先輩,バスケ部の部長と知り合い何ですか?」
仲が良さそうに思えたのか,隣に座っていた美陽は彼との関係が気になったのか尋ねて聞いてみると,座り込んだ楓先輩から衝撃的な内容を聞かされることになった。
「私の彼氏だよ?」
「ああ。楓さんの彼氏なんですね。……彼氏!?!?」
「「えぇぇぇぇぇ!?!?」」
観客席にいた生徒達は本日2回目の驚いたような目で楓先輩を見た。だが,それと同時にその横に座る一葉先輩も見たのだ。
確か,バスケ部の部長は一葉先輩の彼氏では?
「ちょ,ちょっと待ってください!それって,どういうこと……。」
「あ,もしかして,あの噂って本当だったのかな?」
「「……噂?」」
美月が言った言葉に疑問を浮かべた美陽達は美月から更に衝撃的なことを聞いた。
「バスケ部の部長が二股しているって噂。前々から噂はされていたんだけど真実かどうか分からなかったから……。」
チラッと美月は一葉先輩を見ると顔を赤くして非常に困ったような顔をしていた。そして,同じように美陽達も二人を見ると楓先輩は照れた表情で嬉しそう顔で隣にいた一葉先輩を見た。
「私がこっちに来た時に二人に結構甘えてね。シン君と一葉ちゃんが付き合っていることは知っていたんだけど,我慢できなくてシン君に告白しちゃったんだ。そうしたら,シン君が私も受け入れてくれて,二人とも一緒に付き合うって言ってくれたの。一葉ちゃんも付き合うことは構わないって言ってくれたからね」
「……楓とは友達だし,悪い子でないから許したんだけど,世間的に見ればおかしい関係なのは理解しているわ。でも、今はこの関係でいいかなって。」
そう言うとやはり恥ずかしいのか,一葉先輩は黙り込んでしまい,そんな彼女を見ると楓先輩が彼女に抱き着いた。だが,観客席に居た学生達はその話を聞くと,先程の聖人会長と結衣の話と同じように騒ぎ出した。
否,その話を詳しく聞こうと女子生徒達は詰め寄り,男子生徒達は涙を流しながら試合コートに居たバスケ部の部長を羨ましい目で見た。
「ずるいぞ!2年生の二大美少女と同時に付き合うなんて!どちらか片方は譲れ!いや,譲ってください!!」
「噂には聞いていたけど事実だったのか!!俺達の宝城さんが!!」
「……先輩,よかったんですか?最早,パニックになってますよ?」
「別に構わないよ。それに,これで君の話はほぼ吹き飛んじゃないかな?」
そう言って遙人の頭に一度手を置くともう一度恋人である二人に手を振った。その姿を見て僕は心の中で彼に頭を下げた。
「(だけどこれ,相当パニックになってるよね?それに……。)」
観客席から黄色い声援が送られている中,僕はその隣にいた美陽達を見るとやはり困惑しているのか,二人の事情が気になるのか顔を赤くして根掘り葉掘り聞いている姿を見て笑いそうになった。やはり,自分達の先輩が二股と言う関係が気になるか物凄く興味津々な顔が見受けられた。
「佐倉!!お前,柊木さんだけでなく宝城さんとも付き合っていたのか!?」
「あれ?言ってなかったかな?」
「言ってないぞ!しかも二股って。どちらか譲ってくれてもいいだろう!?」
それを聞いた途端,バスケ部の部長は立ち止まり,彼等に笑みを浮かべた。しかし,まったくといって目は笑っていなかった。
「……一つ言っておくけど,僕は二人とも愛しているよ。それから,二人に手を出すなら……バスケとは関係なく本気で容赦はしないからそのつもりでいろ。」
「「……お,おう。」」
あまりの迫力に二人は押し黙ってしまったが,それから賭けの話だけどムカついたから5倍に変えるねと言われて先輩二人は鬼畜!!人でなし!!とバスケ部の部長に怒鳴っていた。
その二人を見て悠人と翔琉は唖然としながら笑いそうになっていたが,気になることがあるのか,急に真面目な顔になり,相手チームを見渡した。
「翔琉,気付いたか?」
「ああ。拓海の奴,赤松先輩や先輩達の行動パターン全部読んでるぞ。そんなこと,普通はできるか?」
「俺でもそれはできないな。だが、現に拓海は先輩達のパターンを全て把握して指示している。それだけでも,厄介なんだが……。」
チラッとバスケ部の部長と話している遙人を見た。先程から余り目立つ行動をしていないように見えるが,拓海が指示して真っ先に動いているのは遙人であり,こちらのボールは全て遙人から奪われているのだ。
要するに向こうの攻勢の鍵を握っているのが,遙人だということだ。
「先輩,少しいいですか?」
「どうした,御神?俺達は絶賛憂鬱な気分だぞ!」
「それは賭けをした先輩達が悪いと思いますけど……。それよりも,自分があいつのマークに付きます。先輩達はそのまま攻勢を緩めないでください。」
