第739話 繰り返してはいけない

「お前達が頑張ってるのに口を出す気はないんだけどさ、ここにお父さん役が必要かもしれんな」


「うん、それは私たちも思ってた。モモがパパに甘えるのをみてやっぱり何か違うのかなぁって」


「俺は子守スキルがあるからな、その影響もあると思うぞ。ダン達にここを手伝って貰うか?」


「ポットさんとデーレンさんはしばらく居てくれるんだよね?」


「あぁ、子供達でも出来るお菓子とか計算とかの勉強見てくれるみたいだぞ」


「じゃあパパ達もしばらく居てくれないかな? 私達と何が違うか見てみたいの」


「そっか、しかしパパのは子供をダメにするかも知れんぞ。甘やかすからな」


「なら我がその分厳しくしつけてやろう。二人でやればバランスが取れるというものだ」


「私は何が出来るかな?」


「薬草採取とか裏庭に畑とか作って自給自足出来るようにしてやるか」


「わたしはー?」


「めぐみはそのままでいい。なんも出来んだろ?」


「失礼ねっ。何でも出来るわよっ」


「じゃあ、何が出来るか言ってみ?」


「・・・・・・」


「子供達と遊んでろ。それが子供達の幸せだ」


こうしてしばらく孤児院を手伝う事になった。めぐみが俺に甘えるものだから、子供達もこの人に甘えていいんだと感じるようで皆べたべたと甘えに来るようになっていった。


男の子にはバトルごっこだ。結構容赦なくこてんぱんにやっつける。怪我をしてもシルフィードやキキとララが治してくれるからな。


そこへラムザも混ざる。俺より容赦ないが男の子達は少し嬉しそうだ。変な道に目覚めないでね。


午前中はデーレンがお勉強を教えて、お昼ご飯はみんなで作る。


その後畑をやったり、薬草採取に出掛けだり労働というものを教えていく。年齢は関係なしだ。それぞれにできる事をさせていく。


ホットケーキやクッキーなどを作って食べたり小さい子はお昼寝させたりとやることが盛りだくさんだ。よくキキとララだけでやってたな。


「色々とやることが多いね。私達はご飯作るので精一杯だったのに」


「二人だとしょうがないよ。まず食べられるのが先決だからな」


「でもみんなに来て貰って良かった。みんな明るくなったもん」


お昼寝から目覚めた子達がわらわら寄ってくる。何をするでもなくただくっついてくるのだ。親が居なくなってしまった小さい子は心のどこかに不安を持っている。無意識に守ってくれそうな人に寄り添って来るのだろう。


特にモモは俺にベッタリとするようになった。依存させないように気を付けなればいけないけど、心の傷が癒えるまでは好きにさせてやろう。


モモは俺をパパと呼ぶので、ゲイルパパだよと毎回訂正しておく。


めぐみにもママと呼ぶのでめぐみママだよと訂正する。


他の人にはシルフィママとかポットパパと呼ぶのに。俺とめぐみにはパパママ呼びをするのだ。だんだん、本当に俺とめぐみの子供なんじゃなかろうかと錯覚しそうになる。


ここは孤児院。それぞれの心には傷が残ってるはずだ。誰か一人だけ特別扱いというのも宜しくないと思うけど、モモは俺を独り占めできるタイミングを見てやって来る。それがとてもいじらしいのだ。


夜に皆を寝かせた後にダン達に孤児院でどうしてたか相談してみる。


「ぼっちゃん、孤児院手伝ってんのか? ぼっちゃんには無理だろ?」


「どうして?」


「子供達の心に寄り添い過ぎるだろ? 親代わりではあるが親じゃねーからな。どこかで線を引かねーとダメなんだよ。ずっと面倒みてやれるわけでもねぇしな」


「ゲイルは陰残す子ほっとかれへんやろ? 状況聞いたらこの子の方が辛いやろなとか思うのはこっちの意識や。子供らに取ったらみんな同じ傷やさかいな。それぞれの性格とか考慮はしたらなあかんけど、ちゃんと独り立ちできるようにしたるのが役目やねん。辛さ隠すの上手い子もおるしな。だからこの子は大丈夫とか思たらあかんで」


