ステップ9 わたしに夢中になりなさい
(次の日。放課後の廊下のざわめき)
(部室のドアが開き、ゆっくりと閉まる音)
「来たわね。逃げずに」
「えらいじゃない」
「今日の目的は覚えている?」
「そうね。催眠術をかけるといったわね。昨日みたいなのとは違う、本気の催眠術を」
(至近距離で)
「何をかけられるのか、気になって仕方ない顔をしているわね」
「あら、また顔をそらしたわね」
「……その態度、気にいらないわ」
「このわたしが見つめてあげているのに、顔をそらすだなんて。もったいないと思わないの?」
「むしろ、見つめかえしてほしいんだけどっ」
「ふふっ、あなたもわたしのことがすきなのは、よーくわかったわ」
「でも、昨日もいったとおり、恋愛感情なんてものは錯覚にすぎないの」
「そんなもの、このわたしが信用すると思う?」
「そうよ。答えは、ノー」
(ささやき声で)
「……わたしのこと、よくわかっているじゃない」
「だから、あなたには催眠術をかけさせてもらうわ」
「わたしのことを……永遠にすきでいてもらうための催眠術……をね!」
「……そんなものなくたって、ずっとすきでいるよって?」
「わたしは契約書ですら、あいまいなものだと思っているわ。だってあんなの、ただの紙切れじゃない」
「わたしは、わたしの信じたものだけ、信用するの」
「さあ、わたしの催眠術にかかりなさい。わたしのことを、すきになるのよ」
(耳元でささやく)
「ほら……わたしの声に耳を傾けて……」
「からだのちからを抜いて……気持ちいい気分でしょう」
「……どう? かかった?」
「わたしのこと、すきで、すきで、たまらなくなった?」
「おおっ、わたしの顔、ちゃんと見つめかえせるようになったじゃな……」
(リップ音)
「……んっ? ちょ、な、なにするのよっ」
「あっ! そうか……すきで、すきで、たまんなくなったから、チューしたくなっちゃたのねっ?」
「……ここここ、困る! そんな、わたし、チューなんて……まだ……は、はずかしいしっ! ……ままま、待っ」
(リップ音)
「……んっ! やめ……か、顔真っ赤とか、いわないで!」
(リップ音)
「はあっ……催眠術……かかりすぎ!」
「さすが、このわたしが、かけただけのことはあるわね」
「わたしのことがすきすぎて、避けるために部室に来なくなったようなあなたが、まさか、ここまで積極的になるなんて」
「わたしの催眠術……すごすぎ」
「そうね。もう、恋愛感情が錯覚だなんていえない」
「これは、あなたの心の底からの本心を引き出させる催眠術」
「こんなにすきなら、永遠にすきでいてくれるでしょう?」
「……いてくれないと、困るもの」
「いいわ。わたしは将来、偉大な超能力者になる予定の人間だもの」
「毎日だって、かけ直してあげる」
「このわたしの、催眠術をね」
「だから毎日、ここに来てよね……?」
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