30.乱れる心
イチゴちゃんから所長に届いた伝言板は私の家族のことで、昨日、両親の住まいに空き巣が入って部屋の中をひっちゃかめっちゃかにされ、勤め先の湯治場の
伝言板では空き巣とあった犯人が私の父の兄、伯父というのも衝撃のことだった。
──湯治場の雰囲気が非常に重たくてかなわん。数日、リリカ・コストゥを帰してもらえぬか?
そう願い綴られていたイチゴちゃんの伝言板は、私が私を雇用していると認識する者宛に伝言板が作り上げていた。
つまり所長。
でも、私の身内に関わることなら私に連絡が来ればよく、第三者を巻き込まなくてもいいと思ってしまう。
チビも「言われてやっとコレの仕組みがわかったケド、なんでリリカ宛にしなかったんだろ?」と疑問符がいっぱいだった。
『リリカ・コストゥの雇用者に願う』という宛先から始まる嘆願には、私を急きょ休ませる場合に生じる補填が必要であれば、イチゴちゃんは自らの毛を素材提供するとあり、そういうことじゃないんだがと所長も戸惑うばかり。
私が生まれたとき伯父はもう故郷を離れていて、そう多く交流が会った記憶はない。幼い頃の記憶では伯父は溌剌としていて、人当たりがよくガッハッハと豪快に笑う人だった。
イチゴちゃんの伝言板によれば、「チビの鱗を隠しているだろう!」と叫んで、両親の部屋をひっちゃかめっちゃかにしたらしい。
以前に、チビは私の両親に鱗を差し出したものの、そんな高級なもの保管できないと断られたのだが、鱗を置いてこなくてよかった。でもこういうことは繰り返されそう。
イチゴちゃんが私に早々に帰ってこいというのは、チビを連れて帰って伯父を黙らせろということみたいだが、それこそ無茶ぶりである。私が帰ったところで何をすればいいのか。
「今、国内の事件報告を
「加害者が身内ってことで内々に終わらせようとしているのかもしれないですね」
法律士のラワンさんとアビーさんが揃って情報端末で調べてくれたが、事件として表面化はしていない。
両親や兄から私に連絡がないのは、随分離れたところにいる私に心配をかけないためかもしれないと薄々は感じる。
「伯父殿は何をしているんだ?」
「仕事を変えていなければ宝飾職人です」
「チビの鱗を加工して一儲けを考えている?」
「わかりません。宝飾職人ですから、そういう推測はできなくはないです」
所長に尋ねられたが、私の知る伯父の情報は曖昧。
伯父は故郷を出てから山脈を隔てた隣街に住んでいる。あの周辺では大きな街で、水晶石が採掘される山があることで栄えた街。
前回の帰省でも前々回の帰省でも伯父の話題は出なかった。
私が首都の学院に行く前後の頃に勤める宝飾工房を移ったはずだが、それも私の聞き間違いか、記憶違いの可能性があるほど情報がない。
ラワンさんが所長の顔の前に浮かぶイチゴちゃんからの伝言板をじっと見つめて、若干険しい顔をして顎を擦っている。ペニンダさんもアビーさんも考え込んでいて、私もどうしようかと考える。
「なぜ所長宛なのか」
ラワンさんがぽつりとこぼした疑問。
チビもこんな面倒くさくて制御を間違ったら霧散しちゃうような伝言板なんて作るだけ疲れるし、妖獣としても不思議だと言う。
「リリカ宛だったら、その内容は言わずに有休申請しただろうな」
「そうですね」
所長の言う通り、私宛でこの内容が来たなら、有休の理由を問われた際、嘘の理由を作り上げただろう。
有休を取るのに理由を言う必要はないが、妖獣世話班は最低限の人員でやっているので、休む理由や事情を踏まえて休みの調整をしているのが常。だけど誰だって赤裸々に言うことはできない何かをもっていたりはするもの。身内の醜聞はできれば隠し通したかった。
「この伝言板、わざと所長宛にしていることになりませんか? 今の状況をリリカの近い者に知らせたかった。でも、なぜ?」
そう、なぜ?
