第752話 まずは販促
「えっ? 看板とショーウィンドウ? 看板は解るけどショーウィンドウって?」
「どんな物が売ってるか店の中に入って見なければわからんじゃろ? それに看板は目立たねばならん。ライトの魔法陣があればそれが作れるからの」
ドン爺は仕組みを説明していった。
「へぇ、ガラスにライトの魔法陣を組み合わせるんだ」
「そうじゃ。あとはレンズを作れば便利な懐中電灯やへッドライトとかも作れるんじゃ」
「レンズ?」
ロドリゲス商会ではゲイルの考え出した物をたくさん売っていた。父であるザックの教えで、商品説明がキチンと出来ないとダメだと言われてよく商品チェックをしていたのでどんなものかはよく知っていたドン爺。
「魔法陣とガラスはなんとかなるけど、物自体を作ってくれる人が必要だなぁ」
「ドワーフでそんな奴はおらぬか?」
「いることはいるけど、気難しいんだよ・・・」
ということでホーテンが知っている変わり者のドワーフの所へいってみることに。
「なんじゃいっ」
「お前はなんでも作れるかの?」
「は? なんでもってなんじゃい?」
と、作りたいものを説明する。
「ほう、面白いものを作りだすのか?」
「やってはみぬか? 言っておくがこれは手始めの物じゃ。これからもっと色々な物を作らねばならん」
「いいじゃろ。どいつもこいつも下らんものを作れと言ってきおってうんざりしておったとこじゃ」
「ワシはドン爺じゃ。お主の名前は?」
「メガンじゃ」
「では早速、こういうものを作っておいてくれ」
と頼んでおいた。
ハヅキには曲面を描くガラスを作ってもらい、ホーテンにはライトと温度調節機能付きの魔法陣を考えて貰う。
「それぞれ温度が違う魔法陣じゃダメなのか?」
「いや、一つで変えられるように作るのじゃ」
とゲイルが作った温度調節機能付きの道具を説明する。
「こんなの出来るのかよ?」
「作った奴がおるのじゃから可能じゃ。それにこれはオリジナルになるのではないのか?」
「あっ、そうだ。そうだよっ」
「この仕組みを応用すればエアコンとかも全部に使えると思うのじゃがの?」
「あっ、なるほど!」
「温度が違う魔法陣は作れるのじゃろ? それは温度の所が違うだけで中身は同じじゃろ?」
「そうだよ」
「なら、ダイアルにその部分の魔法陣の回路を組み込んでそこに魔力が流れるようにすればいいのではないのか?」
「あっ!」
ドン爺はゲイルに何度か仕組みを聞いていたことがあった。
「ドゥーン、魔法陣ってそんなに難しいもんじゃないんだよ。どう組み合わせるかに気が付くだけでね」
ゲイルはこういう事を良く話していた。大事なのは気付きなのだと。全く新しい物を考えるのは大変だけど、あるものを改良するのも新商品だと。
ドン爺がホーテンに伝えたヒントは発想の転換につながり、ライトなどにも応用されていく。
ドン爺は道具作りを任せて営業に出ることにした。まずは大通りに面した中規模の肉屋だ。
「へいらっしゃい。何が欲しいんだ?」
店には何も展示されてはいないから何があるのか値段もわからない。いちいち何があっていくらなのか聞かねばならないのだ。
「商品を見ることは出来るかの?」
「は? 俺を信用できねぇってのかよ?」
「いや、一目で何の肉がどれぐらいの値段かわかった方がいいじゃろ?」
「そりゃそうだけどよ、それを勧めるのが俺達の仕事じゃねーか」
「それだと接客に時間が掛かるじゃろ? 店員の多い店ならいいが、人数が少ない店は困るんじゃないのかの?」
「人が少ない分うちは安く売ってるんだ。冷やかしなら帰ってくれ。商売の邪魔だ」
「今ワシらは魔道具を作っておる。品揃えと値段に自信があるなら役に立つと思うんじゃがの。それを使ってみぬか?」
「はぁ? 余計な魔道具を買うぐらいならその分人を雇うってんだ」
「なら、その魔道具を貸してやるから一度使ってみよ。賃料は肉でええぞ。それで割にあわなんだらやめりゃええ」
「魔道具を貸す?」