なるほど。さすが2回の人生を孤児院運営してただけのことあるな。


「それにあんたは幼心に恋心を植え付けるからな。チルチルみたいになんで」


そうだよな・・・ この魂はそういう性能があるからな。


「ぼっちゃん、チルチルを連れてけ。後は交代でジョン達とかブリックとかもな。色々な人と触れてぼっちゃんだけに染まらんようにした方がいいぞ」


「あぁ、アドバイスありがとう。そうしてみるわ」


という事でチルチルを連れて帰る。



「へぇ、結局繋がり持つんだ?」


「まぁ、差し入れだけするつもりだったんだけどね」


そう、俺はまた繋がりを持ってしまったのだ。ダン達の言うようにどこかで線を引けるのだろうか?



孤児院に到着してキキとララに交代で皆を連れて来ることを説明する。


「うん、他の人にも慣れた方がいいから助かる。宜しくねチルチル」


「私も捨てられて生贄にされたからね。この子達の気持ちも分かるよ。ゲイルが助けてくれたの本当に嬉しかったもん」


そういって俺に腕を組むチルチル。で、めぐみと一緒に寝てるモモを見て驚く。


「えっ? ゲイルとめぐみの子供?」


「いや、違うよ」


「あー、びっくりした。めぐみがいつの間にか産んだのかと思った。血が繋がってると言われても信じちゃうかも」


確かにめぐみを子供にしたらこんな感じになるだろう。


「この子は両親が魔物に殺されたところを救出されたみたいでな、初めは笑えない、話せない状態だったんだが、最近はよく微笑むし、話せるようにもなってきたんだ」


「なるほど。ゲイルが怖いところから連れ出してくれたんだ。私と一緒だね。他の人も助けてくれる人だと思えるまで時間掛かるとは思うけど、ここにいるみんななら大丈夫じゃないかな?」


「お前はいつから俺の事が好きだった?」


「助けて貰った時からずっとだよ。この子もそうなるんじゃないかな?」


「ならあまり俺が構わない方がいいな、やっぱり」


「いや、構ってあげて。叶わない恋心でもあると嬉しいから。全部無くなってそれすらもダメとか言われたら生きて行くの辛いから・・・」


「うん、なんとなくそれは分かる。私もゲイルが他の人と結婚するまででもいいから一緒に居たいと思ったもん」


「シルフィはちゃんと次に結婚できたでしょっ。私なんか永遠にこのままなんだからねっ」


「あ、なんかごめん・・・」


「でもすぐ側に居られるからいいの。それすらもダメとか言われたらもっと嫌だもん。ね、ゲイル。ずっと側に居てもいいんだよね?」


「お前がそれでいいならな」


「じゃ、祝福して♪」


チュッとしておいたが、本当にいいのだろうか?