ペニンダさんがぶつぶつと言いながら宙に浮かぶ伝言板に手を伸ばすが、触れることはできない。アビーさん、ラワンさんも同じように手を伸ばしたが触れられない。所長が手を伸ばすと触れることができる。
私も手を伸ばしたら、伝言板が分離した。
「うわっ!」
「なんだ?」
私が手を伸ばしたら手のひらより小さい、ほぼ透明の伝言板が不意に出てきた。
おでこにくっついているときも、所長が読むのを途中で放棄していた際に触ろうとしたときも私に無反応だったのに、なぜ?
「あー、それが『本体』だ! めっちゃうまく隠してたなー。そういうことかー」
「チビ、どういうこと?」
「知らない人宛に伝言板を作るなんて無理があるんだ。通信機だって相手の連絡先がわからなかったら無理じゃん? イチゴちゃんはリリカのことは知っている。だからリリカ宛の伝言板をつくる。それを軸に『リリカの雇用主』っていう条件でコーティングしたって言えばいいのかなー。でもこういう条件は不確かだから、伝言板は不安定で、よく届いたと思う」
奇跡かなーってチビが言いながら、私の手のひらの透明の伝言板を覗き込んで、「はぁ!?」と叫んだ。
私の手のひらにある透明の伝言板に文字はない。
「これ、何か書いてあるの?」
「は……、あー、前言撤回。イチゴちゃんの異能制御力はゴゴジを上回るかも……」
チビは所長に、白い伝言板をテーブルに水平になるように置いてくれと言うと、私の手のひらの伝言板をその上に置くように言う。
言われたとおりにするが、透明な伝言板は下の伝言板の色を通すだけで何も見……
──ジョルダンを助けろ! 殺される!
は!?
「この透かし文字にあるジョルダンとは?」
「お、伯父です…」
透明な伝言板が下の白い伝言板の色を通さずに浮かんできた文字はそれだけ。
「どういう……」
どういうこと?
おそらく全員の頭の中を別の種類の疑問符が埋め尽くした。
透明の伝言板は数秒して消え、所長宛だった白い伝言板も消えてしまった。
「何かおかしいと思っていたんです。妖獣の伝言板は読んだら消えますよね。なのにあの白い伝言板は所長が読み終えても消えなかった。どこかに読んでいない何かがある、そう思って考えていたんです」
ラワンさんの言葉に、所長が唸るように伝言板が消えた場所を睨む。
「妖獣は嘘を伝言板には記さない、だな、チビ」
「んー、『悪意を持った嘘を記さない』という意味ならそう。冗談や悪ノリで本当じゃないことはいくらでも。オレっち何回かリリカに嘘ついて騙して楽しくサプライズしたし」
ラワンさんが奇妙な顔で私のことを見てきたが、何回かやられているので頷くしかない。所長とアビーさん、ペニンダさんが明後日の方向に視線を外したのは、チビと組んでサプライズの仕掛けことがあるからだ。
「そういうことなら、先程の所長宛の伝言に嘘はないと捉えて考えましょう。リリカさんのご両親の部屋が荒らされたのは事実で、チビの鱗を出せと言っているのも事実だとします。そして、後から出てきた透明の伝言はリリカさん限定ではなく、私たちも読めた。緊急を知らせる場合の伝言板が読み手を選ばない記憶ですが、合っていますか?」
「イチゴちゃんがオレっちより制御上だからなんとも言えない。オレっちが作る場合でいうなら、正解」
「所長宛の内容を読み終えたあとであり、リリカさんがいないと発動しない緊急伝言。──どちらも事実であるなら所長宛の状況は表向きに作られている事実の可能性は高いかと。騒ぎを起こしたから湯治場で捕まえているとありました。しかし、先程調べましたが事件として届け出はない。身内だからと考えましたが、そこに助けろという伝言。……一つの推測ですが、リリカさんの伯父さんは脅されて事件を起こし、ご両親たちは伯父さんを脅している者から守るために捕まえて匿っている可能性は? 殺されるとまで書いてありました。普通な状況では絶対ないです」
頭の中がザッと冷えていく。
「宝飾工房に、か……」
「特定はしません。妖獣の相棒の家族などを脅して素材を得ようとした事件は過去にもあります」
所長とラワンさんの真剣な意見交換の横で、少ない伯父の情報を思い出す。
私が首都の学院に行く前後に伯父は勤める宝飾工房を変えた。変えた理由はわからない。この時点では私とチビは出会っていないからチビが理由ではない。
チビが私を相棒として、管理所に就職することになったと故郷に顔を出した際も伯父はいなかったし、伯父の話題は出なかった。
その後に伯父から、突然、なぜチビと会わせてくれないのかという苦情まがいの手紙が来るようになった。通信先の交換をしていないから管理所宛に届いた手紙で、手紙の大半は単なる時節の挨拶的な内容なのだが、途中か最後に必ず書かれていた。両親にも似たような通信連絡が再三あって辟易したと言っていた。
急に管理所に来られても困るので、故郷に帰ったときに伯父も帰省していれば会えるかもねというような返事をしていて、そう言えばここ最近は手紙が来ないから諦めてくれたのかと思って忘れていた。
手紙──何通来たのか探さないとわからないが、一通だけ手紙の配達で押されるスタンプの差出地が前と違っていて、その次に来たときは前の差出地のスタンプだった。あのときは「旅行先からわざわざ苦情を送ってきたの?」と思ったが、ラワンさんの推測が正しかった場合、脅されているとしたら旅行なんてするだろうか? 待って、伯父はいつから脅されていたことになるの? まさか二年半前から?
