第12話 王子様の意外な特技

 3階の女性服のお店で美陽と美月が楽しそうに選んでいる中,その後ろでは遙人と翔琉が苦笑しながら二人のやり取りを見ていた。


 そんな4人の光景を少し離れた場所から残りの4人は近くのお店で買ったフルーツ100%のミックスジュースを飲みながら眺めていた。


「翔琉って本当に誰とでもすぐ仲良くなれるわよね。あ,それは結衣も同じか。」

「結衣ちゃんも人懐っこいからね。顔もスタイルもいいから,そのうち変な人に連れて行かれないか僕は心配だよ。」

「二人とも酷いなぁ。私だって誰にでも付いて行くわけではないんだから。」

「ご飯奢ってくれるって言われても?」


 物によっては考える!というと駄目じゃない!と葵に言われて3人は笑い出した。その光景を見ると俺も微かに笑い,奢ってもらったミックスジュースを飲んだ。流石はフルーツ100%なだけはあり,非常に飲みごたえがあった。


「ところで,御神君……。」

「悠人でいい。俺も拓海って呼ばせてもらっていいか?」

「僕は構わないよ。じゃあ,悠人。遙人と仲直りする気はないの?」

「…………あいつから何か聞いたのか?」


 拓海はそう聞かれても何も答えようとしなかった。おそらく,翔琉と同じぐらいは状況を聞いたのだろうと思い,飲み終えたカップをごみ箱に捨てると溜息を吐いた。


「1つだけ忠告しておくよ。今の状況を放っておくと遅かれ早かれ2つの学園で衝突が起きると思うから。」

「たっくん,それってどういうこと?」

「二人ってどちらの学園にも影響力を持ち過ぎているんだよ。特に遙人の場合,周りは今でこそ静観しているけど先輩達まで出て来られたら収拾が付かなくなるからね。多分,先輩達が動いたら本気で誠央学園の学生達はこっちに居られなくなるよ?」「白星君,それって少し言い過ぎな気が…………じゃないのね。」


 彼の表情からして冗談ではないらしい。何でも,遙人は彼の従兄弟である聖人会長だけではなく風紀委員長である蒼一郎先輩とも面識があるのだ。


 そして,それ以外にも星稜学園に影響力のある先輩達とも繋がりがあり,もし彼等が本気で遙人の味方に付いたら場合によってはないとも言い切れないのだ。


「一応,忠告はしたからね。」

「ああ。迷惑を掛けてすまん。」


 別に僕は気にしてないよといい残すと拓海も遙人達の所へ行き,美陽と美月が選んだ服の感想を聞いていた。


「……実際仲直りする気あるの,御神は?」

「…………。」

「悠人君,何があったか知らないけど,仲直りはした方がいいとは思うよ?」

「私もそれは思うわね。ただ,美陽みたいにお節介を焼いてまでしなさいとは言わないわ。そっちに事情があると思うから。」


 この二人の助かる所は二人も昔に色々とあったのか,踏み込んではいけない場所というのはそれなりに熟知しているようなのだ。


 そのため,今回の俺と遙人の関係は自分達が踏み込んではいけない所ではないかと思い,美陽達よりも二の足を踏んでいたのだ。


 だが,今はその行動が非常に有難かった。


「……葵,は何してる?美陽より実際は詳しいんだろう?」

「おにぃから聞いたんだけど男子の方は大人しいわよ。元々は美陽を狙っていたし,冨塚君達が大真面目な顔で手を出すなって言ってるから流石の彼等も美月には手を出していないわ。……まあ蔭口は言われているかもしれないけど。それよりも問題なのは女子の方よ。この間は新居のグループに嫌味を言われていたのに今度は別のグループからも言われてたみたいよ。今週に入って3件目かしら。」

