明暗

薄暗く息苦しい部屋に、よどんだ空気が重く漂っていた。ノブバキは、十歳にも満たないようなひ弱な少年で、鉄の檻の中で寒さに震えていた。割れた唇からは血が伝い、咳き込むたびに静寂の中にガラガラと音が響いた。巨大な影が彼の横に立っており、その顔は闇に隠れていた。


「起きろ!」苛立った声が唸った。


ノブバキは体を震わせ、薄闇を見つめようとした。「ど、どうしてですか?」彼は震える声で尋ねた。「何をしたんですか?」


部屋中に不気味な笑いが響き渡った。「あいつのせいだ」その影は嘲笑した。


恐怖がノブバキの腹をよじったが、目は反抗の光を放っていた。「ここにいたくないです。出して下さい」彼は懇願し、声は震えていた。


その影はしゃがみこみ、檻の鉄格子から数インチ先に顔を近づけた。ノブバキはその冷たい視線を感じた。「出す? どこにいくんだ? お前には誰もいない。帰る家もないんだろ」


ノブバキの目に涙が浮かんだが、彼はそれを瞬きで消し、弱さを見せないようにした。「自分で見つけます。僕はここにいません」


その影は突然立ち上がった。その動きにノブバキは体が震えた。足音が遠ざかり、彼はただ静寂の中に取り残された。軋む音がして扉がわずかに開き、すぐに閉められて、再び暗闇に包まれた。


疲労が彼を蝕み、まぶたが重くなってきた。彼は冷たい鉄格子に寄りかかり、虚空に向かって「僕は誰だ? なぜこんな目に遭うんだ?」と呟いた。意識が遠ざかり、最後の思考は答えを懇願する叫びだった。


爆発音が轟き、その後ブーツ音が響き、必死の叫び声が聞こえて目が覚めた。ノブバキは立ち上がり、鉄格子にしがみつき、助けを求めて叫んだ。扉が勢いよく開き、以前の男が白衣を翻しながら入ってきた。


「行くぞ!」男は怒鳴り、ノブバキの腕を掴んで檻から引きずり出した。


ノブバキは突然の廊下の明るさに目が眩み、よろめきながら進んだ。男の茶髪の姿を一瞬見た。彼らは無菌室のような廊下を抜け、行き止まりにぶつかり逃げ道がなくなった。


黄金色に輝く人物が彼らの前に現れた。白衣の男の目は恐怖で開いた。彼はノブバキを引き寄せ、喉元に短剣を光らせた。


「彼を解放してくれ」光り輝く人物は声を張り上げた。その声には切迫感がこもっていた。


「駄目だ!」男は叫び、声が震えた。


黄金色の者は光を強め、廊下を眩い光で満たした。ノブバキは目をギュッと閉じ、その輝度に圧倒された。


ノブバキは目をゆっくりと開き、白い無菌室と機械の規則的なビープ音に迎えられた。ぼんやりとした記憶が残っていた – 暗闇、檻、黄金色の光。夢だったのだろうか?


優しい声が静寂を破った。「ようこそ、元気になったかい? 随分大変だったろうね」


看護師が優しい顔で彼に微笑んだ。「な、何が起こったんですか?」彼は嗄れた声で尋ねた。


「数時間前に運び込まれてきたのよ」彼女は説明した。「ヒーローの一人に救われたの」


檻、男、光 – 夢の断片が彼の心の中で渦巻いた。しかし、詳細はぼやけ、砂のように指の間からすり抜けていった。


「全部夢だったんですか?」彼は答えを求めて囁いた。


看護師は同情的な笑みを浮かべた。「色々あったんでしょうね。今はとりあえず、元気になることに集中しなさい」


彼女は彼をベッドに寝かせると、ドアのところで立ち止まり、目を大きく見開いた。外に立っている男は、背が高く、金色の髪と鋭い金色の目を持ち、光条と胸に「LR」のロゴが刻まれた洗練された金色のコスチュームを着ていた。


