第730話 下らん意地も大切
「おやっさん、星をほったらかしでいいの?」
「うるさいっ。いまバイクを作っとるんじゃっ」
何回作り直しても俺に勝てないドワンは何度もチルチルとバイクを作り直していた。
バイクのせいじゃないのにね。
ちなみにあの勝負の翌日に海水浴に行った。アイナにビキニなんて着せるんじゃなかったと後悔した。アーノルドに終始睨まれている海水浴なんて全然楽しくなかったのだ。そんなに必死になるならとっとと元に戻れよ。
もうアーノルドが鬱陶しいのでラムザに膝枕して貰いながらお昼寝をした。めぐみは俺の膝で寝る。これ、ラムザからしたら俺もめぐみも子供みたいな感覚ではなかろうか?
こうしてドワンとチルチルとゼウちゃんはバイクを作ると言って来なかったのがいまだに続いてるのだ。
「まだしばらくここにいるならちょっとカスの所にも行って来るわ」
「えー、まだカスの所にいくのー?」
「一緒に行くか?」
「嫌っ、また怒鳴るもん」
まぁ、カスとめぐみは合わないからな。
という訳でカスの所へ。俺の魂の履歴を見てもらうのだ。自分がアイナにあれだけ魅かれる理由をどうしても知りたい。
「よおっ!」
「またなんか作るのか?」
「いや、俺の魂の誕生からの履歴見れる? ゼウちゃんに見て貰おうと思ったら変異しててわからないらしいんだよね」
「別に記憶あるところからで問題無いだろ?」
「いやどうしても知りたいことがあってね」
と面倒臭そうなカスに酒と焼き鳥を手土産に頼んだ。もしゃもしゃとそれを食べながら調べてくれる。
「ん?」
「どうした?」
「お前の魂は元々あほのところの物だな」
「えっ?」
「しかも手作り魂だ。おまえ、あのあほに直接作られた魂だ」
「願いを込めて作るって言ってたやつ?」
「そうだ。元々初期配置の時に作るやつなのに、文明が何度か滅んだ後に使ってやがる」
「アイナの履歴は分かる? もう魂が昇華してるからこっちで見れないんだよ」
俺の過去のログから見てアイナを教えてカスが見る。
「こいつもあのあほが作った手作り魂だな。お前の魂とセットで作ったみたいだ」
と過去ログを見ていく。
適当なめぐみはせっかく作った魂を適当に生まれるようにしたみたいで俺とアイナの魂は違う大陸に生まれて出会う事はなかった。ただお互いを探すかのような動きをしている。恐らくつがいとしてめぐみは作ったのだろう。2度の人生を二人とも独身で終えている。二人とも異性からとてもよくモテる。が、つがいとなる相手を探し誰とも結婚をしなかった。アイナは言い寄って来る異性から身を守る為に力を付けていってたようだ。ただぶちのめして治療してやるというのを続けていた。
アイナは3回目の人生でアーノルドの魂と出会う。めぐみはなかなか出会わない俺達の代わりにもう1つ魂を作った。アイナを守る為の存在として。
アーノルドの魂が配置されると俺はめぐみの星からいなくなった。めぐみが手作り魂だと気付かずにゼウちゃんに渡したのか、結果を残さなかった魂なんていらなーいとなったのか不明だが。
「手作り魂ってモテるんだな?」
「子孫を繁栄させるものだがらな。異性を魅き付ける要素を持たすのは当たり前だ」
なるほど、めぐみの星で生まれ変わってからモテてたのはそのせいか。ゼウちゃんのところではその効果はあまり発揮しないようで、普通の魂と変わりない。ゼウちゃんの所でも俺の魂はアイナの魂を探しているような感じで独身で生涯を終えて、
アイナはアーノルドの魂に守られながら生涯を終え、次の人生で結婚。それをもう一度繰り返して次で俺を生んでいる。
お互い求めあった魂が親子とはいえ、ようやく出会い。アイナの魂は満足して昇華したってところか。
改めて自分の魂の過去を見てよくわかった。俺とアイナの魂はお互いを求め合いながら男女として出会う事がなかったのだ。
俺がめぐみを守りたいと思うのはめぐみの想いを直接込められて作られたからに違いない。きっとめぐみは自分の理想像を思い浮かべて魂を作ったのだろう。まぁ、それを他の魂と一緒に適当に渡すとかめぐみらしいが。
あのシルフィに対する想いやめぐみを守りたいという想い、アイナに対する感情もすべてはプログラミングされてたって事か・・・
「ラムザも手作り魂か?」
「そうだ。ショボい能力の奴が近寄らないようにしてある。お前達がなぜ魅かれあったのかまではわからん。手作り魂同士というのもあるかもしれんな」
他のも見てもらおうかと思ってやめた。知ってどうなるものではない。
「ありがとうな。色々と疑問が解けたよ」
「その割には浮かない顔だな?」
