31.緑連豆デビューの道

 蛍光黄色に蛍光水色と蛍光ピンク色のデフォルメの花柄のド派手な浮かれたシャーヤラン特有のシャツを着ることになったチビと私。


「思ったより派手だな」

「所長が妙なオーダーしたと聞きましたが……」

「ん? そうだったか? ま、いいじゃないか」

「……所長……」


 そんな所長も浮かれた派手シャツを着ているが、蛍光色がないから落ち着いて見える。羨ましい。


 イチゴちゃんからの伝言板が来た日、所長は私とチビとの面談を終えて管理所に戻ってすぐ、妖獣世話班のメンバーには情報の共有をすると決定した。無論極秘で他言無用。

 その共有は勤務終業間近だったこともあり、翌朝にメンバー全員が山小屋に来てくれた。

 サリー先輩とルシア先輩にはぎゅうぎゅうと抱き締められ、シード先輩は朝食を持ってきてくれた。

 リーダーにはあれこれと気を配ってくれてもらい申し訳なさが募るばかり。


 故郷の伯父のことがあって落ち着かないものの、何もしないのも落ち着かない。

 やらなければならない何かがあるほうがいい。

 そんな私だったので、 昨日の今日で所長が早朝という時間だったが、領主館に緑連豆の件のスケジュール交渉したら、思いがけずその日の昼に領主館に呼び出されることになったという連絡に「行きます」と即答。チビの『街デビュー』も同時だ。

 緑連豆の登録の件で私のすることは申請書類にサインするだけ。早くできるならやってしまいたい。


 妖獣たちの朝の餌の時間の直前に言われ、慌ててベリア大先輩に連絡。散髪室の営業時間前だったが、領主様に会うことになった事情を知って、急いで対応してくれた。


「また自分で髪を切ったね?」

「少し切りました」


 結んでしまうとわからないようで、誰からも指摘されたことはないけれど、だいぶガタガタだったらしい。

 今日の今日に領主様に会うとは思わず、顔そりと化粧も久しぶり。


「式典で染めた色も消えたね。次はもっと赤くしようかね」

「染めなくていいです」

「チビの色に埋もれちまうだろう? 『どこに相棒の者がいるんだ?』と探すことになるから、わかる色を入れるんだよ。一日で落ちるのもあるからいくつか見繕っとくよ」


 今夏の式典は終わったばかりで一年先の話だが、ベリア大先輩のなかではもう来年の夏が始まっていた。髪の染料や美容液などの研究をしていたら、一年はあっという間だろうけれど。


 ベリア大先輩に整えてもらったら、いつもより若干短めになったが、横の髪も後ろで結べる長さ。

 化粧はファンデーションと眉の描き足しだけでよしっ……とはならず、こちらもベリア大先輩にメイクを施してもらうことになった。

 目の下の隈を見てもベリア大先輩は「寝れなかったんかい?」と軽く聞くだけで根掘り葉掘りは聞いてはこず、すぐに話題を変えてくれた。

 なんだか寝付けなくてと誤魔化せば、寝る前にストレッチするだけでも違うもんだよと言ってくれた。


「この前の試作品はどうだった? ヒリヒリしたり痒みはないかい?」

「とくになにも。あの保湿液は伸びがよくて気持ちいいです」

「よかったよ。リリカは細かくレポートしてくれるから助かる。赤みもでなかったし、あともう数人被験者の結果待ちで売店に出すよ」

「あれは買います。私の班のメンバーはとても助かります」


 妖獣は嗅覚がいい個体が多い。そういう妖獣にとって、化粧品などの香りはとてつもない悪臭としかならず、妖獣を預かる世話班の私たちは、洗濯も髪や体を洗う石鹸類も無香料が絶対で、保湿液系統も香りがないのがいい。

 外にいることも多いので肌のケアは大事で、市販のものもいいのはあるがベリア大先輩や肌ケア研究をしている研究職員の開発した無香料の保湿液が手放せない。


 普段は基本、化粧をしない。

 『しない』のではなく、『できない』が正しい。

 化粧ができないことが苦痛ではない人材じゃないと、妖獣の世話には向かない。

 無論、目の下の隈や顔色誤魔化しなどで無香料のファンデーションを塗ることもあったのだが、そういう使い方をすることがバレて、ファンデーションをしていると体調が悪いと判断されるようになり、相当なことがない限りしなくなった。

