第721話 ゼウちゃんの憂鬱

神ゲイルはめぐみとゼウちゃんを連れてダンジョンタワーをせっせと作る。


「ゲイルくん、これはなんの為に作ってるのかしら?」


「遊びというか目標というのかな? 何かの為に頑張る物があった方が発展しやすいんだよ」


「どうしてかしら?」


「まず、衣食住という生きていく為の物は勝手に作り出す。そこで満足しちゃうと発展しないんだよ。だから人の欲を刺激するものが必要になる。美味しいもの、楽しいものとかね。ゼウちゃんも美味しいもの食べたらまた食べたくなったでしょ?」


「そうね」


「ここはそれを急ピッチでやってるんだよ。自分達でそのうち作り出す衣食住で時間が掛かる物は俺がある程度作った。食べるものもこうやれば手に入りやすいよと用意もしたんだ。で、次は美味しいものを食べさせる。それを食べたかったら働かないとダメだからね。でも0から何かを生み出すのはとてつもなく難しくて時間が掛かるからヒントをあげる為にチュールやブリックに手伝って貰う。後は種族間や同種族同士で争わないように共通の敵。すなわち魔王ゲイルを人類の敵にしてあるんだよ」


「なんか難しいわね?」


「ここはめぐみの所と比べて知力を少しあげてあるからヒントをあげたら発展するの早いと思うよ。ゼウちゃんの元の世界は知力が高かったから0から何かを作り出して発展していったけど、発展しすぎたんだね。めぐみの所は元の記憶を持ったまま魂を転生させたから発展して何度か滅んだみたいだけど、ここはそんな魂は持ち込まないからほどほどに発展して止まるとと思う」


「このタワーは?」


「目標だよ。これを攻略したら普通に働くよりたくさんの報酬が得られる。でもそれを為すには自分も鍛えないといけないし、より良い武器が必要。ドワーフ達は自分の武器が一番優れてる物にしたいから新しい武具を作る。で、強くなった人は良いものを欲しがるだろ? お互い高めあっていく存在になると思うよ。で、戦いに向かない人は他の娯楽とか芸術とかでそれをやっていくんじゃないかな?あとはスポーツかな?」


「スポーツ?」


「走って足の速さを競ったりするんだよ。それは獣人が活躍すると思うよ。ボールを使った競技とかだと考える力も必要になるからハーフ獣人とか増えると思う。まぁ、元々ゼウちゃんの星にあった物を持ち込むんだけどね。だからゼウちゃんはこういうのがあるよと知ってるはずだよ」


「あっ、そうね。気に入った魂がこわれちゃってからあまり見てなかったけど・・・」


ゼウちゃんはその魂をかなり気に入ってたんだろな。その頃に女体化出来るの知ってたら女体化したのだろうか? でも、人と神がそうなるとゼウちゃんが人になってたかもしれないんだよな。


「ぶちょー、あの花をたくさん咲かせた所は何をするの?」


「あれはレンゲっていう花でね、蜂の巣箱を置いたからハチミツが取れると思うよ。レンゲは作物の栄養になるから後で畑にしてもいいしね、ハチミツ食べたい?」


「うん♪」


巣箱にはちゃんと蜜蜂が巣を作って蜜を溜め込んでいた。


3人でハチミツをおやつにティータイム。いくつか蜂の巣を残しておいてミーシャが帰って来たときにあげよう。


「なんか花畑でこういうの良いわねぇ。それにどんどんめぐみは甘えん坊になってるわよね?」


俺がめぐみの口にハチミツを入れてやってるのを見てゼウちゃんはそう言う。俺にはもうこれが当たり前になってた。


俺はこうやってべたべたされるのが好きな方だから嬉しいけど、嫌いな人も多いからな。ゼウちゃんはどうなのだろう?


「ゲイルくん、ちょっと私にもやってみてくれないかしら?」


「えーーっ? ゼウちゃんも自分の見付ければいいじゃない」


めぐみはゼウちゃんが女体化してから俺にゼウちゃんがくっつくのを嫌がるようになった。めぐみはどんどん人間臭くなるな。人になってないよね?


「ちょっとだけよ」


というので、一口あーんして食べさせた。なんだろう? めぐみにするのとは違った感じ・・・。


「なるほどね。悪くないわね」


にっこり微笑んでくれるけど、やっぱりちょっと違うな。大人に食べさせてるって感じだ。


「めぐみ、口開けて」


「あーん」


「美味しいね♪」


あー、やっぱり違うわ。同じ行為なのに不思議だ。俺はめぐみを子供として見ているのだろうか?


