29.不穏な連絡

 功労者とかいう何かの登録で私の名前がどこかに載ることはどうでもよくなり、緑連豆りょくれんとうの新しいメニューになりそうなことを言うだけ言って、新作料理の試食を楽しみに調理場の休憩室をあとにする。

 イヤーカフの通信機でチビと伐採班がそろそろ帰ってくると連絡が来てきて、トーマスの牧場の隅っこの空き地に着陸予定だとわかったので、浮遊バイクで行ったら、小型輸送船とチビが飛んでくるのが目視できる距離まで帰ってきていた。

 チビはチビの胴体と同じかそれ以上の太さの大木を背負っているようで、異能を使っているだろうがだいぶヨタヨタしている。伐採した木は原木置き場に持っていくはずで、なぜ持って帰ってきているんだろう? チビの暴走か?


「たーだーいーまー!」

「おかえり〜」


 チビは元気いっぱいだ。

 パッと見た感じ、怪我もない。


「? リリカ、おでこ?」

「ああ、これ、誰のかわかる?」

「ちょっと待って。木を降ろしちゃう」


 ドッと降ろした木はチビの胴体より太い木で、何百年、何千年クラスの大樹では?


「これどうしたの?」

「奥の奥で土砂崩れが起きていたところがあって根本から倒れてたんだ。伐採班のみんなと話して勿体ないから持ってきた」

「そうなんだ」

「他の倒木は片付けて、使えるものは原木置き場に運んだけど、そしたらいっぱいになっちゃって。これは本当に立派な木でしょー? オレっちも勿体にと思ったから頑張った! んでさ、おでこ」

「うい」


 チビがちょいちょいと前脚で手招くので近づけば、鼻先でおでこをちょんと突かれた。


「え? ん? んー? イチゴちゃん?」

「は? イチゴちゃん?」

「オレっちも二回しか会ってないし、でもこの波長はイチゴちゃんだと思う」

「えええっ?」

「なんだろ?」


 イチゴちゃんは私の故郷にいる妖獣だ。キィちゃんのように人を相棒にはしないが、地域を愛して棲みついている妖獣。

 私とイチゴちゃんに特別な交流はないが、管理所で預かった妖獣よりは、接点の回数だけ言えばあるといえばある。だけど、イチゴちゃんは地域の住民の誰にも冷めた対応で、伝言板を送られるような仲ではない。

 そんなイチゴちゃんが、私に伝言板。しかも、私を運搬係にして誰か宛。

 誰?

 チビがおでこに何度か鼻先をくっつけて調べてくれたけど、首を傾げるばかり。


「誰宛なのかまではわからないや」

「私が会う誰か、だよね」

「うーん、リリカが開封できないってことは、経由する誰かってことだけど」

「こういう鑑定、キィちゃんが得意そうだから見かけたらお願いしてみようかな」

「キィちゃん、ここのところ水中散歩がマイブームだよ……」

「水死したくないな……、フェフェでできるかな……」

「ダメもとでお願いしてみていいんじゃない?」


 そんなことを話していたら伐採班の職員を乗せた小型輸送船も無事に着陸。

 伐採班の職員もみんな怪我もなく、病気もなさそうだ。

 近づいていこうとしたら向こうから止められた。数日間風呂に入れていないからと苦笑い。

 私もフィールドワークなどで経験がある。清拭してもどうしても臭ってしまう。


「チビが頻繁に行き来してくれて清潔なタオルや着替えを使えたが、しっかり洗えてないからな」

「迎えのクルマきたんで行ってください」

「おう、チビありがとなー!」

「また呼んでねー!」

 

