第718話 茶番劇

「ダン、そろそろおやっさんがこっちに合流するから俺は他のことするわ。宜しくな」


「何をするんだ?」


「家畜とか連れてくる。ここの牛とかいまいちだろ? その後すぐにチュールとブリック、ジョン、マリさんにこっちに来て貰うから。シルフィは悪いけど、酒になる果物と穀物を育てて。酵母とかも仕入れてくるわ」


「もうゲイルはここに来ないの?」


「神ゲイルで来るよ。建物とか道を作りに。あとお告げしたりとか」


「わかった・・・」


「淋しいの?」


「うん」


「ダン、ドワーフが合流したら魔王ゲイルがまず子供ゲイルを拐うわ。それからしばらくしてシルフィ。おやっさんは二人を皆で取り返すように仕向けて。シルフィはそれまでに酒用の果物と穀物育てておいてね」


「わかった!」


「ダン、魔王ゲイルが拐いに来た時とか、神ゲイルがお告げした時に笑わないようにアイナに言っておいて。特にお告げの時。絶対に吹き出すから」


「笑うか?」


「賭けてもいいよ」



作戦は皆に伝わったので実行だ。しかし、自分で自分を拐うとかとんだ茶番劇だな。



後日、シルフィと手分けをして作物を育てている時に魔王ゲイルとラムザ達が飛来する。


「パパー、あれ欲しい。捕ってぇ」


「あーはっはっはっ、よかろう。お前達の遊び相手としてちょうど良い」


「あーれー、助けてぇ」


相変わらず大根役者のゲイル。


「おいっ、魔族に子供がさらわれたぞっ」


「たーすーけーてー」


「待ちやがれっ」


アーノルドはすぐに行動を起こすが、アイナは予想通り真っ赤になって笑いを堪えてる。


わっ! アーノルドの目がマジだ。あの目は絶対に斬りかかってくる。


「ラムザっ、ゲートで逃げろっ」


ラムザは咄嗟にゲートを開いてキキララを逃がしてその後に続く、俺は飛び上がったアーノルドの前に壁を出した。


ビタンっ


その隙にゲートから逃げた。


「キャーハッハッハッハ」


アイナ、カエルアーノルドに堪え切れなかったんだな・・・


皆にはアイナは緊張すると笑ってしまう設定にしたらしい。そりゃ皆の前で魔族が子供拐って、旦那がやられて吹き出したら頭おかしいと思われるよな。



「ゲイルよ、アーノルドが強いと言った意味がわかったぞ。あんな瞬時にこっちへ攻撃してこれるものなのだな」


「あれでもまだ本気じゃないよ。命の掛かるような時だと動いたことすらわからないから。しかも俺が知ってるのは全盛期を過ぎてからの父さんだ。技術的にはその時より上がっていたと思うけど、今は全盛期の動きとその技術両方兼ね備えてるからね。だから決戦当日は空の上の方から見てるか、魔界に逃げてて。見ててもわからないかもしれないから」


キキララにはここで家畜の受け渡しをしてもらう。めぐみの星から魔界へ、魔界からドワンの星へのリレー方式だ。


次は行き倒れた老人を介抱したら、実は神のお告げを受けた人でお礼にそのお告げをくれる茶番劇だ。あとはそのお告げに新しく訪れる者を受け入れなさいとかアドバイスしよう。



ー神ゲイルとめぐみー


「ねぇ、ぶちょー。皆いるところじゃなくてここに街作るの?」


「そうだよ。皆がいるところで俺が街作ったら俺を崇めるようになるだろ? ここはおやっさんの星だからね。こんな所に街があったんだとなった方がいいんだよ」


「ふーん」


神ゲイルは少し離れた所に木々を育てて認識阻害の魔法をかけた後にせっせと街を作っていた。後からカスタマイズ出来るように建物は大きなものだけ建てて道路を整備し、住むところは後から自分たちで作れるように切り開いた木材も加工して木材貯蔵庫に。設定はここに遺跡があった風を装う。中心地は魔力スポットがある場所。魔法陣で魔力を使えるようにもしてある。セントラルやウエストランドの王都をモチーフにドラゴンシティ風にしているのだ。


「えっと、川をこう街中に流して、水運が可能にした方がいいな。皆がいま住んでる街の川と繋げたら、あそこを穀倉地にして運搬っと。鉱山からの川はこっちだな」


物凄く都合のよい作りになっていくドワンの星の始まりの地。魔王城も似たような感じにしてあるので、俺に勝利した暁には戦利品として受け取ると良いだろう。


その後は各地に散らばっている獣人やエルフ達に声だけで始まりの地に向かうようにお告げをする。初めは驚くが段々とその声に従い始まりの地に向かうようになっていった。


始まりの地に、牛とかの家畜を野生種の様に配置。牧草地にしてあるから放置で問題ない。勿論魔物を駆除して魔力スポットも発電所代わりに使用出来るように加工済みだ。


ちょっと自分でロープレゲーム作ってみているみたいで面白い。


「何で洞窟作ってんの?」


「そのうち宝探しの冒険者とかでた時に楽しめるだろ? 人生かけてクリアするゲームみたいなものがあってもいいと思うんだよね」


えっと、この部屋は侵入したらゴーレム起動っと。落とし穴はこれで・・・


あそこの魔力スポットで生まれた魔物はここに転送だな。苦労して扉を開けたらモンスターハウスとか鬼畜だな。しかも宝箱は空だ。


最深部は罠と魔物の複合だ。その代わり山ほどのお宝をおいといてやろう。それ取ると壁が落ちてきて閉じ込められるけどね。



もの凄く強い魔力を生むスポットはダンジョンタワーにする。数千年掛けてもクリア出来ない難易度だ。そのうちこれを攻略する為の街がこの辺に出来て行くだろう。ドワンも誰がクリア出来るか楽しみに見ていられる娯楽を作ってやらんとな。