 チビやオニキス、フェフェは嗅覚を異能で適度に遮断していて、普段は人と同じくらいの嗅覚だけど、預かる妖獣がどの程度、嗅覚を抑制しているのかわからない。だから、化粧をしていないほうが無難。世話班はそういう感覚である。


「そういやこの前、香木を衣に焚きしめ過ぎて、クサくての街で入店を断られた御仁がいたってさ。鼻がイカれていたらしい」

「まわりの人は言わないんです?」

「言っても聞かなくて、他からの批難で病院に行かせたかったとさ」

「ああ、荒療治ですね」


 香水を頭から一瓶浴びるほど振りかけるような人がたまにいるけれど、正しく香水を着けられない人は心の病気か、鼻の病気ではないかと思う。実際、香水を着けすぎるのは、香りが感じないことの不安という自分に対する強迫観念のような気持ちがあって、どんどんエスカレートして嗅覚が強い香りに壊れてしまうこともあるらしい。なので嗅覚異常を調べ、心理診断に誘導するのは普通のアドバイス。

 シャーヤラン領の歴史や文化の研修で習ったことを思い出す。


「水洗いしても落ちないニオイなんて、香りじゃなくてクサイという汚れだろう? 洗ってるのにクッサイニオイの汚れがつくなんて、それは洗濯じゃなくて汚染。洗って消えないニオイをつけるなっつーの!」


 百年くらい前、キィちゃん(当時はキィくん)がキレた。

 他の地域でも同じようにキレた妖獣が続出。妖獣ネットワークで同時発生させたんだろう。

 その頃の人の時代の流行りだったのか、なんでもかんでも香水を振りかけ、洗濯洗剤や石鹸も香り付きばかりになり、香りという見えない暴力で、体調を崩す人が出た。

 香りにキレた妖獣の声を味方に、飲食店組合では食事の香りを殺す敵として「過度な香りを纏う人の来店を断る」という声明を発表。これが香水や洗濯洗剤だけでなく、体臭や口臭なども含まれ、なかなか物議となったらしい。

 でも、私が知る今は、香りに対して指摘していける時代。

 変革が起き、人の意識も変わったんだろう。


「あたしの子どもの頃はまだ香りに対する勘違いが残っていたけど、鼻を摘むほどクッサイ人工的な香りがなくなっただけでもせいせいしたね。水洗いしても香りが落ちない洗剤製品はアウトになったのもありがたいよ。それに今の石鹸系の流行は無香料だからいい時代さ。香水も香木も適度ならいいんだがねぇ」

「適度な香りの『適度』は個人差がありすぎて、店頭の香りセンサーで判断する店のほうが安心できちゃいます」

「確かにね。よし、できた。あの爺さんは細かいことは気にしないから、リラックスして相手すりゃいいよ」


 領主様を爺さん扱いできるベリア大先輩の強いハートを貸してほしい。

 ベリア大先輩の散髪室を出たら、アビーさんが待ち構えていて、山小屋に戻されてド派手シャツに着替えさせられた。

 チビの様子を通信で確認したら、トーマスの牧場で食後の水洗い中だったので、仕舞い込んでいたチビのシャツを持って移動。

 チビは領主に会うというので鱗を磨いてもらってきていた。うん、ピカピカ。

 新しい休憩所でチビもシャツを身に纏う。


「コレ着るとウキウキしていいよね!」


 同じ柄を着ているが同意しかねる。

 どうしてチビはド派手なシャツがこんなに似合うのか。私の目がおかしいのかもしれない。


 出発まではまだ時間はあったのでセイの様子を見に行ったら今日は休みで、池のそばの木に作ったハンモックでぐーすか寝ていた姿に異常は見られない。適度なおやつの量は守っているようだ。

