第745話 想いを引き継ぐ
先に今のエデンの代表者に会いに行く。
「そうですか。エルフ達を救って下さった話は全て伝えられております」
「昔のここの通貨たくさん持ってるんだけど使って問題ない?」
「全く問題ありません。それと世界中に困っている同胞がいましたら是非ここに連れて来て下さい」
「分かった」
これで許可を取ったので、孤児院兼学校兼老人ホームみたいな物をつくる。この世界の人は突然逝くから介護とかほぼ必要がない。が、子供達と一緒にいたい人は多いはずなので先生をしてもらったり、面倒を見てくれる人が一緒に住んでくれればいいと思う。モモのようにおじいちゃんおばあちゃんに可愛がられる経験もさせてやりたいからな。
地震と津波対策を取った建物と運動場、体育館、図書室、室内プール、職業訓練を兼ねた調理室、家庭科室、剣や魔法の稽古場なんかを作っていく。窓や家具は発注した。全て完成するには1年は掛かるだろう。
思った通り、キラキラショップはあの騒動以降閑古鳥が鳴いてしまい閉店した。
ようやくエデンの建物が完成したあと皆でそちらへ移転する。キラキラ孤児院は閉院したが、孤児院には立て看板を立てておいた。
<迷える子供達よ。自分の力でどうしようもできないときはこの扉をあけなさい>
孤児ではなくとも親に可愛がられない子供や虐待を受ける子供もいる。そういう子供達が自分の意思でエデンに来られるようにしておいた。扉は工夫を重ね、本当に魂が苦しんでいるものだけに反応するようにしておいた。俺とチルチルの合作だ。
そして、エデンのキラキラハウスと名付けられた施設は子供や年寄り達が集まりだす。
「ぼっちゃん、これはもう一つの街みたいなもんだな」
「あぁ、いいんじゃないか? 自給自足も出来るし、ここで学んだ事を自分達の国に持って帰ってくれれば」
「そうだな」
モモ達は成人して大人になっていき、キラキラハウスで働いている。毎日が大変だけど楽しそうにやっている。
もう、俺達が何かする必要はないなと思っているときにデーレンとポットが倒れた。
「デーレン、ありがとうな」
「うん、最後までゲイルといられて嬉しかった・・・ でも、昇華は無理かも・・・ やっぱりゲイルの事が・・・」
「何言ってんだ。必ず戻って来い。ちゃんと待っててやるから」
「いいの?」
「あぁ、また楽しくやろう」
「分かった、約束ね」
「ポット、ちゃんと戻って来てね。ずっとあなたの作ったケーキを食べたいわ」
「マ、マリさん・・・」
「約束ね」
チュッ
ジョンはマルグリッドがポットにお別れのキスをするのを見て見ぬふりをした。ポットは死ぬ直前までマルグリッドにケーキを作り続けた純愛を知っていたからだ。
そして、デーレンとポットの魂は昇華していった。
「良かったな。ちゃんと昇華してくれて」
「うん、本当に良かったよ」
子供達や年寄り達には見えていなかったが、二人が微笑んで逝ったのを見て、俺とダンの言葉を噛み締めているようだった。
それからキラキラハウスでは色々教えてくれて可愛いがってくれた年寄りを子供達が見送る。いずれ魂が昇華しますようにと祈りながら。
キキララはチャンプと世界中を駆け巡り、孤児達や迫害されているエルフや獣人達を連れてくる。そして、キラキラハウスで育った者達は元の国に戻ってその国の発展に尽くすようになっていった。
そろそろ皆の実体化が解けるころ、ドワンからアーノルド達が帰還したとの連絡が入った。
「ゲイル、もうアーノルドさんと闘う必要なんてないんじゃないの? ここでずっといようよ」
「そういう訳にはいかないさ。これは父さんの意地と俺の本能の戦いだからね。ちゃんと決着を付けないと」
シルフィードは俺を心配してそういう。確かにここにいると誰もがそう感じるのかもしれない。だが、そういう問題ではないのだ。