まぁ、全部プログラミングだと思うとね。
「1つ言わせて貰うと、いくら魂に願いを込めて作ってもその通りになるとは限らん」
「え?」
「うちのオスとメスを見れば分かるだろ。星の生物がどう動くかは俺達の手から離れる。手作りであろうと無かろうと星を発展させてくれという願いはこもってる。後はおまかせだ。お前みたいなイレギュラーも生まれてきたりと想定の範囲を大きく越える者も出てきた。そしてその生物からこちらにも影響を与えるようになってきた。面白いとは思わんか?」
「まぁ、そうだな。ありがとうな。またなんかお供え持ってるくるわ」
「おうっ」
カスも気を遣ってくれるなんて生物的な発想するようになったな。
皆の元に戻るとめぐみが飛んできてべたべたする。まぁ、これがプログラミングされたものでもいいや。こいつの笑顔を見てたら幸せだ。
シルフィと俺の魂は知らない世界で同郷の魂として魅かれあったのかもしれんな。アイナの魂は自分の為に頑張り続けた魂を認めて一緒になった。色々と知ると複雑な思いになる。
俺のアイナに対するこの気持ちはもう不要だ。子孫を残す事もないし、お互い別の相手を見つけた。その後に親子としてめぐりあったのは幸いだったかもしれない。アーノルドやシルフィの魂を傷付けずに済んだからな。
そしてゲイルは思った。シルフィは俺から離れていくのではなかろうかと。魂が昇華したのは未練が無くなったからだ。俺と何回も結婚して魂の最期まで俺と一緒にいた事で満足したのだと思う。だから今は俺ではなく、他の魂と一緒にいることを選んだ。ここに来たばっかりの時は俺への想いが強く残ってたからだろう。それを他の魂が上書きしていくのかもしれんな。
飯食って皆が寝たあと一人で風呂に入ってると色々と想いがめぐって気持ちが悪い。
風呂でも癒されなかったな。
と、出ようとしたらドワンが入ってきた。
「坊主、飲むか?」
と冷えたエールを持ってきた。俺と何か話したいのかな?
「ありがとう。貰うよ」
ゴッゴッゴと飲む。
「また下らんことで悩んでるんじゃろ?」
「んー、まぁ、色々とね」
「坊主は昔から変わらんの。どうせ悩んでも仕方がないことで悩みおるんじゃろ」
「そうかもしんないね」
「もうワシらは自由なんじゃと言うたのは坊主なんじゃろ? アイナが気にいったのならアーノルドに気にせず奪えばいいんじゃ」
それをすると色々と捨てないといけないんだけどね。
「なぁ、おやっさん。おやっさんはゼウちゃんのこと好きだろ?」
「そうじゃな」
ドワンは照れることなく肯定した。
「もしかしておやっさん、以前にゼウちゃんに会ったことある?」
「恐らくな。ワシは多分ずっとずっと昔に会うた事があるんじゃろ。坊主がゼウちゃんに会わせてくれるまでそれが誰か分からんかったんじゃ。ただ誰かに恋焦がれた気持ちだけが残っとった」
それでずっと独身だったのか。それほど強い恋心を持ってたとか知らなかったな。
「しかしな、坊主が会わせてくれたことでハッキリと分かった。あぁ、ワシが恋焦がれたのは女神様だったのか、叶わぬはずじゃとな」
「おやっさん・・・」
「それでも、話したり飲めたりすることができて十分幸せじゃった。それにワシを認めてくれた坊主に見送ってもろて未練が何ものうなった。それがまた同じように楽しく過ごせる。ワシは幸せじゃの」
「そっか、おやっさんが幸せで良かったよ」
「坊主はの、なんでもかんでも背負い込み過ぎじゃ。皆好きに生きたらええ。アーノルドもアイナを取られたくないなら記憶じゃなしに気持ちを想い出せばええのにの。どうせ下らん意地を張っておるのじゃろ」
俺もなんとなくそんな気がしていた。
アーノルドは俺が小さい頃から俺との勝負事にズルい手を使ってまで勝とうとしていた。あれは本能的に俺の魂にライバル心があったのではなかろうか? しかし、父親としての気持ちもあるから最後は引いてくれてたが。
「おやっさん、今度の父さんとの勝負に勝つよ俺」
「おう、こてんぱんにやってやれ。アーノルドに自惚れるなとな。がーはっはっは」
そうか、アーノルドは息子との試合ではなく、男と男の勝負に勝ってアイナを正式に手に入れるつもりか。ドワンが言った下らない意地とはアーノルドにとってはとても大切な意地なんだと今理解した。
アーノルドは運命の魂より上になることを目指し、俺はそれを受けて立つ。
うだうだ余計な事を考えるのやめよう。プログラミングされてたとしてもこうやって存在してるのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます