第5話 悠人と遙人
「美月ちゃん,あいつ等みたいなのによく声を掛けられたりしているの?」
「今回みたいなのは初めてかな?いつもは遙人君かお姉ちゃんが隣にいるから。」
隣で歩いている長身の男性を見上げながら私はそう言った。
また,本人は非常に気さくで人懐っこく美陽曰く結衣がマルチーズみたいな小型犬なら翔琉はゴールデンレトリバーみたいな大型犬な感じと言っているらしい。
「ところで,悠人。何でそんなに距離を空けているんだ?」
「……問題あるか?」
二人より若干後ろで歩いていた悠人は不貞腐れた態度で翔琉を見て言うと私は少し困ったような顔をした。
「翔琉君,やっぱり一緒にいない方が……。御神君,困っているし。」
「と,美月ちゃんに言われておりますが,悠人の解答は?」
「はぁ~。常盤さん,気にしないでくれ。これは俺の問題だから君は悪くない。」
「でも……。」
心配そうに彼を見た。何せ,彼は【女性恐怖症】なのだ。美陽よりも大丈夫だとはいえ,一緒に女の子である自分と歩いていると何か思うことがあるのだろう。聞いた話によると,一緒に行動をしている葵や結衣でさえ,未だに距離が縮まらない状態でもあり,彼女達とも一定の距離を保っているらしいのだ。
ただし,約1名だけ例外も存在する。それが,私の姉である常盤美陽だ。
「美陽は大丈夫なんだろう?なら,美月ちゃんも問題ないんじゃないか?性格は全く似てないけど,双子なんだし。」
「あいつは例外だ。それに,あいつ自身も【男性恐怖症】だから俺に何かするはずもないだろう?」
「まあ,確かにそうなんだけどさ。」
二人が話していることを聞いて美月は不思議で仕方がなかった。何せ,目の前にいる【女性恐怖症】である彼と【男性恐怖症】である自分の双子の姉はお互いに気軽に話し合える唯一の仲であったりするのだ。
目の前にいる幼馴染の翔琉ですら若干距離がある姉が気兼ねなく話せる相手,それが彼であるのだ。ただし,その仲は友人や恋仲という関係ではないらしい。
「まあ,お前達はいつも口喧嘩しているからな。こういうのって日本のことわざだと喧嘩するほど仲がいい,だっけ?」
「仲が良いわけでもないし,あいつとそういう関係になるつもりはまったくない。」
「本当にか?」
「うるさい。黙れ。」
ぶっきらぼうに言う彼とそんな彼と仲が良い二人のやり取りを見て私がクスクスと笑うと悠人は若干困った顔をしてしまった。
「そんなにおかしかったかな?」
「ご,ごめんなさい。でも,そっちの方が親しみやすいかなって思って。」
「本当に常盤さんは美陽と似ていないな。まあ,双子で似ていないのはこっちも同じなんだが……。」
「あ……。」
俯いて暗い顔をした彼を見て私は今の彼氏のことを思い出した。こうして普通に話しているが,自分の彼氏と目の前の彼は双子の兄弟である以前に非常にギクシャクした関係になっており,学園内でも少し有名な話になっていた。
「悠人,お前の弟と本当に何があったんだ?言いたくないが,お前達の今の関係って結構,今回の編入に影響を与えているぞ?」
「それは……悪いと思っている。」
「御神君……。」
申し訳なさそうにする彼を見て私は言葉を失った。先程,翔琉が言ったように今回の誠央学園の編入に彼等兄弟,そして私達姉妹は大きな影響を与えていた。4人とも学園ではとても有名人であり,美陽と美月の仲の良い雰囲気に充てられて最初は今回の編入は何事もなく受け入れられるものだと思われていた。
だが,自分達と正反対に二人が久しぶりに顔を合わせてしまった時,意外にも普段温厚な遙人が悠人に喧嘩腰に突っ掛かって来たのだ。その時は,美月が遙人を静止して事なきを得たが,その状況を見ていたクラスメイト達は驚いた顔をしていたのだ。
「一応、お前達の関係……双子の兄弟であることはクラスメイト達に黙っているが,言わなくていいのか?お前を狙っている誠央学園の女子,弟にちょっかいを掛けているんだろう?その辺どうなの,美月ちゃん?」
「最初はクラスの子達にも色々と言われていたけど,皆が遙人君のことを色々話してくれたら言われなくはなったかな。ただ,一部の子達からはその,酷いことを言われているって友達から聞いていて……。」
「っ……。遙人はそのこと,何か言ってたかな?」
「特には何も言ってなかったよ?言われているのも一部だから気にしてないって。」
その言葉を聞くと一瞬,安堵したが,再び暗い顔をしてしまった。どうやら,彼自身は遙人のことを恨んでいるというわけではないのかなと思った。
「早く仲直りしろよ?言いたくないが,お前を狙っている女子達は問題児だらけだからな。放っておくと何するか分からないぞ?」
「わかっている。できるだけ早く善処はするつもりだ。」
そう言うと,彼は二人よりも先に歩いて行った。その小さな後ろ姿を見て,私と彼はどうしたものかと顔を見合わせた。
********************
「美月,こっちよ~。って,ユウ達と一緒だったのね。」
サッカー部の試合を見学していた美陽は私と一緒に居た悠人を見て珍しい組み合わせなのか,不思議そうにしていた。
