第756話 思い出したドン爺
「王よ、6人の召喚に成功しましたっ」
「でかしたっ。その者共を連れて来るが良いっ」
「はっ!」
大量の魔力を使うために大勢のエルフを利用し使い捨てにしたマナーカ王国は6名の勇者召喚に成功した。
「良く参った召喚者達よ。我が名はマナーカ。この国の王であり、神の生まれ変わりでもある。そなた達を召喚したのは我の命令によるもの。すなわち、お前達はワシのものと心得よ」
「勝手に連れて来ておいて酷い言い種だな」
「お前達の意見など聞かぬ。お前達はこの世界を脅かす魔王を倒す為に召喚されたのじゃ。その命に従い魔王を倒してくるのじゃ」
「そんな事は知らん。お前らでやればいいだろうが」
「魔王を倒すのは勇者の役割なのじゃ」
「勇者? 俺が?」
「さよう。ここにいるお前達が勇者なのじゃ。勇者は国の・・・ いや、世界の希望。魔王を倒した暁には人々から憧れられ羨望の眼差しで見られ崇められるのじゃ」
「俺達が憧れられる・・・ しかし、魔王を倒せる力なんてあるわけがないだろうが」
「心配するでない。それぞれにはワシが魔王を倒せるだけの力を与えておる。自分が最も得意とする力を最大限になるよう神の力が働いておる」
「ま、まさか・・・」
「お主は剣が得意と聞いておる。その剣を自ら振ってみよ」
勇者と呼ばれた剣士は軽く剣を振るうとスパンと自分を連れてきた鎧の兵士を真っ二つにした。
「あっ」
「構わぬ。勇者には特権を与えておる。ワシの命令に背く以外は何をしても許されるのじゃ」
「何でも好きに・・・」
「他の者達も同様と心得よ」
強大な力を与えられ、全てを許される特権をもらった勇者達は心の中でほくそ笑んだ。
「わかったなら、ここに用意してある武具と金は好きに使うがよい。魔族の国は南じゃ。行けっ勇者どもよっ」
「ねぇ、あんたなんて名前?」
「マルクだ。剣が得意だ。お前は?」
「私はリラ。魔法が使えるわ」
「俺はゲイン。体術が得意だ」
「俺はダラン。力なら任せておけ」
「私はシーケル。治癒魔法が使えるわよ」
「俺っちはウーオン。情報収集や罠とか見破るの得意だぜ」
バランスの取れた勇者パーティーは各々が必要な武具と受け取り、魔王討伐に旅立つのであった。
「ねぇ、ドン爺、作っても作っても追いつかないんだけど」
ハヅキの作るガラス装飾アクセサリーは手頃な値段も相まって売れに売れていた。
「だから早く弟子を探しておけと言ったのじゃ」
「だってこんな事になるとは思ってなかったんだもん」
「えぇーい、ガラス職人はワシが探してやるワイ。で、ハヅキは比較的簡単に作れる物はそいつらに任せて、自分は高単価で売れる物をつくるのじゃ」
「ドン爺、こっちも手が足りないんだけど・・・」
「ホーテンは魔法学校に行って新人を捕まえて来い」
「こっちはドワーフどもを集めておいたから問題ない。しかし場所が狭いんじゃ」
「あー、もう始めに言うておいたじゃろうがっ」
ドン爺は人と場所を確保せよと言っておいたが、みなこれだけ急激に忙しくなるとは想像出来てなかったのだ。肉屋は肉屋でひいひい言っているし、パン屋も同じくぼろぼろになっていた。
ドン爺は役所に行き、働き口を探している奴がいないか聞いてみる。
「役所にそのような窓口は・・・」
「かーーーっ! なら作らんかっ。仕事を欲しい奴と働き手が欲しい奴を繋げるのは役所の仕事じゃっ」
ドン爺は勝手に役所の人間を使ってハロワのような仕組みを作っていく。
「看板はワシが作って来てやるから、ここで働き口の斡旋をするのじゃ。ちゃんと働ける奴が増えると税金も増えるじゃろが。これは税金を増やす為の仕事じゃと思えっ」
「はっ、はい」
次は孤児院に行き、子供達にパンや肉の配達の仕事を手伝わせることにした。
「いいか、この仕事を手伝えば腹一杯飯を食わせてやる。どうじゃ?」