 ホワキンさんも今日は休みで、ナタリオさんから早朝のセイの様子を聞いたら、「休みの日のセイは本当にぐーたらぐーたらしていて、オンオフがしっかりしてる」と笑っていた。


「昨日も今日も緑連豆をかき集めるのに奔走したぞー? あれの発端、リリカだろう?」

「それは、その、すみません」

「なんてな! 街の周囲の畑では緑連豆が生りすぎて焼却処分しているところが結構あるんだ。飼料にしても肥料にするにしても限度はあるからな。少しでも食う消費が増えるなら俺らも嬉しいんだ。やっぱさ、育ってているから処分はつらい」

「なら、頑張ってきますね、調理班が」

「ぶは! 自分じゃないのかよ!」

「私はなんですかね〜。なんとなくだったんですけどね〜」

「ま、そのド派手なシャツでド派手にやらかしてきてくれよ。セイになにかあれば、世話班のメンバーに連絡する」


 何をド派手にやらかしてくればいいかは考えないことにして、涼を取るため管理所内の廊下を伝って休憩所に向かっていたら、調理班がドタバタしていた。

 領主館に持ち込む試作品の材料や器具などの積み込みだった。

 昼の食堂のピークに領主館に出向くことになり、調理場の職員が減るので、たまに助っ人として調理場に立つ他部署の職員も多く来ていて大わらわ。

 私も何かに手伝えることがあればやるのだが、そのド派手なシャツを汚したらアビーさんあたりに怒られるゾと言われて、すごすごと休憩所に引き籠もった。


「さて、迎えのが屋上にきたから行くか」

「やっぱりじゃないんですね」

「シャツを見せつけないと意味ないだろう」

「ねーねー、コレ、見せつけるんでしょ? どれくらい低く飛んでいいの?」

「舟の高度より低くなければいいぞ」

「りょーかーい!」

「……」


 チビ、ノリノリ。


「あ、チビ、歌禁止。鼻歌も禁止だよ」

「ん? そんな堅苦しくないから別に歌ってもいいぞ? でも魚の歌は駄目だ。申請している途中だからな」

「魚の歌じゃなければいい?」


 チビは歌いながら行くこと決定なの?


「ちなみになんだ?」

「今の気分だと『おひさまイェーイ』」

「うん、いいんじゃないか?」


 所長が許可出しちゃったから、もうこれは歌って行くこと決定。

 でも、幼児向けの簡単な振り付けがあるポップな曲をチョイスするあたりがチビらしい。ここで切ないバラードをチョイスされても微妙だけど。


 チビには外から管理所の屋上に向かってもらい、所長とアビーさん、私も屋上に向かう。

 先に屋上で待っていた調理長も随分派手なシャツを着ていたが、屋上に姿を見せたチビのシャツ姿を見て大笑いして褒めていた。


 

 陛下がいらっしゃったときに見たものによく似ている。ゴンドラ風の水上都市で見るゴンドラに似ているあの舟に似たやつ。

 船首と船尾が反り返っていて、船首と船尾に領主家のエンブレムがはためいていた。

 これ、ド偉い客人と街を見回る用では?


「あんのジジイ、仰々しいのを寄越しやがって」

「所長が『ド派手に行くぞー』なんて連絡するからです」

「そうだったか?」

「所長室メンバー全員聞いてます。無論、録音してます」


 アビーさんの表情は笑っているのに目が笑っていない。言外にさっさと乗れと圧をかけられ渋々乗り込む。

 舟に乗れる人数は多くはないので、打ち合わせに同席する他のメンバーと緑連豆の試作品などはクルマで領主館に向かっている。私もクルマがよかった。


 管理所を飛び立った瞬間から、予想通りの騒ぎになった。

 博物館前の広場から驚きの声が上がり、チビがご機嫌に「ドーモドーモ」と手を振るもんだから、歓声はさらに大きくなって、時折絶叫まで聞こえるくらいの大盛りあがり。

 街の中心の上空に差し掛かるときには、博物館広場からの情報が一気に拡散されていたのか、もはや何かのイベント状態。

 お世話になっている商会の本店や倉庫がある区画が見えてきたら、屋上から壁に何かがゴソゴソ動いていて、よく見れば垂れ幕が取り替えられていた。


「あ、あの柄! おんなじ!」

「うわぁ……」


 お世話になっている商会の本店の外壁にチビと私が着ている派手シャツと同じ柄が大きく引き伸ばされた垂れ幕がザッと掛かる。『シャーヤランを纏おう』なんてキャッチコピーまで書かれていた。その道の先の店に一定間隔でのぼり旗も立ち、遠くに見える領主館まで続いている。