「生徒会の仕事はいいのか?」
「一応,これも仕事のうちよ。何処の部活にも入ろうとしないユウには言われたくないわね。バスケ部はもういいのかしら?」
「こっちでは帰宅部で十分だ。お前みたいに直ぐにこっちの学園に馴染めるわけじゃないんだからな。」
「私もそうでもないわよ?まだ,馴染めていないことも多いから色々と知っていかないと。それよりも,この謎な同好会は何?さっきから困惑しているんだけど。」
「どれのことだ?」
美陽が持っているパンフレットに覗き込んでいる二人の光景を見て私は不思議そうな顔で二人を見つめた。それを見た翔琉はそうなるよなと同じように二人を見た。
「美月ちゃん,やっぱり気になる?」
「うん。お姉ちゃんが男の子にあれだけ近付かれても平然としていることもそうなんだけど……。」
「まあ,御神もそうよね。私達でもあまり近付かないで欲しいと言っているのに何で美陽だけ大丈夫なのかしら?やっぱり,あの二人ってできて……。」
「「できてないわ(よ)!!」」
二人揃って同じことを言ったのであまりにも可笑しかったのか,声を抑えて笑いそうになった。最初にあった時もそうだが,お互いに似た体質であるのにこの二人は本当に仲がいいなと思ってしまった。
「何回も言うが,俺と美陽はそんな関係じゃない。それで,謎な同好会って何だ?」
「これよ。サバイバル同好会って何?」
「サバイバル同好会?確か,白星家が所有している無人島があるんだけど,何も持たずに数週間,そこで生き残れるかっていうサバイバル目的に作られた同好会だったかな。長期休みの時に色々とあちこち行ってるって拓海君も言ってたから。」
「「何,その変わった同好会?」」
えっ?普通だけど?と思ったのは,どうやら私だけであった。特に姉に関しては,この学園に来て色々と感覚がおかしくなっているのでは?と思われたらしい。
「美月ちゃ~ん。」
「あれ?拓海君?」
「あ、たっくんだ!やっほー,たっくん!」
「結衣ちゃん達もいたんだ。あれ,遙人は?」
美陽達よりもやや小柄の身長をした彼はキョロキョロと遙人を探していた。
「拓海君,遙人君って休憩入ったの?」
「さっき入ったって連絡が来たから,僕も休憩入れようかなと。まあ,僕達の部活はかなり尖った人じゃないと来ないけどね。」
「そういえば,白星君ってシステム開発部だったわよね?何でまたそんな変わった部活に……。」
「僕の趣味だから。」
美陽が不思議そうに言うと彼はあっさりとそう答えた。美陽が先程言ったシステム開発部。企業の部署のような名称であるが,星稜学園の正式な部活であり、既に数十年の歴史の長い部活でもあるのだ。
しかし,活動している内容が尖っており,プログラムの開発からハード方面の開発,学園のセキュリティ関連にも関わっているなど,これって部活なの?と美陽達から不思議に思われている部活なのだ。そして,彼は1年生にしてその部活の部長を務めるシステム開発部の長であり、学園のシステム関係に多く関わっていたりもした。
「たっくんって本当に凄いよね。同年代と思えないよ。」
「結衣ちゃんは勉強ができないだけであって他のことは並大抵以上に出来るから人のこと言えないよ?」
「そうよね。この子って強勉以外のことなら何でもできるってどうしてなのかしら。勉強以外は。」
「ぶー!二人共,その言い方ひどくないかな!?」
二人にバカにされたと思ったのか,結衣は頬をリスのように膨らませて怒った。その3人の光景を見て私達はこの3人って何でいつもこんなに仲が良いんだろう?と不思議に思っていた。
特に,拓海は美陽達よりも接点がないはずなのに結衣に至っては四之宮ではなく結衣ちゃんと名前で親しく呼んでいたりもするので気になっていた。
「それにしても,休憩入ったなら何処に行ったんだろう?」
「僕を呼んだかな?」
「わっ!?」
背後から急に耳元で声が聞えて来たのでビクッとして後ろを振り向いた。そこには悪戯が成功したのか,笑顔を浮かべた遙人がいた。
「遙人君!?いつからいたの!?」
「拓海が来てからずっといたよ。ごめんね,美月ちゃん。びっくりしたかな?」
「むぅ,驚かすのはやめてっていつも言ってるのに!」
「遙人,本当に探偵同好会に入ったら?あの人,絶対スカウトするよ?」
私達が楽しそうに談笑している横で美陽はチラッと悠人を見た。すると,悠人は美陽の目線に気付いたのか,首を横に振った。
「はぁ~……。神条君,お疲れ様。部活の方はもういいのかしら?」
「流石に休んでないから,部長に休んできなさいって放り出されてね。僕はまだまだ大丈夫だって言ったんだけど……あ,悠人も一緒に居たんだね。」
「……ああ。」
悠人の姿を確認すると遙人は一瞬冷めたような態度で彼を見たが,直ぐにいつもの顔で隣にいた拓海と談笑を続けた。そして,悠人は居心地悪そうに目線を逸らして溜息を吐くとサッカー部の試合に視線を移した。
そんな二人の姿を見て私と姉は困ったように顔を見合わせたのだった。
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