「リリカ! リリカ!?」
「は……っ、あ……、すみません」
「何か、思い出したことがあるのね? 言って頂戴」
ペニンダさんが考え込んでいた私の思考を引き上げてくれた。所長もアビーさんもラワンさんも気遣わしげな表情で見守ってくれていた。チビも近くまで来てくれている。
ほう、と息を吐き、伯父からの手紙のことを思い出したと話をした。
「その手紙は取ってありますか?」
「はい、持ってくるので改めてほしいです」
ラワンさんに問われて、すぐに部屋に駆け上がって引き出しから手紙箱を出す。
魔導具での通信が主流の今、手紙をあまり使う人はいない。しかし、私宛の手紙はけっこうある。
顔も覚えていない学友だったらしい人や、そもそも知り合いでもない他人からの手紙ばかり。すべてチビが私を相棒にしたことで、すり寄っておこうと下心がある人たちのもの。私がこの管理所にいることは大々的に知られているから、管理所宛に届くのだ。
伯父の手紙は、有象無象の方々とは別の箱にしまっていて、ざっと確認したら七通あった。
「六通目だけウィゲダ管理領区か」
「パーサ領の北ですね。かなり昔の金鉱脈の採掘跡地があるあそこか」
ウィゲダ管理領区は、今は金の採掘はしていないが、金の細工ではトップクラスの職人工房がある。宝飾職人の伯父だから観光か見学に行ったのかと思ったのだ。
「リリカさん、確かに昔はトップクラスの職人工房がありましたが、今はもうありません。あそこは隣領に組み込むにもとくに旨味のある場所ではないので、それで揉めて管理領区となって交渉が続いている先なんです。観光するような場所でもないですよ」
「そうなんですか?」
ラワンさんが封筒のスタンプを見ながら教えてくれた。
私はどうして観光だと思っていたんだろう?