 管理所から中型の輸送車両が来て、伐採班は大浴場に向かい、もう一台には整備班の方々。小型輸送船の整備と移動を請け負っていた。


「ねぇチビ、所長がチビが戻り次第、面談って言ってるんだけど、その泥汚れは落とそうか」

「どこで面談? 山小屋? 新しい休憩所?」

「山小屋」

「泉で洗ったら行く〜」


 チビは所長面談前に泉で水浴びしてくるとバビュンと飛んでった。

 残された大木、いやこれは巨木と呼ぶにふさわしい巨大さだな。私の身長より幹が太い。数え切れない年輪の数。数千年クラスの重みを感じる。

 伐採班も勿体ないと持ってきたくらいだから、何かにはなるんだろう。


 浮遊バイクで山小屋へ。

 山小屋までの道のりで登り坂に差し掛かると木々の影の下になる。日差しを避けられるだけで涼しさがあってホッとしてしまう。

 預かっている妖獣は今日は山小屋付近には来ない。私とチビの所長面談があるのを知って、遊び場を泉の対岸側の離れたところに変えてくれている。

 山は朝はピーチクパーチクと鳥の鳴き声が煩いが、日が高くなってくると静か。夕方にまた鳥と虫たちで煩くなるけれど。


 山小屋に戻って窓を開けていく。

 今日の暑さでも山小屋付近の気温は過ごしやすい。私一人なら空調は使わないが、所長はどうだろう?

 ブヨンブヨンとスライムが近づいてきた。

 ここのところは真面目に掃除をしてるので、スライムの鞭ビシビシ脅しを受けることはない……はず。多少ズボラなところはあるが、スライムもピッカピカにするのは諦めてくれたようなので、怒られることはない……はずだが構えてしまう。


「……ん?」


 表現するとしたら『むみょーん』あたりが妥当。

 スライムが自身の体の一部を伸ばしてにょろにょろと宙を指す。


「もしかしてコレ?」


 おでこに貼り付いたイチゴちゃんの異能伝言板を指してみたら、ブヨンブヨンが激しくなった。

 床でブヨンブヨンと揺れるスライムに顔を寄せるためにしゃがめば、多分ジッと見つめられている。おでこを。どこに目があるのかわからないけど。


「……」


 十数秒ジッとしていたスライムがふるふる振るえて、のろのろとボウルに入っていった。


「な、何だったの!?」


 見たら満足。そんな感じだろうか。

 あのスライムのことはよくわからない。

 都度、研究職の方々に報告と相談はしているが、悪さをしないなら同居しとけと完全に投げやりだ。日々の報告には「清掃班顔負けのプロフェッショナル」と笑っているのも知っている。

 ここ最近で大きな話題となったのは花瓶。スライムが花瓶を作って草花を飾っていたのは本当に驚愕の出来事だった。

 あの花瓶も研究材料として持っていったけど、一つは太めの枝をくり抜いてあり、一つはガッチガチに粘土が固まっていた。謎のコーティングでツヤツヤで水漏れしない。調べてもらったらうるしとは違うが、樹脂を何度も塗布してコーティングにしてあるという職人芸。

 その後、スライムに猛烈に怒られて花瓶は返してもらったが、花瓶がないことに怒ってるとわかるまでかなり考えた。

 意思疎通ができているようで、できているとは言えない。あのスライムとの生活はなかなか難しい。


「たーだーいーまー」


 テラスの先の拓けたところにチビが来た。

 所長が来るから山小屋の空調をどうするかと考えていたけど、よく考えなくてもチビがいるから外しかない。

 テラスのテーブルと椅子を拭いて、風はそよそよとした微風なので送風機を準備。日差しよけのパラソルも開いておこう。

 時間的に昼。お腹が空いてしまった。

 昨夜の残りのポテトサラダを急いで食べて小腹を満たしていた間に、所長から五分くらいで着くと通信が入った。ギリギリセーフ。


「チビはお腹空いてない?」

「あっちから帰る前に食べたから大丈夫」

「そんなにたくさん餌持っていった?」

「魔物出てきたからモリモリ食べた」


 チビがモリモリ食べたというあたり、そこそこ大きい魔物が出たことになる。森の奥であればあるほど危険と隣り合わせなのだ。

 顔が強張ってしまったのか、チビが心配してくれた。


「みんな元気だったでしょー? そのためにオレっちが同行したんだから」

「うん」


 私は魔物討伐はまだ未経験。学院時代にフィールドワークに参加しても、安全に守られていた範囲での行動で、管理所に来てからも後方支援にも参加できていない。

 全国民基準で考えたら魔物討伐の経験がある人のほうが少ないが、管理所では魔物討伐業務も担う。せめて後方支援に参加できる知識や経験は身につけていかねばならないだろう。