「ぶちょー・・・」
「めぐみも心配すんな。俺はチャンプより強いんだろ?」
「うん♪」
「ゲイルよ、キキとララには知らせなくていいのか?」
「あぁ、言ったら見に来るだろ? 巻き添え食ったら死ぬかもしれんからな。このまま行く。ラムザもめぐみもシルフィも留守番しててくれ」
「ダメ、絶対に見届けるのっ」
「なら、ゲートだけ開いてそこで見ててくれ。絶対に近付くな。俺も本気を出せなくなるから」
「パパ、私も・・・」
「いや、モモは見に来てもダメだ。危な過ぎるからな。必ず帰ってくるからここを頼む」
もう俺達より歳上に見えるモモは心配そうだ。たくさんの男に言い寄られても全く相手にせず、独身のままキラキラハウスで働いていた。俺より強い男じゃないとダメだそうだ。こりゃ独身決定だな。
ドワンの星に移動してアーノルドと久しぶりに会う。
「よう、ゲイル。よくもまぁあんなくそ意地の悪い仕掛けを作ったもんだな」
「モンスターハウス楽しかったでしょ?」
「うるさいっ! 何十年落とされ続けたと思ってるんだっ」
「飛べるようになった?」
「あぁ、だからクリアできたんだ」
アーノルドは理解していた。ゲイルはアーノルド達を飛べるようにするための仕掛けであったことを。
「じゃ、いつにする?」
「実体化が解ける前だ。せっかく実体化したまま飛べるようになったのが無駄になるだろがっ」
「了解。じゃ、魔王城で待ってるよ。ただ空中にも魔法陣があるかも知れないから気を付けてね」
と、惑わす一言を言っておく。飛んだまま魔王城に来られたらせっかくの仕掛けが無駄になるからな。
相変わらずアイナを見ると魂がキュッと痛む。本能だと解っていてもアーノルドと戦うことでこれは解消されるのだろうか?
アイナとは話さず、手だけを振って魔王城に戻った。
「ゲイルよ、震えておるのか?」
「怖いのか武者震いなのかわかんないね。楽しみでもあり、怖くもあるね」
アイナに魅かれる本能が失われるかもしれないというのが魂も理解しているのかもしれない。これはめぐみの想いが失われてしまう怖さだ。今のめぐみにはそんな気持ちはないだろうが、この魂にはそれが刻まれているからな。
「ぶちょー・・・ 死なないよね?」
「大丈夫だ。俺は魔神だからな」
俺はめぐみに嘘を吐いた。俺はもしかしたら負けると死ぬかもしれない。人ゲイルが死んだら神ゲイルと魔王ゲイルは生き残るのだろうか?
そして、魔王城でめぐみとラムザとシルフィードがそれぞれのゲイルを独り占めし、アーノルドが来るのを待ち続けた。
そろそろ実体化が解除されるだろう。めぐみとゼウちゃんは皆が解けたあとも暫く実体化したままだけどね。
そして、ついにアーノルドがやって来た。気配を隠すつもりもないようで、正面からだ。めっちゃ気合い入ってる。アイナは離れているので、俺とアーノルドの一騎討ちを望むようだ。
「父さん、勝ち負けの基準はどうする?」
「アイナが決めればいい。元々その為の勝負だからな」
「了解。ラムザ、二人を頼む。ゲートも離れた所に設置して置いてくれ」
ラムザがめぐみとシルフィードを連れて行ったのを確認して勝負が始まる。
アーノルドは目に追えないスピードで動くだろうから思いっきり強化してそれに備えた。
始まりの合図はないが阿吽の呼吸で勝負が始まる。
俺はまず距離を取る。アーノルド相手に接近戦は不利過ぎるからな。アーノルドは絶対に追ってくるので、土壁を出しながら距離を取った。
「ねぇ、ラムザ。今何をやったの?」
「アーノルドは瞬時に攻撃してくるからな、ゲイルは距離を取って戦うつもりなのだろう」
まだ全力でないゲイルとアーノルドの戦いでもラムザがギリギリ見えるぐらいのスピードであった。
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