「この手紙はおかしい気がするわ。ラワンの言う通り、あそこで稼働している工房はないはずだもの」
ラワンさんと並んで手紙を読んでいたペニンダさんの言葉に、念のためにと情報端末を操作して確認をしてくれるラワンさん。
そうだ、手紙に工房を見学したかのようなことが書いてあったからだ。
六通目と七通目は今年の春に立て続けに届いた。その後は来ていない。
「小説なんかでは、手紙の文章の先頭の文字を繋げると別の意味になったりするけど、そういうのはなさそうですね」
「ラワンは想像力がたくましいな」
「さっきの伝言板があまりに不穏でしたので。考えすぎくらいがちょうどいいと思います」
文章の頭、後ろ、誤字などないかなど、小説にありそうなことを思い出しながら何度も手紙を読んだが隠れた言葉はなく、唯一おかしいとなったのはウィゲダ管理領区のスタンプが押されている手紙とその手紙の内容。
手紙もよく読むとウィゲダ管理領区に行ったとは書かれていない。私がスタンプからそう錯覚しただけだった。
他の手紙は私の故郷の隣街。水晶石が採掘されるので、あそこも宝飾工房は多い。隣街のスタンプで六通目の手紙を読んだ場合、街の別の工房の見学に行ったり、水晶の採掘現場跡地の洞窟に行ったのかなと思っただろう。
「文字は伯父さんのもので間違いないですか?」
「そう言われると、伯父の手紙を受け取り出してから伯父の字を知ったとしか……。父と母ならわかるかもしれませんが見せたことはないです」
「そうなると偽物の可能性もあるか……」
イチゴちゃんがもたらした伝言板の内容は非常に重たかった。
「リリカだけ帰してもどうにもならん気がするが、伯父殿が本当に殺されるという状況であるなら保護はしないとならない。イチゴちゃんという妖獣が保護してくれればいいが」
「相棒を持っている妖獣は相棒たる者の平穏を守ろうとしますが、そうではない妖獣は人一人のことはどうでもいいのでは? 人の事情で棲みよい場所が乱されていることに嘆き怒り、人のことは人で対処しろと突き放すのは普通で、むしろ連絡があったことに驚きます」
「そうなんだが、ああ、私も駄目だな。ここにいる妖獣は人に寄り添ってくれているから、そのことを忘れそうになる」
所長とラワンさんの言葉が人と妖獣の関係の基本。
チビは私を相棒にしたことで、私が平穏であるために周囲の人を助けようとしてくれる。私が悲しむから。フェフェもオニキスもそう。
キィちゃんは一線を画す。
仮に森の中で人が遭難していたとして助けるときと助けないことがある。その判断はキィちゃんにしかない。
「所長、用意できました」
「ああ、助かる。この件はひとまず極秘扱いにする。それぞれ手を乗せてくれ」
アビーさんが用意していたのは他言無用の制限契約の書面。
「ふぅ、制限がある中でなら言ってもいいですね」
「聞きたくないが、法律士として気づいたことは?」
「法律士という視点ではないですが。リリカさんの故郷はシシダで間違いないですよね。先程から法律士権限で情報にアクセスしていますが、この一ヶ月の情報で街での事件や事故の報告がないのが奇妙だな、と。本当にないならとてもいいことですが、湯治場としてなかなか人気の観光地で人の出入りも多い。それなのに街中でのトラブルの報告がないのは、どうにも違和感が拭えません。山岳救助の記録はあるんですけれどね」
「……考えたくない話になってきたな……」
「『なぜ、所長宛だったのか?』そこにも繋がるのではないかと考えました。シャーヤラン領都は国内でも安全の高い街と言われますが、酒に酔った諍いや軽症の接触事故など
ラワンさんと所長の会話を聞いて、ドクドクと頭の中に心臓があるように響く。
故郷の警備隊に街での事件事故の記録報告がない。ないなら本当にいいことだが、ラワンさんの言う通り小さな事件事故がこの一ヶ月ないのは本当だろうか。急病人の発生で駆けつけることだってある。
「リリカさん、シシダには自警団ができたようですがご存知ですか?」
「……去年帰省したときに『見守り隊』だったか、違う『案内し隊』だったかな。何かグループで湯治場を巡回し始めたような話を聞いたような……。すみません曖昧です」
「おやっさんが『案内し隊』って茶化して言ってたやつかな。ちゃんとした名前はなくて、リリカとオレっちそれ聞いて、もう少しマシな名前にしなよって笑った覚えがあるよ」
「自警団……」
街から離れた村や集落では警備隊の常駐がないところもある。そういうところでは住民で自警団を作り、地域の安全を守ると聞いているが、シシダは大きくはないがそこまで小さな街でもない。湯治場と湯治場に続く商店街は観光地として有名となり、あの地を囲む山脈への登山客もあるので警備隊がある。
