23.初デート?
小型車両トラックで街に出る間の私はプチパニック。だって狭い空間に、私のことを好いてくれるトウマといるんだよ?
表情筋が行方不明の真顔で助手席に座る私を見て苦笑のトウマ。私の頭の中がパニック中なのもお見通しなんだろう。
学院と短期アルバイトをした店で付き合っている恋人同士の様子は見てきたけど、正直言ってあの人たちは参考にならない。
恋愛小説にあるようなピュアっとした感じではなく、お互いにいるのが当たり前の淡々とした雰囲気か、昼間っからディープすぎる濃厚な雰囲気の両極端だった。
あれが普通の恋人同士の姿ではないことは、恋愛経験ほぼゼロの私にもわかる。
私は何も甘々なことを求めているわけではない。
普通でいいんだが、普通ってなんだ?
ただいま私は混乱している。
私は自分から告白したことはない。
告白されたのは初めてではないが、それではお付き合いしてみましょうという仲になったのは初めて。
トウマは兄より年上。
業務上で接点が多くあったわけでもなく、オニキスの朝食の面倒を見るようになって接点ができた人。たまにできない妹を見るかのように、仕事を教えてくれる先輩職員の一人だった。
とても淡々としていた。
職場の部門違いの先輩。オニキスの相棒。暑い季節は上半身裸族になるボサボサ頭の人。
そういう認識だった。
私としてはとくに意識したことはなかったのだが、苦手なタイプでもなく、ある日、付き合わないかと言われてドキドキしないほうがおかしいわけで!
もう一度言うが、恋愛小説にあるようなピュアッピュアな甘々を求めているわけではないが、いきなりディープな関係なんて相当ハードルが高いわけで!
グルグル考えてしまうが、正解なんてわかりません!
どうすりゃいいのかわからなくてフリーズ。
トウマが話しかけてくれる会話に何とか言葉を返すものの、抑揚が浅くなり、淡々とした印象になってしまうのはなぜなのか。
髪を整え髭を剃ったトウマを知ってから、外見のよさで言い寄られることに辟易した過去があるのも察した。キャッキャキャピキャピとした性格が苦手に見えた。
私の性格はどう転んでもキャッキャキャピキャピにはならない。あれは一つの才能だと思う。羨ましくはないけども。
「ぶふっ! そんな緊張すんな。半分は仕事みてぇなもんじゃないか」
「仕事! そう、仕事! し、しょうかい、先に商会に行かないとっ」
「まあ、意識してくれてるってわかっただけよしとするわ」
ボサボサ頭に無精髭だが街に出るので整えてあるトウマ。横目でチラリと私を見てきたいたずらっ子のような目と合ってしまい、それだけで何とか会話が成り立っていたのにオーバーヒート。頭が次の行動を指示しない。
私は両手で顔を覆って助手席の前の台に突っ伏してしまった。落ち着けー!
トウマはこんな私を見てクックックッと笑っているから、呆れられてはいないことにどこかホッとしてしまった。とりあえず、本当に落ち着け、私。
食材でいつもお世話になっている商会にはトラックの中から通信で事前連絡。
オパール一号が食べられる魚肉ソーセージは持ってきた保冷ボックスいっぱいに買いたい。そうなると、店頭在庫を買い尽くしてしまう量になりかねない。
フクロウ一号とも相談して少し長めで様子を見ていたのだが、オパール一号は魚肉ソーセージは安定して食べるのがわかった。ただし、塩味が薄めのものになり、商会の店では売れ筋ではないため在庫がないことがある。
オパール一号は食べ悪阻で肉のほとんどが駄目。これまでオパールたちは魚はほとんど食べなかったというが、魚肉ソーセージが食べられるとわかったのは貴重なことで、私たちがバイクを買いにでるときに、オパール一号用の魚肉ソーセージのストックがなくなっていたので、夜と明日の朝のために買い増しておこうとなった。
今日買いたい分は倉庫にあるから大丈夫と言われて安堵。明日以降は別途連絡を取り合いましょうと言ってもらえた。
通信してから数分後、いつものように店ではなく倉庫に行けば、商会長と数名の商会員が派手シャツを着て笑顔で待っていてくれた。
「やっと! やっとチビのお披露目があって、我が商会はあの日は勝手に大盛りあがりでしたよ!」
商会長はチビと仲がいいからな〜。
商会員の皆様もあの極悪顔を怖がらずに接してくれるし、私の親以外にチビが鱗を差し出す漫才をやったのがこの商会長。ユニークさがあって、根は至極真っ当な人なのだが、チビがいるとちょっとおかしくなる。今は見るからに興奮が隠せない様子。
