第7話 近付く2つの学園

「皆さん,おはようございます。」

「皆,おはよう~。」


 翌日,普段は生徒会の用事で朝が早い私はオリエンテーションが無事終わったことで久しぶりに仕事から解放されていた。それを見た美月は本日は姉妹で一緒に登校しようと誘ってきたのだ。


「あ,常盤さん。おはよう~。美月ちゃんも~。」

「二人とも本当に仲いいよね。私も妹がいるんだけど,これがまた生意気で……。」


 女子達は昨日のことで少し仲を縮めることができたのか,両学園の生徒達は自分達にも声を掛けて来た。そして,仲を縮めたのは男子達も同じであり……。


「やっぱり,常盤さんって美人だよなぁ。妹の方が可愛い系で,姉の方はどちらかといえば,綺麗系かぁ……。」

「あまりそんな目で見るなよ。常盤さんは【男性恐怖症】だからな。しかし,それを考えるとやはり妹さんの方が……。」

「おい,馬鹿やめろ!トミーが言ってたの忘れたのか!?」

「いや,でも付き合ってるのが彼ならまだチャンスが……。」


 男子達も砕けて話し合いをしている声が聞こえてきたが,どうやら自分と美月のことを話しているみたいなのでその話を聞くと少し憂鬱な気分になった。何処へ行っても男の子は女の子の話が絶えないわねと思っていると隣にいた美月はクスクスと男子の方を見て笑っていた。


 そういえば,前々から気になることが少しあった。チラッと教室の男子達を見ると確かに先ほどのように自分達のことを値踏みしている男子達は居たがそれはほんの一瞬でもあり,誠央学園の女子達は呆れた顔をしていたが,星稜学園の女子達はあまりそういった目線を気にしていなかったのだ。


「ねぇ,美月。」

「どうしたの?」

「星稜学園の女子って警戒心が薄くないかしら?」

「それって,男の子達の目線の事かな?警戒心が薄いわけじゃないけど,皆,捕まりたくないだけだよ。」


 苦笑しながらクラスを見渡して言った。実は先日オリエンテーションで見回りをしていた星稜学園の風紀委員会がかなり風紀に厳しいところであり,学生達から報告が上がれば,直ぐに事情徴収という名のお説教部屋に連行されるらしいのだ。


 そして,その風紀委員会は活動中は風紀委員会専用の制服を着用しているが,普段は委員長である蒼一郎先輩以外は皆と同じ星稜学園の制服を着用しているため,委員会の知り合いでもない限り,誰が風紀委員なのか顔をよく見ないとわからないのだ。


「遙人君も私と付き合う前に連行されたことがあるんだけど,お昼休みだったから事情聴取中にご飯出して貰ってたみたいだよ。その時に,蒼一郎先輩と意気投合して風紀委員の人達と一緒にカツ丼の出前取ったとか……。」


 何,その刑事ドラマのような感じは?それよりも,神条君って昔やんちゃなことでもしたのかしら?彼の見た目からして,トラブルを起こすような人にはまったく見えないんだけど……。


 ――ガラガラ


 教室の前の扉が開き,そこから悠人と翔琉が入って来た。二人の姿,特に悠人の姿を見ると,誠央学園の女子達は一斉に目の色を変えた。


「悠人君,おはよう~。桐原君も~。」

「……おはよう。」

「ねね,悠人君。次の英語の小テストの範囲教えて欲しいんだけど,ダメかな?」

「……ごめん。俺も今回は自信ないから。」


 彼女達の言葉を巧みに交わし,彼は自分の席に着くと溜息を吐いた。そして,隣にいた翔琉はそんな悠人を見ると大丈夫かと彼の肩を叩いて心配していた。


「御神君,大変そうだね。お姉ちゃん,御神君が好きな人って多いのかな?」

「かなり多いわよ?だけど,好意を抱いているだけのあの子達はまだましよ。あの子達よりもグループを作ってる厄介なのがいるから美月も気を付けておきなさい。」


 私は美月に注意すると,自分の席に鞄を置いた。それを見越してか,親友の二人が近付いてきて声を掛けて来た。


「みはるん,美月ちゃん,おはよう!みはる~ん,着て早々なんだけど,英語の小テストの範囲を……イタッ!?」

「人に尋ねる前にまずは自分で勉強しなさい。本当にこの子は……。」


 頭を抑えて涙目になっている彼女に,手刀を振り下ろした葵は呆れた顔をしていた。その二人を見ると美月は鞄から1冊のノートを取り出した。


「結衣ちゃん,私ので良かったら見る?」

「!?美月ちゃん,ありがと~!」

「美月,結衣を甘やかさない方がいいわよ。この子のためにならないから。」

「みはるんもひどい!」


 反論する結衣を見て,3人は笑った。そんなやり取りを見てクラスも非常に和やかな雰囲気になり,皆はその光景を微笑ましく思った。


「朝から4人とも仲がいいね。」

「遙人君,おはよう~。」

「おはようございます,神条君。」


 鞄を持っているところを見ると彼は今登校してきたばかりであり,もう1つの手に大きな包みを持ったまま,4人に挨拶してきた。


「あれ?神条君,その袋は?」

「ん?ああ,これ?家で試作のデザートを作って来たんだけど,クラスの皆に味の感想を聞こうかなって。」


 彼は袋から1つ取り出して自分達の見せた。その中身は,綺麗にラッピングされたミニドーナツが入った袋であり,4種類の色とりどりのドーナツがどれも美味しそうに見えて彼女達の空腹を誘った。