 魔物の危険がほとんどない首都での生活が長く、故郷でも魔物の出現はほとんどなかった。

 魔物肉は貴重な食材だが、討伐となるとすくんでしまう。


「リリカもツノネズミとかカミツキウサギあたりは討伐できていいと思うけど、鈍臭いからなあ。オレっちの背中は驚きの速さで登るけど」

「登られたいの?」

「頑張って仕事してきたから、肘鉄より撫でられるほうがいいっ!」


 私の顔の前まで頭を下げてきたので鼻筋を撫でまくる。


「本当にお疲れさま。あっ! そうだ、魚の歌! 替え歌は拡げたら駄目だからね!」

「ううん? 言葉替えした曲? あれはオレっちじゃないよ。モモンドのおっちゃん作だよ」


 モモンドさん? 未だに管理所職員全員の顔と名前を一致させきらないのだが、ここ最近で聞いたのではなく、見た名前だ。

 伐採班にはいなかった。

 必死に記憶を攫って引っ掛かったのは、売店の魚売り場の店員さん!


「なんで魚売り場の人と接点があるの?」

「ベイシーの友だちだって」


 ベイシーさん、ベイシーさん……、伐採班でも空師そらしの資格がある方の名前だと思い出せた。


「何回かベイシーがモモンドに通信してさ、意気投合したんだっ」


 と言うことは、チビの曲を録音だのなんだのの話の中心はモモンドさんだな。先日の売店でのニッコニコ顔を思い出す。私に対しては一切自分は関わってない風だったが、確実に手を回しているに違いない。


「所長面談は、チビの雇用契約の更新と魚の歌のことだと思うよ?」

「リリカの王侯貴族マナー研修のダメダメの指摘じゃないの?」


 チビの鼻筋を撫でていたがバチンと叩いておいた。痛〜っ!と言っているがチビは絶対痛くない。叩いた私の手のひらのほうが痛い。

 チビと戯れていたら、車両の走行音が聞こえてきた。

 見えてきたのは中型の人員輸送用車両が二台。所長と秘書のアビーさんは来ると思ったけど、法律士さんと調理長まで来た。朝の緑連豆の件だろう。そしてペニンダさんまで。なんで?


「少し長くなりそうなんで昼は持ってきた。チビもトーマスのところから何か持ってこさせようか?」

「お腹いっぱいだから大丈夫〜」

「クマ型のキマイラが出たと報告は受けたが、退治してくれて助かった」

「丸ごと食べちゃった」

「次に出会ったら面倒でも毛皮は残してもらえると売れるな」

「今度は残すね! 魚資金ーッ!」


 所長とチビは和気あいあいだが、ペニンダさんは法律士さんの上司代行の立場で来たという。チビの帰還がズレて島たことで所長面談時間がズレてしまい、法務の上役の時間が取れなかったとか。

