第729話 皆チョロい
またしばらく休んでなかったので休みを取る事に。
「私は留守番しててもいいかな?」
「ん? こっちは時間止めてるからシルビアには寂しい思いをさせないぞ」
「うん・・・ でも」
「わかった。シルビアを連れてってやる訳にはいかんからな。シルフィはお留守番だな」
「じゃ、私達もお留守番してよっかな。私達だけ行ってても寂しいし」
シルフィとキキララはお留守番するらしい。シルビアを置いて自分たちだけが楽しい思いをするのが悪いような気がするんだろな。ということで今回は大人達だけでエデンに行くことに。
「坊主、あの二人はいい子に育っておるの」
「元々いい子達なんだよ。あの二人をジョンの元に向かわせたのおやっさん?」
「いや、ダンが向かわせようとしたら住民の一人が反対しての、で、他のドワーフがあの二人を仲間じゃと言ったんじゃ」
ドワンはとても嬉しそうにその話をしてくれた。
「ダン、あの二人がそっちに住みたいと言ったら預かってくれるか?」
「別に構わんがぼっちゃん寂しいんじゃねーか?」
「あぁ、寂しいけど子供の成長ってやつだ。今迄になかった生活をさせてやりたい。しかし、そのシルビアって子はいい子だな」
「あぁ、素晴らしい子だ」
そんな子と巡り会えるとはシルフィもキキララも幸せだな。
「ゲイル、結果的には感謝するが、今回のやり方は酷すぎないか? マリを怖がらせやがって」
「お前がマリさんを拐われた時に追いかけないからだろ? あれが本当にオークに拐われてたらマリさんは精神崩壊するぐらいボロボロにされてたんだぞ。危機感が足らなさすぎる。俺がやったと思っても追いかけて確認ぐらいしろっ」
オークや盗賊に拐われた女性をジョンは直接見た事がない。それがどれだけ悲惨で胸くそが悪いことになるのか知らないのだ。
ゲイルはあのオークや盗賊のところの状態を思い出して魔力が怒りで高ぶる。
「落ち着けぼっちゃん、爆発しそうだぞっ。それにジョン、ぼっちゃんの言う通りだ。誰か拐われたのを見た時はその時に助けられないともう終わりだと思え」
ダンも俺が何を想像したのかすぐに理解したのだろう。
「ということでジョンは及第点。マリさんを助けられたことでギリギリだな」
ジョンはそう言われて悔しそうな顔をした。反論のしようもないからだ。
「本当はな、お宝を隠しておいて、マリさんにそれが欲しいと言って貰おうと思ってたんだけどね、それだと競争にならないだろうかと思って内容を変えたんだ。マリさん達のファンもなかなか根性座ってたよ。惚れた女をジョンに助けてくれと大怪我しても頼んでたからな。あいつ強くなるぞ」
「なっ、お前見てたのか?」
「あのレベルなら死んでもおかしくないからね。死なない程度に治療してたんだよ。敵地に向かうならポーションぐらい持っとけ。他にも攻略用のタワー作ってあるけど、そこは本当に仲間が死ぬからな」
「で、アーノルドにはどんな芝居をするのかしら?」
「父さんには何もしない。ただ待ってるよ。もう準備は終わってるからいつでもどうぞ。それが終わるまでもうそっちに行かないから。次の休みはそれが終わってからとろうね。父さんは闇討ちでも不意打ちでもいいよ。俺は負けないから」
「闇討ちも不意打ちもするわけないだろうがっ」
「なんか策を考えておいた方がいいよ。俺は父さんが想像しているより強いし、勝つためには手段を選ばない。大切な者を守るのに綺麗も汚いもないからね。強い方が勝つんじゃない。勝ったほうが強いんだ」
「ほう、なら俺もどんな手段を使ってもいいんだな?」
「ただお互い約束はしよう。死ぬ可能性のある奴は参戦させないってね。こっちはラムザとキキララは参戦させない。見るだけにする」
「ん、ラムザもキキララも寿命はないんだろ?」
「ラムザは寿命はないけど、キキララにはある。それに寿命がないだけで死なないわけじゃないんだよ。生物だからね」
「そうか・・・ なら相手はお前一人なんだな?」
「ゴーレムはたくさんいるけどね。だからおやっさんやダンを連れて来てもいいよ」
「ワシはパスじゃ」
「俺も」
「お前ら冷たいやつらだな」
「じゃ、私もパスね。見てるだけにするわ。元々賞品だしね、私」
「あー、わかったよ。俺も手を抜いてやらんからなっ」
「望むところだよ」
チュールとブリックに作ってもらった料理を食べながら今回の顛末とアーノルドとの勝負の話をした。
「アイナ、私達の勝負は今からよ。次は絶対に負けないから」
「あら、私に勝負を申し込むのかしら?」
チルチルが俺の優先権を賭けてアイナに勝負を挑む。
