第719話 スカウト

「坊主はこんなもんを作っておったのか・・・」


ドワン達が森を抜けて見たものは7割ぐらい完成させた大きな街並みだった。ご丁寧に砂を掛けてずっと使われていなかったような雰囲気にまでしてある。


「キャーハッハッハッハ」


突如笑いを出すアイナ。


「アイナ、いつまで思い出し笑いしてんだ?」


「ゲイルの、み、水・・とかちょー笑えるじゃない。あの演技はアーノルドとそっくり。やっぱり親子って似るのよね」


アーノルドはアイナにゲイルと親子だと言われてハッとする。あぁ、そうだ。ゲイルは俺達の子供なんだと改めて思う。


アーノルドはゲイルを一人の男として認識し始めていたが、今の言葉で小さかったゲイルの思い出が再インストールされたかのように蘇っていく。


「ふふっ」


「どうしたの? アーノルドも思い出し笑いかしら?」


「そうだな。思い出し笑いだ」


ゲイルは小さな頃から大人だった。親として頼りない自分達を叱り、料理や酒を作ったり、領地の発展を色々としてくれたり、自分とアイナの間に立って取り持ってくれたりと子供に頼りきりだった自分を笑った。


「アイナ、今俺達に子供が出来たら良い親になれると思うか?」


「どうかしらね? まだ自分達が遊び足りない間は無理じゃない?」


「そうか、遊び足りないのか俺達は」


「そうよ、今遊んでる最中なのよ」


「そうだな、これは遊びか。なら遊びも全力でやらんとな」


アーノルドは何か吹っ切れたような気持ちになった。まだ自分はどこかでゲイルに頼っていることに気付く。


「ドワン、ダン。これはゲイルが作ってくれた遊び場だ。楽しく全力でやろうぜっ」


「そうじゃな。坊主のことじゃからまだなんかやらかしておるじゃろ。ちと気合い入れんとな。全部やつの思い通りになるのもシャクじゃしの」


「おう、そうだ。ぼっちゃんの上をいってやらないとミケを取られちまうからな」


「俺もアイナを取られる訳にはいかんから全力でやるわ」


「あら、アーノルド。それ早くしないと間に合わなくなるわよ」


「だーーっ、もう少し待て。これはゲイルからの挑戦状だ。受けたからには必ず勝ってみせる」


「ふふっ。賞品は私かしら?」


「そうだ。俺はこういうのに負けたことないからな。楽しみにしておけ。アイナは俺のだ、絶対に渡さん」


「俺もだミケ。お前は絶対に繋ぎ止める。魂は無くとも繋がっていることを証明してみせるわ」


(ふふっ、坊主の手の平で転がっているうちはまだまだじゃ)



人ゲイルはめぐみの星でポットとデーレンに会いに行っていた。二人はそれぞれすでに新しい人生が始まっている。勝手に召喚したらその人生を捨てさせる事になってしまうからだ。二人はまだ成人前。先に話をしてから決めてもらおう。