強力魔力スポットは全てダンジョンタワーにしていった。数は7つ。マッピングする楽しさとかお告げみたいな謎めいた攻略のヒントとか残して、汚魂は穴に落ちるとかゲイルは凝りに凝った仕掛けを嬉々として作っていった。



元の街では皆が初めて見る茶番劇が始まっていた。


「誰だお前達は? ここは俺達の街だぞ」


「ワシらは素材を落とす魔物を追ってきただけじゃ。貴様らこそなんじゃ?」


「よぉー、やっときたかドワ・・・」


ぐふっ


普通にドワンに話し掛けたアーノルドがアイナの全力肘鉄を食らう。死ぬことはないので遠慮なしだ。


ダンとドワンが皆に分かるように、俺達と違う人間か? とか大きな声で聞きき、自分達を武器防具作りを得意とするドワーフという種族じゃと説明する。


「ほう、俺達は魔王に子供を拐われた。取り返すのに武器が必要だが今の武器では太刀打ち出来ん。お互い協力しないか。食料はこちらで提供をする」


「ワシらはそれでかまわん」



さて、そろそろ神のお告げを受けた役の俺の出番だな。爺になるまで歳をとって、薄汚れたマントでふらふらと街に入っていく。


ドサッ


倒れたふりをして誰か助けに来るのを待つ。


待つ。



待つ。



・・・・・おいっ!


見慣れぬ人間だからだろうか? 遠巻きに見るだけで誰も近寄って来ない。


見かねたミケがやって来た。


「爺さんどないしてん?」


「み、水を・・・・」


ぶーーーーっ


こら、アイナ。吹き出すなっ。



ミケが水を飲ませてくれる。


「なにか 食べるものを・・・」


アイナはむーっむーっと口を押さえている。もうあっちいっとけ。


「心優しき陽だまりの娘よ。そなたの心に感謝する。本当にありがとう」


ミケにはいつも思っていることを芝居に乗じて言葉にする。ミケもそれに気付いたのだろうか。しっぽをふわんふわんと振っていた。


「お礼に良いことを教えよう。ここから南の森に行ってみるがよい。神に通じるものには良き道が見付かるじゃろう」


「そうなんか? ほなら探しに行ってみるわ」


「うむ。・・・ 陽だまりの娘よ」


「なんや?」


「愛する者を信じよ。さすれば願いは叶う・・・・」



ここで俺は気配を消して、認識阻害魔法を掛ける。人々には消えたように見えただろう。その隙に空中へ飛んで逃げた。



今のお告げを聞いてドワンとダンがどうするか住民の意見をまとめていった。


「ダンさん、今のは・・・」


「さぁな、俺にもわからねぇ。ドワン・・・ いや、おやっさんと呼んでもいいか?」


「好きに呼べっ」


「じゃあ、おやっさん。俺はさっきの事を調べようと思うんだが、おやっさん達はどうする?」


「うむ、そうじゃな、ワシも行こう。お前、留守番を頼む。何か解ったら戻って来るからの」


「なら、俺達が同行して護衛をしてやろう」


ドワンの武器を手にしたドワーフと人族の訓練を受けたものがここの防衛をする事にして、ドワン達はミケとシルフィードに留守番をさせて南の森へむかった。


神ゲイルがお告げをする事は伝えてあるが何があるかまでは知らされていない。シルフィードが拐われる事を知っているのもダンとミケだけだ。



神ゲイルは皆が森にたどり着いた時に森に掛けた認識阻害の魔法解除してその場を離れた。



その隙に魔王ゲイルはゴーレムを引き連れて元の街を襲撃。操作は人ゲイル。


「くそっ、こんな時に来やがった。皆やるぞっ」


「素材をよこすのじゃーっ」


皆がゴーレム討伐している時に魔王ゲイル達参上!


「ねー、パパっ遊び相手一人だと足りないのー。あれも捕ってーっ!」


「ハーハッハッハ。あれでいいか?」


俺がシルフィードに向けて飛来すると一人の女の子が走って来た。


「やめてぇっ! シルフィードちゃんを連れていかないでぇっ!」


おぅっ、想定外だ。大人達は怯えて近寄れないというのに・・・


さて、どうするか。連れて行くわけにはいかんな。この子にも親がいるだろうから。


「ふんっ、貴様はまだ力が無い。我の子供相手に力無き者は不要なのだ」


そう言い残してシルフィードのみ連れ去る事に。


「シルフィードちゃーーーーーんっ」


(シルビア・・・ ごめんね・・・)



魔王城に戻った後、シルフィードは元気がない。


「友達になったのか?」


「うん・・・」


「そっか。戻してやろうか?」


「ううん。ずっと一緒にいられないのは分かってるからいいの・・・」


シルフィードはここの住人と繋がりを持ってしまった。俺は意図的に住人達と接触を避けていたから知らなかった。


まぁ、ずっといられないのは確かだけど、あの娘が死ぬまでぐらいは一緒にいてやれるんだけどな。


その後、神ゲイルは各地に存在する人族に始まりの地に行くようお告げをしていく。歩くと何年掛かるか分からないので転送ゲートを認識阻害で見えなくし、こっそりとワープさせていたのだった。

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