「そうじゃ。見たことも無いものに金を払えんというのはわかっておる。試しに使ってくれればええ。賃料は売れ残った肉で構わん。これならどうじゃ?」
「それぐらいならいいけどよ」
「なら、完成したら持ってくるからの」
そして帰りに役所により税金還付がいつになるか聞きに行った。
「ヨハンっ、ヨハンはおるかっ」
「はっ、はいっ」
「税金の還付はいつになるのじゃ?」
「よ、用意出来ておりますっ」
ほう、仕事が早いではないか。
「うむ、此度の仕事の早さは称賛に値するの。これはちゃんと上申しておいてやろう」
「はっ、ありがとうございます」
「あと、新しい魔道具や商標登録の担当者を紹介してくれぬか? お前のように仕事の早い奴をな」
「はっ、はいっ」
王の威圧を食らったヨハンは直属の部下のように動いてくれるようになった。
税金の還付は金貨2枚と銀貨19枚。これでしばらくやりくり出来るだろう。物を作るのには資金が必要じゃからの。
「戻ったぞい」
「あっ、ドン爺お帰り。どこに行ってたの?」
「営業と税金の還付を貰ってきたのじゃ。ほれ」
「わっ! こんなに払いすぎてたの?」
「5年分じゃからの。これは商品を作る為の資金にするのじゃ。ホーテンの給料はまだあまり払ってやれんがメガンには払ってやらんといかん。物を作るには金が必要じゃからの。それに今作っているものは売り物ではなく、販促物として使うから金は取れん」
「販促物?」
「そうじゃ。ワシらが作っていくものは使い方も効果もまだ誰も知らぬからの。使い道と効果を知ってもらうのが先じゃ」
「へぇ」
そしてメガンの所に行き、今回作るものの値段を聞きに行った。
「なるほど、こいつは売るわけじゃないんじゃな?」
「そうじゃ。次からは売るがの」
「なら俺も材料費だけで構わん」
「構わぬのか?」
「どれぐらい売れるか知りたいからの。すぐに売れる物もあるのじゃろ?」
「あぁ、懐中電灯とベッドライトは単価は安いがそこそこ売れるじゃろ。馬車用のライトとかも売れるじゃろうしの」
「登録はどうするんじゃ?」
「まずは名前を考えねばならんじゃが、何か希望はあるかの?」
「それは好きにしてくれ」
ドン爺は店に戻ってハズキとホーテンと相談する。
「じゃあ共同でやるんだからみんなの名前を入れようよ」
「そうじゃの」
ということで、現在のハヅキ雑貨店から名前を変更することに。
メガンドンジイホーテンハヅキ店
少々長いから少し省略する。
【メガドンジホーテハヅキ店】
これで決定。魔道具から雑貨まで扱うなんでも屋だ。
出来上がったショーウィンドウを丁寧に肉屋に運んでいく。
「は? 魔道具ってこんなにデカイのかよ?」
「魔石はそっちで用意するのじゃぞ」
「わ、わかった」
「ほれ、この中の棚に肉をいれるのじゃ。肉の種類、部位の名前、値段を書いて展示すればええ。ここで温度調整も出来るのでの」
「はぁー、これなら説明しなくても客が見たらすぐに分かるってか。なるほどな。爺さんが言ってた意味がわかったわ」
「じゃろ?」
「この棚に書いてるのはなんだ?」
「この魔道具の広告じゃよ。この棚の事を聞かれたらワシらの店の事を話してくれ。その手間賃込みの貸付じゃ。それが煩わしくなったら購入しても良いぞ。このショーウィンドウは金貨2枚じゃ」
「そんな高ぇもんなのかよっ」
「当たり前じゃ。どこにこんな魔道具があるというのじゃ。これでも安くしておるのじゃ」
「おっ、おう。確かにそうかもしれん。取りあえず今日は好きな肉を持っていってくれ」
ということで、牛肉を貰って帰った。
「わっ、今日はご馳走だね」
「これから肉は毎日のように手に入るからの。メガンも一緒に食おうではないか。前祝いじゃ。そのうちゆっくりと飯も食えんぐらい忙しくなるでの」
と、4人は塩だけで味付けしたステーキを思う存分食べたのであった。
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