 ペニンダさんは所長に「面白いものを食べさせてやる」って言われていそいそとついて来たとか。調理長が来たってことは緑連豆の試作品だろう。

 アビーさんとペニンダさんでテラスのテーブルに持ってきてくれたデリバリー弁当を置いていくが、人数に対してテーブルが小さい。

 急いで妖獣世話班メンバーで食事をするときに使う大きめのテーブルを出してきて、テラスの外に設置し直し。木陰があるから日差しよけはなくても我慢してもらおう。


「リリカ、カップは借りていいかしら?」

「持ってきます。飲み物はそんなに用意はないんですが、紅茶、緑茶、米茶、麦茶、謎茶なぞちゃ、レモン水、コーヒーなら出せます」

「そんなにないって言いながら何種類言うのよ。それに謎茶って何?」

「スライムがブレンドしたやつです。細かくはよくわかりませんが、香草と薬草が混ざった感じです」

「……」

「ペニンダさん、アレのことを考えると頭が爆発します。事実だけ受け入れてください。スッキリさっぱり系とほのかな甘み系があります」

「……水でいいわ。ところでそのひたいのは何?」

「妖獣の伝言板で……。あの、所長、これ、多分ですが所長宛みたいです」

「ん?」


 チビと伐採の現場の話に花を咲かせていた所長だが、所長たちが来てからおでこに違和感。

 この中の誰か宛だとピンときた。

 一人ひとりに顔というかおでこを向けてみて、所長を見たときに一番おでこに違和感が出たので、きっと所長宛。

 所長が私のおでこに手を伸ばすと、小さかった伝言板は所長の手の中で顔のサイズくらいの大きさに変化した。


「……なん!? はあ? いや、ふー……。この議題はあとだ。調理長の時間があるから、先に緑連豆の登録の話からしてしまおう」


 伝言板の冒頭を読んだらしい所長の顔が驚愕な顔になり、途中で読み止めて伝言板を掴むとペシリと腿に叩きつけて貼り付けた。目を閉じて深呼吸しているけれど、何が書かれていたんだろう。


「あの、所長、イチゴちゃんと面識があるんですか?」

「イチゴちゃん? ああ、この伝言板の主の名前か。いや、会ったことはない。まあ、この話はあとだ」


 え?

 会ったことのないイチゴちゃんが所長に伝言板?

 妖獣の異能の伝言板は会ったことがない人には送れないのでは?


「疑問符だらけの顔だが、まずは緑連豆だ」


 驚きの表情からいつもの飄々とした表情に戻った所長だが、大きな事が起きても動揺を見せず、腹の中を見せない胆力のなせる技だなと思う。


「リリカの提案にあった緑連豆のディップソースからパスタソースにしてみたものと、こっちはポタージュだ! デザートもリリカが言っていたパフェ風の試作で、余分に材料も持ってきた!」

「わぁっ」


 デリバリー弁当の箱を開けたら見事に明るい緑色一色。

 私が言うだけ言って二時間くらいしか経ってないはずだが、鼻息の荒い調理長の顔は自慢気なので、イケる味に仕上がっているんだろう。

 昼の忙しい時間の裏で調理場は緑連豆の試作品作りも並行したのか。相当カオスな気がしないでもない。

 スライムがブレンドした謎茶でも差し入れようかな。アレを飲むとなかなか寝付きいいんだよね。


 早速実食。

 緑連豆のディップソースをパスタソースにした一品は「あと一味!」という感想になっが、粉チーズをかけてみたら私にはいい具合で、法律士さんはガーリックソルトを一振り足していたので、調理長はこの二案をベースに最終仕上げを考えるそうだ。

 ポタージュは美味しかった。ベースはジャガイモのポタージュにアレンジしてあるものだが、緑連豆の風味も活きていた。濃厚さを増やすのもありだし、さっぱりとした試作のままでもいいと思う。

 パフェはまだどう飾るのかが決まっていないそうだが、スポンジケーキのふわふわもいいが、少し固めのクッキー系もいいだろうし、米粉の団子を放り込んでおいてもいいと思った。

 ふと思いついてパフェの材料からミルクアイスと緑連豆ペーストをコップに入れて混ぜ混ぜ。


「リリカ!」

「リリカ何してるの!」

「ひえっ! あっと、えっと、行儀が悪いのは今は見逃してくださいっ。あと、細かい氷、氷」


 いきなり食べ物で遊び始めたと思われたのか、ペニンダさんとアビーさんに揃って怒られたが、今は見逃してほしい。

 山小屋の保冷庫から氷を出してガンガン砕いてコップに混ぜ混ぜ。


「できた! ちょっと氷がでかいけど緑連豆スムージー!」

「リリカ! 俺にもコップをもう一つ! あと氷!」

「好きに使ってください」


 調理長はすぐにわかってくれた。

 楽しそうでなによりと見てくる所長と法律士さんと、行儀のよくないことをしでかした私に対して、揃って大きくため息を吐いたペニンダさんとアビーさん。まあまあ待っていてください。

