ステップ3 イメージしなさい

「それじゃあ、いい? はじめるわよ」


「さあ……目を閉じて。頭のさきから、つまさきまで、すっかりちからをぬいて……」


「これから、あなたは、わたしのいったとおりの動きをするの。いいわね」


「右手を出して、イメージして」


「あなたの右手には今、重たい重たーいものが乗っているの」


「右手に、ズシッ……と乗っかっているもの。かなりの重量級ね。あなたの腕で、支えられる?」


「ほら、あなたの右手に乗っているものが見えてきたでしょう」


「……そう。シバイヌよ」


「かわいいわね。シッポをブンブン振ってる」


「あら。ズシッと重いから、だんだん右手がさがっていっちゃってるじゃない。がんばって」


「さあ、次は左手に乗っているものをイメージして」


「今度は、とーっても軽いわね。軽くて軽くて、左手に比べて、腕がとってもラクチンよね」


「軽くて軽くて、腕が飛んでいっちゃいそうね」


「ほら、あなたの左手に乗っているものが見えてきたわ」


「そう。リュウキュウジュウサンホシチビオオキノコムシね」


「大きなハネを広げて、琉球に帰って行っちゃいそう……」


「あら……大変」


「右手のシバイヌが勝手に走り回ってるのね。右手がぐるぐると大忙しじゃない」


「追いつける? シバイヌの無邪気さに」


「左手は、リュウキュウジュウサンホシチビオオキノコムシの軽さにふわっふわね」


「ふわっふわというか、どっちかっていうと、びくんびくんしてない?」


「え?」


「虫が苦手なの?」


「だから手が、びくんびくんしているの?」


「……それは悪いことしちゃったわね」


「いくら、催眠術で本物ではないとはいえ、こわかったわよね」


「すぐ、助けてあげる」


「はい、もう大丈夫。ゆっくり、目を開けて」


「……平気?」


「……虫、こわかった?」


「……ごめんなさい」


「前、部室に蛾が入ってきたときも、わたしより大騒ぎしていたものね」


「あの時は、わたしが蛾を窓の外に追いはらったんだったっけ」


「……忘れてたわけじゃないってば」


「まさか、ここまであなたが虫をこわいと思ってたなんて」


「……落ちこんでるの?」


「かっこわるいだなんて、思ってないわ」


「虫ぎらいの人なんて、たくさんいるわよ。こんなことで、あなたのことを情けないだなんて思ったりしないって」


「わたしのほうこそ、わるかったわ。もう、あなたに催眠術をかけるとき、虫を使ったりしないから」


「……今日以降も、あなたに催眠術をかけるつもりなのかって?」


「そうねえ。おしおきをしなくちゃいけないときには、使ったりすることもあるかもしれないわね」


「……催眠術にかかった感覚は、もうからだで覚えたわね?」


「どう? 気持ちがいいでしょう?」


「……さあ、ここからが本番よ」

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