翌日、チルチルは孤児達の扱いが上手かった。


文字を覚えるのにカルタで遊び、文字のパズルなんかも作ってやった。楽しく学んで欲しい。そして、ジョンとマルグリッドも連れてきた。


ジョンは剣を披露し男の子達の憧れとなり、マルグリッドはお姫様みたいで女の子達の憧れになっていった。


モモは相変わらず嬉しそうに、にっこり笑って手を繋いで来たりする。



今日は子供達を連れて街にお買い物に。少しお金を持たせて自分達で好きな物を買わせてみよう。と言っても屋台だけど。


お小遣いを貰って嬉しそうに走っていく子供達。


そして事件が起こる。



「ちゃんと払っただろっ」


俺を呼びに来た子供が屋台の親父と揉めてると言ってきた。


「どうした?」


「このくそ親父が金払ったのに知らないとか言うんだよっ」


「おい、親父。なぜ商品を渡さん?」


「けっ、こいつはかっぱらいの常習犯だったんだよっ。どうせこの金もどっかからかっぱらって来やがったんだ」


「この金は違うっ」


「今日はちゃんと払ったんだな?」


「キキララママの所に行ってからかっぱらいなんてしてねーよっ」


「親父、この子達には社会勉強として俺達がお金を持たした。怪しい金じゃない。ちゃんと商品を渡してやれ」


「これまでに何度もかっぱらわれてんだ。これでも足りねぇぐらいだ」


「どれぐらい盗まれた?」


「今まで金貨1枚分は盗まれたねっ」


「そんな大金になるわけねーだろっ」


「金貨1枚だな。ほら、俺が代わりに払ってやる。その代わり金貨1枚が嘘だったら、お前の腕を貰う」


「はっ?」


「俺はSランク冒険者だ。貴族並の特権を持っている。その俺から詐欺を働こうとしてるんだ。腕が無くなるぐらい当たり前だろ?」


「えっ、いやあのその」


「ほら、早く受けとれ」


「すっ、すいませんっ」


「本当はどれぐらいだ?」


「銅貨15~20枚ぐらいです・・・」


「じゃ、利子込みで銀貨で払ってやる。これでいいな?」


「はっ、はい」


「この子らが犯した罪は罪だ。だがな、同じ地域の子供達の事をちょっとは応援してやれ。今は全うに生きようとしてるんだ。それを導いてやるのが大人だろ?」


「へ、へい・・・」



「ゲイルパパ、ごめんなさい」


「いや、食うもんなくてやったんだろ? 怒らないよ。あとどれぐらいやったか覚えてるか?」


「うん」


「他にもやってたやついるか?」


「多分・・・」


「じゃ、帰ったらみんなに今までやったことを話して貰おう。それでそこに謝りにいこう。俺が一緒に行ってやるから」


「ゲイルパパ、ごめん」


俺に抱き付いて泣きながら謝る男の子。


「大丈夫だまだやり直せる」



そして孤児院に戻り今までやったことを告白させた。


「じゃ、明日皆で謝りに行こう」


「ゲイルパパは怒らないの?」


「お前達がやった事は犯罪だ。それは解ってるな?」


「うん」


「ちゃんとそれを反省して二度とやるな。初めはお腹が空いてやむを得ず盗んだんだろうが、だんだん慣れて盗んで食えばいいやとかになってただろ? それを続けていくと魂が汚れ、やがて落ちないぐらいの汚れが付く。そうなればお前達は俺の敵になる。俺にお前達を殺させないでくれ・・・」


キキとララは俺の言葉を聞いて泣いていた。


翌日、子供達を連れてかっぱらいをした所にお詫びをしてまわり、代金を支払っていった。


そして吹っ掛けてくる所にはきっちり脅しを入れておく。それでもたかろうしたやつは魂を掴んでやった。


「俺に嘘が通用すると思うなよ。それでもシラを切るなら俺の敵になると思え」


「すっ、すいませんっ、すいませんっ」


「お前の魂は汚れてる。これ以上汚れたらお前は敵だ。よく覚えておけ」


子供達は俺の怖い一面をみて怯えた。悪者になったら本当に殺されるのだと。



孤児院に戻ってもう一度子供達に話す。


「お前達のやった罪は消えない。何か事件があったら疑われるかもしれない。やってないと言っても信じて貰えないかもしれない。それはお前達が犯した罪の報いだ。それは分かるな?」


みな下を向く。


「でもな、罪は消えないが償う事は出来る。ちゃんと反省して二度とやらないと自分に誓え。そして疑われた時にやってないならやってないと言え。皆が信じなくても俺達は信じるから」


そう伝えると子供達も泣いていた。


その気持ちを持ち続けて真っ直ぐに育って欲しいとゲイルは願うのであった。


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