 山小屋に撹拌機ジューサーはない。手動のフードプロセッサーでは氷は砕けなくて、綿棒でせっせと砕く。

 調理長と一緒になって、余分に持ってきてあったパフェの材料で全員二口くらいの緑連豆スムージーを作れば、「お!」「おお!」「あら?」「まあ!」と好評。


「これ、ドリンクデザートとしてテイクアウトもできるし、博物館前の広場に来る移動販売車みたいなもので街中で売ってもよくないですか?」


 私はやりきった感。

 調理長は副調理長に通信で「撹拌機を用意してろ! 作り方を言うから書き取れ! もうすぐ帰る!」と興奮気味。


「はははっ! ラワン、これも含めて契約にまとめてほしい」

「領主自ら飛んできそうですね」

「試作品を食わせて黙らせよう」


 所長と法律士さんは和やかだ。

 登録も契約もおまかせする。

 料理や菓子はすぐに真似をされるので独占登録はできないが、発表してから一年の成果で報奨金の上乗せがあるので、今のうちから配分を決めておくそうだ。


 言い出しっぺの私はチビの魚資金で懐事情は寂しいが、頂戴している手当はいいので日頃の生活で困るようなことはない。なので、多少なりチビの魚資金になればいい。

 欲がないと言われたが、試行錯誤に労力と時間を費やしたのは調理場の職員。なので評価するなら調理場のみんなだと思う。


「今回の場合、リリカさんのアイデアは完成形に近い。味というのは個々の嗜好に左右されるので絶対がありません。割合は大きく取ります」

「調理場の代表として言わせてもらえれば、新しいレシピを提供してくれただけても拝みたい! マンネリにならないよう新作を考えるのも大変なんだ!」

「それにこれは街の畑の者たちからも喜ばれますので」

「下の畑の人たちにですか?」


 法律士さんが言うには、緑連豆はの畑では一部で厄介な雑草扱いになりかけているのだという。そうなりきらないのは緑連豆が太古の昔に飢饉を救った食べ物の一つだからだ。


「シャーヤランと隣領では緑連豆のありがたさを教えられます。だから無碍むげにはできないが、蔓延はびこる緑連豆で他の作物に影響がでてしまうこともあって、対応には苦慮しているんです」

「飼料や肥料にして無駄にしていないっつーけどな、芽の段階で駆除したり、ウチでも使い切れなくて焼却処分も増えてんだ」


 法律士さんも調理長もどんなものも無駄にしないのが一番だが、そうできないこともあると複雑な顔。

 菜園でも緑連豆はわっさわっさにえていて、ある程度の範囲より増えないように抜いているのが現状。緑連豆のありがたさの歴史は私もこちらの研修で習った。けれど緑連豆は主食として食べることはないから消費量は多くはない。

 私の突発的な緑連豆ペーストが当たったとしても、主食となるような消費量にはならないだろう。けれども廃棄量が少しでも減らせるなら、領の行政としても後押ししたいとなるものなのだと説明された。


「そんなわけで、チビも帰ってきたし、領主との面会をするから派手シャツをクリーニングしておくように」

「え?」


 そんなわけってどんなわけ?


「商会からもらったろう?」

「ものすごいド派手なんですが」

「ああ、くれるというから、だったら『ぶとき目立つやつも混ぜておいてくれ』と言っておいたからな」


 蛍光黄色に蛍光水色と蛍光ピンク色のデフォルメの花柄が進呈された犯人は所長だったのかー!


「アレ着れんの! ヤッタァー! リリカが仕舞い込んじゃって一回しか着てないんだ」

「チビにはもう一着作ってやると言っていたから、秋に陛下の船に行くときに着るやつを注文してあるからな」

「ヤッタァー!」

「えええええ」


 話が脱線して困惑していている間に、調理長は「夕方までにスムージーの試作品を作り上げる!」と宣言して帰っていった。


「さて、チビの雇用契約と歌の話をしたかったが、……ふー。さっきの伝言板が思いがけなかった。ラワンもペニンダも申し訳ないがもう少し付き合ってくれ」

「はい、私の時間は大丈夫です」

「ええ、大丈夫です」


 若干緩い雰囲気になっていたが、所長の表情から重めの話なのだと悟る。

 イチゴちゃんから所長宛。

 しかも面識はない。

 なのに、飛んできた伝言板。

 あまりいい話ではないと思ったが、案の定、楽しくない話だった。

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