第22話 スポーツ交流会開幕!

「皆様!間もなく試合を開始致します!もうしばらくお待ちください!」


 司会を担当している1年生の生徒会男子生徒はマイクを持ちながら会場にいる観客達にそう叫んだ。その光景を見ながら誠央学園のチームにいた俺は試合会場に置かれている休憩スペースに座りながら会場を見渡した。


 やはりも見学しに来ており,こちらを見ると手を振ったり応援をしたりしていた。その光景を見ると翔琉もチラッと観客席を見て呟いた。


「あいつ等は大人しいな。となると,騒いでいるのは取り巻き連中か?」

「おそらく,違うだろうな。あの二人が騒いでいないとなると,あの二人のグループじゃないもう1つのグループの子達だろうな。」

「一番,厄介な所に声を掛けたんだな,赤松先輩。まあ,騒いでいるのが全員じゃなくてよかったんじゃないか?良かったって,言い方もおかしいが……。」


 翔琉が言い終わる前に,急に会場が歓声に沸き起こった。どうやら,星稜学園側のチームも入ってきたらしく,星稜学園の生徒達は彼等を応援し始めたのだ。


 その中には勿論,遙人の姿もあった。だが,その遙人の姿を見て誠央学園の観客にいた女子達は騒ぐ処か黙り込んでしまい,俺と翔琉も目を見開いて驚いていた。


「なあ,悠人。1つ聞きたいんだが,お前の家,というよりも遙人って何かスポーツとかやっていたりするか?」

「いや,そんなことはないはずなんだが……。」

「どう見てもあの体系は陰キャと言われている男子とはまったく思えないぞ?あと,観客席に居たあいつ等,見て見ろ。言葉を失っているぞ。」


 チラッと観客席を見ると女子達はヒソヒソと何かを話し出しており,観客席にいる美陽達もチラッと見ると美月以外は皆遙人の姿を見て顔を少し赤らめながら美月に何やら事情を聞いているみたいであった。


 そして,先ほどから何故女子達が騒いでいるかと言うと遙人の身体付きがどうみても陰キャに見えない,所謂スポーツ選手のような細マッチョな姿をしていたのだ。武術を習っていたとはいえ,俺が知っている遙人はかなりのインドア派だったはずだ。


 すると,会場がざわざわとしている中,聖人会長は司会の男子生徒からマイクを借りると高らかに宣言した。


「それではこれより誠央学園と星稜学園のスポーツ交流会を開催します!皆~,盛り上がっていくよー!」


 聖人会長が高らかに宣言すると,会場は更に熱気が溢れ出した。会場を見渡し,聖人会長はマイクを司会の男子生徒に返してこちら側に近付いて来た。


「それじゃ,今日はよろしくね。それにしても,赤松君が試合に出るとは思っても見なかったなぁ。どういう心境だい?」


 聖人会長に尋ねられた赤松先輩は何故か不敵に笑い出し,彼に宣戦布告をした。


「そんなのは決まっている!白星会長,俺は君にこの試合で勝負を申し込む。勝負の内容は四之宮さんを賭けてだ!」

「「なっ!?」」

「ああ。やっぱり,そういうことだったのか。楓君から僕に是非出場してほしいって

 聞いてたから何でだろうなと思っていてね。」


 その話を聞いた途端,会場にいた学生達はどういうことだろう?と思い,皆顔を見合わせて話し出した。だが,その答えは赤松先輩が直ぐに答えてくれた。


「もし,俺が勝ったら君の恋人である四之宮さんを貰い受ける!変わりに俺が負けたら二度と彼女には関わらないと誓おう!」

「「えぇぇぇぇぇ!?白星会長って四之宮さんと付き合っているの!?」」

「僕は構わないよ。だけど,君には絶対,結衣ちゃんを渡すつもりはないよ?」

「「結衣ちゃん!?」」


 二人の話を聞き,近くにいた女子生徒達は一斉に結衣から事情を尋ねていた。だが,直ぐに観客席から女子生徒達の黄色い声が聞こえてきて近くに居た男子達は聞こえて来た話を聞くと涙を流す者やその場に崩れ落ちている者もいた。


 あと,必死でメモを取っているのは新聞部か?何か目を輝かせながらペンを走らせているような気がするが……。


「なあ,悠人。お前の弟の話題,無くなったことないか?」

「あ,ああ。それ以上に驚く話があったから話の焦点が移ったんだろう……。」


 チラッと聖人会長を見るとこちらの視線に気付いたのか微笑んで軽く手を振り,自分の陣地へ戻って来た。あの人,最初からこういうことになるって考えていたのかと思い,本当に末恐ろしい人だと改めて理解した。


 そして,試合開始前にポジションと作戦を考えるために俺達は一度集まって話し合いを始めた。


「赤松,まだ四之宮さんを諦めてなかったのか?」

「ふっ,何を当たり前のことを言っている。俺が彼女を諦めるはずないだろう?俺達はお互いに選ばれた者同士であるんだからな。」

「はいはい。その話はもういい。それで,作戦はどうするんだ?はっきり言わせてもらうと部長一人でも相当きついぞ?」

「向こうの部長って上手なんですか?」


 チラッと相手陣地にいるニコニコと笑っている美青年を見た。あれがバスケ部の部長かと思っていると観客席から数名の女子達から黄色い声援が送られてきており,彼は彼女達に手を振っていた。


