第753話 名言

「次はこの店に看板を付けるのじゃ」


「どんな看板?」


「びかびかに明るい看板じゃ。ホーテン、点滅するライトの魔法陣を組め」


「点滅?」


「こうライトがチカチカと点いたり消えたりするのを繰り返す物じゃ」


「ど、どうやって・・・」


「それを考えるのが貴様の仕事じゃろうがっ。ハズキはこのようなガラスの棒を作ってじゃな」


と、ドン爺はガラス棒を作らせてそれを文字の形に加工させていく。


「メガンは調理器具を作るのじゃ」


ミンサーを作るように指示する。


「どういうものじゃ?」


「肉を細かく擂り潰す物じゃな。確かこうなってじゃな・・・ 後は自分で考えるのじゃっ」


ドン爺はだいたいしか知らないので各自に無茶ぶりをしていく。バズキには色付きガラスを作るように言ったのだが、全て0から作り出さねばならない。3人は困惑した。


「ドン爺の言っている事は解るんだけどねぇ。色付きガラスなんてどうやって作るんだろう?」


「点滅の魔法陣も解らないなぁ」


「肉を擂り潰すとか訳がわからんぞ」


ドン爺の指示はどんな物が出来るのか想像が出来ず、作業は難航した。知らないものを作り出すのは簡単ではない。出口の見えない3人は次第にイライラが募っていき、雰囲気が悪くなっていった。


うーむ、皆がイライラするのが解るが、ワシもあったものを売る方じゃったからな。詳しい仕組みはこれ以上知らぬ。さてどうしたものか・・・



「あれ? ミーシャ、ドン爺は?」


「実体化して星に行っちゃいました」


「あ、そうなんだ」


ドン爺の星を覗いて見る。


「おっ、居た居た。なんか揉めてんなぁ。もしかしてドン爺無茶振りしてんじゃねーか?」


ドン爺と3人が何か言い合いしているようだ。神様でなく人として接してるんだな。


「なぁ、めぐみ。この星に遊びに行ってみるか?」


「いーよ」


という事で魔界経由でドン爺の星へ。



「だからドン爺が言ってる物がどんなのかわからないんだよっ。びかびかとかチカチカってなんだよっ」


「ライトが点いたり消えたりするもんじゃと言っておるじゃろうがっ」


「肉を擂り潰してどうすんだっ」


「ハンバーグというものを作ると言っておるじゃろうがっ」


「だからそのハンバーグとは何じゃ? と聞いておるんじゃっ」


「じゃから肉を擂り潰して固めた物じゃと言うておろうがっ」


「なら肉をそのまま焼けばいいじゃろうがっ」


堂々巡りを繰り返すドン爺達。



「わー、怒鳴りあってるね」


「相変わらずだなドン爺は。すいませーん、すいませーんっ!」


「あっ、お客さんだ。ドン爺見てきてっ」


奥から真っ赤な顔をしたドン爺が出て来た。


「いらっ・・・ どうしてここにおるのじゃ?」


「え? デートがてら遊びに来たんだけど?」


「そちらは新しい嫁か?」


「あれ? ドン爺は覚えてない? 元の星の女神のめぐみ。ドン爺が死んだ時に魂を大事に天に連れてってくれたんだよ」


「おー、そうじゃったか。なんと可愛らしい女神様じゃ。その節はお世話になったの」


「へへっ、ぶちょー。私可愛らしいんだって」


ゲイルにベタベタするめぐみ。ドン爺から見たらとんだ馬鹿っプルだ。


「で、ドン爺は何を揉めてんの? また無茶振りでもしてんじゃない?」


「なかなかワシの言うことが伝わらんでの。お互いついカッとなってしまったのじゃ」


「じゃ、ちょっと違うとこで話す?」


「そうするかの」


ドン爺は奥の工房へと行き、バズキ達に出かけることを伝える。


「すまぬが、ちょいと外出してくるが構わぬか?」


「どーぞっ」


プイッと拗ねた素振りで返事をするバズキ。



「ドン爺はお金持ってる?」


「いや、文無しじゃ」


「俺もここの金を持ってないからなぁ。金とか銀を換金してくれるところないかな?」


ドン爺が役所で聞いてやるとの事でしばし待ってると、役所で換金をしてくれるらしいので、純金を金貨1枚と銀貨10枚に換金して貰った。


「ゲイルよ、純金をそんなに持っておるのか?」


「山ほどあるよ。でもここで大量に使うと純金の価値が下がるからあまり持ち込まない方がいいと思うんだ」


「それはそうじゃの」


ドン爺とそんな話をしながら食堂に入って何かを食べる事に。


まぁ、昔のウエストランドと似たような食事だ。めぐみは足をプラプラさせながらオレンジジュースだけを飲んでいた。


「で、何を揉めてんの?」


「店で売れるものを作りたいんじゃがな、なかなか上手く伝わらんのじゃ」


話を聞くと見たことがないものを作れと無茶振りをしていた。


「ドン爺、あれは俺が元々の仕組みを知ってたのをおやっさんに説明して作ってたからね。見たこともないものをいきなり作れと言われても解るわけないじゃん」


「しかし、ドワンや他のドワーフ達も器用に作ってたではないか」


「あれはおやっさんの魂が修練を積んだ上での能力だよ。自分でもずっと新しい物を作り出そうとして何度何度も失敗を繰り返して知識を得たから出来たってのもあるしね。ここの魂はまだ若いだろ? いきなり同じ物を求めても無理だよ。せめてドン爺が何かサンプルみたいなものを作ってやらないと」


