第15話 誠央学園の赤松先輩

「やっと見つけたよ,四之宮さん!」


 誠央学園の2年生らしき生徒達が数人ほどいて,その真ん中の人が結衣の名前を呼んだ。だが,結衣はその先輩の顔を見ると,とても嫌そうな顔をしていた。


「赤松先輩……。私にまた何用ですか?」

「そんな言い方は失礼だな。俺はただ君に愛の告白をしに来ただけなんだから。」


 そう言って,結衣にウィンクをすると美陽だけでなく僕と拓海も背筋が凍るようなゾクッとした感じがした。ナルだ……この人絶対ナルシストな人だ。直感的にこの先輩はまずいと思い,周りを見渡すといつの間にか周囲にいた人達は居なくなっていることに気付いた。


 最初は彼を見て関わりたくないのかな?と思ったが,どうやら彼の取り巻きの者達が何処かに追いやったのだろう。それと,先ほど結衣が言っていた赤松と言う名前が気になった。


「拓海,赤松って名前聞いたことない?」

「赤松?……もしかして赤松製薬かな?結構有名な大企業だよ。」

「おや?俺を知っているのかな?いやはや,有名人は本当につらいものだよ。」


 こちらの話を聞いていたのか,赤松と名乗った彼は髪をかき上げると僕と拓海を見てそう言った。その姿を見てやっぱりこの人ナルシストだと確認した。


「赤松先輩,何度もいいますけど先輩の告白は断っているじゃないですか!私には既に彼氏がいるって言っているのに!」

「そうは言ってもだな,四之宮さん。君が誠央学園に入ってから一度もその彼氏とやらに会ったことがないんじゃないか?いるなら紹介して欲しいと何度も言っているのにいつも君は会わせてくれないじゃないか?」

「そ,それは向こうが忙しいからであって……。」

「やれやれ,困った子猫ちゃんだ。俺の何がそんなに気に食わないんだ?権力と財力もあるし,君が欲しい物なら何でも買ってあげられるんだぞ?君のような一般庶民の子に取って今まで以上に贅沢ができるというのに何か不服でもあるのかい?」


 彼の言葉を聞いて僕は少し考えると隣にいた美陽を見た。あまり言いたくなかったが,言った方が良いと思い,美陽に質問した。


「常盤さん,今から大変失礼なこと言うけどいいかな?」

「……何かしら?」

「誠央学園の学生って赤松先輩みたいな人,結構いるの?」


 そのように聞かれると,大きな溜息を吐いた。どうやら,一番言われてほしくない台詞だったらしく,少し怒り気味に先輩に抗議した。


「赤松先輩,お願いですからいい加減,結衣のことは諦めてください。それと,彼等に勘違いされるのであまり恥ずかしいことを為さらないでくださいませんか?」

「ん?これはこれは,常盤副会長じゃないか。まさか君も一緒に居たとは。君からも四之宮さんを説得してくれないか?どうして,俺じゃなきゃダメなのかとね。」

「…………。」

「神条君,言いたいことは分かるわ。でもお願いだから何も言わないで!」

「僕,まだ何も言ってないよ?」


 既に困惑から珍妙な生き物を見るような目をしていた僕を見て余りの恥ずかしさに同じ学園の出身者と思われたくないのか,僕に対しても強い口調で言った。そんな二人のやり取りを見て不思議そうにしていると目の前の学生を今度は睨んだ。


「本当にいい加減にしてください!既に結衣はあなたの告白を5回も断っているじゃないですか!どうしてそんなに彼女に執着するんですか!」

「えっ?5回?」


 この人,5回も告白して断られているのにまだ諦めていないのか……。男としてはその根性は尊敬できるかもしれないが,本人が嫌がっているなら引くことも大事なのでは?と思ってしまい,何故そこまでして結衣に執着するのか,気になった。


