第10話 遙人の過ち
「神条君,ちょっといいかしら?」
「はい?」
昼休み,学園にあるカフェで拓海と昼食を終えて教室に戻ってくると美陽に声を掛けられた。そして,直ぐ隣には恋人の美月も一緒に居て何事だろうと思い,二人に事情を尋ねようとすると,何故か拓海は僕から徐々に離れて行った。
「拓海,どうしたの?」
「いや,もしかして遙人が美月ちゃんを泣かすようなことしたのかなって?前だって別のクラスの女子生徒と一緒に……。」
「やめてよね!まるでその言い方だと僕が女たらしに聞こえるじゃない!それにあの子は料理部の子だって前も説明したでしょう!」
「でも,一緒に居たのは間違いないから女たらしには間違いないよね?」
遙人の叫び声を聞いていたのか,周りにいたクラスの男子達は拓海の言葉に頷いた。その態度を見ると美月は渇いた声で苦笑し,美陽に至っては相変わらずのクラスの高いテンション,団結力に片手で頭を抱えた。
「美月のことじゃないわ。今日の放課後って時間,空いているかしら?よければ一緒に遊び行こうと思って。」
「僕は構わないよ。ただ……。」
チラッと隣にいる美月を見た。そして,クラスの男子達は先ほどの拓海の言葉を気にしてか,じーーーっと僕を凝視していた。
「勿論,美月も一緒よ。私の友達も呼ぶつもりだから。」
「じゃあ,放課後だね。……あと,君達。羨ましいのは分かるけど,そんな目で僕を見ないでくれる?」
「遙人!常盤さんの友達ってことは青葉さんと四之宮さんだろう!何でお前ばかりいい思いをしているんだ!」
「「そうだ!そうだ!」」
叫んで抗議しているクラスメイトを他所に僕は二人を見て他に誰か来るのか尋ねてみると白星君も呼ぶつもりよ?と隣に居た拓海を見た。
「「よし!白星も後で尋問だ!」」
「何で僕まで尋問されることになっているの!?そういうことって遙人の専売特許でしょう!」
拓海の叫び声を聞くとクラスの女子達も笑い出して美月もクスクスと笑い出した。そして,美陽は呆れた顔で溜息を吐くとクラスの状況に慣れたのか,何も言わず,放課後呼びに行くからと言って席に戻って行った。
それを聞くと,二人も席に座り,次の科目のことで話し合った。
「次の授業って英語だっけ?」
「そうだね。あの先生,無茶苦茶テンション高いから疲れるんだけど,授業は分かり
やすくて面白いから僕は好きなんだよね。そういえば,御神君達いないね?」
ふと,教室にいない悠人の話を振られて僕はそうだねと一言だけ返した。その態度を見て拓海は少し真面目な顔をした。
「遙人,御神君と本当に何があったの?はっきり言うけど,いつもの遙人らしくないよ?君って誰かにあんな態度取るタイプじゃないでしょう?」
彼等が初日,クラスに編入して来た時に僕が悠人に突っ掛かったことを言われてしまい,黙り込んでしまった。そんな僕を見て,拓海は溜息を吐いたので,説明が必要かなと思い,急にスマホを出してそれを叩いてみせた。
それを見ると,拓海も意味を悟ったのかスマホを取り出した。
[拓海:専用モードに切り替えたから学園のサーバーにはログは残らないよ。]
[遙人:ごめんね,拓海。それにしても職権乱用していいの?]
[拓海:これ管理してるの僕の部活だし,僕そこの部活の部長だよ?特に問題はないかな。でも,これは皆には秘密でお願いね。]
実は彼等が使っているのは学園が管理しているコミュニケーションアプリであり,その管理を任されているのがシステム開発部であるのだ。
そして,拓海はそこの部活の部長であり,本来全ての記録は学園のサーバーに保管されるはずなのだが,彼だけは特別にサーバーと切り離して個人的に1対1でメッセージをやり取りをすることができるのだ。そのため,表立って話せない話をこちらを使って話したりすることもあった。
しかし,まだテスト段階のためか人数制限があり,現在は親友である僕と美月,そして従兄弟である聖人会長の3人だけしか使用していない機能でもあった。
[拓海:でも、こっちで話すってことはクラスの皆には知られたくない内容かな?美月ちゃんにも。]
[遙人:そう,思っておいて。まず,悠人のことなんだけど中学校の頃に大喧嘩してね。それで,その理由なんだけど……。]
僕がメッセージで打った内容を見ると,拓海は悲痛な顔をした。
[拓海:それだけで聞くと御神君が悪く聞こえるけど,何かあるんでしょう?君の方はクラスの皆に彼と仲良くしてあげてって言ってるから。]
[遙人:これ,絶対に誰にも言わないでね。悠人が【女性恐怖症】になってしまった理由……。]
[拓海:そんなに重い話なの?]
[遙人:かなり重いね。悠人が【女性恐怖症】になったのは中学1年生の頃なんだけど……。]
次々とメッセージの内容を打っていくのを見て拓海は頭を抱えると僕にそこで止めてと普通に喋って言った。一瞬,クラスの皆は何事かな?と思ったが,二人がスマホを出して何かしていることからシステム開発部の話かなと勘違いしたようだ。
[拓海:はっきり言うけど重すぎない?それって勿論,警察沙汰だったんだよね?]
