第722話 未経験への挑戦

始まりの地に潜入するとちらほらとエルフや獣人達も合流し始めていた。


新機能の言語統一という機能が搭載されているので言葉には問題なし。文字はダン達が教え始めたのでアルファベット表記だ。


チュールとブリックは共同で店を出していた。


俺に気付いたが素知らぬ顔をして注文を取る。メニューはまだ少ないな。


取りあえずステーキ、パン、スープとワインを注文。


この材料の少なさでよく頑張ってると思う。ちゃんと料理は旨い。が、ワインは濁りも強くダメだな。蒸留して、アルコールにして何かで割るほうが良いだろう。


「何で支払ったらいいかな?」


「銅か銀の塊か、何か食べ物か塩とかあるもので頂いております」


「じゃ、これでもいいかな?」


と、胡椒の種を多めに渡しておいた。後はダン達全員に3日後の夜にダンの家に集まるように伝言を頼んだ。


次はチルチルの魔道具ショップだ。


「売れてる?」


「わ、おじさんゲイルだ」


「なかなか渋いだろ?」


「うん♪」


当然まだ魔道具を買う事も出来ないので閑古鳥が鳴いている。


「錬金釜は店に出さないのか?」


「ドワンが通貨が出来るまで待てだって」


「了解。チュール達に伝言を残したんだけど、3日後にダンの所に集合な。魔道具売れるまでここでポーションを併売したら?下級でいいから。シルフィが作るだろ」


「そうだね。ゲイルはどうするの?」


「しばらくはこんな感じでフラッと見にくるわ。あ、魔力スポットに作業用ゴーレムスタンバイさせてあるから。3日後に説明するけど、チルチルが使い方教えてやってくれ。見たらだいたい操作方法解るだろ?元にあった場所に戻したら魔力補充されるようになってるから」


了解ラジャ


昔ちょっと教えただけなのによく覚えてたな。


街は建設ラッシュだな。電ノコとかドワンに作ってもらうか。これもチルチルに言っておこう。


おっ、マルグリッド発見。案の定人気あるな。男共が色々作物とか持ってアピールしてる。頑張ってジョンの気持ちを刺激してやってくれ。


シルフィードはシルビアと作物育てをやっていたのでそっとしておいた。楽しい子供時代を満喫してくれ。



一度戻って魔神になってカスの所へ向かう。めぐみはカスがあまり好きでないようで付いて来なかった。理由はすぐに怒られるからだ。




「それぐらいならすぐに出来るが・・・。何をするんだ? 皆、時間を進めたがるけど止めたいやつなんていないだろ?」


「俺達皆が協力して実体化しながら1つの星の発展をやってるんだよ。少し離れたいときもあるんだけど、その間皆がいないとまずい事が発生するかもしれないからさ」


「実体化したらそこから動けんだろ?」


「いや、ほら俺はお前の星とゲート繋げられるだろ? 他の星と行き来できるじゃん」


「ったく、システムを悪用すんなよ」


「まぁ、今やってるのをテストケースだと思ってくれ。これは共同プレイってやつだ」


「まぁ、仲間を増やすという目的はお前とあほでやってくれてるから別にいいけどよ。で、お前がそこの奴の星をいじくる許可だけとれよ」


「それは大丈夫」


「で、何をやってんだ?」


カスに今やってる事を説明する。


「ほぅ、なるほど。後でログ見ておくわ」


「でさ、お前達の存在なんだけどな、魔法とか使えないだろ? あれはなんでだ?」


「元々エネルギーの塊だからな。使えなくはないんだろうけど、使った事が無ないからじゃないか? お前らは生物の時の記憶があるからそのまま使えるんだと思うぞ」


「なるほど・・・ それなら実体化した時に覚えたらそのまま使えるようになるかもしれんよな?」


「そうじゃないか?」


「あとはお前ら性別ないだろ? 男体化や女体化したら一応性別みたいなの出来るだろ、そしたら異性を求めるような感情が出てくるような気がするんだよ。お前にはそんな感情は理解出来んと思うが」


「それは良いものなのか?」


「いや、わからん。あったら嬉しいとか悲しいとかが強くなるし、言葉に出来ないような想いが出てくる。俺はそういうものがあった方がいいと思うが知らない方がいいとも思ったりする。特に辛い思いはな。ただ辛い思いがないと嬉しいも楽しいも自覚なくなるから必要ではあるんだよ」


「何を言ってるのかさっぱりわからん」


「お前はこういうのを体験してないからそうだろうな。でも、こういうのを体験するやつが増えたら新たな出来事が生まれてくるかもな。変わらない日々も悪くないが、新しい刺激もあってもいいと思うぞ」