 垂れ幕とお揃いのシャツを着たチビが垂れ幕と並べば、もうお祭り騒ぎ。


「大竜チビの街デビュー記念! なんと特別の特別に! チビの鱗が素材のボタンを使った限定シャーヤランシャツ! 破格のお値段です! 売上の一部を中央時計台の修繕費用に寄付してほしいというチビの申し出! チビの鱗が提供されるなんて、今後があるかわからないので再販はありません! 売り切れ御免ですよー!」

「さあさあさあさあっ! こっちも大竜チビの街デビュー記念! 特別の特別に提供してもらったチビの鱗が素材のタイピンと髪飾り!」

「おいでませー! 大竜チビの街デビュー記念のパンケーキはいかがですかー! による似顔絵を焼印してまーす!」


 ……下から聞こえてくる喧騒にチビではなく、所長を見る。

 物凄いいい笑顔だった。


「式典デビューの話をしたあとだったか。自分で街デビューを盛り上げる企画を持ってきてな」

「ほとんどチビ発案です。私も止めませんでしたけれど。鱗の分配だけは神経を使いましたけれど楽しかったですね~」


 アビーさんもいい笑顔だった。

 調理長は大笑いだ。


「オレっちのー、デビューだしー、楽しいがいいなーって!」


 私に言うと、まず反対して、また反対して、なんとか妥協して、まあいいかと言うまで時間がかかりそうだったから、相談しなかったそうだ。よくわかってる。

 まあ、でも、チビが楽しくて、きっちり所長たちと相談してやったならいい。


「おっひさまはにっこにこー、いっつもみてるよ、きみのことー、おっひさまとわらいましょー、きょうもおはよう、イェイッイェイッイェイッ!」

「イェーイ、イェーイ、おっはようー!」

「イェーイ、イェーイ、げんきかなー!」


 所長と調理長の合いの手もあってチビのご機嫌な歌が空から街に降る。

 小さい子がはち切れんばかりの笑顔でむにむにと踊っているのも見えたし、商会長たちもチビと私とお揃いのド派手なシャツを着て本店前でノリノリで踊っていた。

 舟の下の街から楽しげな笑い声と歓声が上空にも聞こえてくる。


 管理所にいる妖獣の街デビューは、管理所から領主館まで行くだけのことで、フェフェはリーダーの方に乗ったまま浮遊バイクで移動、オニキスはトウマの乗るクルマの上を翔んで並走して移動しただけ。領主館では領主に挨拶をして終わり。