「今日はですね! チビのことではなく、リリカさん、あなたのおかげでシャツがバカ売れですよ! 派手だと叩かれたりしたこともあって、それならと、あえて地味なデザインで作ればもっと売れず! 在庫処分で叩き売りしても捌けなかった不良債権が! 陛下と! 王妃殿下と! お付の方々まで! 王妃殿下はシャツからリメイクされて、なんと! なんと! スカートに仕立て直して陛下と揃えて着てくださっていたなんて! 製造がですね! 追いつかないんですよ! あそこの工房長が笑いながら倒れましたね! 今、我が商会の縫製部もフル回転ですよ!」
商会長に大興奮で告げられ、両手で手を握られて何度もブンブンと上下に振られ、表情を作りつつ笑顔で遠い目になりかけた。
陛下と王妃殿下、王弟殿下ご夫妻が着た浮かれたデザインの派手シャツは、派手なデザインが当たり前の中では、確かに地味な部類に入る色合いとデザインだった。いくつかご提示して王妃殿下が選ばれたと聞いている。
シャーヤラン領の派手シャツを見慣れた感覚からすると、若干地味なデザインのシャツは、シャツを製造する商会や工房の集まりで共同で挑戦した『落ち着いたデザイン』をコンセプトに出したものだったらしく、しかし売れなかったもの。商会長も噛んでいたとは知らなかった。
今は式典で陛下らが着たデザインと同じものがほしいという注文が殺到しているそうだ。
とにかく長袖の詰め襟回避だったのが理由で、後付けのように地域産業のアピールに繋がれば御の字くらいの気持ちでいたが、ここまでフィーバーするとは思いもしていなかった言い出しっぺ。王族の影響力、恐るべし。
商会長は顔が広い。シャーヤランだけでなく、各地で細々と続いている地域工芸品が見直されるきっかけにもなっている兆しがあると聞いて、遠い世界のことのよう。
ただ、大規模工房の大量製造品を
商会長に捕まっている間に、トラックの後ろには買った覚えのない箱が積まれていく。
嫌な予感がしてトラックに積まれた箱を開けたら、派手シャツ、派手スカート、派手ワンピースまでどうしろと?
こんなに浮かれた派手シャツいらないし、買わないよ! って言ったのに、いい笑顔の商会長と商会員さんたちに「リリカさんとチビの式典デビューの祝いの品ですから」と押し切られた。
トラックの荷台に積み込まれた箱、箱、箱。
一際大きい箱はチビ用のシャツだと聞いて脱力した。
着られるのか?
首のところで結んでマントみたいになりそう。
……チビなら着られなくてもそうやって楽しみそう。
予想できる未来を想像して、笑顔も消えるというものだ。
私が商会長に捕まった瞬間から、スッと空気のように気配を消していなくなったトウマよ、こういうときは彼氏として助けてくれんのか?
「あのオッサンの止まらない
「……ありがとう。この箱はトウマの。派手シャツの詰め合わせ」
「詰め合わせ」
「こっちの箱はリーダー」
「俺たちだけ制服だったからか? 今度は派手シャツ着て式典に出ろってか? 来年までこのフィーバーは続かないと思うけどな。このデカイ箱もか?」
「チビの派手シャツだって」
「……オニキスのも入っていそうだな」
「……そうだね、フェフェのもね……」
ニコニコでウハウハが止まらない商会長たちに見送られて倉庫を後にした。
式典後の今、チビとともに街に出ると囲まれてしまいそうなので、今は街に出るのはやめておくとチビ自身が言ってきた。群衆の中にあっても大道芸で生きていけそうなチビだが、こういうときの冷静さは助かる。
けれど商会長とチビが会えるように手配しよう。
式典で声が潰れちゃうんじゃないかというくらい声援をくれたのも商会長と商会員さんたち。
式典に対して、いろいろ綯い交ぜな気持ちはあったが、声援は心強く、私も嬉しかったし、チビも嬉しかったと言っていたのだ。
商会の倉庫に来るまでの道を歩く人も派手シャツ、派手シャツ、派手シャツだったが、バイク屋に向かう道も派手シャツを着た人だらけ。あちこちの店員もみんな派手シャツで、前は店ごとに制服があったはずなのに、もはやどこの店の人なのかわからない派手シャツフィーバー。
一応、色や花柄が被らないようにしているようだが、観光客は判別つかなさそう。
そんな派手シャツの詰め合わせの箱で埋まったトラックの荷台だが、浮遊バイクを買った場合、載せて帰れるだろうか?
