32.帰省

 領主館での緑連豆の試食会を終えて、チビの街デビューの帰りも大賑わい。

 領主様まで舟に乗り込み、中央通りや中央時計台などの主要な商業区画を巡り、私もかろうじて笑顔のまま手を振リ続けて無事に帰り着いた。

 舟から降りて山小屋まで送ってくれるクルマに乗り込んだ記憶はあるけれど、その後は翌朝までの記憶がない。


「『クルマに乗ったと思ったら寝た』って言ってたぞ。ベッドに運んだのはシードだ。着替えさせたのはサリーだ」


 心労と寝不足で気絶するように寝落ちたらしい。

 チビが「昨夜ほとんど寝てないから寝かせてあげてほしい」とリーダーに懇願してくれたといい、懇願がなくても寝ろ一択だったと、今日も朝から山小屋に来てくれた世話班先輩全員に言われた。


「昨日、酷い隈だったもの。ベリアばあさんも心配していたわよ?」

「はい、すみません。今日はよく寝たと思います」


 リーダーとサリー先輩に交互に窘められたが、何かしていないと落ち着かないという私の気持ちもわかるから昨日は止めなかったそうだ。


「今日から帰省日程が出るまでリリカは管理所の受付業務は入らなくていい。来週の頭までは預かる妖獣が少ないから、朝の餌と『浮かれ食い』監視は牧場の従業員で対応してもらえることになった。チビとオニキスはそれぞれ勝手に食ってくれ」

「りょーかーい」

「待ーっ、待て待て! アロンソ、『勝手に』の範囲を言ってくれ。コイツどこまでも食いに行っちまうぞ」

「……牧場で貰う場合はいつもの一頭。狩りも敷地の第二制限範囲までいいとしよう。ただし、素材になりそうな魔物は牧場に持ってきて解体してからにしてほしい。これで大丈夫か?」

「チビ、わかったか。谷より先に行ったら俺は捕縛するからな」

「わかってるぅー」


 オニキスの真面目さに助けられることしばしば。

 トウマには私の事情は共有されていないが、オニキスは知っている。チビから伝わってしまったからだ。チビからは「極秘で人に確認しては駄目なこと」として伝わり、オニキスからトウマに伝わることはない。こういうところは人より妖獣のほうが守ってくれる安心感がある。

 トウマには「リリカは緑連豆とチビ街デビューで振り回され、疲労困憊の自分で気づかず、リーダーに強制休養の刑を食らった」と言うらしい。相棒に嘘をつかせてごめん。


「トウマだってリリカに言ってないことあるじゃんさ。まわりから聞いて察してしまっているけど」

「そうだけど」


 言わないのと嘘をつくのは違うから、やっぱりごめんと思う。


「オニキスがトウマに言う同じ理由で、菜園と牧場には話を通す。落ち着けと言ったって落ち着かんだろうから、気分展開になりそうなことがあればやっていい。ただ、無理はするな。いいな?」


 私は実質、山小屋待機。リーダーが各方面に調整してくれたが、何かしていないと落ち着かないのも理解はしてくれて、シャワーを浴びてほぼ日参している牧場へ行くことにした。

