第728話 マルグリット救出

「ううん・・・」


「おっと、また起きちゃダメだよ。怖いからね」


マルグリッドが恐怖でトラウマにならないように眠らせたままだ。起き掛けてはトントンされてマルグリッドは眠らされていた。


この要塞というか基地の入り口にオークの出る魔物スポットと繋げてあるのでオークが溢れている。ゴーレムオークはマルグリッドが捕らわれてそうな部屋で待機。扉を壊して入ったら襲い掛かって来るのだ。


俺は分裂して他の奴等が死なない程度に治癒してやることにする。


おっ、来た来た。


ジョン達が来たのを確認してオークゲートを閉じる。さすがに無限に沸いて来るのはジョンとまだまだのメンバーだと無理だしな。


アーノルド達の所の魔物がゲートも閉じるか。今いるのを討伐終わってもこっちに来るまで時間掛かるしな。


「うぉーーーっ!」


ジョン気合い入ってんな。なかなか本当の有事になることないからこういう実戦は時々やった方がいいかもしれん。近い魔力スポットは全部魔力充填スポットにしてあるから魔物もほとんど出ないのだ。



「マリさんを助けるんだっ」


おー、マルグリッドファンも気合い入ってんな。


ノーマルオークとファン達はいい勝負だ。この短期間でよくここまで成長したな。魂が新しいと伸び幅が大きいのかもしれない。


ゲイルは分裂して気配と認識阻害で部屋や廊下の上から様子を見ていた。


おっと、あいつやばそうだな。軽く治癒して重症にまで至らないようにしておこう。完全に治すと戦いを舐めるようになるからな。



「よし、街に運ばれて来る怪我人はだいぶマシになったな。キキララ、お前らジョンの応援に行けるか?」


「おいおいっ、魔族の子供を信用していいのかよっ。罠かも知れねぇだろっ」


ダンがキキララに治癒担当としてジョン達への応援を頼むと住民達が信用出来ないと言い出した。


その言葉に傷付いて泣きそうになる二人。初めからゲイルに人類の敵になる側だと言われて暴れていたが、シルフィとシルビアと楽しく遊ぶ内にその事を忘れていた。


「ララ、私達は敵だったね・・・」


「うん・・・」


二人は敵役に戻る。


「キャーハッハッハッハ! よくぞ見破ったわね。今から私達もお前らを殲滅してや・・・」


「嘘よっ! そんな嘘つかないでっ。私達友達なんでしょっ」


シルビアがキキララに叫ぶ。


「お前達を騙していただけだっ!」


キキララはそれに反論した。


「なら何で泣いてるのよっ」


キキララは泣きながら今のセリフを言っていたのだ。


「だって、だって、私達は魔族。人類の敵なのっ!」


「別に魔族でも何でもいいじゃろっ」


毎回武器にダメ出しされてたドワーフがそう二人に言い出した。


「えっ・・・?」


「お前らは人を傷付けておらん。それに一生懸命に皆を治してたじゃろがっ。作物も育てて人の役にたっておる。どこが敵じゃ。もうここの仲間じゃろが」


「仲間? 私達が・・・」


「お前の親はどうかは知らんが、お前らは仲間じゃ。じゃからあいつらを助けに行ってやれ」


「いいの・・・?」


「いいから早く行ってやれっ」


「キキちゃん、ララちゃん。お願いっ」


「シルビア・・・ わかった。手伝いに行って来るっ」


(ふむ、いい傾向じゃの)

(まったくだ。こりゃぼっちゃんの仕業で間違いねぇな)

(まったく坊主は手の込んだことをしよる。アーノルド達が帰って来たら邪魔をさせんようにせんとな)




「くそぉおっ! なんだこいつらっ」


ジョンはオークゴーレムに苦戦していた。鍛えて来たという親衛隊はノーマルオークといい勝負程度。アルとミグル達のような連携もとれなければ護衛団のように組織的に動ける訳ではない。ジョンはオークゴーレムには歯が立たない親衛隊を庇いながら苦戦していた。


「くそっ、くそぉぉぉぉっ。マリっ! 必ず戻って来るっ、必ずお前を助けるから無事でいてくれっ」


ジョンはそう叫んで脚をやられた仲間を抱えた。


「皆、撤退しろっ。このままだと全滅するぞっ」


ジョンは血の涙が出そうな顔で皆を撤退させようとした。


「お、俺を置いて いけ・・・ マリさんを助けるんだ」


「お前をここに置いて行ったら死ぬだろうがっ。マリは自分の為に誰かが死ぬのは望まんっ」


「ダメだっ 頼む・・・ 惚れた 女を頼む・・・ 助けてくれ・・」


「くそっぉぉぁおっ。それはお前を助けてからだっ!」


その時、下の階からドンドンっと誰かが暴れているのが聞こえた。父さん達がきてくれたのか?


