ステップ5 な、鳴らなくても従いなさいっ

「ふふ。それじゃあ、いくわよ」


「あなたはこれから、わたしがパチンと指を鳴らしたら、洗いざらいすべてを白状する」


「……いいわね。鳴らすわよ……ハイッ」


(かすれたフィンガースナップ音)

「あれ」


(かすれたフィンガースナップ音)

「あれ?」


(かすれたフィンガースナップ音)

「な、鳴らないっ」


「このわたしが、指ぱっちんていど、できないっていうのっ?」


「たたた、たしかに、やったのは今日がはじめてよ」


「指ぱっちんの練習っ? ふんっ。そんなものしなくたって、このわたしなら、できるはずよ!」


「あんなに動画を見たのに! 指ぱっちんしている催眠術師の動画をっ」


(かすれたフィンガースナップ音)

「うう……おかしい~っ。華麗な指ぱっちんのイメージはかんぺきにできているのにっ!」


「気持ちだけじゃ、指ぱっちんはできないって……それっぽいこといってくれるじゃない! じゃあ、あなたはできるっていうのっ?」


(きれいなフィンガースナップ音)

「……す、すごいじゃない」


「ま、負けない! 後輩なんかに負けてられないっ。わたしはサイキックス部部長よ! 指ぱっちんくらい、かんぺきにこなしてみせる!」


(かすれたフィンガースナップ音が数回、くり返される)

「うわ~んっ、できないよ~! これじゃあ、催眠術が使えない~!」


「どうしたらいいの……? ここまできたのに、あきらめるしかないの……?」


「指ぱっちん以外の方法……?」


「そりゃ、あるにはあるけど……。指ぱっちんがかっこいいのにい……」


「わかったわよ。えっと、それじゃあ」


「指ぱっちんの代わりに、あなたの肩に触れるわ。それが合図よ」


「……あら、どうしたの?」


(主人公の耳元で)

「……顔が真っ赤よ」


「これから催眠術をかけてもらうっていうのに、顔をそらしたりしちゃだめじゃない」


「……照れてるの?」


「ふうん、わるくない気分ね」


「サイキックス部の部長に、自分の肩に触れてもらえることが、あまりにも光栄なのねっ?」


「偉大なる、このわたしのために部員を用意しようとしたんですものね」


「わたしへのリスペクトが止まらないみたいねっ」


「ふふふ、た〜っぷりと肩を叩いてあげましょうね~? 濃密な思い出となって、脳裏に焼きつくほどに」


「同好会脱却への道のりはそう遠くはないってことよね」


「……あなたさえいれば」


「なのに、どうして部活に来なかったの?」


「あなたほどの部員がなぜ?」


「……まだ、シラフではいえないのね。ざんねんだわ」


「わたしが、催眠術を使えてよかったわね」


(主人公の肩を叩く音)

「…… 今から、素直ないい子にしてあげる」

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