「やるーっ!」
「ちゃんと働く奴はそのまま働けるようにしてやるから頑張るんじゃぞ」
「わかったーっ」
「あ、あのあなたは・・・」
「ワシはメガドンジホーテハヅキ商会の者じゃ。この孤児院はどこが運営しておる?」
「寄付で細々とやっておりますのでどこの運営とかは・・・」
「なら、うちの商会で運営してやるからどんどん孤児を受け入れるのじゃ。金の事は心配せんでええから子供の面倒と勉強を教えられる者を集めるのじゃ。給料も払うでの」
「えっ?」
「ただ働き同然の孤児院に人など来ぬじゃろう。子は宝じゃ。ちゃんと育てるものがおらんとクズになってしまうからの。それに働ける年齢になったら商会で雇ってやるからどんどん受け入れてどんどん卒院させるのじゃ」
「はっ、はい」
孤児はたくさんいるが孤児院に全ての子供が入れるわけではない。浮浪孤児もたくさんいるのだ。ドン爺はその子供達が汚魂にならないようにするのと労働力を手に入れる事を目的として孤児院をどんどんメガドンジホーテハヅキ運営にしていった。
ホーテンとメガンは孤児院の風呂設備の製作にも追われ出しだ。汚いと客向けの仕事や食品配達の仕事も出来ないからだ。
皆が休む暇もなく働かされていく。
その様子をめぐみゲイルは見ていた。
「あーあー、ドン爺って典型的なブラック企業の運営者だなぁ」
「ブラック企業って何?」
「社員を休ませないんだよ。自分が疲れないから他の人も同じだと思っちゃうんだよね。あのままだと皆倒れるぞ」
と、心配したゲイルはドン爺の元へ。
「お、ゲイルではないか。どうしたのじゃ?」
「忠告に来たんだよ。ドン爺は人を働かせ過ぎ。ザックに週に一度は休みを取れと教えられなかったか?」
「しかし、今が大事な時なんじゃぞ」
「そのうちみんな嫌気が差して仕事しなくなるか、廃人みたいになるよ。休みは重要だからね。ドン爺も王様の時遊びに行きたくて仕方がなかったろ?」
「そ、そんな事はないのじゃ」
「嘘だね。何回も来ちゃったテヘをやったじゃないか」
「ぐぬぬぬぬっ」
「自分は疲れも無いし、眠くもならない上に寿命も無いだろ? 皆をそれと同じように考えちゃダメだよ。みな生物なんだから」
「はっ、そうじゃったの・・・」
「な、仕事は大事だけど、みな家庭を持ったりするんだから、楽しく働けて、お金も儲けられて、まともに暮らせるようにしてやらないと。それには休みとか自由になれる時間が必要なんだよ。ここまで店とか出来てきたんだから儲けられて慌てる必要無いって」
「そ、そうじゃな。ついもっともっとと思うておったわ」
「後さ、この国がまた勇者を召喚したから」
「なんじゃと?」
「6人同時に召喚するとかめちゃくちゃやってるよ。大勢のエルフから魔力を奪ってね。エルフ達はこっちで回復して逃がしておいたけど、ここの王は酷い奴だよ。というか大国3国はどこも似たり寄ったりだけどね」
「魔王は? 魔王は無事なのかっ?」
「あっちはラムザゲイルとラムザが面倒を見ている。魔王は寂しいみたいでね、遊び相手になってるよ。攻撃魔法も教えてあるし結界とか防御の魔法陣も組んであるからまず魔王城までたどり着けないと思うけど」
「魔王はワシが・・・」
「解ってるって。だから勇者も駆除せずに追っ払うぐらいしかしてないんだよ。あの勇者らろくでもないやつらだけど、そこそこ強いから面倒だよ。実体化してるドン爺一人じゃ対抗するのしんどいかも」
「そ、それじゃ・・・」
「魔王は大丈夫だから、ドン爺は取りあえずこの国その物を実体化している間になんとかした方がいいよ」
「わ、わかったのじゃ」
ドン爺はゲイルに言われてなぜ実体化したのか思い出した。
ポコポコ勇者召喚する奴をプチっとしてやる為だったと。
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