「知っているか?あの人,既に恋人もいるのに未だに女子から人気あるんだぞ?ずる過ぎないか!?」

「先輩,話がずれてますよ。ところで,悠人。遙人ってバスケ上手なのか?」

「中学に居た時は全く俺には勝てなかった。だが,今は少し違和感が……。」

「御神,神条って何か運動部に居たのか?あの身体付きはどうみても文科系や帰宅部ではないぞ?神条って今は何処の部活にいるんだ?」


 料理部ですよと教えると料理部だと!?と先輩達は二重の意味で驚いた。何でも料理部は女子の花園であるらしく女子生徒以外は入部していないと思われていたのだ。


 要するに料理部にいる男子は遙人だけであり,云わばあそこは遙人のハーレム的な場所であるともいえたのだ。それを聞くと,先輩達二人は先程よりも酷く血の涙を流しながら羨ましそう敵チームに居た遙人を見ていた。


「下らんな。それにあいつが陰キャであることに変わりないだろう?見た感じ問題があるとすればそのバスケ部の部長と風紀委員長ぐらいだろう?あとは,鈍そうな会長と陰キャ,それにもう一人はまったくスポーツができなさそうではないか?」

「それは俺達も同感だな。あれって白星会長の従兄弟だろう?確か,システム開発部?の部長とか聞いていたような……。何でそんな生徒が試合に出ているんだ?」

「なあ,悠人。拓海に関してはどう思う?」

「おそらくだが,拓海に関しては巻き込まれただけの可能性が高いと思う。」


 彼を見ると一人だけ憂鬱な表情を浮かべており,早く試合そのものが終わってほしいような顔をしていたのだ。その顔を見ると俺は心の中で彼に合掌した。


 だが,そうなると戦力外と分かっている拓海を入れてこちらに対抗できるという自身が向こうにあるということだ。そう色々と話し合っていたら時間となり,審判が笛を吹き,電光掲示板の時間が動き出すと試合開始の合図となった。


「とりあえず,さっき言った作戦通りに行くか。赤松,足手まといになるんじゃないぞ?俺達もあっちにいる部長と色々と賭けがあって負けられないんだからな。」

「その言葉をそのまま君達に返そう。負けられないのは俺も同じなんでな。」


 赤松先輩と先輩達二人はその言葉通り,最初から攻勢的に仕掛けて行った。


 ……だが,意外にも相手側は防戦一方となっており,気付けば1回目の休憩が入る頃には,両チームの点数は大きく差を付けていた。


「おい,何かおかしくないか?」

「ああ。向こう側,まったく攻める気配がなかったぞ。」


 休憩に入り,先輩二人は現在の点数を見て相手の動きがおかしいと思った。それは,俺と翔琉も同様であり,先ほどから動いているのはバスケ部の部長と蒼一郎先輩だけであったのだ。


 だが,赤松先輩だけは星稜学園側の対応を見て余裕そうに高らかに笑い出した。


「俺の言った通りではないか!結局,真面に動けているのはバスケ部の部長と風紀委員長だけでないか!この勝負,貰ったな!」

「(本当に赤松先輩の言う通りなのか?何だか嫌な予感しかしないんだが・・・。)」


 先輩達同様に相手チームに疑念を抱いていた俺であったが,その疑念を抱いていたのは俺達だけなく観客席に居た美陽達も同様であった。


「……葵,星稜学園側って何だかおかしくない?」

「おにぃ,絶対に手加減している。あと,聖にぃが動いていないのもおかしい。」

「白星会長ってバスケ上手なの?」

「バスケだけじゃないわよ。あんな見た目だけどサッカーにソフトボール,水泳からアメフトまで何でもできるわよ?あと,射撃やヘリの操縦とかもできるみたい。」

「何,その異常なハイスペックは……。」


 前々からとんでもない人だとは聞いていたが,葵の話を聞くと彼が白星財閥の異端児と言われている理由が理解できた。すると,急に影が映り美陽が顔上げると黒髪の長い髪を靡かせた凛々しい顔付きをした女性がこちらを見下ろしていた。


 その左肩には風紀委員会の腕章を付けており,彼女を見て楓先輩は笑顔を向けた。


「一葉ちゃん,おつかれさま!」

「ええ。試合の方はどうなっているかしら?隣,いい?」


 楓先輩は少し横に移動すると隣に彼女は腰掛けた。


 柊木一葉ひいらぎかずは。星稜学園風紀委員会に所属する副委員長でもあり,現在試合に出ている蒼一郎の右腕だったりする。


 凛とした姿から男子生徒だけでなく女子生徒達からも人気を誇っており,楓先輩と二部するほどの人物とまで言われていた。そして,彼女はその楓先輩と無二の親友でもあり,こちらの学園に来てからは楓先輩を通じて美陽達とも度々交流があったのか,今では名前呼びをするほど仲がよかったりもするのだ。