 チビとオニキスが預かっている妖獣たちを連れて行ってくれて、牧場の従業員から、「離れで休んでいてください」と言ってもらえることの申し訳なさとありがたさ。

 離れの厨房に向かったら、扉前のベンチでセイがむしゃむしゃとトマトを食べていた。


「お、キタキタ」

「セイどうしたの?」

「牧場の向こうの水路の掃除に来とった」


 そう言いながらふよふよ浮いて近づいてきて、小さく頷いてきた。

 セイにもチビから伝わって心配してきてくれたんだ。


「わっしは真面目にしとくからの?」

「セイ……、ありがと……」

「なあに。そろそろ戻って池で休むぞい」


 ぴょいぴょいと跳ねるように宙を翔び、チャポンと水路に潜って戻っていった。

 厨房に入ると弱いが空調が効いていて日差しを直接浴びないだけでもホッとしてしまう。

 保冷庫にある冷えた水を一杯もらってぼんやりしていたが、マドリーナとゴードンが言い合いながら近づいてきて、母屋と繋がる扉から二人が入ってきた。


「リリカねえいた! みそスープつくって!」

「ゴードン! もー、リリカごめんなさい」

「だって! かあさんのしょっぱい!」 


 ここに着くまでの二人の言い合いは途中から聞こえていたからマドリーンに苦笑しか返せない。

 マドリーナが作る味噌スープが塩辛くて、私が作った味噌スープと違うとゴードンの不満がえんえんと続いた。

 ゴードンの知る味噌スープの最初の味が私好みで甘めにした味だったこともあり、たまにマドリーナが作っても「ちーがーうーッ」となるそうだ。

 私が購入している味噌を牧場でも購入したが、もともと塩辛い。湯に溶くだけでは確かに塩っぱい。

 塩辛さのある味噌スープもありだと思うが、子どもに理解しろとは言えない。

 そういえば随分作っていないし、牧場でも大豆のひしおを仕入れた話も聞いていた。


「ゴードン、また味噌スープとバーベキューしようか」

「するー! いつする? きょうする? きょうしよう! きょうはね、はくぶつかんのしごとやすみだよ!」

「今日かー、今日できるかなー?」

「するー! とおーさあーんっ! バーベキューしよー!」


 パッと母屋に走っていったゴードンがあれだけ大声で叫べば牧場の従業員にも聞こえてしまっただろう。

 マドリーナと顔を合わせて肩を竦める。

 やるならマドリーナに醤の甘だれ焼きも教えてほしいと言われて、場所は新しい休憩所の横に野外用仮設テントを設置してできないかと提案が出た。

 牧場の離れも整備したが、従業員も人数が結構いる。休憩所のほうが広いし、どうせ話を聞いた管理所の職員も参加しに来るだろうから、管理所の近くでやれないかと交渉に行くことにした。


「疲れで倒れたって聞いたけど大丈夫?」

「寝不足もあって。今日はよく寝たから大丈夫」

「チビの街デビューもびっくりしたんじゃない?」

「マドリーナ知ってたの?」

「知ってたわよ。チビ、ここで絵を描いていたのよ?」

「えええ!?」

「ヘンリーと並ぶ画伯さよ」

「それって何が描いてあるかサッパリわからない選手権では?」

「最終的にゴードン並みにはなったから」


 ヘンリーの絵は正直言って何が描いてあるのかまったくわからない線だらけの何か。または色の洪水。

 ゴードンはあの歳頃としてはなかなか上手で、必死に写実的に描こうとするだけでなく、ときには簡略して表現する描き方も身につけ始めている。

 チビは短期間で上達したことを知った。

 昨日街から聞こえてきたのはパンケーキにチビの似顔絵の焼印って聞こえたけど、いったいどんな絵なのか。あとで見せてもらおう。


 管理所の総務で新しい休憩所の横でバーベキューをしたいと許可を取っていたら、たまたま別の申請に来ていた調理班の職員がノッてきた。職員向けに緑連豆の最終お披露目会を一緒にさせてくれと言われ、調理長に通信連絡してしまう。

 別にバーベキューと一緒でなくても職員用の食堂で緑連豆の試作メニューを出してみればいいのでは? と思ったが、通信の向こうから「牧場が仕入れたひしおに経費補助するから醤の甘だれ焼きを食べさせてくれ」と言われたらマドリーナと笑うしかなく。

 総務も「こういうイベントをぜんぜんやってないから広く呼びかけてみましょう」とさらにノッてきて、外ではバーベキュー、休憩所内で緑連豆の新作料理とデザートの出店もある、ちょっとしたお祭りのような形で開催となった。


 これを知って大喜びだったのがニット先輩。育児休暇中に私が披露した醤の甘だれの話を聞いていて、食べてみたいと熱望していて、次はいつ? と、何度も聞かれていたのだ。奥さんも楽しみにしてくれて、積極的に準備を手伝ってくれた。

