第19話 星稜学園の出場者

「兄さん,遙人を連れて来たよ。」


 放課後,拓海に連れられて僕と美月は一緒に生徒会室へ足を運んだ。生徒会室に向かう途中,美月から美陽は悠人と翔琉に話があるのか,帰るのが遅れると言われたらしく,今は遙人と一緒に行動をしていたのだ。


 そして,僕達が生徒会室へ入ると目の前の光景に固まってしまった。何せ,目の前にはソファーの上で寛いでいる聖人会長の膝の上に結衣が猫のように甘えて頬ずりをしており,その甘い光景に生徒会室にいた何名かは既に撃沈している状況であった。


「何ですか,この状況は……。」

「見ての通りよ?聖にぃと結衣の熱々振りに皆やられている状況。」

「……青葉さんは平気なの?」

「私は見慣れているから平気よ。むしろ,これでまだマシな方だから。」


 彼女と一緒にいた葵は平気そうに僕達に教えると3人はこれでマシなのか?と苦笑はしたが,目は笑っていなかった。すると,こちらが来たことに気付いたのか,聖人会長に頬ずりをしていた結衣が大きな声を上げた。


「あ,美月ちゃん達だ。やっほ~。」

「結衣ちゃん,凄く大胆だね……。聖人会長も,恥ずかしくないんですか?」

「ん?僕は特に恥ずかしくないよ?それに,しばらくは会えてなかったからこれくらいは甘えさせてあげないとね。」


 膝の上に居た彼女の頭を撫でると結衣はまた嬉しそうに顔を緩ませて会長に頬ずりした。その光景を見て等々撃沈している生徒会メンバーの一人は何事もなく会長達を微笑ましく見ていた二人に助けを求めた。


「あ,青葉,宝城さん……。会長達を何とかしてくれ……。そろそろ,俺達の胃が持たない……。」

「今のうちに慣れておけ。これで無理ならこれから先もっと辛くなるぞ?」

「そうだよね~。聖ちゃん,これでもまだ手加減しているぐらいだから。」

「……二人は何とも思わないんですね,この状況。」


 聖人会長と結衣の状況を見て動じていない蒼一郎先輩と楓先輩を見て僕はその二人の方に驚いてしまった。その後,生徒会メンバーの大半は二人の光景を見て「これ以上は胃がやられそうだ……。」と早々に生徒会室から退散した。


 生徒会室には聖人会長,蒼一郎先輩と楓先輩,結衣と葵,そして遙人達と生徒会メンバーの1年生が説明のために2人残っており,聖人会長は膝の上に乗っていた結衣に退いてもらい,遙人達をソファーに座らせると両手を組んで3人を見た。


「まず,単刀直入に言わせてもらうと3人はスポーツ交流会の張り紙は見たかな?」

「とりあえずは見たけど……。星稜学園で出場するメンバーは決まったの?」

「3人は決まっているよ。僕と蒼一郎とバスケ部の部長が参加する予定。」


 拓海は聖人会長を見て溜息を吐いた。。言いたいことは遙人も理解したのか,同じように聖人会長を見ると彼は苦笑していた。


「会長,全員バスケ部の方がまだマシじゃなかったんですか?その出場メンバーだと他の生徒会メンバーが何か言ったと思うんですけど?」


 チラッと残っていた星稜学園の男子生徒を見ると俺は止めたよ!と言う目をされてしまった。なるほど,これは何かあるなと彼を見て理解した。


「兄さん。どうしてその3人が出場することに?」

「ああ,その理由かい?誠央学園側のメンバーに理由があってね。とりあえず,リストを貰えるかい?」

「はい。会長,こちらです。」


 もう一人残っていた1年生の誠央学園の制服を来た女の子がリストを会長に渡すとそれを僕達に見せた。そのリストに書かれているメンバーを見ると僕は会長を見た。


 会長も言いたいことは分かったのか,隣に座る結衣を見た。今気付いたが,彼女はご立腹であったらしく先ほどの行為はおそらく彼女を宥めていたのだろうと察した。


「あちらのメンバーに赤松先輩がいるんですね。あと,悠人と翔琉も……。」

「そうなんだよね。悠人君と翔琉君は赤松君がメンバーに入ったことで頼れる子達が居なかったから楓君がお願いしに行った感じかな。」


 チラッと楓先輩の顔を見ると困ったような顔をして笑っていたが,目は全然笑っていなかった。どうやら,彼女も赤松先輩には出てほしくなかったのだろう。


「何で赤松先輩は出場するって言ったんだろう。それに,お兄ちゃんにも是非出場してほしいって……。」

「えっ?聖人会長が出場する理由って赤松先輩からの推薦なの?」

「そうだよ。昨日のこともあるから何かあるんじゃないかって思っていて。」


 プンスコと怒りながら言う結衣の顔を見ると聖人会長は隣に座る彼女の頭を撫でて落ち着かせた。やはり好きな人に撫でられるのは心地いいのか,結衣は再び蕩けた顔で聖人会長に甘え出し,拓海は苦笑ながら二人を見た。