 だが,彼が言った答えは単純な理由,むしろ当たり前のことであった。


「そんなの彼女が好きだからに決まっているだろう?それに彼女はミス常盤に選ばれた子だ。そんな彼女は俺みたいな選ばれた男が相応しいと思っているんだよ。」

「赤松先輩は私がそれに選ばれたから私が欲しいだけでしょう!私の事なんてまるっきり見てない癖に!」

「そんなことはないさ。だが,俺達はお互いに選ばれた者同士なんだ。そんな二人が共に歩むのは浪漫があると俺は思うよ。」

「…………。」


 先輩の話を聞けば聞くほど頭が痛くなり片手で頭を抱えた。それは隣にいる美陽も同じであり,彼女はいつも目の前の先輩の相手をしているのかと思うと不憫に思えてしまった。


 だが,それと同時に気になる点もあった。彼は先ほどからと口にしていた。確かに四之宮さんはミス常盤に選ばれたことを知っているが,彼は一体何に選ばれたのだろうか?


 そう言えば,赤松製薬に特例で人間国宝に選ばれた人物がいると噂では聞いたことがあるが,もしや彼がその人間国宝なのか?と色々と考えていると隣に居た拓海がチラッとこちらを見ていることに気付いた。


 それに気付くと,自分のスマホのメッセージを確認した。


[拓海:どうする?僕が治めようか?あんまりお勧めできないけど白星の名前を出せば一発だと思うよ?]

[遙人:難しいんじゃないかな。さっき常盤さんが治めようとしても聞く耳もってなかったから。それに……赤松先輩ってもしかしてあの人だったりする?]

[拓海:……正解。あと,こっちも赤松製薬とはそれなりに繋がりがあるから穏便には済ませたいんだけど……どうしよう?]


 困った顔をしていた拓海を見て仕方がないと思い,僕は先輩と結衣の前に立った。


「赤松先輩,少しよろしいですか?」

「ん?何だね,君は?星稜学園の生徒か?それに,ただの陰キャ男子か・・・。あまり,俺達の話に入ってこないで貰いたいんだが?」

「そうですが,彼女が困っていると思いまして。……それに彼女もと思ってますよ?」

「……何?」


 先輩にそう言った瞬間,空気が変わり,取り巻き達が一斉に僕を睨んだ。その姿を見て美陽は自分を止めようとした。


「ちょ,ちょっと,神条君。何,煽って……。」

「それと先輩,さっきから思っていたんですが……先輩って女の子に告白されたことないでしょう?」


 それを言った途端,先輩の後ろに雷が落ちたような音がし,取り巻き達は僕を睨むよりも赤松先輩を見て何故か慌て出した。


「お,お前!今の言葉は訂正しろ!赤松様に失礼だろうが!……赤松様?」

「ふ,ふふふ、構わないさ別に。所詮,君のような陰キャ男子に言われたところで痛くも痒くもないことだ。俺に比べて君は女子とすら交流が……。」

「ありますよ?というか,絶賛目の前で先輩が告白しようとしている彼女とそちらの常盤副会長とも遊んでいますけど?」

「う……。」

「あと,僕は彼女持ちですし,それなりに女子と遊んでいますよ?何なら先輩にも紹介しましょうか?あ,それとも女子と遊んだこともないからやっぱり恥ずかしいですか?大丈夫ですよ,僕の女友達って先輩みたいな初心な人でも優しく対応してくれる子達ですから。」

