第716話 結構楽しいけどヤバい

「それは何を作っておるのだ?」


せっせと作業を進めるゲイルにラムザが何をしているのか聞いてくる。


「ゴーレムとかオートマターとでも言うのかな? これは人工の魔物だよ。これを倒したらアイテムが取れるようにして戦わせるんだ」


「ほぅ、なんの為に?」


「人間達の共通の敵がいた方が人間同士で戦争にならないからね。人族は汚魂も出て来るから適当に駆除してやれば俺達は人族の敵とか恐怖の対象になって敵認定されるんだ。最終的に父さん達が相手になったらラムザとキキとララは逃げてね」


「なぜだ?」


「めちゃくちゃ強いからだよ。本気でかかってくるように仕向けるから本当に殺されるかもしんない。俺は死なないかもしれないし、死んでもめぐみみたいな存在になると思うから大丈夫」


「そこまで強いのか?」


「勇者より強い英雄だからね。でも大丈夫。俺も強いから」


「ふふふっ、やはりゲイルは素敵だ」


むちゅーーー


「もうっ、人が作業してるのにいちゃつかないでっ」


一緒に作業をしていたチルチルが怒る。


「ごめん、ごめん」


「魔王ゲイルって本当サイテーっ」


「怒んなよ」


「じゃ、私にも祝福して」


「ハイハイ」


チュッ


「えっ?」


ドキドキドキドキ


「いっ、今の祝福だよねっ?」


「そうだけど、何真っ赤になってんだよ?」


「べっ、別に」


わぁ、びっくりした。魔王ゲイルってあんな感じなんだ。いつものと全然違う感じ・・・


「じゃ、これコピーかけて作っておいて」


「どこかいくの?」


「ドワーフ達の作る武器とか嘲笑ってくる。まだショボいのしか作れないからね。悔しがらせて来るよ。キキ、ララ行くぞ」


「はーい」


魔王ゲイルは年齢をキキ達に合わせてミニ魔王となり、ドワーフ達の集落に向かった。


「なんじゃ? どこの小わっぱじゃ?」


「おっさん、ここにはろくな武器ないな」


「なんじゃとーーっ!」


「脆いねーっ、ほらもう曲がった。キャー、だっさーい」


子供がイタズラするかのように店の武器を壊して遊ぶ。


「きっさまらーーーっ! 何をしおるかっーーっ」


「そんななまくら剣なんてなんにもこわくないよーっ。エイっ」


ぐにゃ


「あっ・・・」


「とんだ期待外れだね」


「どうせこんなもんだよ。あーはっはっは」


おっさんの血管が切れそうなので次の店に移動して同じ事をしていく日々が続く。エールを味見しては馬のしょべんを嬉しそうに飲んでると言い、こんなくそ不味いワインで喜んでるなんて可哀想ー、とかドワーフ達のプライドを刺激して回った。


また来月来よう。


今度は魔王ゲイルとラムザで汚魂救い。俺は黒マント、ラムザにもマントを着せた。汚魂にラムザの半裸なんて見せたくない。これは魔王ゲイルの嫁なのだ。


どうやって殺されているかわからずに死んでいく人間達はパニックになる。



さ、また来よう。まだ汚魂少ないしな。


まだ統制の取れていない人間の街はどうして良いかわからない。そこにダン達が登場。人ゲイルはシルフィードと年齢を合わせた少年ゲイルになる。ダン達の子供設定だ。


「どうした?」


「な、なんだよあんたら?」


「旅の者だ。ちょいと泊まるとこ探してんだけどよ、金持ってねぇんだ。この純金で泊まらせてくれるとこねぇか?」


こうしてダンは街に住み着いた。


「しっかし、食い物が少ない所だな?」


「自分達が食べていくのが精一杯なのです。申し訳ありません。こんな高価な純金を頂いたのに」


「おい、シルフィ、ケイタ、ちょっとなんか育ててやれ」


「わかったよ、パパ」


パパと呼んだらケツをゴンッと蹴られた。後で仕返しに魔王ゲイルがミケを誘惑してやるからな覚悟しとけよ。


シルフィードと二人で穀物や野菜を育てていくと住民達が驚いて目を見開く。懐かしい光景だ。子供達も痩せてるからちゃんと食べさせてやりたい。これを毎日繰り返していく。そしてもっと肉が欲しいなと思った時にアーノルド達がやってきた。