 だが,そんな二人を見て美月も思うことがあったのかじーーーっと二人を見た。


「ひょっとして,美月ちゃんもああいうことしてほしいの?」

「ふぇっ!?ど,どうだろう……。」

「ゴホン。あのう,会長。あまりそういったことを頻繁にされると……。」


 会長達の前にいる僕達も同じことをしそうな雰囲気を見て居心地が悪くなったのか,リストを渡した1年生の女の子が咳き込むと聖人会長に注意した。


「ところで会長,僕達を呼んだ理由ってまさか……。」

「ご明察。悠人君と翔琉君が出場するからこっちでは遙人君と……拓海に出てもらうかと思ってね。」

「ちょっと待って,兄さん!?僕も出るの!?」

「そうだよ?何か問題でもあった?」

「問題大ありだよ!僕が運動苦手なこと知っているでしょう!?」


 珍しく怒り気味に言う拓海を見て僕は苦笑しながらいいんじゃないかな?というと拓海は僕を睨んだ。どうやら余程運動音痴なのか,交流試合に出たくないらしい。


「拓海,別にお前は何もしなくてもいいぞ?俺達3人以外に遙人もいるんだ。正直,1名はお前ぐらいの奴を入れておかないと向こうが可哀そうだろう?」

「その言い方だと僕って戦力外で入れるって言われていると同じじゃないですか!」

「そうだぞ?」

「やめてくださいよ!それって公衆の面前で恥ずかしい思いをするだけじゃないですか!僕絶対に出ませんからね!」


 拓海を反論に聖人会長達は笑い出してしまった。だが,葵と結衣は何故か驚いた顔をして僕を見ており,その視線に気付いた僕も不思議そうな顔をした。


「二人ともどうしたの?」

「お兄ちゃん,神条君ってバスケ上手なの?」

「結衣ちゃん,遙人ってバスケだけじゃなくて運動全般得意だよ?あと,学園の成績も上位にいるし,家事も得意,コミュ力高くて交流も多い珍妙な生き物だから。」

「拓海,その言い方酷くない?」


 拓海にそう言われて反論する僕を見て更に二人は不思議そうに見た。


「……もしかして,神条君ってかなりのハイスペックだったりする?」

「葵,こいつはハイスペックじゃなくて超ハイスペックだぞ。大体のことは何でも率なくこなせるから生徒会や風紀委員会の手伝いに駆り出している時もあるからな。」


 ただの器用貧乏ですよと言うと葵と結衣はまた興味そうに僕を見た。そして,今度は隣に居た美月を見て今度はお互いに一度顔を見合わせた。


「美月ちゃん,ちょっといい?」

「ん?」


 美月を呼ぶと,3人はヒソヒソと固まって何かを話し出し,二人からの話を聞いた美月は何故か顔を赤くしていた。一体,彼女に何を聞いているんだろう?と不思議そうに僕は首を傾げていると,会長は交流会のことを改めて尋ねてきた。


「それで遙人君,参加はしてくれるかな?あと,拓海は強制参加ね。」

「僕は構いませんよ。拓海も強制参加なら可哀そうですから。」

「二人とも僕に拒否権はないの!?」

「「ないよ?」」


 何で二人とも同じこというの!?と再び怒りながら反論すると,その話を聞いていた美月達以外はまた声を出して笑った。


「それじゃ,こっちのメンバーも決まりかな。楓君,ごめんだけど日程の調整と会場の準備手筈をお願いしていいかな?僕と蒼一郎はバスケ部に顔を出して来るから。」

「聖ちゃん,蒼ちゃん,シン君によろしく言っておいて。こっちの作業が終わったら顔を出すから。」

「おう。それじゃ,遙人,拓海。日程が決まったら後日話をするから頼んだぞ。」


 聖人会長と蒼一郎先輩はバスケ部に向かい,楓先輩は生徒会メンバーの二人を連れて生徒会室を出ようとすると遙人達も同じように生徒会室を後にした。


 ********************


「それにしても赤松先輩が出場するのか。どうしてだろうね?」

「昨日あれだけ言ったからもう関わってほしくないんだけどなぁ。」

「そう言えば,最後の神条君のあれは笑いそうになってしまったわね。本当に紹介しましょうかって?……プッ。」

「葵ちゃん,笑うのは酷いと思うよ?」


 美月も一緒に笑いそうになってたでしょう?と言うと美月はそんなことないよ!と反論した。どうやら,隠れていた二人も僕が最後に言ったことを聞いていたらしく葵に至ってはお腹を抑えて笑いそうになっていたらしい。


