第755話 ドン爺の活躍

ポチポチとショーケースやライトの魔道具が売れ出したメガドンジホーテハヅキ店。


「ほらどうこれ?」


ハヅキが皆に見せるのはグリーンのガラスの指輪とネックレス、イヤリングの3点セットだ。メガンが紹介してくれたドワーフの装飾職人とガラス製のアクセサリーを作ったハヅキは自慢気だ。


「ハヅキよ、庶民が買える値段ともいえどセット物はなかなか買えないのではないか? まずは手頃なイヤリングとかの数を作った方が良いぞ」


「どうして?」


「庶民街でアクセサリーを着けておるものは少ないじゃろ? まずはアクセサリーを着けていることが普通の状態にせねばならんのじゃ」


「へぇ」


「イヤリングや髪飾りなんかじゃと手軽に買えるじゃろ? それを中心に数を売るのじゃ」


「わかった。ジャンジャン作ってみるね」


「メガンよ、研磨機は作れるかの?」


「研磨する機械?」


「そうじゃ。手で一つ一つ研磨するのは大変じゃからな。ホーテン、お前は回転する魔法陣を作るのじゃ」


ゲイルは回転する魔法陣は革命を起こすとこだわっておったからどう使うかよく覚えている。


ホーテンに1秒間に何回回るとか具体的に調整出来るようにしてもらった。


こうして売れるものを作る為の道具がだんだんと揃っていく。



そしてドン爺は営業に向かう。向かったのは近所の食堂だ。


「好きな席に座って」


「ワシは営業に来たのじゃ」


「営業?」


「そうじゃ。店主はおるか?」


「は、はい」


しばらくすると店主兼コックがやって来た。


「爺さん、なんだ営業って?」


「儲け話を持ってきたのじゃ」


「は?」


「ここで新しい料理を売らぬか? ここで食べてもいいし、持ち帰りも出来る食べ物じゃ。大流行するのはまちがいないぞ」


「なんだよ、物売りか。帰った帰った!」


「いいのか? 近所のよしみで一番始めに声を掛けてやったのじゃがの。話しすら聞かぬなら他所にこの話を持って行くが後から文句を言うでないぞ。ではな」


しつこく話をせずに帰ろうとするドン爺に店主は困惑する。普通物売りはしつこいのだ。


「おい爺さん。そんなにあっさり引き下がっていいのかよ?」


「構わん。どこがやっても必ず売れるからの。ではの」


「待てっ、待て。話ぐらいはしていけ」


「興味がないのじゃろ?」


「話を聞くだけだ」


チョロいのう。


ドン爺はハンバーガーの話をしてみる。メニューはハンバーガーとフライドポテトのみだ。品数を増やすより、品数を絞って数を作れた方がいい。肉類はあの肉屋から仕入れたら安値で卸して貰えることになっている。しかもミンチに加工してだ。ドン爺はそのうちにハンバーグにまで加工して貰うことを予定していた。


「どんな物かさっぱりわからんぞ」


「では近々サンプルを持ってきてやろう。楽しみにしておれ」


この店に話すのはここまで。次はパンを作っている所に赴く。


「は? 新しいパン?」


「そうじゃ。作り方は教えてやる。新しいパンはレシピ登録したから有料じゃ。あとそのうちに大量にパンが必要になる。それを作れるか?」


「どれぐらいの数だ?」


「そうじゃの。最初は100とかそれぐらいじゃが、そのうち1000とかになるじゃろ」


「1ヵ月でそんなに売れるのか?」


「1日あたりじゃ」


「は? そんなに売れる訳ないだろうが」


「いや、ワシが売り先を作ってやるから大丈夫じゃ。その注文は受けられるか?」


「本当に毎日それぐらい売れるなら人を雇ってでもやるさ」


「宜しい。では後日また来るでの。その時はパンの売り先で試食会をやるからの」


ハヅキの所に戻ってドン爺は準備をしていく。


メガンとホーテンには自動芋洗い機と業務用冷凍庫、フライヤーを作って貰う。


次から次へと新しい物を作らせるドン爺。


「ドン爺、そんなに次々と言われても身体は1つしかないんじゃぞ」


「まさかもう音を上げるのか? 今作ってるのは試験機じゃ。これが上手くいけばどんどん作る事になるのじゃから音を上げるのはそれからにせいっ。そのうちに寝る暇も飯を食う暇もなくなるのじゃからの」


「は?」


「ハヅキもこの店はそのうち工房とガラスアクセサリー専門店にするとええ。メガドンジホーテハヅキ店はアクセサリー専門店の方がええじゃろ」


「他の雑貨とかはどうするの?」


「そのうちそんなものを扱う暇は無くなるわい。雑貨とかは他の店で売るから心配するでない。一般客向けと商売人向けの店を作るからの」


「え? どういうこと?」


「この4人で商会登録をしておいた。メガンは販売品を作る責任者、ホーテンは魔法陣製作の責任者、ハヅキはガラスアクセサリーの責任者になるのじゃ」


「ドン爺は?」


「ワシは営業と帳簿管理と販売員とかの教育とかをやる。お主らこういうの苦手じゃろ?」


「ドン爺は何をするつもりなの?」


「メガドンジホーテハヅキを王都で一番大きく強い商会にするのじゃ。そうすればお主らの作った物が王都、いや、この国の隅々まで使って貰えるようになるのじゃぞ。ほれ、想像してみよ、街行く女性が皆ハヅキの作ったアクセサリーを身に着け、どの店も家もメガンとホーテンが作った物を買い求めて喜ぶ姿を」


