第13話 偽装カップル!?
美陽の提案で二手に分かれることになった遙人達。
彼等は今、遙人,美陽,拓海,結衣の4人で行動をしており,コインゲームを遊んでいる悠人達とは別のエリアで遊んでいた。
そして現在,美陽は懐かしいモグラ叩きのようなゲームで遊んでいたのだが……。
「何よ,このゲーム!!凄くムカつくんだけど!!」
最早,天才少女や常盤家のお嬢様の凛とした顔は何処へいったと思うような顔で美陽は叫んでいた。何せ,モグラの変わりにスーツを着て髭を生やしたおじさん?が叩くのを失敗する度に【YOUちゃんと狙いなYO!】と煽り文句を言ってくるのだ。
しかも,あのおじさん……英語の先生に似ていたのは気のせいだろうか……。
このゲームを作った制作者はどんな意図でこれを作ったんだろうと現在の美陽の光景を見て僕は笑いそうになっていた。そして,その近くでは拓海と結衣が様々な武器を持った迫りくるゾンビを撃ち倒すガンアクションゲームをして遊んでいた。
「結衣ちゃん,気を付けて!あと,体力1つしか残ってないから!」
「わかった!たっくんも気を付けてね!」
拓海はこういったゲームは得意なのは知っていたが,結衣も非常に上手だったので僕は驚いていた。そして,ゲームを終えた美陽は不思議そうに見ていた僕を見ると今度は彼女が笑いそうになっていた。
「不思議そうに見ているけど,結衣って本当に勉強以外は何でもできるのよ。ダンスを踊ったり,今みたいにゲームとかも。あと,運動も得意わね。それなのにどうして勉強だけあの子は出来ないのかしら。母親が外国の人だから日本語以外もペラペラなのに何故か英語のテストも赤点ギリギリだし……。」
「まあ,人それぞれ向き不向きはあると思うよ。僕にだって苦手なことあるから。」
「神条君も苦手なことあるの?」
「僕,高所恐怖症何だよね……。山の上の景色とか飛行機の中は平気なんだけど,高層ビルから見える風景とかあるでしょう?特にガラス張りのエレベータの中とか。あと,絶叫系のマシンとかも駄目かな。小さい時に泣きじゃくってトラウマになったから今でも無理だよ。」
少し恥ずかしそうに自分のトラウマを言うと美陽は意外そうな顔をした。そう思うと気になったのか,もう1つ尋ねて来た。
「ユウも高所恐怖症なのかしら?まったくそう言うの教えてくれないから。」
「……悠人は特に苦手な物はないよ。敢えて言うなら納豆が大嫌いかな。」
「納豆?」
「こんな物は食べれないじゃなくて最早食べ物として認識すらしたくないってレベルかな。一度,父さんがお土産で藁納豆を買ってきた時はこの世の終わりのような絶望的な顔をして泣きそうになっていたから母さんと妹が大笑いしていたね。」
「何,それ……プッ。」
ツボに入ったのかお腹を抑えて必死に笑いを耐えていた。そんな彼女を見て僕も微かに笑ったが,直ぐに笑うのやめて未だに遊んでいた拓海達を見た。美陽もそれに気付き,同じように拓海達を見るとボソッと言った。
「神条君,本当はユウのこと怒ってないんじゃないかしら。」
「そんなことはないよ。常盤さんには申し訳ないけど,悠人から謝るまで僕は許すつもりはないから。」
そう言い切ると,ちょうど二人がゲームオーバーになったのか,遙人は二人に近付いてお疲れさまと言った。その後ろ姿を見て美陽は溜息を吐いた。
「ねね,今度は神条君とみはるんでやらない?凄く楽しいよ?」
「結衣ちゃん,それって結構難しいと思うよ?」
「うん。僕もそう思う。」
「どうして?…………あ!?」
結衣もどうやら気付いたようだ。先ほどあまり意識していなかったが,拓海と距離を詰めてお互いの画面の敵を撃ったりもしていたのだ。それを考えると先ほどまで普通に話していた彼であっても距離を詰めてしまうこともあるなら【男性恐怖症】の彼女には少し酷なのでは?と二人は思った。
「ごめん,みはるん!夢中で気付いてなかった!」
「気にしなくてもいいわよ。それじゃ,別のゲームでも……。」
「……拓海,これって一人でもいけるかな?」
美陽が別の場所に移動しましょうという前に僕は二人がしていたゲームの前に立ち両手で銃を2つとも持った。
「できないことはないと思うけど両方の画面見るからかなり疲れると思うよ?あと,球が無くなったら勝手にリロードはしてくれるけど相手の攻撃を避けることはできないから攻撃される前に……。」
「……ふむふむ,なんとか行けそうかな。じゃあ,頑張ってみるよ。」