「ドーナツだ!神条君,それ食べていいのかな!?」

「どうぞ。味の感想を聞かせてもらえるかな?」

「何々?遙人君,また何か作って来たの?」

「一応,クラスの人数分はあるはずだから欲しい人は1袋ずつ持って行って。」

「「まじで!?」」


 女子達だけでなく男子達も一斉に群がって来た。どうやら,彼が御菓子を持ってくるのは頻繁にあるらしく,その度に皆は彼からご馳走になっているみたいだ。


 そして,何よりその味がどれも絶品であるらしいのだ。


「何これ!?普通のドーナツと比べてあっさりしてるのにちゃんと甘みもある!」

「これくらいの甘さなら俺達でも行けるな。遙人,これ材料に何を使ってるんだ?」

「野菜の甘さだけで作ってるから砂糖は入れてないよ。女の子はカロリーも気にするから小さくする代わりに味を数種類にしたら満足感もあるかなって。」

「「……お前は一体,何処を目指している!?」」


 男子達は遙人の対応を見て相変わらずだと思い,女子達は初めてそれを食べた誠央学園の子達も含めてとても絶賛していた。


「美月ちゃんも食べてみる?はい,あ~ん。」


 遙人が袋からドーナツを1つ出して手で取ると,美月の前に持って行った。その行為を美月はあまり気にすることなく,ドーナツを食べると少し考える素振りをした。


「遙人君,これお豆腐も混ぜている?」

「やっぱりわかる?他にもね……どうしたの,皆?」


 クラス中の大半が二人を見て何か言いたそうにしており,特に男子達の何名かは食べ掛けのドーナツを持ったまま,涙を流していた。


「遙人!!そういうことは,俺達のいないところでやれ!!このリア充が!!」

「そうだそうだ!彼女いない俺等への当て付けか!一人だけ何イチャイチャしているんだ!羨ましくて涙が出そうだぜ……。もう泣いてるけどよ……。」

「別にイチャイチャしてないし,当て付けもしてないよ?何なら美月ちゃん見たいに皆にも食べさせてあげよっか?」

「「ごめんなさい!自分達はそっちの趣味はないんで本気でやめてください!」」


 星稜学園の男子達が一斉にそう言うと,女子達は笑い出した。


 どうやら,今の状況が誠央学園の生徒達が編入する前のこのクラスの日常であり,賑やかな教室を見て私は微かに笑った。だが,妹にはちゃんと注意をした。


「美月。仲が良いのは分かったから,少しは人目を気にしなさいよね。」

「えっ?」

「美月ちゃん,もしかして気付いていない?」


 美月は未だに不思議そうに首を傾げていた。この子,絶対に分かってない……。


「あと,貰ってない人は……あ。」


 遙人は袋から2つを取り出し,窓際に居た悠人達の所まで持って行った。


「桐原君もまだもらってないでしょう。どうぞ。……あと,悠人も。」

「おう,悪いな。しっかし,神条って本当に何でもできるよな?」

「器用貧乏なだけだよ。……悠人はいらないの?」


 翔琉は普通にドーナツを受け取ったが,悠人は未だにそれを受け取らず,その態度を見た遙人は冷めた態度で彼に言った。そして,和やかなであった空気は一気に静まり返り,クラスの皆は2人の行動に注目していた。


「……受け取っておく。」

「そ。」


 悠人はそれを受け取ったが,特に何も言わず,遙人も気にしていない様子で悠人の席から離れて行った。その光景を見て一部の学生達は重い空気に解放されたのか,安堵してまた談笑を始め出した。


「あの二人,本当に何とかならないかしら。」

「難しいんじゃない?理由がわからないんだから。むしろ,私が気になるはあの2人よりもあっちね。」


 葵がチラッと見た方には,昨日美月に声を掛けていた誠央学園の男子達が二人を交互に見ていた。唯一の救いは,このクラスには悠人を執着に狙う女子達がいないことであり,そんな彼等を見ると,私は溜息を吐いた。


「はぁ~……。二人から理由を聞き出せたらいいんだけど……。」

「ねぇ,みはるん。双子同士のことならあの二人から参考に話を聞くのはどうかな?二人とも知り合い何でしょう?」

「あの二人って……あ!?」

「そういえば,このクラスにまだ双子がいたわね。」


 結衣にそう言われて,私達はお昼休みの時間にでも彼等の話を聞こうと思い,顔を見合わせると,教室で話していた二人の男子生徒を見つめた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る