警備隊があっても自警団のようなものを作るところもあるが、この場合、自警団が動いた活動は警備隊に報告され、警備隊から上に報告としてあがるのが普通。
警備隊と連携のない自警団の存在。もう不安しかない。
所長が「ぜんぶ推測であってくれ。私の動ける範囲を超えてるぞ」と天を仰いだが、隣のアビーさんは陛下や王弟殿下との直通相談の日時交渉を始めてくれた。こんなときなんだが、所長が高貴なる御方々と直通連絡ができる凄い人なんだと思いだしたら、安心感が増した。
私は半ば放心状態だったが、見かねたペニンダさんが席を立って抱きしめに来てくれて、のろのろと視線を彷徨わせれば、心配そうな表情の中に温かな視線の所長、アビーさん、ラワンさん、ペニンダさん。
「気休めかもしれないが、先程の伝言板では昨日とあった。イチゴちゃんという妖獣がどういう性格かはわからないが、見守っているからこそ伝言板が来たのだと思う。今なら間に合う、ご両親たちが隠し通している間に助けろということだ。シシダの警備隊に問題がありそうなことは伯父殿とは別の問題で、それはリリカが考えることじゃない」
「は……い……」
私はこの件では両親や兄から連絡がない限り、連絡をしてはならないとなり、数日のうちに帰省できるよう調整してもらえることになった。その数日の間で、所長やラワンさんが管理所ルートで情報を精査し、動けるところまで動いてくれることにもなった。
非常に申し訳ない気持ちとなったが、殺されるなんて言われたら、なんとかしなければと思うのは当たり前だと慰められた。
「心穏やかに過ごせない中ですまないが、明日か明後日に領主館に行くことになるのは同行してくれ。チビの街デビューも兼ねることになっている」
「街デビュー……」
そんなことも言われていたな。
「チビもすまない。街の上空を飛ぶだけだが頼む」
「いいよ~」
だいぶ重苦しい空気になったが、私の伯父の話は一旦終わり。
なんとか気持ちを切り替えて、チビの仕事の契約更新や魚の歌のことも話し合ったが、その間も何度もぼんやりしてため息が出てしまう私だったので、ラワンさんが推敲した契約書を後で確認することになった。
私が生まれたときには伯父はもう湯治場には住んでいなくて、何かをしてもらったりの記憶はない。
管理所の帰っていく所長やペニンダさんに考えすぎるなと言われたが、一人になるとどうしても考えてしまう。
私がチビの相棒になったことで伯父の歯車を変えてしまったなら申し訳ない気持ちになるが、それだって私のせいではないと言われた。そして、チビのせいでもない。妖獣を金目当てとしか見ない犯罪者がいけない。
夕方遅くにアビーさんから通信が入り、湯治場の件の情報を集めてくれた結果を教えてくれた。
従業員兄弟の大喧嘩があって湯治場の長が怒鳴ったという話が湯治場を利用した観光客の間にちらりとある程度で、その声も多くは拾えない。宿泊客に聞こえてしまった音をごまかす方便かもしれないというのは推測で。
イチゴちゃんの伝言板では空き巣という言葉が使われていた。観光客や宿泊客を不安にさせるないよう、喧嘩としたのかもしれない。
「あのあと、こっちでも話し合い続いたけど、地域の妖獣に信用されていない警備隊ってどうなのかってなってね。数分前まで所長の隣で閣下の憤怒の顔を見ていた私を慰めてほしい」
よろしくない状況だということだけは理解した。
所長の陛下や王弟殿下への直通ホットラインが強力すぎる。心強くはあるけれど、どうにも胃は痛む。
「緊急発着場に余剰の戦艦があって、次代の艦長訓練の日程調整の話や途中で陸軍元帥を拾って送り込もうなんて話が出たから、その船に便乗して乗っていけるように調整中」
「お腹が痛くなりました」
「チビが余裕で乗れる船にタダ乗りできるから胃痛薬を飲んで乗り切って」
チビを連れて行かない案もあったが、向こうの状況が不穏なことでチビが私と離れるのを嫌がった。なので『チビ船』の航路申請をする予定だったが、本音をいうととても助かる話。シャーヤランから私の故郷まではリャウダーより遠いのだ。
「所長、アビーさん、執務室の皆様ありがとうございます」
「こういう根回しが私の仕事よ。じゃ、また明日」
「はい」
アビーさんとの通信の後、私を心配したチビが山小屋のテラスの向こうの拓けたところで寝るというので、テントと寝袋を出して並んで寝ることにした。
いつもなら虫の鳴き声が煩いななんて思うのに、周囲の音を拾う余裕もなく。
スライムの謎茶の効き目だったのか、チビの故郷のことを考えすぎて疲れていたのかもしれないが、寝られないかと思ったが寝ることはできた。
ただ、寝たのに目の下の隈が酷くて、翌朝ファンデーションを塗るか悩む朝だった。
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