第26話 残った子ども達のために

翌日、出勤すると…

ホームの職員から

「園長が話があるらしい…園長室に行って下さい」

と言われたので園長室に向かった。

ノックをして…

「失礼します」

と言って園長室に入ると…

「昨日は大変だったね。ショックとは思うが…残った子ども達のために、これからも頑張って欲しい」

と言われた…

「はい。そうですね…分かりました」

と言って園長室を出た。


私は…

すぐ辞めるなんて考えてはなかった…

元々…3年は辞めないつもりだったから…


それから…

放送があり…全体集合がかけられた…

園長からA子が亡くなったという話がされた…

みんな驚いて…

泣きだす子もいた…

私も、園長の話を聞きながら…涙が止まらなかった。


園長の話が終わり…

ホームに戻りながら…

子ども達が

「先生が見つけたんでしょ?なんでA子は亡くなったの?」

と聞いて来る。

私は…

「倒れてたから救急車で病院に行ったけど…詳しいことは分からないんだ」

と言うしかなかった…


職員の間でも、子ども達の動揺を防ぐだめに

亡くなった原因は言わないようにしようと話をした。

ただ…A子を発見した時に、みんな運動指導で体育館にいたから

幸いだったと…みんなが口にした。

子ども達の中には、親が自死で亡くなった子もいる。

子ども達には、すべてが隠された…


心理の先生からは、あの時にいた職員同士で話すのが一番いいと言われた。

他の人には気持ちが分からないから…ということらしい。


それから…

私は、通常通り何もなかったかのように勤務した。


警察からは、何度も電話があって色々聞かれた。


子ども達の中には…

私に相談して来る子もいた。


A子と仲が良かった子は…

A子が亡くなった日の朝に、A子と喧嘩をしてしまった。

ちゃんと謝って仲直りしておけば良かったと泣いた…

その子は

「A子が亡くなったなんて、まだ信じられない」

と何度も話をしに来た…


A子とトラブルになったホームで一番権力のある子は…

「私とA子が喧嘩したから…まさか自殺じゃないよね?」

と言った…




一応、ホームの子全員に聞き取りも行われたが…

中には、何とも思っていない子もいた。

A子に色んな物を貸していた。返して貰えるのか…

と言って来る子も…


A子の葬儀には、園長と副園長が行った。

みんな、A子の遺体はいつ帰って来るのか…

みんなで送ってあげたいと願っていたが…

その願いは叶うことはなかった…


私は、あの日以来…

A子の部屋に入っていない…

というか…むしろ入れなくなっていた。


それから日数が経ち…

子ども達が、だいぶ落ち着いた頃…


母が、荷物の整理と話を聞きに施設に来られた。

母は、施設のせいだと怒っていると…

児相の人に聞いていた…


応接室で、話をしている所へ私も行った。

「当日、発見した職員です」

と紹介され…

A子の部屋に向かった…

A子の部屋に入るのは、あの日以来だった。


私と、当日人工呼吸をした人と一緒に

当日の説明をしたが…

母には、私達が殺したかのように…

言われた…

何を言われても仕方ない…

そう思ってひたすら聞いていたけど…


普段、A子が普段どんな話をしていたのか…

と聞かれたから

「お母さんの話や人間関係のことなどが多かったです」

と言ったけど…

それ以上、何も言えないような雰囲気だった…

本当は、A子がお母さんの手助けがしたいと言っていた話とか

したかったのに…

お母さんは、ひたすら怒っていて…

何も言えなかった…


お母さんにしてみれば…

施設や児相に怒りをぶつけるしかなかったんだろう…

そうするしか…保てなかったのかもしれない…


ごめんなさい…

分かっていたのに…

私が助けられなかったから…

結局…残った子ども達を守るために…

私は、何も出来なかった…


A子ちゃん…

あなたを見つけた経験も…

私の初めてになったよ…

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