俺を見て何にも思わないなら話を切り出すのも止めておこうと思っていた。



「ちょっとっ、こんな簡単なお釣の計算間違うなんて酷いじゃないっ。未成年だからって誤魔化そうとするんじゃないわよっ」


「いや、そんなつもりは・・・」


「だったらちゃんと謝りなさいよーーっ」


生まれ変わっても変わらんなこいつ・・・


「やめとけ。おっちゃんもわざとじゃないと言ってんだろ。そんな怒ってたらシワになるぞ」


「まだ未成年なのにシワなんて出来る訳ないでしょーーーっ」


「うるさいっ、歳いった時にその人の人生はシワに出るんだ。このままだとお前は怒りジワだらけのくそババアになるの決まってるじゃねーかっ。可愛い顔が台無しだ」


「えっ、可愛い・・・」


やばっ、惚れられても困るからこんな事を言うの止めとこ。


ゲイルは可愛いとかいい匂いとか自分が良いと思った事を素直に口に出す事を自覚していなかった。


「おっちゃん、計算苦手なんだろ? それなら一覧表を作って書いといたらいいよ。紙ある?」


と、銀貨で支払った時のお釣の一覧表をその場で作ってやる。ここは串肉の屋台だ。


「ほら、これで何本ならお釣はいくらかすぐにわかるだろ?」


「おお、兄ちゃんありがとうな。助かるよ。お礼にこれ食ってくれ」


俺は串肉をゲットした。うん、旨い。皆のお土産に買って行こう。


「おっちゃん、旨いよこれ。今焼けてるの全部頂戴」


「えっ? いいのか?」


「あぁ、仲間がいるからね。いくらあっても大丈夫なんだ」


「悪いな。助けてくれた上にこんなに買ってもらって。ほれ43本だ」


銀貨で支払うと一覧表を見てちゃんとお釣をくれた。



「なんなのよあんた?」


「通りすがりの冒険者だ」


「あの串肉はどこにいれたのよ?」


「保存魔法を掛けて魔道バッグだよ」


「何でそんな超レアバッグ持ってるのよ?」


「Sランク冒険者だからな」


「保存魔法ってどうやってやるのよ?」


「あのなぁ、お前は質問魔か。保存魔法とか魔法学校に行って教えて貰えよ。何でも人にただで教えて貰おうとするなっ」


「ちょっとぐらい教えなさいよーーーーーっ」


「首を絞めるなっ。俺はSランク冒険者なんだぞっ。無礼打ちにするぞっ。まったく」


「本当にSランクなの? そんな人ここにいるわけないじゃない」


「ほら、俺の冒険者証を見てみろ」


「Sランク冒険者・・・ 名前がゲイル・・・?」


もうありふれた名前になってるからな。思い出せないか、仕方がない。デーレンは諦めるしかないな。


「じゃな、これからは人のミスを頭ごなしに怒るな。人には向き不向きがある。あのおっちゃんはこんな旨い串肉を作れるんだ。計算が不得意でもいいだろ? これ間違ってるよ、と言ってやれば済む話なんだから。俺は忙しいからもう行くぞ」