ダンとジョンは男体化したのでミケとマルグリッドは俺の優先権を放棄。優先権を欲しがるのはこの二人だ。シルフィもいないしな。ラムザは虎柄ビキニという対ゲイル用チートアイテムを持ってるので休みの時ぐらいは優先権を譲るつもりのようだ。
前回ダーツに負けたチルチルは俺とアイナが冒険に行ってる間にダーツを猛特訓していたらしい。自信満々の顔をしている。
「じゃ、ボーリング勝負ね」
「えっ? ダーツでしょ?」
「勝負内容は申し込まれた方が決めるのよ? 知らなかったの?」
アイナは非情にも貴族の決闘ルールを持ち出し、ボーリング勝負に変更した。勿論圧倒的パワーで押しきったアイナの勝ち。
「ずるいっ。あんなの勝てる訳がないじゃないっ」
「あら、勝つための方法を取るのが当たり前でしょ? 負けたあなたが弱いのよ」
「ぐぬぬぬぬぬ」
ったく、アイナの奴は容赦無いな。ボーリングのピンが折れるとか初めて見たわ。
「じゃ、ゲイル。勝者のお願いを聞いてくれるかしら?」
しかし、アイナの願いは今回は皆で遊びましょということだった。俺もその方がいい。間違いが起こらなくて済むからな。
「ぶちょー何して遊ぶの?」
「バイクレースでもする?」
近くの無人島へ移動してモトクロスのようなレース場を作っていく。体格差はあれど皆軽いので体重差はほとんどない。今のところ一番軽いのはアーノルドだけどな。
「ぼっちゃん、これどうやるんだ?」
「2周して先にゴールした方が勝ちだよ」
バイクは5台なので、俺のはジョンに貸してやる。一番遅かったら今晩のごはん抜きという罰ゲーム式にした。ルールはブロックありだが、相手を蹴飛ばしたり攻撃をするのはなし。単に腕の差で競って貰う。
アーノルド、アイナ、ダン、ドワン、ジョンでレースだ。
「じゃあ行くよっ。スタート」
「イヤッホー♪」
アイナがウイリーさせて好スタートを切る。後は接戦だ。
「チルチル、お前にやったバイクは誰かにあげたのか?」
皆のバイクは俺の魔道バッグに入れてあったがチルチルは自分で持っていたのでここには無い。
「ウーン、よく覚えてないんだけど、子供にあげたと思う。でも次は自分で作ってみるよ」
「俺も作り直すからどっちがいいの出来るか勝負をしようか?」
「うんっ」
チルチルと話をしている内に勝負が付いたようだ。
1位アイナ、2位ジョン、3位ダン、4位ドワン、最下位アーノルド
最終コーナーまでトップだったアーノルドはそのまま行けばいいのに皆をぶっちぎろうとしてスッ転んだのだ。
「最終コーナーまでは俺が断トツだったろうがっ」
「アーノルド、あなたは負けたのよ。認めなさいっ」
哀れアーノルドは飯抜きになってしまった。
「も、もう一勝負だっ! 賭けたのは晩飯だろっ? 次は酒だっ」
「飯と酒はセットじゃろうがっ」
「いーや、晩飯と言ったんだ。晩酌とは言ってない。俺が最後コケなければドワンがビリだったからな。酒の掛かった勝負に負けるの怖いんだろ?」
「誰が怖いんじゃっ。もうコースのコツも掴んだから次は優勝じゃっ」
うちの仲間は挑発に弱い。これも昔通りだな。
で、次のレースを見ているとアイナはちゃんとコーナー手前でスピードを落として出口で加速している。ジョンが乗ってるバイクは俺ので皆のよりパワーが出るから直線が速い。が、曲がるのが下手くそ過ぎる。いわゆる直線番長って奴だな。あいつの生き方そっくりだ。
あー、なるほど。ダンはそこそこ手を抜いてるのか。負けなければ良いって感じだ。ドワンとアーノルドは良く似てるな。常に全開だ。そりゃスッ転ぶわな。あれでよく最終コーナーまでトップに立ててたもんだ。しかし、今回もアーノルドはビリだろう。
「くそっ、真っ直ぐ走れっ」
アーノルドはバイクはさっきのクラッシュでフレームが曲がったのだろう。めちゃくちゃ不安定な走りだ。もうあのバイクは廃車だな。
アイナ、ダン、ジョン、ドワン、アーノルドの順でフィニッシュ。
「うがぁぁあっ」
アーノルドは飯も酒も抜きになってしまった。
「次はゲイル、勝負しましょ」
「え、俺が圧勝するから面白くないよ」
「ほう、ぼっちゃんがやるなら俺も勝ちに行くかな」
「ワシはパスじゃ。チルチル、ワシと打ち合わせじゃ。新型を作るぞ。お前もバイク欲しいじゃろ?」
「えっ? 作ってくれんの? ドワンやっさしーっ」
ドワンとチルチルは俺に対抗するためのバイクを作るようだ。ゼウちゃんもそれに参加するらしい。
「フフフッ、ゲイル覚悟しろよっ」
アーノルドはフレームがいかれてるのに気が付いていないのか?