「バイクを買っても即納車じゃない。最終整備して早くて翌日。だいたい数日後だな」
「じゃあなんでトラックで来たの?」
トウマの大型浮遊バイクで来てもよかったのでは?
「この暑さだから冷房の効いた車両のほうが快適だろ? 保冷ボックスも大きかったしな」
「涼しいは正義!」
「そのへんも考えて浮遊バイクにするか、小型車両にするか決めるんだな。冬のバイクは寒いが、車両なら暖房で快適だ」
「うぬぬぬ」
トウマは個人で大型浮遊バイク、小型車両トラックの二台持ち。大型浮遊バイクはほとんど趣味で持っていて、仕事で動くときは小型車両トラックで動く事が多い。整備に使う機材を運ぶことも多いからだ。
うーん、悩む。
トウマが浮遊バイクを仮予約してあるバイク屋に向かう中、どうするかー、どうするかーとなかなか答えは出ない。
「すまん。悩ませることを言ったが、今回は汚されたバイクの弁償で買えるもんだから、浮遊バイクにしとくのが無難か」
「『移動の足』ということなら車両でも大丈夫だと法律士さんは言ってくれていたけど。トウマに車両のことを言ってもらえてよかった。後で気付いて、あのとき車両を買っとけば〜みたいにうじうじ後悔しなくて済むから。うん、今回はバイクを汚された代わりのバイクを買う!」
「いいやつ選んでやっからな」
「そこは本当にお願いします」
商会長の
トウマが向かっているバイク屋は領都の街でも商業区域から若干離れた住宅区域に近い。先に寄った商会の倉庫からそこに行くには街のメインストリートである中央通りを越えなければならないが、事前に聞いていた通り、歩行者優先道路になっていた。
「中央通りを通り抜けたかったが、車両通行止めか。貨物車両は例外みたいだが、このクルマは貨物車両と見てもらえると思うか?」
「トラックだし大丈夫なのかな? どういう基準なんだろう?」
「タイミングがいい。交通案内人がいる」
トウマが窓を開けて交通案内人に確認したら、二本先の少し広い交差点ならいいという。すべての交差点で通過許可を出してしまうと歩行者に支障が出てしまう。しかし、商業区域で貨物車両の行き来を止めたら物が止まる。そこで昼間も比較的広い道の交差点のみ、どう見ても荷物を輸送する車両であれば通過の許可を出しているようだ。トラックで来てよかった。
この夏は車両規制が続くので、街に出るならどの道なら通れるか、しっかり把握しておいたほうがいいこともわかった。
無事に中央通りを通り過ぎて、道向かいのごみごみとした商店街も通り過ぎ、ふと気付けば観光客が激減していた。景色も集合住宅や戸建てになり、歩いているのはどう見ても地元の住民。住宅街になっても誰もが派手シャツなのは商業区域と変わらない光景で、式典前はここまでみんな派手シャツを着てなかったよな〜と笑いが出てしまう
「もう今夏から『あんな派手なシャツ』と
「むしろ着るのが当たり前になるのかな」
「陛下たちが着てくれた落ち着いた色合いのデザインが爆発的に広がっているし、少しずつデザインも変わるのかもな。アレとか目に痛すぎる」
「うん、原色の芸術」
車窓の外に見えた住民の派手シャツは見事な原色で、鮮やかな色。
あれには染色の巧みな技が生きている。
しかし、染色技術の見事さよりも派手さの印象が強くなってしまっているのがシャーヤラン伝統の派手シャツ。
伝統は伝統として受け継ぎ、領花をワンポイントにデザインするだけでも粋だと思う。もうちょっと落ち着いた色合いとデザインが増えて、何年もかけて伝統も変わるかもしれない。
しばらく住宅街を走っていたが、工房と思われる建物が増えるところにクルマ屋とバイク屋が並んであった。
トウマが贔屓にしているバイク屋に入店。こちらも着いたら熱烈歓迎を受けた。
「いやぁ、真ん中にいた大きな竜の相棒さんですよね。握手してください」
「あ、はい」
店主さんと思われる人から店員さん、整備をしていた人たちまで走ってやってきて、順番に握手会。