「ねぇ、ゲイルくん。私の星にも同じように協力してくれたりする?」


「別にいいけど、どんな星にしたいか理想ある?」


「ここは何を目標にしているのかしら?」


「旨い酒のお供えだよ。未知の物を作り出してくれないかなって。まぁ、俺が知ってる酒の種類もしれてるから、それ以外ってとこかな。同じ酒でも材料が違うと味も変わってくるからね。どんなのが生まれるか楽しみだよ。後はダンジョンタワーをどうやって攻略していくかも見てたら楽しいと思うよ」


「なるほどぉ、発展させる目的を持ってやるのね」


「自然に任せてどうするのか見るのがいいならここみたいに手を出さない方がいいし、父さん達は魔物と戦う為の星作ってるとか色々やりたいようにやってるよ」


「うーん、そう言われると私は何が目的かはっきり思い描けないわね」


「じゃ、それが決まってからのほうがいいね、目標が違うと打つ手も違うから」


「それもそうね。じゃ決まったらお願いね」


「わかった。で、質問なんだけど、どうして今回女体化したの?」


「そうねぇ、ゲイルくんとめぐみを見てて羨ましかったからかしら? 私も誰かと居たいなぁとかかな? それにずっと誰も居なくて寂しくなるなんて思わなかったけど、こうして話したり食べたりしてるのを経験すると、こんな気持ちになっちゃうのね。自分でも驚いちゃった」


恐らく女体化したら人間の感覚に近づくのかもしれないな。人間は一人で生きていくの難しいから誰かと一緒にいるのが当たり前だからな。


「ゼウちゃんもいい人見つかるといいね」


「ふふっ、そうね」


こんな話をしながらもめぐみがべたべたしてくるので高い高いしてお腹にあばあばしてやった。


「きゃー、キャハハハハ」


うん、めぐみは確実に幼児退行してるな。このまま子供になるんじゃなかろうか?


その様子をゼウちゃんはクスクス笑って見ていた。



さて、神ゲイルはもうしばらくする事はない。


「魔王城に戻ろうか」


俺もずっと分身しっぱなしだったので久々に元に戻った。


「わぁー合体パパだ久しぶりー」


キキララは魔王ゲイルより、人ゲイルか魔神ゲイルが好きだ。元の記憶がそうさせるのだろう。


「なんか作ろうか。何が食べたい?」


「焼き鳥っ!」


一番に返事するめぐみ。いまキキララに聞いたんだけどね・・・


皆も焼き鳥と言うのでせっせと仕込んでやいていく。仕込むのは分裂してだ。俺って便利♪


さ、食べ・・・


「あーん」


めぐみ、キキララ、ゼウちゃんまで・・・


「ではゲイルには我が食べさせてやろう」


ラムザにあーんして貰った。ちょっと嬉しい。


俺が喜んだのを見て次々と口に突っ込んでくるめぐみとキキララ。


「そんないっぺんに食えんっ」


「えーっ」


「俺は焼き鳥食べてエールを飲むから各自自分で食べるように」


そういうと仕方がなく自分達で食べ出した。ふとゼウちゃんを見ると串から外して食べている。そういやドワンがいつも外してやってたな。


ちょっとご飯が食べたくなったけど、シルフィードがいないから我慢した。


ゼウちゃんの世話をするとめぐみが拗ねるので見てみぬふりをする。


「ゲイルよ、ゴーレムで襲撃はいつやるのだ?」


「今街作りしてるからちょっと様子見だね。先に大人ゲイルで潜入してくるよ。


「どのゲイルでいくのだ?」


「魔神のままでいく。ずっと分裂してるのしんどいんだよ。しばらくここ空ける事になるけどいいかな?」


「あ、うむ。構わぬぞ」


ラムザがいっしゅん躊躇う。ずっと魔王ゲイルがいたからな。少し寂しいのかもしれない。


「めぐみ達は一旦帰るか?」


「一緒に行く♪」


やっぱり。しかし、ラムザだけ置いていくのもなぁ・・・


仕方がないので分裂して魔王ゲイルはラムザに神ゲイルはめぐみ達に残して一人で行くことにした。


人ゲイルは子供ゲイルから歳を離さないといけないので40歳ぐらいまで歳をとらせた。


「ゲイルよ、魔王ゲイルも同じぐらいに出来るか?」


「出来るよ。何で?」


「ちょ、ちょっと甘えてみたいのだ」


ラムザのこういう所が可愛いよな。


めぐみは俺が何歳でも気にしない。俺であればいいのだ。これはこれで悪くない。


子供達を寝かせた後、人ゲイルは始まりの地に行った。ラムザは魔王ゲイルに膝枕をしてもらい、めぐみは神ゲイルとキャッキャうふふしているのを見てゼウちゃんはため息をついていた。


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