第740話 普通でいること
ジョンとマルグリッドを送った後にダン達が来た。
「あー、なるほどな。ゲイルこの子やろ?」
寝てるモモを見つけてミケがすぐにそう言った。
「本当に女神さんとの子じゃねぇんだよな?」
「違うって」
「しかし、めぐみとこうやって寝てたらママと子供にしか見えへんな。もうあんたらが育てたらええんちゃう? なんかの縁やでこれ」
モモの事はめぐみもよく可愛がってる。めぐみはこうバランスとか平等にとかそんな事はできない。気に入った魂だけを構うのだ。
「いや、他の子供の事もあるしね。モモだけを・・・」
「孤児院はな、養子に貰われていく子もおんねん。そやから別にかまへんと思うで。他の子も貰われていくこともある。孤児とはそういうもんや。他の子もそれを喜んでくれるもんや。ここにいるのは皆仲間やからな」
「そういうもんなん?」
「そういうもんや。変な目的で養子に欲しいとかもあるから気ぃつけなあかんけどな」
「ゲイル、みんなの言う通りじゃないかな? モモはゲイルとめぐみさんの事を本当の親だと思ってるみたいだし、この子の魂はそろそろ・・・」
俺もそれは気付いていた。もう寿命を迎えているのだ。今世か来世だろう。壊れるか昇華するかはわからない。けど、このまま育てたら昇華するかもしれない。
「パパ、私達の事は気にしないでいいよ。モモがパパの子供になっても私達のパパには変わりないでしょ?」
「そうだ。この子を育てるなら我はキキとララを手伝っておこう。その間はめぐみと二人だけの夫婦として過ごせば良い。シルフィードもそれぐらいは待てるだろう?」
「そうだね。私達はこれからもずっとずっと一緒にいられるから」
「だけどさぁ、お父さんお母さんがずっと歳とらないのも変だし、子供に俺たちの存在を秘密にしてるのもなぁ」
「もう少し大きなったら言うたらええねん。神様がパパママで嫌な子なんておらんやろ?」
皆は問題無いと言う。俺の感覚の方がおかしいのだろうか?
翌日、キキとララが子供達にモモの事を知らせることに。
「モモ、こっちにおいで」
モジモジッとキキララに近付くモモ。
「ゲイルパパとめぐみママの本当の子供になりたい?」
コクン
「だって。パパ達もいいんだよね?」
「モモ、俺達と一緒に来るか?」
「うん♪」
(娘を宜しくお願いします)
えっ?
あぁ、モモの両親は孤児院にいるより俺達に託したかったのか・・・ 俺達なら普通の人間より格段に安全だからな。両親は娘を残して逝ってしまってさぞ無念だったろう。ちゃんと代わりに育てるからね。
「よし、モモ。今からパパとママと呼んでいいぞ」
「パパっ」
ギュッ
俺はまたメロメロに甘やかしそうだな。
他の子供達もおめでとうと祝福してくれた。
「ぼっちゃん、ここはしばらく見といてやるからよ。親子であちこち行って来いよ。色々な経験させてやれ。ここの金も心配すんな。こいつらが自分達で稼げるようにしてやるからよ」
「いつもありがとうなダン」
「ゲイル、その代わりにウチらの星見といてーな。サバとタコ増やしといてや」
「解った。ワンサカ増やしといてやるよ。まぁ、ここにはちょくちょく来るから魚とかは持ってくるよ」
「チルチルはどうする? 一緒に来るか?」
「ううん、ダン達とここにいる」
「ポットとデーレンはどうする?」
「私はここに残るわ。ポットは?」
「ゲイルさん。またケーキの材料お願いしていいですか? マリさんもここにいるみたいなんで」
「じゃ、あっちのまるごと持ってくるよ」
キキララとラムザがいるので、俺がいなくても向こうと出入り出来るからいいか。
そして電話をラムザとシルフィードに作って渡しておいた。
「デーレン、お前にはこれを渡しておくわ。なんかあったら押せよ」
「うん」
デーレンはSOS発信器を嬉しそうに受け取った。
そしてモモを連れてドワンの元へ向かう。
「あら、めぐみ。子供産んだの?」
「へへへっ」
「いや、この子は養子だ。モモって名前だよ。この子達の両親にも宜しくと言われたから俺達の子供として育てるよ」
「へぇ、ねぇドワン。私達も縁のありそうな子を養子に貰う?」
「なっ、バカっ。ワシらは夫婦じゃ・・・」
ドワン真っ赤だな。
「おやっさんにも電話渡しておくよ。父さん達が帰ってきたら連絡くれる?」
「お主らはどこに行くんじゃ?」
「エデンで暮らすよ。あそこは子育てにもちょうどいいから。住民登録もしないといけないしね」
「そうか。ならしっかり育ててやれ」
「うん、じゃまたねおやっさん」
ポットのお菓子の材料を持って孤児院に戻り、皆にエデンにいることを伝えておいた。
「パパ、ママ。ここが新しいおうち?」
「そうだよ。みんなのいる場所の方がいいか?」
「ううん、パパとママがいればどこでもいい」
晩飯はハンバーグにしてみた。
めぐみとモモがあーんするので二人に食べさせる。お風呂も3人一緒だ。