「どういう意味だ?」


「俺がこうやってシステムの話をする今と、俺が来る前の一人でやってた時とどっちが楽しい?」


「いや、そりゃまぁな、今の方が楽しいな。システムの話が通じるやつはお前だけだからな」


「俺もお前と直接こう話してるのは楽しいんだよ。こういうのが新しい刺激なんだよ」


「なるほど」


「だから実体化して色々やることでどういう変化が起きるか俺達をテストケースとしてみておいてくれ。お前が良くないと思えば対策プログラムを組めばいいだけだ」


「お前はそれでいいのか?」


「これはお前のプログラムだからな。俺は情報を与えるだけで、決めるのはお前だ」


「ふふっ、そう言ってあれやこれや注文してくるじゃないか?」


「でも決めたのはお前だろ?」


「ったく、お前と話してると全て言いくるめられそうだ」


「こういうの得意だからな」


酷いやつだと笑うカス。


「あと聞きたいんだけど、生物を一番始めに配置するのはいきなり身体をあたえるのか?」


「初期配置だけな。一番始めに作ったプログラムは星が生まれる所からだったんだ。俺達は何もすることなくただ過ごすのが普通だから星の誕生からやってても良かったんだが、そのまま忘れて見なくなったりするから、星が出来て生物が住める環境から始められるようにしたんだ。あとこういうのも作ったが使うやつが少なくなってやめたやつもある」


「何それ?」


「手作り魂だ。初期配置のうちの原初の1対を自分で作るんだよ。初期配置は自動だが、手作り魂は管理者が発展させて欲しいと願いを込められるようにな。俺の星の原初の奴らは手作り魂だ」


「ほぅ、そうだったのか。どんな願いを込めたんだ?」


「能力的なものはお前も知ってるだろ? メスの方に大半のリソースを振って子供を生ますようにした。オスはただ子供を生ます為だけに存在する。メスは生むときのリスクを減らす為に簡単に産めるようにとかだな」


なるほど、だから卵性なのか。


「でも、お前の星は子供生まれたら別に生まれ変わらないし、人数配置がめちゃくちゃ少ないだろ? そこまでする必要あったのか?」


「生まれ変わらない? どういう意味だ?」


「え? 皆寿命ないんだろ?」


「寿命がないのは原初の1対だけだぞ。お前の子供はちゃんと成長して死ぬ。生まれ変わらないというのは正解だ。あの魂は自ら魂を壊したのと分裂する原因を探るのに実験で作ったやつだからな。死んだら壊れる。死んだら次は5体子供が生まれるからな。お前子供欲しいんだろ? 500年毎ぐらいに子供が生まれるぞ」


カスの子供が死ぬ、また生まれてくるからお前も嬉しいだろとような言い方に感情が爆発しそうになったが、カスには理解出来ないのだろうと瞬時に理解して怒りを収めた。今までのめぐみとのやり取りがなかったらぶん殴ってただろう。


そう、こいつらに悪気はないのだ。知らない、わからないが故にこういう発言になる。カスは俺が子供が欲しいと知ってるから喜ぶ情報をくれたに過ぎない。


ひっひっふー ひっひっふー



「俺の子供の魂は昇華出来るか?」


「わからんな。実験体の魂がどうなるかは俺にもわからん。はっきりしてるのは生物として生きるのはこれが最後ということだけだ」


「そうか・・・ わかった。色々ありがとう。時間の一時停止よろしくな」


「もう終わってる。あほの所はやってないぞ」


「うん、それでいいよ」



俺はカスの所を後にした。


キキララが死ぬ?


俺は勝手に寿命がないものだと思ってた。生物に寿命があるのは当たり前だ。だが魔界は違うと勝手に思っていた。


ラムザとダムリンだけが特別だったのか・・・



取りあえず戻らなくては。予定よりカスと話し込んでしまったからな。



「ぶちょー、帰って来るの遅いーっ」


「ごめん、ちょっと話し込んでしまってな」


キキララもパパお帰りなさーいと無邪気に出迎えてくれた。


この子達が死ぬ? 俺より先に?


そう思うと悲しみが溢れ出してぎゅーっと抱き締めた。


「どうして泣いてるの?」


見送るのは仕方がない。しかし、俺はこの子達の魂を必ず壊れずに昇華させてみせる。ゲイルはそう心の中で誓った。これは甘やかせるだけではダメだ。昇華するまで魂を鍛え、未練が全て無くなるように様々な経験をさせてやらねばならない。


しかし、俺はこの子達に何をしてやれるのだろうか。


ゲイルは魂を昇華させると誓うと共に不安でもあった。実の娘を育てた経験がないのだから。









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る