[遙人:まあ,ね。]
[拓海:ごめん,遙人。聞かない方がよかったよね。これ,興味本位で聞いてはいけないことだったと思う。]
[遙人:気にしなくていいよ。何れは皆に話さないといけないとは思っていたから。だけど,まだ美月ちゃん達には絶対に黙っておいてね。僕だけが何か言われるなら別にいいんだけど,もしもってこともありえるから。それに,僕が悠人を見捨てたんだから僕が責められるのは当然の報いだよ。]
そのメッセージを見ると拓海は大きな溜息を吐き,僕を睨んだ。その目は親友を心配しているのか,それとも僕の行動を哀れんでいるのか,よく分からないような目をしていた。そして,スマホを鞄にしまうと今度はスマホを使わずに普通に話した。
「僕が思うに,その話って二人とも被害者だと思うよ。確かに,人によっては遙人が何もしなかったって聞こえるかもしれないけど,彼を助けなかった理由って何かあるんでしょう?君ってそういうこと良く隠すことするから。」
「拓海には隠しごとができそうにないな。でも,ごめん。それは誰にも話すことはできないんだ。例え,美月ちゃんであっても……。」
「別に教えたくないならいいよ。だけど,そんな理由なら彼に何であんなこと言ったの?正直,お互いに話せば分かり合えることじゃない?」
「それは僕達二人の場合であって,周りはそうとも限らないでしょう?それに,助けなかったのはこちらだけど母さんに酷いことを言ったのは事実だから悠人は負い目を感じているんじゃないかと思ってね。だったら,僕が徹底的に悪者になれば悠人も吹っ切れるでしょう?」
その言葉を聞くと,拓海は今日一番の大きな溜息を吐いた。そして,納得はしてくれなかったが,事情は汲み取ってくれたみたいだ。
「僕はもう何も言わないでおくよ。美月ちゃん達にも話さないでおく。だけど,僕は最後まで遙人の味方でいるからそのつもりではいてね。」
「ありがとう,拓海。」
「それにしても双子って大変だねぇ。美月ちゃん達の方も中学の時に色々とあった見たいだから。」
「そうなの?」
不思議そうに美陽の席で楽しそうに談笑している美月を見た。彼女も彼女で色々と問題を抱えているんだなと思うと自分が力になってあげられないことに歯痒さを覚えてしまった。だが,それ以上に遙人は美月の事である問題を1つ抱えていた。
「拓海,別の話になるけど,またいいかな?」
「……何?また,こっちを使うの?」
「できれば……。」
「別にいいけど,乱用すると汐里先生から小言を言われるから次で最後にしてね。」
そのことを確認すると鞄からもう一度スマホを取り出してアプリを起動させた。そして,先ほどと同じようにメッセージを書いていった。
[拓海:それで,今度は何?]
「遙人:実は美月ちゃんのことなんだけど……。]
[拓海:美月ちゃんの?何かあったの?]
[遙人:何かあったというか,前々から彼女と相談していたんだけどね。]
メッセージを打った僕の次の内容に拓海は目を見開いて普通に叫んでしまった。
「えぇぇ!?遙人,いつからその話を進めてたの!?」
「拓海,しーーー!!」
「あ……!?」
自分が叫んでいることに気付き慌てて口を塞いだが,やはりクラスメイト達は何事かと思い二人を凝視した。これはまずいなと思い,僕はにやけた顔で拓海を見た。
「拓海,驚くのはいいけど,君も何れは許嫁にするんだよ?恥ずかしがらないで今の内に慣れた方がいいんじゃない?」
「ちょっ!?遙人,何を言って……。」
チラッとクラスメイトを見ると美陽達もこちらを見て皆興味津々に二人を見ていた。そして,クラス委員長であった陽輔が鋭い目付きで尋ねて来た。
「遙人,今の話からすると美月ちゃんと何かしたのか?」
「……内緒。」
「お前またそれか!?一体,美月ちゃんと何イチャイチャしたんだ!!いい加減吐きやがれ!!」
「別に何もやましいことはしてないよ?そうだよね,美月ちゃん?」
美陽達と話していた美月に話を振るとこちらの状況を見て察したのか,特にないよと言ってくれた。しかし,クラスメイト達は諦めずに僕に質問攻めをした。
拓海は手を合わせて謝ったが,僕は気にしなくていいよと手でジェスチャーをするとそのまま陽輔達に囲まれてしまった。
「拓海君,遙人君から聞いたのかな?」
こちらの様子を見に来た美月が僕と一緒に居た拓海に事情を聞くと彼は申し訳なさそうに頷いた。そして,二人は質問攻めにされている僕を見て考えた。
「「(こんな状況でどうやって皆に説明したらいいんだろう……。)」」
本当のことを話せば色々と追及されることは覚悟しないといけないと思いつつ,皆にどうやって自分達のことを納得してもらうか二人は悩んでしまった。
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