「目が覚めましたよ」看護師が告げた。


「ありがとう」男は答えた。声は穏やかで落ち着いていた。


「ライトレイさん、写真撮らせてもらえますか?」看護師は畏敬の念を込めた声で言った。


男は頷くと、一瞬部屋が光に包まれた。看護師はすぐに出て行き、ノブバキはライトレイと二人きりになった。


金色のヒーローは自信に満ちた笑顔で近づいてきた。「ライトレイは少年を見つめた。痩せ細った身体は真っ白なシーツの上で際立っており、栄養失調のようだった。黒髪に茶色の瞳、彼の肌は青白く、骨が浮き出ていた。見知らぬ土地に迷い込んだ子犬のように、怯えきって孤独そうだった。


ドアをノックする音がして、鋭い黒スーツを着た男が入ってきた。黒い目は部屋の中をスキャンした。「ライトレイ」彼は軽く会釈し、言った。「少年はどうだ?」


「記憶を失っている」ライトレイは厳しい声で答えた。「本名すら分からない」


男は眉を上げた。「興味深いな」


「身元調査はできたか?」ライトレイは尋ねた。


「ない」サブロータはため息をついた。「鹿島 メリック(Hayashi Melic) : 呪縛 (Curse) だ。奴のメリックは人に呪いをかけられる。呪いは解除条件があり、必ず青い六角形のシンボルで封印される」


ライトレイは怒りを覚え始めた。「奴はどこにいる?」


「奴はなんと自殺をして、それ以上の尋問を逃れた」サブロータは言った。


ライトレイは拳を握りしめ、目は金色に輝き始めた。「落ち着け」サブロータは言った。「大丈夫だ。俺たちが協力して解決する」


二人は視線を合わせ、決意の表情を浮かべた。ライトレイは少年を見つめ、彼の人生を変えることを決意した。


「少し休め、ノブバキ」ライトレイは優しく言った。「名前が分からないなら、そう呼ばせてもらう。俺たちは君の過去を突き止める。そして、君の身に起きたことを解明する」


ノブバキはライトレイの言葉を飲み込もうとした。「ど、どうして僕の名前を知ってるんですか?」彼は震える声で尋ねた。


ライトレイは微笑んだ。「直感さ。それに、君にはまだ知らない力があるのかもしれない」


ノブバキは眉をひそめた。彼の心は混乱していた。ライトレイの言葉には、何か意味があるように思えた。しかし、彼が何を意味しているのか分からなかった。


「力ですか?」ノブバキは繰り返した。


「そうだ」ライトレイは言った。「額に青い六角形が現れたのは偶然ではない。君は特別な存在なんだ。そして、そのことは危険を伴うかもしれない」


ノブバキは困惑した。危険? 彼は自分の過去を思い出せないのに、一体どんな危険が待ち受けているのだろうか?


「怖がらなくていい」ライトレイは穏やかに言った。「俺たちが守る。それに、君も一緒に戦えるようになるかもしれない」


ノブバキは目を瞠った。「戦う? 僕ですか?」


「そうかもしれない」ライトレイは言った。「今は休んで、力を蓄えるんだ。そして、自分の過去と向き合う準備をしなさい」


ノブバキはライトレイの言葉を考え込んだ。彼はまだ混乱していたが、希望の光が差し込んできたように感じた。記憶を失くしてしまったが、彼は一人ではない。ライトレイとサブロータがいてくれる。そして、彼にはまだ知られていない力があるらしい。


ノブバキは決意を新たにした。失われた記憶を取り戻し、自分は何者なのか、そしてなぜこのような目に遭わなければならなかったのかを理解する。そして、ライトレイと一緒に戦う力を身につける。


彼は窓の外の街並みを見つめた。まだ見ぬ世界が広がっている。彼の冒険はこれから始まる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る