「しかし・・・ ワシは売るだけで作った事が無いからのう」


「じゃ、ドン爺に料理と道具の仕組みを教えてやるから覚えなよ。この星の時間を止めるから皆には数分間の出来事に出来るからね」


「そんか事が出来るのか?」


「俺にドン爺の星を触ると権限をくれたら出来るよ。後は魔法陣がどんなのか確認出来たらアドバイスも出来るし」


ということで、ショーケースを作ったからそれを見せて貰うことに。



「おっ、爺さん。よく来てくれた。こいつは何だとよく聞かれんてんだ。まぁ大体の値段を言うと驚いて引き下がっちまうがな」


「まぁ、庶民街ではおいそれと買える値段ではないからの。今日はワシも客を連れてきたんじゃ。ちょいとこいつを見せてやってくれんか」


という事で魔法陣の魔力の流れを見てみると仕組みは元の魔法陣とほぼ同じだった。


ほー、ダイアルにも魔法陣を仕込んで温度調整できるようにしてあるのか。俺のはダイアルには仕込んでなかったからな。専用の魔力紙がなければこうする方がいいな。


と、魔法陣を確認したついでに肉を各種購入した。



ドン爺を魔界に連れて行き、星の時間を止めて、ドン爺に料理の特訓をすることに。後は習うより慣れろだ。


それから片栗粉の作り方や砂糖大根から砂糖を取る方法、酒の蒸留方法とかを教えていく。その機械の仕組みも。



「あ、そうだドン爺、俺が居た所の名言があってね、俺はとても重要だと思ってるんだ」


「名言?」


「そう、こんな名言なんだけどね」


~やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ。話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば人は育たず。やっている姿を感謝で見守って、信頼せねば人は実らず~


山本五十六



「やってみせ、か」


「そう、全部の事が自分で出来るわけじゃないから、出来る人を見付けてやってみて貰ってもいいと思うよ」


「そうか・・・ 全部自分でやろうとしても無理なのじゃな」


「長い時間かければいずれ出来ると思うけど。ミーシャに旨い肉を食べさせるのが目的なら、そこだけ特化してやればいいんじゃない? 肉質を上げるのとスパイスと調理方法だけで」


「いや、その・・・」


「ん? 何か他にも問題あるの?」


「この星に魔王がおっての、人間同士の争い防止の役目なのは知っておるじゃろ? それを人間の敵じゃと勇者をポコポコ召喚する奴がおるのじゃ。魔王を倒されては困るから初めは勇者を説得しておったのじゃがキリがなくての。じゃから召喚するやつをこうプチっとじゃな・・・」


「なるほど。で直接来たんだ。代わりに俺達がやってやろうか? 汚魂じゃなければ説得するしか無理だけど」


「いや、そこまで世話になるわけにはいかん。何かある度にゲイルに頼らにゃいかんようになるでの」


「それはそうだね」


「後は魔王がその・・・」


「魔王がどうしたの?」


「実は泣かれてしまってのぅ。何も悪いことをしていないのになぜなら嫌われねばならんのだと。なぜそのような役目を与えたのだと」


あー、なるほど。魔王はナイーブなのかもしれないな。俺はリンクしているラムザゲイルとラムザを呼んだ。


「なっなんじゃ? ゲイルが二人・・・」


「二人どころじゃないよ。各自が専用ゲイル持っててね、うじゃうじゃいるんだよ。で、こいつがラムザ。魔界の魔王であり、俺の妻で子供も生んでくれたんだ」


「おー、ミーシャが言っておった通り、美しくも可愛くもあるのぅ。それにムホホホホホッ」


「こら、ドン爺、人の嫁さんをエロい目で見ないの」


「みっ、見とらんわいっ」


本当かなぁ?


「俺とラムザでどうしてその役目を与えられたか説明しておいてやるよ。ドン爺が言うより第三者が伝えた方が良い時もあるしね。俺もラムザも魔王だから、素直に聞けるってのもあるし」


「ゲイルが魔王?」


「俺は神でもあり、魔王でもあり、人でもあるんだよ。それにドン爺は実体化してるから遠くに行けないだろ?」


「ゲイルは実体化してるのに飛べるのか?」


「俺は魔法が使えるからね。その時の能力がそのまま使えるんだよ。ドン爺も実体化してる間に魔法をもっと使えるように頑張れば使えるようになるよ。実体化が解けるのに50年掛かるから頑張ってね」


「よし、わかったのじゃ。皆を頑張らせるのじゃ。ワシも頑張るぞい」


ドン爺には魔法学校に入って魔法と魔法陣を勉強することを勧めたゲイルであった。




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