 ニット先輩は乳幼児を持つ他の職員にも声をかけたことで、休憩所の隅に臨時の託児コーナーも作られることになった。なかなか出かけられないから、こんなイベントが楽しいらしい。


「お祭りだったら、オレっち歌っちゃう!」

「ほどほどにね〜」


 管理所内だからチビは好きにさせておこうと、あまり考えなかった。おそらくそのほうが楽しくなるだろうと思ったのもある。


 ──その決断は正しかったが、昼過ぎからゆるっと始めたのが、延長に延長となり、夜はもはやバーベキューも緑連豆の試作メニューもない、ただの宴会に発展して大盛り上がりだった。


 夏前にあった花の蜜の遠征時の人手がない忙しさとは違う忙しさが続いている。

 式典に陛下が来た余波は大きく、この夏は例年以上に忙しい。しかも、陛下は秋に再来される。秋は領主館が主体だがもれなく管理所も巻き込まれて忙殺の部署も多々ある。

 疲れ切って出かけるのも億劫になったり、街に下りればごった返しの観光客に疲れてしまうので、引きこもっている職員が多い。

 職員寮にちょっとした娯楽施設もあるが、普段にはない娯楽に飢えていたのかもしれない。

 手が空いた者がバーベキューを担当したり、突貫で料理を作ったり、緑連豆の新作メニューに感嘆の声をあげたり、私がマドリーナに伝授するために開催となった味噌スープとひしおの甘だれ焼き作りは多くの職員に熱心に見られ、チビの歌に合わせて踊ったり、売店の惣菜や菓子などを持ってくる職員も出始めたあたりから宴会に変わりだし、音楽愛好家たちが楽器を持ち寄って演奏を始めたり。


 最終的に何だったかよくわからない宴が終わった翌日、なぜか収支報告書なんてものをまとめさせられた。

 しかも、謎の売上金がある。

 なんの売上だ?

 売ったものはないはずなんだが、どこで売上が発生したのか明確に思い出せないままの収支報告書になった。

 売上金といっても材料を賄える金額ではないので、真っ正直に書いた収支はマイナス。そこから売店で買った材料費などは福利厚生で落とすから経費として出していいと言われ、経費にできる支出分をまとめると、謎の売上金が残る。

 個々が立て替えて用意した分の費用は領収書があるものは総務の職員と照らし合わせて精算手続き。

 総務で手配してくれた材料などの費用は収支報告書にまとめないとならず、そちらは総務がまとめていた書類をもらえた。

 夜の宴で勝手に持ち込まれたものは私の管理対象外。

 調理班が勝手に振る舞い出したのも私の管理対象外。

 部分的に疑問符を飛ばしながら書き上げた収支報告書と手元にあった売店の領収書と謎の売上金を持って所長室に行ったら、所長や所長室にいた全員で笑うしかなく。

 とにかく大盛況だったのでよしとしよう。

 謎の売上金といってもそう多くはなく、盛り上げ役として貢献したチビの魚資金にしろと言ってもらえた。


 そんな宴から二日後、急転直下で帰省することが決まった。

 急いで荷造りをする。

 私の故郷はシャーヤランよりも気温が低いので長袖は絶対。朝夕はすでに秋の気配が濃いはずだ。

 私の帰省には二人の同行者がつくことになった。お世話になり続きの法律士のラワンさんと、警備隊の第三班長のコロンボンさんに気温などのことを伝える。

 伯父を保護する情報の整理に法律士さんと警備隊の人がいるのは非常にありがたいし、この二人はチビの魚の歌に楽曲を付けたいとする音楽愛好家のメンバーでもある。行き来の空き時間で曲を書き起こしてしまおうとしていて、所長たちによる人選の無駄のなさだった。


 私では想像もつかない根回しがあったことをひしひしと感じる。

 なぜならチビすら余裕で乗船できる戦艦で行くことになったのだ。

 そして、伐採班の支援の帰還時にチビが持ち帰ってきたあの巨木も運搬することになった。

 あの巨木は持って帰ってきたのはいいが、そのままでは通常の材木取引に出すには向かず、どうするかとなっていたと言う。たまに妙に大きな木のまま欲しがる先はあるので、木の情報を流して反応がなければまた考えるとなっていたそうだ。