 以上が街デビューと聞いていたのに、私の知らぬところでチビが楽しく所長に相談し、お祭り騒ぎに領主館も絡んでいると聞けば、所長と領主様にしてやられた感じがする。


 そんなこんなで街のあちこちに笑いを提供しながら、ゆっくりと進み、中央通りの中央時計台を越えた先の領主館が大きく見えてきた。

 領主館の正面玄関前に出てきて手を振ってきた領主様のお召し物も、チビと私と揃いの派手柄。


「儂一人で浮かれた柄だと寂しかったが、チビと一緒だと嬉しいもんだ」

「じーさん、ごぶさたー」

「ち、チビッ!」

「ハッハッハッ、構わんよ。早速試食会としよう。試食が楽しみで昼を摂っとらんのだ」


 パッと見はどこにでもいそうな好々爺とした領主様だが、侯爵位を賜っている御方。王侯貴族マナー研修の結果が駄目だった直後に貴族との食事会は胃に痛い。


「チビは一度シャツを脱いだほうがいいかな? 魚の踊り食いができるよう用意したぞ?」

「ホントーッ?」

「『さかながたべたい』だったか。あの曲はいいな。孫と歌っとる」


 もう領主館でも歌われていた。学校は休みなのに子どもの拡散力、強い。


 領主館の裏というより横の木陰のある庭に、不釣り合いな大きな容器。

 朝イチでの打診で昼の打ち合わせという急な予定となったのに、漁業市場で見かける大きな容器いっぱいの魚があり、チビは狂喜乱舞。

 デビューの祝いで領主様のポケットマネー。財力のある御方は凄い。

 チビのシャツを脱がせたら、思いっきり顔を突っ込んで食べ始めた。よかったね。


 チビはしばらく放置しておくこととして、領主館の食堂で緑連豆の試食会。

 着いた食堂には領主夫人もおられ、そりゃあもういい笑顔で出迎えられた。


「今日は採点しませんから、管理所の食堂と同じで大丈夫よ」

「ハ、ハイ……」


 今、私が受講している王侯貴族マナー研修の講師はなんと領主夫人。つまり侯爵夫人。

 最初の頃はリーダーの奥さんが講師で子爵レベルの内容だったのが侯爵夫人に変わり、求めるレベルが高くて、とても厳しいのだ。

 調理長もアビーさんも目が泳いでいるのは、この二人も侯爵夫人のマナー研修の受講生で合格が貰えていない。合格する人いるんだろうか……。


 こんなわけで一部の者には別の緊張感があるまま試食会が開始されたが、最初にマナー違反をしたのは領主様。

 食事中に叫ぶ、唸る、立ち上がる。

 領主夫人も横に紙とペンを用意して、都度都度の質問攻めして隣のお付きの方とも感想を言い合い、食堂の半分の場所に設置された簡易調理台のところに行き、調理や盛り付けを観察したり。

 領主館の執務メンバーらしき方々も、あーだこーだと議論が飛ぶ白熱の試食会になった。


「一回爆発的に売れるのではなく、細く長くです。『シャーヤランの定番』とするのが理想。派手な宣伝は悪手になる可能性があります」

「しかし、最初だけは何かないと情報は拡散されん」

「緑連豆の歴史と原始の森の恵みを最初に出すなら、やはり管理所と博物館が適しているが、そこでも最初にどう打つかだ」

「スイーツ類は、一定期間後に中央通りに『出店』を出すのはどうだ?」

「どの店に打診するかで、後から苦情が──」


 喧々諤々。

 緑連豆の試作品はほぼ全部受け入れられた。

 そんな議論を前に所長と調理長と私の前には書類が次々差し出され、順にサインをしていく。

 地域産業貢献に関する書類たち。

 なんとなくやりきった感があるが、ここが出発点。


 野菜の出汁ベジブロスから仕込んで作る野菜スープは不動の人気だけど、その他にこれぞとなる名物料理がないシャーヤラン。芋料理の数の多さは言われるけれど、その中でもこれというものもない。

 緑連豆はこの地域の特産品であり、妙なクセもなく、老若男女が食べられ、栄養価もある。過去の歴史では飢饉を救った作物としても知られていて、これまでデザートとする料理はなかった。そこが話題になれば一度は食べみようとなるはず。


 緑連豆のディップソースは知る人は知っていても、パスタソースやポタージュはほぼなかったと言っていいらしい。仮に家庭料理で作っている者はいてもマイナーで、飲食店での取り扱いはディップソースですら数軒しかなかった。

 酷く画期的なわけではないが、ほぼなかったので目新しさはある。だからこれも一度は食べてみようとなるはず。


 そこからだ。

 地域特産品と押し上げられるかは領民の評価も大きい。

 多くの領民や観光客には秘匿だが、り過ぎ廃棄を減らしたい裏事情の改善まで繋げられるかは、中長期的で取り組むしかない。


 途中から大きな話にはついていけなくなってきて、それでも離席は許されず、私限定で領主夫人による『産業とは』という壮大な講義が始まってしまった。

 講義はチビが領主のお孫様と歌い踊り出すという、微笑ましいハプニングが起きるまで続いたのだった。

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