「応援に来たよーっ」


「助かった。すまん、こいつを治してくれっ」


応援に来たのキキララだった。


「はーいっ」


二人はゲイルが教えた治癒魔法で一瞬にして治す。


「こいつを待避させてくれ。俺はマリを助けに行く」


「わかった」


「ジョンっ頼んだぞっ」


「任せろっ」




「は? ゲイルの仕業?」


「バカもんっ大きな声を出すなっアーノルドっ」


「あぁ、すまん。で、助けにいかないのか?」


「ジョンだけでやらんと意味がなかろうが」


「じゃ、アーノルドはお留守番ね。私は治癒士として行って来るわっ」


「アイナ、汚ぇぞ。俺も行く。息子がどれぐらい強くなったか見てぇんだよ」


「ったく、行くのは構わんが絶対に手を出すなよっ」


「見るだけだっ」


アーノルド達は多くの冒険者を引き連れてマルグリットの所へと向かった。



「ワシらはここの防衛じゃの」


「あぁ、まだ何が仕掛けられてるかわからんからな」




おー、キキララが助っ人に来たのか。ずいぶん住民に信用されたな。これでジョンは集中出来るだろう。気合いを入れ直したジョンは強い。オークゴーレムを一刀両断か。


ゲッ、アーノルドとアイナが来やがった。向こうのゲート閉じるの早かったか。 ・・・ん? なんかニヤニヤしてやがんな。


あー、もうバレたか。それなら手出しせんだろ。後ろの冒険者達も残党狩りってとこかな。


ゲイルはマルグリッドの所に戻り、鼻をむぎゅとして起こした。


「う、ううん・・・ えっ えっ?  ここはどこですの? 」


マルグリットは壁の小窓を覗いてみる。


(オ、オークっ)


「きゃぁぁぁぁぁっ!」



この悲鳴はっ?


「マリっ! 今行くぞーっ!」


ジョンは襲ってくるノーマルオークもゴーレムオークも両断して突き進む。マルグリッドの悲鳴が聞こえた部屋に。



「マリっ!」


「ジョンっ!」


マリは広い部屋の中にある小部屋に閉じ込められていた。格子が嵌められたところからジョンに叫ぶっ。


「逃げてっ!そこにオークがっ」


ドゴンッ


隠れていたゴーレムオークがジョンを殴り飛ばした。


グブォッ


殴り飛ばされ血反吐を吐くジョン。マルグリッドに気を取られてゴーレムオークに一撃を許してしまった。死にはしないが痛みもダメージも残る。


「くそっ」


剣を構えてゴーレムオークと対峙するが他のと比べ物にならないぐらい硬いしパワーもある。


ガキン ガキン ドガンッ ドガンッ


マルグリッドはジョンが自分を助けるために血を流しながら戦っているのを目をそらしてはいけないと見守り続ける。


ドガッンッ


ゴーレムオークの一撃を喰らい壁に叩きつけられるジョンの口から血が飛び出る。


「きゃぁぁぁぁぁっ! ジョンっ、もういいのっ。私は無事だからもうやめてっ」


マルグリッドは貴族風の話し方もせずに素で叫ぶ。自分達は死なないというのも忘れてジョンの無事を願った。


「俺はお前を守ると誓ったんだっーーー!」


ジョンは自身をおもいっきり強化してオークゴーレムに立ち向かった。


「ジョン・・・」


「うおぉぉぉぉっ」


ガキン ガキン ガキンっ


くそっ なんて硬いんだ。まるであの時のスライム・・・ はっ!


ジョンはゴールデンスライムとの戦いを思い出した。弱点を探さねばっ。


ガキンガキンしながらどこを庇うか探しだす。


「見付けたぞっ」


巧みに庇う左脇。あそこが弱点だ。


しかし、オークゴーレムはそこをガードして狙わせない。


ドゴンッ


グッ ブフォッ


ジョンは一点を狙うあまり攻撃を食らってしまう。


くそっ、これではまだ足らんっ。


更に強化しようと思ったときにゲイルに言われた事を思い出した。戦いの最中に倒れたら死ぬと。こいつを倒せても俺がここで気を失ったら他のオークがマリを襲うかもしれない。


くそっ!


その時にアーノルド達が飛び込んで来た。


それを見たジョンは心置きなく身体強化をする。自分が倒れても父さん達がなんとかしてくれる。


「うおぉぉぉぉっ」


全身が光輝くぐらいに強化したジョンはゴーレムオークの攻撃を掻い潜り左脇を刺した。


ゴーレムオークはそれで動きを止めゆっくりと倒れる。


エネルギーの塊であるジョンは倒れる事はなく、マルグリッドが閉じ込められている部屋の壁を破った。


「マリっ、無事かっ」


「ジョンっ」


ひしと抱き合う二人。


「マリ・・・」


「ジョンっ」


そのまま二人は熱いキスを交わした。



(うふっ、二人が婚約した時を思い出すわね)

(あぁ、まったくだ。ジョン強くなってたな)

(次はアーノルドの番ね。こんなもんじゃないわよきっと)

(望むところだ)



戻って来た親衛隊は二人を見て悔しがったが、自分達では到底倒すことが出来なかった敵を見事に倒し、マルグリッドを射止めたジョンを認めざるを得なかった。


こらっ、アーノルド。こっち見んなっ。


平時に気配を消せる限界まで消してもアーノルドには通用しない。決戦ではゾーンに入れないと勝負にならないかもしれん。もう少し策を練っておこう。そう思うゲイルであった。


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