 こっちとしては本当に可哀そうだと思って言っただけなんだが,何だか赤松先輩達には悪いことをしてしまったなと思った。


「それにしても,神条君って女子の友達結構いるのね。正直,驚いたわ。」

「あ,それは私も思ったかも。あと,星稜学園の女子達からも人気だよね。どうしてだろう?」

「二人とも遙人ってかなり女たらしだから気を付けてね。」

「「そうなの?」」


 二人に冷ややかな目で見られた僕は全力で否定した。確かに女の子の友達は多いかもしれないが,女たらしではないと自覚はしている。ただ,何故か知らないが自分は女子達から意外と人気があるのだ。


 どうやら,その理由の1つが大人の対応を取れることであり,中学を卒業したばかりの高校生が取る態度ではないとよく言われていた。だが,これは幼い時に身に着けた処世術でそうでもしなければ,幼いあの時に自らを保つことができなかったのだ。


「美月~!」

「あ,お姉ちゃん!」


 向こう側から走ってくる人影を見ると,美陽がこちらへ手を振っていた。


「お姉ちゃん,御神君達とお話は終わったの?」

「ええ。大した用事ではなかったから二人はそのまま帰るって。それで聖人会長の用事は何だったの?」


 美陽にそう聞かれて先ほどの話を美月が話すと彼女は遙人のことを見た。どうやら何か思うことがあるのか何だろうと遙人は首を傾げた。


「神条君,ユウと勝負をすることは何の問題ないの?」

「特に気にしてないよ。あくまで今回はスポーツ交流会での試合だから悠人とのことは割り切っているつもりだよ。」

「そう。……どうして神条君はそこまでユウのことを目の敵にするのかしら?謝るまで許さないとか言っておきながら色々と矛盾が生じていると思うんだけど?」

「それは……。」

「常盤さん,その件はそこまでにしておいて。」


 僕が言い掛けると拓海がそれを静止した。すると,急に遙人のスマホが鳴り出し,よく見るとアルバイト先から電話だったので緊急の用事かと思った。


「ごめん,ちょっと電話に出るから失礼するね。もしもし……。」

「あ,神条君……。」


 美陽が言い終わる前に少し離れた場所で電話を取った。彼女はそんな僕の行動に溜息を吐くと,先ほどの拓海の言っていたことが気になったようだ。


「白星君,さっきのはどういうことかしら?」

「そのままの意味だよ。実は遙人から少しだけ事情を聞いたんだけど,かなり重い話だったよ?」

「重い話って?」

「興味本位で聞いていい内容じゃないってこと。この間,遊びに行った時に確認はしてないけど翔琉も何か知ってそうだったんだよね。多分,彼も悠人から何かしら話を聞いているんじゃないかな?」

「興味本位で聞いていい内容じゃない……。」

「僕から言えることはそれだけだよ。常盤さんが二人に喧嘩をやめてほしいのは学園の関係が悪化するからなの?それとも,他に理由があったりする?」

「正直,自分でもどうしてなのかよくわからないのよね。何故か,あの二人を放っておけないというか……。」

「お姉ちゃん……。」


 未だに電話をしている僕を美陽と美月は見つめた。そして,僕の電話が終わると同時に拓海は部活に顔を出すと言った。


「それじゃ,ここで失礼するね。」

「うん。拓海,また明日~。」


 皆で拓海を見送ると,僕はアルバイト先からの電話のことを美月に伝えた。


「遙人君,お爺ちゃんは何て?」

「ヘルプをお願いされてね。急いでお店に行かないと……。4人はどうする?」

「私も行こうかな。お姉ちゃん達はどうする?このまま帰る……。」


 そう言い終わる前にガシッと美月は美陽に肩を掴まれてしまった。何でだろうと思い彼女の顔を見ると今朝と同じように顔を詰め寄ってきて美月に尋ねて来た。


「美月,席は確保できるのかしら!?確保できるなら葵達も連れて行くんだけど!」

「お姉ちゃん,近い近い近い!そこはお爺ちゃんに聞いてみないと……。」

「美月ちゃん,確認したら席は確保してくれるって。」


 二人がやり取りをしている間に僕はもう一度電話入れて聞くと席は1つ確保してくれるようであった。その行動に4人は唖然としていた。


「4人ともどうしたの?ちょっと急ぐから僕は先に行くね。」


そう言って僕は先に歩き出した。だが,4人は未だに驚いたままであった。


「……神条君って,対応早過ぎない?」

「遙人君って人の顔を見て察するの得意だから……。」

「そう…‥。まあ,行きましょうか。」


 4人は急いで先に歩き出した彼の後を追い掛けて行った。あと,美陽は今朝美月に言ったことが叶ったのが嬉しいのか,非常にご機嫌な気分でもあった。

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