「ちょっと待ちなさいよっ」


「なんだよ?」


スンスン


「勝手に人を嗅ぐなっ」


するのはいいけど、されるのは嫌なのだ。


「あれ・・・? 何よこれ・・・」


ピーピー ピーピー


なんだよめぐみのやつ。


「どうした?」


「ゼウちゃんが泣いてるの。ぶちょー戻ってきてー」


「解った。もうすぐ戻る」


デーレンとゼウちゃんリンクしてないよね? デーレンもいきなり涙流しだしたし。


「デーレン、用事が出来たからもう行くわ」


「デーレン・・・?」


しまった。つい口に出してしまった。


「えっ? あっ・・・・・ うっ、うっ、うっ。ゲイルーーっ、会いたかったぁーー」


そういって俺に抱きついてきたデーレン。そうか、俺の事は魂に刻んでくれてたか。お前の気持ちには応えてやれなかったけど。覚えててくれて嬉しいよ。


しばらく泣き止むのを待って話をする。ゼウちゃんも気になるからな。


「思い出させてすまんな。これでお前の人生が変わってしまうかもしれん」


「いいの、いいのっ。今の人生つまらないから。こんな大切な気持ち思い出させてくれてありがとう」


「悪い、ちょっと急用が出来た。改めて会いに来る」


「解った。わざわざ会いに来てくれたのはどうして?」


「引き抜きに来たんだ。他の世界で活躍してくれないかなって」


「他の世界・・・?」


「そう。新しい世界。今のつまらない人生を捨ててもいいなら考えておいてくれ。近々もう一度来るから」


そう言い残してゲートを出して拠点に戻った。



「ゼウちゃんどうしたの?」


「ゲイルくーん、みんなどこに行ってたのよー」


ぐすっ ぐすっ


「あぁ、ごめん。おやっさんの星で色々とやってるんだよ」


「私もそう言ったんだけどね、ぶちょーが仲間外れにしたんじゃないかと思ってたみたいなの」


「そうだったんだ。ごめんね、そんなつもりはまったくないよ。ゼウちゃんは星を作り直しててて忙がしそうにしてたから」


「うっ、うっ、本当に?」


「本当。俺がゼウちゃんを仲間外れにするわけないだろ? しばらくゼウちゃんの星を放っておいていいなら一緒に見に来る?」


「えっ?」


「実体化しなかったらいつでも自分の世界に戻れるし、おやっさんがどこまでアクセス制限してるかしらないけど、ここかラムザの星経由なら出入り可能だよ」


「連れてってくれるの?」


「ゼウちゃんが問題なければいつでもどうぞ。俺達が何やってるか見たら参考になるかもしれないし」


「本当にいいの?」


「いいよ」


「ゲイルくんありがとうっ! 誰も居なくて淋しかったのーーっ」


俺に抱きついてくるゼウちゃん。


「ちょっとー、ゼウちゃんそんなにぶちょーにくっつかないでっ」


「ふふふっ、めぐみは私にも焼きもち焼くのかしら?」


「そんなんじゃないけど、なんか嫌なのっ」


めぐみはゼウちゃんにこんなこと言わなかったのに・・・・


あれ? ゼウちゃんが重い?


スンスン


あっ まさか・・・


「ふふふふっ 気付いた?」


「うん」


「いい匂いしてる?」


確かにいい匂いだけど、マルグリッド系の匂い。所謂、綺麗なおねーさんの女性らしい匂いだ。


「うん」


「ゲイルくんってこんなに優しい匂いだったのね」


「え?ゼウちゃんまさか・・・ 離れてっ、ぶちょーから離れてよーっ」


なるほど、めぐみは気付かないうちにゼウちゃんが女体化したのを感じとっていたのか。だから焼きもち焼いたんだな。


「でも、ゲイルくんはめぐみの匂いの方が好きなんでしょ?」


「え、あ、うん」


改めて匂いが好きとか言われると恥ずかしいな・・・


「ぶちょー、そうなの?」


「う、うん・・・」


「へへへっ」


ころっとめぐみの機嫌は直る。もう匂いの話するのやめよう。


「俺、もうちょっとする事あるから、ここで待ってて。串肉あるからこれでも食べてて」


どさっとお酒と共に置いておく。


「ぶちょー」


「何?」


「あーん」


待ってて貰うのに出したのに・・・


結局、めぐみに串肉を食べさせながらゼウちゃんにドワンの星でやってることを事前説明をすることに。


その後にポットの所に向かうと俺を見るなり思いだして泣き出した。


「ゲイルさん、俺は何もお返しが出来なくて、それが心残りで、心残りで・・・」


ポットは俺が作り出したお菓子より遥かに旨いお菓子を作ってここに広めた。魂が昇華しなかったのは俺への未練が残ってたのか。ありがとうな。


「二度と帰れないところでまだ何もないけど一緒に来るか?」


「はいっ、行きます」


「今繋がっている人達と二度と会えなくなるぞ」


「男は旅立つものです。問題ありません」


「よし、なら成人したら迎えにくるから、その間に今の関係ある人達にちなくなることを伝えておいてくれ」


その後にデーレンの所に向かい同じように話をしておいた。


これで始まりの地は飛躍的に発展する条件が整うな。


さ、ゼウちゃんを連れていかなきゃな。


魔王ゲイルはせっせとゴーレムやアーノルドを迎え撃つための物を作り、神ゲイルはダンジョンの仕掛けをせっせと作っていた。


今日も忙しいな。でももう少しで楽になる。あと何十年かがんばろう。

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