「頑張ってね。まあ,遙人ならいい点数取れるとは思うけどね。」
ルールを話し終えた拓海は僕にそう言うと美陽達の隣に向かった。
「……こういったゲームをするのにも久しぶりだな。」
そう言って,着けていた眼鏡を外してポケットにしまうと僕は銃を構えた。
玩具の銃とはいえ,慣れていない人が使うと銃身が下がってしまうこともあるが,自分は特に問題なさそうにせず,硬貨を入れると,画面にプロローグが流れ出した。
「……神条君って伊達眼鏡だったのね。」
「私も初めて知ったよ。それよりも,神条君ってやっぱり悠人君と双子なんだね。眼鏡を取ったら少し雰囲気が似ているような気が……。」
「そう,かもしれないわね。あ,そろそろ始まるみたいよ。」
美陽がそう言った直後,ゾンビ達が武器を持って画面の前に現れて来た。それを見た瞬間,僕はまず右側の画面に出て来たゾンビから片付けていき,その後に左側の画面に出て来たゾンビ達を片付けた。
やはり,最初のステージはゆっくりと敵が現れるため,それほど気負いもせずに順序よく撃ち抜いて行くと,最初のステージを軽々とノーミスでクリアできた。
「(確か,右手の銃で左側の画面も撃つことができたはずだな。それなら……。)」
僕は再び銃を構えると,先程と同じように右側から敵を片付けた。しかし,先程と違って数が多く右手に持っていた銃の弾数が足りなかった。だが,僕は何食わぬ顔で左手に持っていた銃も使い,右の画面の敵を全て撃ち倒した。
そして,左側の画面も右手の銃を使ったりもして僕は黙々と敵を倒していった。
その光景にはまったくといって無駄がなく目を見張るものがあった。
「…………。」
「…………。」
次々と画面の敵を倒していく遙人に目を奪われていた二人であったが,それは二人だけでなく,周囲で遊んでいた学生達も同じであった。
「凄いでしょう?色々なゲームがあるけど,遙人ってこういったゲームが物凄く上手なんだよね。いつもハイスコアばかり叩き出しているから。あと,あんな見た目だけど,凄くカッコよく見えるでしょう?」」
拓海も彼女達と同じように遙人を見た。彼が何故星稜学園の女子達から人気があるのか?そう言われて,二人は今の彼の姿を見て納得をしてしまった。
「おいおい,もう最終ステージだぞ!?」
「しかも被弾なしってマジかよ!?誰だ,あの星稜学園の学生は!?」
最終ステージに辿り着く頃にはその姿を見た周囲には観客が沸き出しており,男女問わず,声援を送っている状況であった。
「凄い凄い!もう最終ステージだよ,みはるん!……みはるん?」
「…………。」
「みはるん,顔赤いけど大丈夫?もしかして,熱でもある?」
「……えっ!?だ,大丈夫よ!それよりも,そろそろステージクリアするんじゃないかしら。」
「えっ?あ,本当だ!神条君,そのままいっちゃえー!」
美陽にそう言われて結衣はもうすぐでステージクリアをしそうな遙人に周囲と同じように声援を送った。そんな中,美陽は俯き,一人考え事をし出した。
「(どうしたのかしら……。急に彼のことが目を離せなくなったけど……。)」
彼のことをもう一度チラッと見ると先ほどと違い,普通に見ることができた。
「……これで,ラスト!」
そう言って,最終ステージのボスを倒すと画面にCongratulations!と表示されて周囲から拍手が沸いた。それに気付くと,僕は軽く周囲に手を振った。どうやら,気付かないうちに注目を集めてしまっていたようだ。
「遙人,おつかれさま。」
銃を下に戻して周囲に挨拶をしている僕に拓海はハイタッチした。
そして,周囲をもう一度見るとやはり観戦者が増えていることに苦笑し,少し移動しようかと言われて美陽と結衣を連れて現在のエリアを後にした。
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「神条君ってガンアクションゲーム得意なんだね!」
「本当に凄かったわ。」
周囲の目線が落ち着いたことを確認すると結衣は先ほどのことを称賛し,美陽も同じように僕を称賛した。
「クレーンゲームは苦手だけど、ああいったゲームは得意だからね。先ほどの挽回をできてよかったよ。」
「本当に凄かったよ!美月ちゃんが神条君に惚れ込むのわかるな~。みはるんもそう思わない?」
「そ,そうね。」
「…………。」
困ったような顔をして拓海を見ると拓海もどうしようかという目でこちらを見た。そんな僕達のやり取りに目の前の二人は不思議そうにしていた。