「っ……。」

「二人の問題なのにどうしてそんなことするのかな?自分達のことならまだしも,私もそれ聞いたら怒りそうになったよ。」


 プンスコと頬を膨らませて怒る結衣を見て葵も同感ねと言った。そして,話を聞いて落ち込んでいる俺を見て葵は溜息を吐きながら言った。


「その姿からすると神条君のこと,あまり悪くは思っていないんでしょう?これ以上は何も言わないけど何とかしなさい。」


 彼女はそれだけ言い残すと,拓海と同様に美陽達の所へ行き,結衣もチラッと悠人の方を見ると同じように美陽達の所へ向かった。何とかしなさい……か。葵に言われたことを考えながら,俺は一人天井を眺めた。


 何故はそこまでして自分に執着するのか,その理由の大元の原因はおそらくが原因であるのは明白であった。だが,おそらく彼女達が遙人に嫌味を言っているのはあいつの俺の双子であるということを教えてないからだ。


 それから,あの陰キャのような姿も。最後に会った時は自分と瓜二つであったはずなのに何故今の遙人があんな姿をしているのか謎が多すぎて今でも悩んでいたのだ。


 だが,双子であるということが彼女達だけでなく他の生徒達にも知られると色々と探られて問題が起きると思い,中々言い出せなかったのだ。


「本当に,どうすればいいんだろうな……。」


 俺は誰にも聞こえない声で天井を見上げながらそう呟いた。


 ********************


「うわぁ……凄い人……。てか,学生が無茶苦茶多くない?」


 3階での買い物を終えた後,俺達は6階のゲームセンターの前まで来ており,そこには両学園の学生以外にも他校の生徒達もチラホラ遊びに来ていたのだ。


 そこには,昔父親に色々と教わった懐かしいゲームも置いており,悠人は一瞬だけその場所を見て微笑んだ。


「この地区の学生達は放課後になるとここに遊びに来るの多いからね。それに,兄さんが他校の生徒達と交流して繋がりを作ったから,ここら辺一体の学生達は学園の枠を超えて仲が良いからね。……例外はあったけど。」


 現在,星稜学園で使われているコミュニケーションアプリ【別名:スターグループ(愛称:スタグル)】。本来は星稜学園だけで使われていたアプリだが,去年から聖人会長の提案で周辺地区一帯の学園に配布されるようになり,同年代の学生達だけが使用しているためか,学生同士の交流が盛んになったのだ。


 また,他校の生徒会や風紀委員会同士の連絡手段としても取り扱われており,交流以外でも重宝されていた。ただ,一部例外も存在しており,それが星稜学園と同じ地区にある名門校と言われていた誠央学園と常盤女学園なのだ


 まず,常盤女学園は元々閉鎖的な学園で聖人会長の手腕で星稜学園の一部の学生達が敷地の正面玄関付近まで入れるようになって交流が始まったらしく,それでも今までの事に比べると大進歩であったのだ。


 そして,誠央学園とは別のことで問題があったらしく,ある時期を境に星稜学園とのたもとを分かち合って交流が途絶えてしまったのだ。


「たっくん,それっていつ頃からだったの?」

「僕も詳しくは聞いてないけど,一時期は物凄く交流があったみたいだよ。だけど,何故か急に関係を断ってしまってね。それなのに,今回の編入を受け入れたはどうしてなのかなって色々と疑問に思うことが多いんだよね。」