 木の情報を流して数時間後に、「すぐにでもほしい!」という答えがあったのは驚きで、早速交渉が始まっていた。巨木の取引交渉はイチゴちゃんの伝言板が来る前からやり取りされていたものの、一番のネックがどう運搬するか。

 幹の太さは私の背の三倍はありそうなほど大きく、重機で持ち上げるのも困難な大きさと長さ。

 買いたい先は、できれば現状のままほしいという要望が強く、しかし先方でも輸送船の手配が難航。

 そんな折、チビとともに私の帰省で空軍の戦艦が動くことになった。

 私の帰省で水面下に動いていた所長室の職員の一人が巨木取引のことを知り、交渉していた職員グループに声をかけた。

 所長も話を聞いてパズルピースを組み合わせるように調整。


「結果として取引場所までの運送費用も交渉できたからよかったわ」


 何がどう噛み合ったらこうなるのか。

 空軍の訓練に便乗して私を帰省させてくれることになったのは、所長の高貴なる方々へのホットラインで調整してくれた気がしていて申し訳なかったが、事情を知らない人が聞けば、材木取引で戦艦が動くなんて異例も異例。

 そして、巨木の運搬等の業務をチビが担うことになり、チビは仕事として戦艦に乗り込む理由ができた。

 

 出発の日、巨木を異能で持ち上げて戦艦の指定の場所に格納するチビは真剣。

 木なので先端に行くほど細く、根本は極太でバランスが取りにくい。

 宙でぐらぐらと揺れる巨木。まわりにいる空軍の方々で都度微調整して、無事に木にも戦艦にも傷をつけずに格納完了。

 その後にチビが戦艦内で待機する場所に案内してもらったら、そこは本来は小型船や車両などを積み込むだだっ広い場所だった。


「はー! ひろーい! あ、声が響く! あーあーあー」

「チビ落ち着こう」

「オレっちがゴロゴロできるってなかなかの広さだよね」

「お願いだから騒がないでね?」

「わかってるぅ!」


 わかっているように見えないから不安なんだよ。


 シャーヤランから私の故郷まで通常の輸送船だと十八時間はかかる。

 今回は空軍の操縦訓練の兼ね合いで二度着陸休憩があり、それ以外に巨木の積み下ろしと、そこから合流するという陸軍元帥の隊を乗せるミッションもある。

 全三十時間の予定。一日以上かけての移動だ。


 ラワンさんとコロンボンさんは出発して高度が安定したら、チビのいる場所にいそいそと向かったと、焼菓子を届けてくれた空軍の方が苦笑して教えてくれた。

 乗り込むときに鍵盤とギターを背負ってウキウキしていたのでそうだろうなと思う。


「コストゥさんも、気分転換したい場合はお声がけください。立ち入れないところはありますが艦内をご案内しますので」

「ありがとうございます」


 戦艦内で私についてくれる空軍の人は中年の女性。ペニンダさんより少し歳下くらい。

 今回動いてくれている戦艦の空軍の方々にも事情は共有されていて、セイの相棒であるマエルさんが所属する隊の人が多いのも配慮してくれたのだろう。


 何もすることはないが、ごろごろと転がってボンヤリとしていても落ち着かず、情報端末を起動して終わりが見えない研修の教材を読むのも集中できず、学院でお世話になった教授の発光苔の論文を読んでみても頭の中に入ってこない。

 トウマや調理長などから文面で通信連絡が入ってきたが、帰省の裏事情を知らせていないので「行ってきまーす」としか返せない。

 トウマはバーベキュー会のときに、「疲労で休まされるって、マジで体は大丈夫なのか?」と声をかけてくれたけど、エヘヘと笑って誤魔化してきた。

 言えない辛さ。

 お付き合いはしていても今は不確かな仲。

 言いたい。言って慰めてほしいと思ってしまうほどにはトウマに心を許し始めている。

 でも、まだ中途半端な今の仲じゃ駄目だと、自分で線引きをした。


 情報端末をしまい、ぼんやりと部屋の天井を見る。

 戦艦内を案内してもらってもうわの空になりそうなので空軍の方に申し訳なくなるのが目に見える。チビの歌の曲の書き起こしの現場にいても私はボケッとしてしまうだろう。

 山小屋にいれば、スライムに怒られないよう掃除して、シーツを洗って、洗濯もして、布団を干して、適当に作り置きのおかずを作ったり、発光苔をボケッと愛でたり、草むしりをしたり、たまにオパールたちと雑談したりとやることがある。