「な,な,な……。」

「プッ…………。」


 色々と先輩を煽っていくと,美陽が今にも笑い出しそうになっていた。そんな僕の行動を見て結衣も笑いそうになり,拓海は呆れた顔をした。


「お前のような陰キャに彼女何ているわけないだろう!赤松さん,さっさと彼女を連れて行きましょう!」


 取り巻きの一人が結衣を連れて行こうと,彼女の腕を掴んだ。


「何するんですか!?離してください!!私は先輩達と行きませんから!!」

「おい,あまり彼女に手荒な真似はするな!彼女に傷が付いたらどうするんだ!」

「ですが……。」

「言い返せなくなった途端に強引になるんですか?先輩って子供みたいですね。」


 結衣の腕を掴んだ取り巻きの人を見て僕が呆れた口調で言うと,彼は赤松先輩が馬鹿にされたと思い,激怒した。


「お前!赤松さんにさっきから言い過ぎだろう!?いい加減にしないか!」

「僕は今,先輩に言ったんですよ?あ,もしかして,先輩達も赤松先輩と同じでそういった経験ないとか?」

「!?貴様!!」

「神条君,危ない!!」


 煽られて我慢の限界だったのか,取り巻きの一人が殴り掛かろうとした。それを見た瞬間,美陽は止めに入ろうとしたのだが……。


「美陽!!どうした!?」


 声をした方向を見ると悠人と翔琉が走って来たのだ。その姿を見ると美陽と結衣は安堵したが,僕は彼等が来たことに片手を額に当て溜息を吐いた。


「……これは一体どういう状況だ?」

「見てのとおりよ。赤松先輩が結衣を無理やり連れて行こうとしたのよ。あと,もうすぐで神条君が殴られそうになってたわ。」


 チラッとこちらを見たが,直ぐに目線を先輩に向けると呆れた顔をした。


「赤松先輩,そろそろ諦めたらどうですか?あまりしつこい様ですと,本当に結衣に嫌われますよ?」

「お,俺はただ,彼女のことを本気で……。」

「そう言いますけ,ど結衣の気持ちは尊重しているんですか?彼女の意思を無視してまでそんなことしたら本末転倒だと自分は思いますけど?」

「確かに,その通りだが……。」


 悠人に色々と正論を言われてしまい,何も言い返すことが出来ず,赤松先輩は黙り込んでしまった。


「常盤さん,ちょっといいかな?」

「白星君?どうしたのかしら?」

「遙人の時と対応がまったく違うように見えるけど,どうしてなのかな?悠人って先輩の弱みでも握っているの?」

「ユウの場合はね,彼に何かあると誠央学園の女子の大半を敵に回すからよ。あと、その中には政財界の御息女も多くいるからそれ等全てを敵に回しかねないわけ。だから,今回の赤松先輩みたい女性絡みになるとユウが治めた方が相手も黙りやすいってこと。ただ,本人は【女性恐怖症】だからあまりやりたくないんだけど性分なのかしら?苦手だと言いつつ,困っている女の子がいたら自分から助けに入るから。」


 それをの話を聞くと,拓海は少し納得したような顔をした。どうやら,遙人でも思い当たることがあり,やはり双子何だなと改めて理解したようだ。


「ただ,今回は止めることが出来たけどあの先輩は実際止めることは難しいのよ。」

「それって……。」

「……君は。」

「はい?」

「そう言って君は誰でも選び放題ではないか!?女子の大半に味方されて,いつでも女子と遊んでいる君に俺の気持ちが分かるのか!?」

「っ,俺は別にそんな……。」

「うるさい!もう,構わない!彼女を無理やりでも連れていけ!話は後でゆっくりとしようじゃないか!」


 彼は我を忘れて,取り巻き達にそう命じると彼等は無理やり連れて行こうと彼女の腕を掴もうとした。それを見た瞬間,悠人だけでなく自分も動こうとした。


「おやおや,何か騒がしい声が聞こえると思ったら美陽君達じゃないか?」

「……えっ?」


 その声を聞き美陽だけでなくその場に居た全員がそちらを振り向いた。そこには,風紀委員会の制服を来た学生達と誠央学園の制服を来た女子生徒と一緒に一人だけ皆と違う制服を来た少し小太りな星稜学園の男子生徒がにこやかに手を振っていた。


「「し,白星会長!?」」

「やあ,皆。一体何をしているんだい?」


 そんなにこやかに笑う彼を見て驚いている美陽達を他所にただ一人だけはその顔を見て今にも泣き出しそうにしていた金髪の少女がいたのだった。

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