「そうなんだ。でも,ここに来ている皆は仲良さそうで楽しそうだなぁ。」


 制服が違う学生同士が楽しく笑っている光景を見て結衣は微笑んだ。


「これも兄さん御蔭かな。」

「そうだね。……お兄ちゃんは,あの時の約束を叶えてくれてたんだね。」

「結衣,どうしたの?それにお兄ちゃんって,あなたにお兄さんっていたかしら?」

「何でもないよ。それよりもみはるん!早くゲームセンターの方に行こう!葵も美月ちゃんも早く早く!」

「ちょっと!あまり引っ張らないの!」


 二人のそんな光景を見て葵と美月は笑い,二人の後に続いた。そして,男子達はその4人の光景を見て微笑んだ。


「若い女子の友情はいいものだな。」

「翔琉,その言い方は何か,親父臭いよ?」

「僕もそう思うよ。まあ,男同士の友情よりはいいんじゃないかな?あっちは熱いというよりもむさ苦しいからね。」


 既に砕けた口調になっていた遙人も翔琉のことを名前呼びになっており,遙人と拓海は先に4人の後を追い掛けて行った。


「……悠人,どうした?また,女子達の目線でもあったのか?」

「いや,それはないんだが……。」


 先ほど拓海が言ったことが気になったのか悠人は周りを見渡した。そこにはやはり,楽しそうに笑っている学生達がたくさんいた。


「……なんでもない。俺達も行こうか。」

「おう。」


 俺の言いたいことを察したのか,翔琉は周りと俺達は別だというと相変わらずの洞察力に俺は微かに微笑んだ。そう,俺達と周りは別なんだ……。


 2人が合流すると葵と結衣はバケツに入った山盛りのコインを持ってコインゲーム場で遊び,美陽と美月,拓海はクレーンゲームで必死になっている遙人を見ていた。


「美陽,あいつは何を取ろうとしているんだ?」

「……あれよ。」


 彼女の視線の先にあるケースの中を見るとそこには際どいメイド服を着た猫耳美少女のフィギア……は隣のケースにあり,彼が今動かしているケースには眼帯をして見下した顔した変わった猫のぬいぐるみが入っていた。


「珍しく美月が欲しいって言ったのよ。それで神条君が頑張って取ろうとしているんだけど……。」

「美月ちゃん,あれまったく可愛くないけどいいのか?」

「えっ?可愛いと思うけど?」


 美月にそう言われて美陽と翔琉はマジか……という顔で美月を見た。たまに美月は変わった物を可愛いという傾向があり,今回も彼女のセンサーに何か反応したのか,あのぬいぐるみを可愛いと思ったのだろう。


 だが,そんな彼女の気持ちとは裏腹に遙人は又もや失敗してしまった。


「美月ちゃん,ごめんね。次こそ取るから。」

「遙人,それってもう4回目だよね?流石に諦めたら……。」

「……ちょっと変わってくれ。」

「えっ?」


 急に遙人に変わってくれといい,遙人は驚いたようだが,素直に変わってくれた。だが,それを思ったのは美陽達も同じであり,俺はそんなことは気にせずにアームを器用に動かして美月が欲しいと言っていた人形を1発で取ってみせた。


 しかも,もう1匹隣にいた可愛らしい方もオマケ付きで。


「常盤さん,どうぞ。あと,おまけの方は美陽が貰っておいてくれ。」

「あ,ありがとう,御神君。」

「ユウ,あなたそんな特技あったのね……。」


 戸惑いながらもぬいぐるみを抱きしめて嬉しそうにする美月と感心した顔の美陽はお礼を言い,翔琉と拓海に関しては俺の特技に驚いていた。ただ,俺の特技のことを知っていた遙人はその行動を見て微笑んだ。


「昔から悠人はこういうの得意だね。全く僕は上手くいかないのに。」

「その変わりに他のゲームは勝てないだろう。それに俺は妹にすら……っ。」

「…………。」


 一瞬だけだが,昔の雰囲気で話しそうになったが,二人は直ぐに口を紡いだ。


「……悪い。少し飲み物を買ってくる。」


 居心地が悪くなり,自分は飲み物を買いに行ってくるといい,その場を離れて行き,遙人も青葉さん達の方を見て来るよと言って,その場を後にした。


「……一瞬だけ,二人とも仲良さそうになったね。」

「そうね。あれが本来の二人なのかしら?そう思うと案外,二人とも直ぐに仲直りできるんじゃないかしら。」


 美陽と美月は二人の先ほどの光景からこれからどうしようかと話し合った。


 その後ろでは二人から状況を聞いていた翔琉と拓海はお互いに顔を見合わせて,二人にどうやって説明すればいいか同じように悩んだのだった。

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