3人はドン爺に言われた事を想像してみる。


「うわぁ、そんな事が出来るのぉ」


「夢のような未来じゃろ? メガンは国で一番の職人として憧れられ、ホーテンは前の雑用しかさせなんだ魔法陣の師匠を見返せるのじゃ」


国で一番の職人、師匠を見返せるという言葉に二人は一気にやる気が出て来た。


「よし、ホーテン、早速試作品作りじゃっ」


「はいっ」


「みな、そのうちに弟子を取らねばならんから今のうちにいい人材を探しておくのじゃぞ」



そしてドン爺は密かに作っていたパンの酵母でウエストランドで食べていたパンを作っていく。そして牛肉のみのハンバーグとトマトと玉ねぎを使ったソース。胡椒もエルフ達が育ててくれているし、砂糖は次の冬から生産が始められるだろう。


ドン爺はゲイルに特訓してもらった腕前でハンバーガーを作って試食する。


うむ、これなら爆発的に売れるじゃろう。追加で冷凍しておいたじゃがいもの細切りを油で揚げてフライドポテトにしていく。


うむうむ、これじゃこれ。生から揚げるよりカリッとして旨い。ハンバーガーとセットで銅貨10枚程度でないと売れぬじゃろうから、1個あたりの原価は銅貨3枚くらいに抑えねばならんの。初めの間は銅貨5枚くらいになるのは仕方があるまいが・・・


えー、パンがいくらで、肉がとか原価計算をしだすドン爺。これだけ利益がでたら税金がとか色々と計算していった。



数日後、営業に行った食堂、パン屋、肉屋、エルフとハヅキ達を食堂に集めてハンバーガーを試食することに。


「これハンバーグを挟んであるの? 美味しーっ」


「このフライドポテトはエールにも合うじゃろな」


「ドン爺よ、これもエルフに与えられるのか?」


「おぉー、新しい肉の食べ方だ」


「こ、このパンを作れというのか?」


「まぁ、皆への説明は後でするが、これは売れそうか? ハンバーガーとポテトのセットで銅貨10枚じゃ」


「やるっ! 俺はこれを売るぞっ」


「店主よ、お主の名前を聞いておらなんだの?」


「俺はマイク、妻はダナーだ」


「ではこのハンバーガーを売る店はマクダナーで良いか? そのうち2号店3号店と店を増やすでの。全部同じ名前にするからお主がハンバーガーの店の責任者になるのじゃ」


「全部の店?」


「そうじゃ。どの店に行っても同じモノが食べられるようにするのじゃ」


ドン爺はハンバーガー屋以外にも唐揚げよりも大きいフライドチキンの店も同じように開発していった。店の名前はケンチキンだ。


他に雑貨を作っているところや様々な職人と契約を進め、メガドンジホーテの店を作って行ったのであった。



ー魔族の国ー


「ゲイルっ、ラムザっ」


「よう、魔王城の居心地はどうだ?」


ドン爺の星の魔王は根城を持っていなかったのでゲイルが魔王城を作ってやったのだ。中にはエデンの屋敷と同じようにダーツやボーリング、プールとか遊べる物を作ってやり、魔王が楽しんで暮らせるようにしてあった。


魔王はこの星の魔力だけでは足りないようなので、ラムザがここに来るときは魔界の実をお土産に持ってくる。一度魔力を直接補充してやったら色っぽい声を出したのでラムザが焼きもちを焼いたのだ。


「ラムザはゲイルが居ていいなぁ」


「お前はこの星で最強だからな。なかなか釣り合う奴は出ては来ぬだろう」


ラムザの言うとおり、魔王は特別な存在だ。原初の1体でもあるから・・・


「あ、ラムザ。ダムリンはどうしてる?」


「知らん」


酷ぇ・・・


「ダムリンを魔王に紹介してみる?」


「好きにしろ」


という事でダムリンを探しに魔界へ。ラムザが臭いという方向を探しに行った。


おおぅ、見てはいけない物を・・・


嫌悪の表情を浮かべるラムザの目に写ったのは一人エイプに勤しむダムリンであった。


スンスンっ


ダムリンがラムザに気付く。


「ラムザさまぁっ」


「寄るなっ」


ラムザはゲートを開いてゲシっとダムリンを蹴飛ばし、ドン爺の星の魔王の元へ放り込んだ。



そしてダムリンは魔王を見つける。


「お嬢さん、ちょっとだけ、ねぇちょっとだけでいいからっ」


「きゃぁぁぁぁあっ」


魔王はダムリンに電撃をビシャンビシャン食らわせる。


「こいつはこんなんだが、能力はお前より高い。遊び相手に必要か?」


「いっ、いらないっ! こんなのいらないっ」


「おっじょおさぁぁぁぁん」


「きゃぁぁぁぁっ」


ビシャーン ビシャーンっ


「ダメだなこれは・・・」


「こういう奴だ。我が毛嫌いするのもわかるだろ?」


「うん・・・」


ダムリンは生まれてからずっとこんな感じで何をされてもへこたれることはなく、このままのようだ。ラムザを俺に奪われても変わらない。


「ここに置いておくと迷惑だね」


「そうだな。魔王に悪いことをしてしまったようだ」


しつこく追いかけるダムリンに俺が教えた雷魔法をビシャンビシャン喰らわせる魔王。退屈しのぎにはなるだろうけど、魔力を使いすぎるな。


ゲイルはダムリンを土魔法で拘束して魔界へと捨てておいたのであった。

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