それを聞くと,先輩達は先ほどからのプレイを見て分かったのか頼んだと言って了承したが,赤松先輩は悠人の提案に反論した。
「何を馬鹿なことを言っているんだ,御神悠人!何とかしないと行けないのは前の3人だろう!まさか,白星会長があんな実力を隠していたとは……。」
「あの人さっきからスリーポイントばかり正確にゴールしてるよな?しかも,佐倉に付いて行ける会長もそうだが,あの風紀委員長も何者なんだ?だが,あの1年生も放置していると問題だぞ。」
「あんなの偶然に決まっているだろう!御神悠人,お前も俺達と一緒に3人を止めるぞ!いいな!?」
「……わかりました。」
納得はいかないが,悠人は赤松先輩の指示に今は従うことにした。だが,彼の考えとは裏腹に点数はどんどん同点から離されていき,気付けば点数は22-18と相手にリードを許す状況になっており,悠人は赤松先輩の指示を無視しようと考えた。
「先輩,やっぱりあいつのマークに付きます。」
「わかった!」
「!?御神悠人,指示を無視するな!お前も俺達と共に……。」
悠人は赤松先輩の言葉を無視してもう一人のバスケ部の先輩からボールを奪った僕の前に立った。それを見た瞬間,1年生達が騒ぎ出した。
「遂に御神と神条の対決か!」
「悠人君,頑張ってー!そんな陰キャに負けるなー!」
「神条君,ファイトー!」
「……君にしては来るのが遅かったね。もう少し早くこっちの対応に来ると思っていたんだけど。」
「こっちにも色々とあるんだよ。だが,これ以上は行かせない。」
「そっか。……でも,今の悠人に僕を抑えられると思っているの?もう,中学の時とは状況が変わってしまったんだよ。」
「それってどういう……!?」
言い切る前に僕が動き出し,それに反応した悠人であったが,見事にフェイントを入れられてしまい,悠人は抜かれてしまったのだ。
「神条が御神を抜いたぞ!」
「遙人君!そのまま行っちゃえー!」
「っ……翔琉!悪い,任せた!」
「そんな簡単に言わないでくれよな!遙人,悪いが止めさせてもらうぞ!」
既にゴール下まで来ていた僕を止めようと翔琉が目の前に立ったが,僕は彼を見て笑っていた。そして,直ぐ後ろに何も見ないままボールを投げた。
「翔琉,僕だけに目をやり過ぎだよ?」
「それってどういう……。」
「桐原!そいつの後ろにいるぞ!」
「!?何で拓海が!?」
実は遙人の影に隠れてすぐ後ろに拓海が張り付いていたのだ。そして,そのボールを受け取ると拓海は綺麗にスリーポイントシュートを入れた。
「拓海ナイス!」
「ん。」
二人はハイタッチすると急いで自分達の陣地に戻って行き,観客席から手を振って応援している美月が見えた。
「遙人君,拓海君,その調子で頑張ってー。」
「……と言われているけど,遙人はどうする?」
「まあ,あまり目立ちたくないけど,頑張れるだけ頑張ってみようかな。」
そう言って美月に対して手を振ると星陵学園の男子生徒ほぼ全員からイチャ付くなこのリア充!!と怒られてしまった。バスケ部の部長は良くて僕は駄目って酷くない君達?しかも,先輩達まで酷すぎるでしょう……。
「悪い,悠人。拓海をまったくマークしてなかった。」
「気にするな。多分,先輩達も拓海が来るなんて思っても見なかったと思うぞ。」
しかも,拓海はあっさりとスリーポイントシュートを決めてしまったのだ。流石は聖人会長の従兄弟なのか,あれがもし偶然じゃなかったら相当こちらが不利になる状況だと思い,悠人は溜息を吐いた。だが,それよりも悩みの種ができてしまった。
「クソッ!何であんな陰キャに……。」
「落ち着け,赤松。そろそろハーフタイムだ。一度,全員で対策を考えるぞ。」
先輩はそう言って赤松先輩を落ち着かせようとしたが,ハーフタイムが来るまでに追加点も許してしまい,点数は35-20と大きく差を付けられてしまった。
その点数を見ると先程より赤松先輩は怒りを抑えられない状況となり,取り巻きの先輩達が何とか鎮めようと必死になっていた。
「おい,お前達!やる気はあるのか!赤松さんが恥をかいたらどうするんだ!」
「俺達の責任に押し付けるなよ。向こうだって相当強いんだから仕方ない……。」
「うるさい!後半戦も負けそうだったらただじゃおかないぞ!赤松さん,向こうで冷たい飲み物を用意してます!行きましょう!」
そう言って,赤松先輩の取り巻き達は彼を連れて何処かへ行ってしまった。その状況を見て悠人達は溜息を吐くと後半戦をどうやって星陵学園側を対処しようか,お互いに顔を見合わせて考えようとしたのだった。
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