「一葉先輩,見回りのほうはどうでしたか?」

「特に問題はないわね。白星会長と赤松君の話に皆食いついてしまったから神条君の話は全く上がらなくなったわ。彼女達は皆大人しいわよ。まあ,御神君と神条君が動いていないからまだ安心はできないわね。それにしても,4-18って結構離されているじゃない?シンは何しているの?」


 シン?誰だろうと美陽達は顔を見合わせると美月がバスケ部の部長であると教えてくれた。何でも一葉先輩はバスケ部の部長と付き合っているらしく,既に交際を始めて1年以上になる学園公認の熱々カップルでもあった。


 そのため,恋の先輩として結衣達も色々と彼女から話を聞いていたりもするのだ。


「う~ん,何か考えがあると思うよ?さっきから聖ちゃん達,円陣組んで何か話し込んでいるみたいだから。」


 星稜学園のチームを見ると何故か5人ともしゃがみ込み,円陣を組んでヒソヒソと異様な空気を放っていた。そんな彼等は今,先程の試合の状況を整理して新たな作戦を立てている最中であった。


「さて,相手側が予想通りに動いてくれたけど、拓海,何とかなりそう?」

「とりあえず,パターンは何とか読めたよ?だけど,悠人と翔琉が前に出てきたら僕でも分からないからね。あくまで前に居る先輩達3人だけだから。」

「それだけでも十分だと思うぞ。しかし,相変わらずお前は分析が得意だな。」

「本当に頼もしい限りだよ。それで,後ろの二人が出てきた場合何だけど・・・。」


 チラッと聖人会長は遙人とバスケ部の部長を見た。その意味を察したのか,バスケ部の部長は笑みを浮かべて,話を聞いた遙人は口を開いた。


「僕が悠人をマークして部長さんが翔琉をマークすればいいんですね?」

「そういうこと。それと,今でこそ視線をこっちに移すことはできたけど,遙人君が動いた瞬間にまた何かしらブーイングが出るかもしれないから注意しておいてね。」

「僕は一向に構いませんよ?だけど,観客席の方は大丈夫なんですか?さっき友人から聞いたら僕の友達が睨んでいたとか……。」

「それくらいは諦めろ。一番いいのはお前達が仲直りしてくれること何だが,家庭の事情何だろう?俺達が首を突っ込んでいい所じゃないからな。」


 自分達が喧嘩している内容を二人にはそれとなく報告しているため,苦笑しながらも二人は理解してくれた。そして,バスケ部の部長も何かを察したのか,こちらに突っ込まず,早く仲直りできるといいねと一言だけ言ってくれた。


 本当に,この学園の先輩達は気を利かせてくれて申し訳ないと思ってしまった。そう思うと僕もいい加減この問題は何とかした方がいいでのはと思った。


 確かに,悠人のことをもう怒っていないが,実際この問題は怒るだけで済む問題ではないのだ。そう思うと本当にどうしたものかと思い,珍しく僕は溜息を吐いた。


「遙人君が溜息とは珍しいね?やはり,悠人君のこと引きずっているのかな?」

「まあ,悠人のこともそうですけど……どちらかと言えば,あっちですね。」


 チラッと観客席を見て大人しくしている誠央学園の女子生徒達のことを言った。正直,自分と悠人の問題を早急に何とかしないと駄目になった理由は彼女達が原因なのだ。それにしても,あそこまで嫌味を言われたのは初めてで,中学時代の時は色々とあったが,嫌味は言われたことがなく今の方が状況が酷いのではと思ってしまった。


「神条君,何ならあれ出すかい?あっちの君ならあの子達も黙り込むと思うよ?」

「先輩,それ本気で言ってます?僕があれを出すのは美月ちゃんに何かあった時だけですよ。それに,僕が出なくても先輩達で何とかなるんじゃないですか?」 

「そうだね。それじゃ,僕の方で爆弾でも投げようかな。」

「爆弾?……おい!?まさか,あのことを喋るのか!?」

「う~ん,そっちでもいいんだけど,あの二人には既に怪しまれているから本気を出そうかなって。白星君,構わないかな?」


 笑みを浮かべながら彼は聖人会長に尋ねると彼はニヤリと笑みを浮かべた。


「それじゃ,少し早いけど,仕掛けて見ようか。拓海,指示をお願いね。それから,遙人君は拓海のフォローと例の件だけお願いね。後は,こっちで何とかするから。」


 話し終えると,ちょうど電光掲示板のブザーが鳴り,試合再開の合図となった。それを聞くと,誠央学園側のメンバーはコートに入って行った。


「それじゃ,今度はこっちの見せ場を作るよ!」

「「おう!(はい!)」」


 皆は大きな返事をすると同じようにコートに入って行った。そして,試合再開直後,誰がこの展開を予想できただろうか?まさか,今まで優勢であった誠央学園が危機に陥ることになるとは……。

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