 戦艦内ではそういう『日常』がない。

 使わせてもらえる部屋は客人用と説明されたがなかなか豪華。ベッドルームと居間と呼ぶのは違う気がするがソファーとテーブルのある空間、シャワールーム、小さな給湯スペースまである。居間と繋がる隣の部屋は今回は未使用で鍵がかかっている。そちらもベッドルームで、もしかしたら何らかの事情で貴族などを乗せることがある際に利用するんだろうなと想像した。そう思うくらい壁紙も品がよく、ガッチリ固定されている家具も重厚で上品。

 部屋の中を観察していたら艦内放送のチャイムが鳴った。


 ──十分後に手動操縦訓練に切り替える。各自揺れに注意を……──


 事前説明にあった艦内放送を受けて、テーブルに置いたままだった焼菓子は給湯スペースにあった蓋付き容器に中身を移し替えて、皿は洗って棚にしまう。念のためにと処方された乗り物酔い止め薬を飲み、カップも洗ってしまう。

 おそらくかなり揺れると言われていて、ベッドにいるのが安全だと言われたアドバイスに従い、ベッドに入って安全ベルトも装着。

 部屋の扉のチャイムが鳴ったが、安全ベルトをしてしまったので、ベッドの応答機から返事を返した。

 焼菓子を持ってきてくれた女性の軍人さんの声だった。


「ベッドに入ってベルトをつけました!」

「わかりました。万が一の大揺れなときは、扉の鍵がかかっていようが開けて様子を見ますのでご容赦を」

「はい、よろしくお願いします」

「遊園地の絶叫マシン系は大丈夫とのことですが、とにかく寝ていてください。最大三十分間です」

「わかりました」


 その後、五分前にも艦内放送があり、十秒前はビービービーという耳障りな警告音がして手動操縦訓練になった。

 確かに揺れに揺れたのでベッドの安全ベルトをしていなかったら、不意の上下揺れで天井にぶつかっていたかもしれない。

 怖くないと言えば嘘になるが、しっかりと安全を考えた訓練なのは理解している。

 不定期でガクンガクンと揺れるが、ベッドの中で妙な安心を覚えた私はいつの間にか寝てしまった。乗り物酔い止め薬に睡眠作用があったみたいだ。

 結構な大揺れがあったみたいで、私の様子を見に来た軍人だったが、「あの揺れの中でスヤスヤ寝ていて驚きました」と笑われた。

 帰省が決まるまでの二日間、実はまた睡眠不足気味だったので睡眠作用のある薬の効果を入眠剤に深く眠れたのかも知れない。

 毎夜、山小屋の外にいてくれたチビのところに行って寝袋で寝たりしていた。思いのほかふかふかの布団のありがたみに、体も寝たかったんだろう。


 一度目の休憩はちょうど昼どきで、チビのところに行ったら、ラワンさんとコロンボンさんがチビの後ろ脚にそれぞれ異能の紐で括られていた。なんで?


「手動訓練中にぶっ飛びまして」

「チビが助けてくれたので怪我もなく」

「何回もぶっ飛んでいくからさー、もう脚にくくったの。オレっちの脚の上なら安全!」


 私は寝ていて揺れを知らないが、だいぶ揺れた中でもぷかぷか浮いていたチビには関係なく、その後ろ脚にあぐらをかいて座るように括られていた二人も揺れと無縁になり、譜面起こしはなかなかいい具合に進んでいるという。

 軍人さんたちがちょっと呆れて苦笑していた気持ちがよくわかる。

 楽しそうでなによりだよ。

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