「実は,二人に黙っていたことがあるんだけど……。特に常盤さんは怒るかもしれないから先に謝っておくね。」
「どういうことかしら?」
疑問に思いながら僕の次の言葉を聞くと,美陽だけでなく結衣も驚いた。
「「偽装カップル!?」」
「しーーー,二人とも声大きいよ。」
拓海にそう言われて慌てて二人は口を塞ぐと周りを見渡した。そのことを聞くと,美陽は切羽詰まった顔でどういうことか訪ねて来た。
「美月ちゃん,入学当初から告白が絶えない状況で参っていたんだよね。元々内気な子だから,このままだと押しの強い子が来ると受け入れてしまうんじゃないかって思ってね。現にそう言った人もいたから。僕が偽装できれば一番良かったんだけど僕には許嫁がいて無理だったから遙人に頼んだんだよ。」
「えっ!?でも,神条君って美月ちゃんと色々としていない?確か,壁ドンとかお姫様抱っことかお泊りとかも!この間もあ~んとかしてたよ!?あれも偽装なの!?」
「恥ずかしい話だけどそうだよ。一応,美月ちゃんとは相談して最低ラインを決めて上手くカップルをやっているってアピールをする必要があったから。」
僕は何か言いたそうにしている美陽を見た。だが,何故か彼女は呆れ返り,溜息を吐くと,急に頭を下げて僕に謝罪をしてきた。
「神条君,ごめんなさい!妹が迷惑を掛けたようで!あとで,美月にちゃんと言っておくから!」
「謝らなくていいよ。それに……何もなければ,このまま本気で美月ちゃんと付き合っていたかもしれないからね。」
「えっ?それってどういうこと……。」
「僕から説明するよ。それと,彼の現状についてもね。」
そう言って拓海は説明をしてくれた。二人は確かに偽装カップルであったが,お互いに仲が良くこのまま本当に何もなければ付き合ってもいいのではとお互いに思っていたのだ。だが,2学期になり状況が変わった。
その理由は,誠央学園が編入して来たことで姉である美陽が星稜学園にやってきたからだ。彼女がやって来たことで美月と付き合わなくても守ってくれる存在ができたことで二人は分かれる前提で話を進めていたのだが,大きな問題が1つあったのだ。
それは誠央学園の男子達と星稜学園での二人の状況であった。星稜学園で二人は今では公認のカップルであり,彼女は誠央学園の男子達からは未だに数名ほど告白をされている状況なのだ。
もし,この状況で別れてしまったら美月は美陽がいるとはいえ両方の男子生徒達から狙われることになり,更に星稜学園の男子達からは美月を弄んだのでは?と遙人が男子達から色々と追及されると3人は思い,現状維持の状態が続いていた。
「それなら別に付き合ったままでいいんじゃないかな?特に問題ないんでしょう?」
「結衣ちゃん,これに関しては状況の問題じゃなくて,心の問題だからね。状況が変わったから二人の間にはもう恋心ではなく別のものに変わってしまったんだよ。」
「そんな……。」
悲しそうな顔で結衣は遙人を見ると美陽はかなり深刻な顔で僕を見た。何故なら,自分達の編入が二人の関係を変えてしまい,更には彼の状況を前よりも危うくさせてしまったからだ。
「本当にごめんなさい。何から何まで迷惑を掛けて。……ところで,別れ話を持ち掛けたのはどちらからなの?」
「…………僕からだよ。元々は偽装だったから彼女の今後を考えると本当に好きな人と付き合った方がいいからね。それに,僕の方も色々と理由があったから。」
「えっ?」
最後に言った言葉がうまく聞き取れず,不思議そうにすると結衣は何故か残念そうにした。
「そっかぁ。美月ちゃんも恋人いるから今度都合が付けば一緒にデートしたいなぁと思ってたのに。残念だなぁ。」
「ん?四之宮さんって彼氏いるのかな?」
「そういえば,星稜学園に居るって言ってたわよね?紹介して貰えると言ってたけど一体誰なのかしら?」
「あ~,二人とも結衣ちゃんの彼氏って実はね……。」
「やっと見つけたぞ,四之宮さん!」
そう言おうとすると急に声を掛けられて4人はそちらを振り向いた。そこには誠央学園の2年生らしき生徒達が数人ほどいてその真ん中の人が結衣の名前を呼んだ。
だが,結衣はその先輩の顔を見ると,とても嫌そうな顔をしており,僕はそれを見ると目の前の彼等と何かあるんだろうなと思った。
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