こうしてると自分が普通の人間に戻ったような気がする。もしかしたらめぐみもこういう体験をしてみたかったのではないだろうか? ふと孤児院に差し入れしようとか思ったのはモモと会うためだったのかもしれない。
めぐみとシルフィードは子供を産むことはない。シルフィードは
エデンで3人の住民登録をして町の中の家を借りた。モモには普通の生活をさせてやりたい。俺達の生活は異常だからな。
元気なおじいちゃんおばあちゃんが多いこの町はきっとモモの情操教育にもいいだろう。
町中をモモを真ん中にして手を繋いで歩く。
「あら、いいわねぇ。新しく引っ越してきたのかしら?」
「はい、宜しくお願いします」
モモは俺の後ろに隠れる。
「あらー、まだ知らない人が怖いのね」
「スミマセン人見知りなもんで」
「いいのよ。お嬢ちゃん名前はなんていうの?」
「・・・モモ」
「あら可愛い名前ねぇ。ママとそっくりで本当に可愛いらしいわ。ねぇあなた達、うちで晩御飯食べて行かない? 旦那と二人で寂しいのよ」
「え? いいんですか?」
「ぜひ来て頂戴っ。私はスーザンというの」
「自分はゲイルです。妻はめぐみといいます。妻はあのちょっと常識がなくてご迷惑を掛けるかも知れませんが」
「ちょっとー、私のどこが常識ないのよ」
「全部だ」
ぶぅーと膨れるめぐみ。
「やっぱり若いっていいわねぇ」
ご婦人にはバカ夫婦に見られたんだろな・・・
「なぁ、ミケ。ここ孤児院だよな?」
「ほんまゲイルは常識ないわ」
温度調節機能付きシャワーと風呂、ドライヤー、シャワートイレ、エアコン、魔導コンロに魔導オーブン、冷蔵冷凍庫、洗濯機に乾燥機etc
下手な貴族の屋敷より最高級設備が整った孤児院になっていた。
「えー、お二人の結婚記念日だったんですか? そんな時にお邪魔して申し訳ありません」
「いーのよっ。二人で食べるよりこうして子供と孫がいてくれた方が嬉しいのよっ」
「ほー、ゲイルくんというのかね。ここの神様と同じ名前だね。これは縁起がいい。奥さんも女神様みたいに美しいし、お嬢ちゃんもママに似て天使みたいだねぇ」
ご主人はヘンリーさんだ。お金持ちそうだな。借りた家から二人の家はまぁまぁ近かった。
「ヘンリーさんとスーザンさんはお酒飲めますか?」
「あぁ、昔みたいにたくさんは飲めんがね」
「では、こちらを今日のお礼とお二人のお幸せに」
熟成シャンパンとブランデーを渡しておいた。
「おぉ、魔道バッグをもってるのかね? 若いのにたいしたものだ」
「職業柄必需品な物で」
「失礼だが何をされているのかな?」
「冒険者をやってます」
「なるほど。魔道バッグを持てるぐらいのランクか。それは素晴らしい。早速頂いた物で乾杯させて貰ってもいいかね?」
「どうぞどうぞ。もう飲み頃のシャンパンですから。もう少し冷やしましょうか?」
「ん? 冷やす?」
「俺、魔法使いなんですよ」
と、土魔法でワインクーラを作り、氷をがらがらと入れる。
「これで少し待って頂ければちょうどいいと思いますよ」
「魔法は無詠唱かね?」
「そうですね。詠唱なくても発動するんですよ。誰でも使えるんですよ魔法って」
「君の冒険者ランクは何かね?」
「Sです」
「本当にSランク冒険者が存在してたのかね・・・」
「魔法を色々と使えるとそれなりに戦えますからね。そろそろシャンパンが飲み頃ですよ。お注ぎしますね」
二人にシャンパンを注ぐと俺とめぐみにも注いでくれた。
「わぁ、このシャンパン美味しいわねぇ」
「本当だ。こんな旨いのは初めて飲んだぞ。これはどこのシャンパンなんだ?」
「ボロン村という所の特別な葡萄から作られたものですよ。もう一つのブランデーも同じ葡萄から出来てますよ」
「ほう、聞いた事のない村のものか。それは貴重な物を頂いて申し訳なかったな」
「いえ、美味しいと言って頂けて良かったです」
そして奥さんの手料理は美味しかったが、めぐみは案の定モモと一緒にあーんした。
「す、すいませんバカ夫婦で」
「やっぱり若いっていいわぁ。あなたにもあーんしてあげましょうか?」
ヘンリーも真っ赤になりながらあーんして貰ってた。いい歳の取り方してる夫婦だな。
お招きにお礼を言って帰るときにいつでも遊びに来てねと言われたので、次は招待しますと言っておいた。魚でも釣りにいくかな。
「ねぇ、ぶちょー」
「なんだ?」
「どうしてあなたって呼ぶの?」
「なんでだろうな? 旦那さんの事を奥さんが呼ぶ時にそう呼ぶ人多いと思うぞ」
「ぶちょーは私の旦那なの?」
「まぁ、そうなるな。人間の仕組みだから俺達にそういうのないけどな」
「じゃあ、あなたって呼んで欲しい?」
めぐみにあなたと呼ばれるのを想像してみる。
「ねぇ、あなた。あーん」
なんか照れ臭いな・・・
「いや、ぶちょーのままでいいよ」
「ふーん」
そんな話をしながら寝てしまったモモをおんぶしてめぐみと手を繋いで帰った。
本当に普通の人間みたいだな。
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