「良いけど賭けるよ」
「何を賭けるんだ?」
「そうだねぇ、俺に勝った人には長期熟成のブランデーを大瓶1本あげる。で負けたら・・・」
「負けたら?」
「ダンが負けたらミケを好きなだけヨシヨシさせて貰おうかな」
「なっ、何っ!」
「ウチはかまへんで」
絶対に負けんと挑発に乗るダン。君もコーナーでこけたまへ。
「父さんが負けたら母さんにチューして貰うわ。それは父さんに返さないからね」
「絶対にやらせんっ!」
「私が勝ったら何をくれるのかしら?」
「残り少ない熟成シャンパンをあげるよ」
「ふふっ、私が負けたら?」
「ビキニ着ていっしょに泳ぎに行って貰おうかな」
「もう、エッチね♪」
ということでレーススタート。
アイナが先行するけど気にしない。ダンを前にやると厄介そうなので先に無理してコーナーに入ってやる。アーノルドは放っておいても問題無しだ。勝手にスッ転ぶだろう。
「ぬぁぁぁっ」
ほら、もうこけた。チョロ過ぎる。
ダンも必死になって食い下がって来るけどパワーはこちらが上。直線で引き離す。コーナーではスピードを落として追い付けるように調整。それを繰り返してやると案の定、次のコーナーで無理して突っ込んで来た。
「ぼっちゃん、甘えぜ。コーナーではこっちの方が速いんだっ」
うん、ちゃんと引っ掛かった。このコーナーはこれ以上スピードを上げて突っ込むと曲がれないのだ。
「ぬおぁぉぉぉぉぉっ」
スザザザザザザっと滑ってこけかけるダンは足で踏ん張って持ちこたえる。
すげぇなダン。足削れてなくなるぞ?
しかし、大幅に遅れてしまったダンにもはや勝ち目はない。ダンもチョロいや。
後はアイナだな。あの最終コーナーでドリフトして抜いてやろう。
「待ちやがれっ!」
ゲッ、アーノルドの奴バイクを担いで走って来やがった。こんなのバイクのレースじゃねぇ。
最終コーナーでアイナを抜いた俺はブーストスイッチオンっ!
ぬおぁぉぉぉぉぉっっと追いかけてくるアーノルドを振り切ってなんとか1位になった。
「お前汚いぞっ! なんだよ最後の加速はっ!」
「え? ブーストだよ」
「何でそんなもんがお前のバイクだけに付いてんだっ」
「自分で付けたからに決まってんじゃん。それよりバイク担いで走るってなんだよそれ? 父さん無茶苦茶過ぎるよ」
「真っ直ぐ走らねぇし、曲がらんから仕方がないだろうがっ」
「あれだけ激しいクラッシュしたんだから当たり前だろ? 曲がった剣使ってるのと同じなんだよ。気付かない父さんが悪い」
「ぐぬぬぬぬぬっ」
「ぼっちゃん、俺を嵌めただろ?」
「当たり前じゃん。レースって駆け引きなんだから」
この後、魔王ゲイルをラムザに任せ、人ゲイルも分裂して、アイナに神ゲイルにチューして貰ってからミケをゴロゴロさせ貰った。
「ねぇ、ぶちょー」
「何?」
「チューして貰うと嬉しいの?」
「そりゃまぁね」
チュッ
「私のも嬉しい?」
俺はめぐみにチューされてなぜか真っ赤になってしまったのであった。その後に出汁巻き玉子作って♪ と頼まれてうんうんとうなずいた。
人ゲイルでめぐみにこんな事をされるとドキドキするんだと改めて思った。俺もチョロい。
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