私は何者になったんだろう。
そして、整備していた人以外はやっぱりみんな派手シャツだった。整備している人が着ている作業着に癒やされた。
ひとしきり雑談して、流れるように浮遊バイクを見て回ることになったが、流れるように私は店内にあるテーブル席に座らされ、流れるようにトウマから大きめの情報端末を渡され、しばらくそこにいろと告げられた。
一緒に見て回ってもわからないのが私。
「こっちは瞬間出力はいいが燃費がいまいち。飛行の持続時間も考慮するなら、この数字が目安だ」
「はあ」
「浮上がゆっくりでいいならこの出力でもいいが、アイツらと移動を考えると一気に飛べるのがいい。おい、わかってんのか?」
「数字が違うのはわかる。あとはわからない」
「
「トウマにわかるふりしても仕方ない」
流れるように店内にある浮遊バイクを見回ってすぐの会話がこれだった。
そりゃ流れるように脱落させられるわけです。
バイク大好きトウマは、恋人を放置してバイク鑑賞にウキウキしている。もとい、私のバイクを選んでもらっているのだが、大丈夫、わかってる、こういう人。
トウマに渡された大きな情報端末をういういと動かして報道情報を見回ったり、図書サービスにアクセスさせてもらって苔の図鑑を眺めて過ごす。
完全にトウマに丸投げだが、絶対にこれがベスト。
トウマはウキウキと店の中を見て回り、店主さんたちとの話も弾んでいる。好きなだけ店内を漂流させておくことにした。
途中完全に私の浮遊バイクのことを忘れて盛り上がっていたトウマと店主さん、店員さんたちだったが、ちゃんと選んでくれた。
「このモデルも候補にはなるが、ウチでは取り扱ってない。ほしいならジオッタのところならあると思う」
「まずはこの五つから絞って、それで決まらなかったらジオッタのおっさんのところか。よし、リリカ、整理するぞ」
損害賠償請求のことは言わず、予算上限は高度十メートル超えで走行できる上位モデルのスタンダードなものの金額を基準。
雨除け日除けはほしい。これは私の希望。
高度五メートル超えできる浮上性能は欲しい。私が担っている業務で高度五メートルも飛ぶことはないが、中級ライセンスを取るから、所有するバイクで飛べないのは悲しい。
ただ、高度十メートル超えは今回見送るのがいいと提案された。私がまだ中級ライセンスすら取れていないからだ。浮遊バイクの上級ライセンスはけっこう難しい。そのうち上級も取ってくれとは言われているが、いつまでに取れとは言われておらず、暗に「チビと飛びたいなら取れ」という意味なので、今すぐに私自身が必要としないなら、今回は中級ライセンスで操縦できるモデルまでにしておくのが無難だろうと言われた。
店としては高いものが売れれば嬉しいが、無理な買い物は勧めないてこない店主さん。
乗り物は間違えると操縦者や通行人の命を奪うものとなる。背伸びしすぎないのがいいという店主さんは私の父より少し上の世代だろうか。
「数年後に上のモデルが買えるように訓練を頑張ります」
「そのほうがいい」
法律士さんと話をして、上位モデルを買っても大丈夫と言われたことで、欲をかきすぎていたようだ。
自分を落ち着かせて、何に使うのかを話しながら、整理していくと欲しい性能が絞られていく。
私の業務では荷物の運搬もそこそこあるので、収納量も大事にしたいと希望する。
あと泥汚れや砂汚れに強い造りのものがいい。私は整備された街中の道路を走るのではなく、山と森と草原を走る。どうしたって土で汚れる。なので街中を走るオシャレなものより、作業現場用がいい。
「そうなるとこの一台は外れるな」
「だとすると、候補から落としたこのあたりのほうが荷物は載る。お嬢さんの体格からすると大きいかもしれんが。あとは屋根か」
あれこれ話しをして、紙に印刷された浮遊バイクのチラシをテーブルに並べては入れ替え、最終的に三つになった。先にトウマが仮予約してくれたものも残っていて、選定が流石だと思った。
一つは全く同じものはなかったが、それぞれに試乗。
簡単に屋根というが、浮遊バイクに取り付ける屋根の形も様々あって、サンプルの下に入ってみると正面は透明のカバーなのに視界が僅かに変わる。視界前方に走行中の情報がホログラム表示されるものが主流だが、雨除け屋根タイプでは前方カバーに表示されるものもあって違和感があった。これは慣れと好みらしい。
頭上の日除けを完全遮光のものにすると上空の視界がなくなる。それだけでこんなに違うものかと迷っていたら、店主さんと店員さんが視界不良は事故に繋がるから、妥協ではなく完全に腑に落ちるまで確認してくれと言い、ジュースを持ってきてくれた。
トウマがこの店を贔屓にする一面を見た気がした。
かなりの時間をかけて選んだのはトウマが仮予約した浮遊バイクのシリーズ違いでもう少し荷物容量が大きいものを選んだ。高度十メートル超えの浮上はできないが、何と言っても荷物を載せていても水平を保つ性能の安定度が抜群。その他の諸々の性能もトウマも満足げな表情だったから、いいものを選べたと思う。
屋根となる日除けも完全に遮光する素材ではなく、少し透明度のある素材で、内側に防水布を張れるものにした。日常業務で低空飛行するときは防水布で日除けする。今まで屋根なしで雨に濡れながら走行していたので、充分すぎる屋根になった。
製造しているところから新品の納車となると二週間かかるといわれ、早く欲しいのでそこまで待てない。
来た店に在庫はなかったが、領都の別の系列店に試乗展示品があるという。試乗展示品なので複数の試乗履歴があり、新品とは言えないから中古になるが、試乗程度なら私は新品同様だと思う。
それで購入決定。
納車前の最終整備をしてもらい、明後日に納車してもらえることになった。
「このシリーズは土木現場で根強い人気のモデルだが、お嬢さんの仕事も大変なんだな」
「大変というわけではないですが、どうしても山の中が多いものですから」
「日々のメンテはこのオトコにやらせればいいサ。いじくるのが好きなんだから」
「それも仕事だ」
「よく言う、本職は魔導具整備のくせにバイクまで改造しやがって」
「ふん」
トウマはバイクいじりたさに車両整備免許をとった阿呆だと笑う店主さんはいい人だった。
一般向けの浮遊バイクに比べると値の張る高いモデルだが、高度十メートル超え走行の上位モデルをやめたので、屋根を付けたり、細々としたオプションを付けても当初の想定よりも金額は下。
決済端末で全額支払い。銀行に預けてある金額で足りてよかった。
リャウダーで借りた貸し宿とチビが魚市場での魚の踊り食いをしまくってくれて、なかなかか懐が寂しいのだ。チビも私の懐事情はわかっているので、剥げた鱗と抜けた牙を差し出されたが、簡単に売れないからもらっても困る。
チビの一番小さい鱗一枚で、今買ったバイクが五十台くらい軽く買えてしまう。
妖獣からもらえる素材の価値はオソロシイのだ。
追い立てられるように買い物に出てきたので、まだ業務時間内。
リーダーに通信で浮遊バイクを買ったことと納車が明後日になることを伝えたら、中央通りにある菓子店に予約してあるシュークリームを代わりに取ってきてくれと言われた。
「あきらかに私用」
「本当に出不精だよな」
「リーダー、奥さんと街の宿に出た休暇のとき、何ヶ月ぶりに管理所敷地を出たんだったけな」
「職員寮自体が一つの小さい街みたいなもんだし、あそこにある売店で手に入らないものは配達を頼めるしな」
そう考えると商会の倉庫に買い物に出るのも私が多い。ルシア先輩もぜんぜん街に出ないな、そういえば。
「私って使いっ走り?」
「今頃気づいたのか? お前ンとこのメンバーでまともなのはシードさんくらいだぞ?」
およそ二年半かけて気付いた事実。
だから私の移動の足を早く確保させたかったのか。やられたー!
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