保存魔法付きの魔道バッグを作ってやったので大量の肉を持ってきただろう。


ジョン、マルグリッド、チュールとブリックは魔王城でまだスタンバイ。ここでチルチルを手伝っている。ドワンは魔道バッグに錬金釜を入れてすでにドワーフの集落へと向かった。


「おっ、ここは野菜がたくさんあるじゃねーか。肉と交換しねぇか?」


ドサドサと肉を出すアーノルドとアイナ。芝居上手くなったな。


ダンとミケは器の大きさとミケの面倒見の良さですぐに中心人物になっていた。俺達がせっせと作物を育てているのもあるけどね。


アーノルド達はあっという間に街の人気者になり、狩りの仕方と魔物の討伐をするための指導を始める。


そして俺は帳簿というか住民登録みたいな物をまとめる役をやらされていた。


なんでやねんっ。


さっさと誰かに教えて引き継ごう。


まだ通貨らしき物がなく物々交換なので、金銀銅をゴーレムのドロップアイテムにするか。めちゃくちゃ持ってるしな。


魔王ゲイルは金銀銅をゴーレムに仕込んでいく。


「これ、魔石で動かすの?」


「それはもっと後だね。ミニ魔王ゲイルが遠隔で動かすから魔法陣もいらないよ。アイテムを渡す為のものだから」


ゴーレムに金銀銅を適当に仕込んで操作の練習。ジョンに相手をしてもらって操作も上達した。



「ねぇパパ。見に行っていい?」


「良いぞ」


ラムザも付いて来たので、魔族からの襲撃と思ってもらったらいいか。なら魔族らしくゴーレムにも角付けておこう。



「うぁぁぁぁぁっ! また魔族が来たぁっ」


人と同じぐらいのゴーレムが10体。中には銅が入ってる。並みの冒険者なら壊せるぐらいの強度だ。


「任せろっ」


アーノルドがゴーレムを瞬殺すると住民の目が輝いていく。俺は訓練した住民にやらせるつもりだったのに何をはしゃいでんだよ?


ダンとミケは住民を避難させる。


1体をアーノルドとの戦いに集中して釘付けにして、他のは適当に住民と戦わせる。同時操作は難しい。アーノルドも俺がやってることを理解したらしく、やっと手を抜き出した。住民が他のゴーレムを倒した時にアーノルドも倒した。ゴーレムを砂にしてやると銅の塊がドロップ。住民達はゴーレムを倒してアイテムもゲットして喜んだ。


これをきっかけにアーノルドが中心となって戦える人を鍛えていく。


「アーノルドさんの武器は凄いな。どこで手にいれたんだ?」


「知り合いのドワーフに作ってもらったんだ」


「ドワーフ?」


そう、まだドワーフと人族は出会ってないのだ。




ードワーフの街ー


「はーはっはっは、脆い、脆過ぎるっ」


こっちはラムザ達にゴーレムで襲って貰っていた。中には各種金属の素材とポーションが入っている。


「なんじゃこいつらはーーっ」


ドワーフは自分の作った武器で戦うが、こちらは硬くしてあるので通用しない。


ラムザ達に念動魔法を教えたらすぐに覚え、楽しんで破壊をしていた。


「どっせーい」


ぐわっしゃーん


「どっせーい 」


ぐわっしゃーん


新しく住み着いたドワーフが次々にゴーレムを倒していく。


「なんじゃ、その武器は?」


「ウォーハンマーじゃ、お前らのなまくらじゃ歯が立たん。ワシの作った剣や武器がそこにあるから、それを使って奴等を倒せ。みな壊されるぞ」


プライドの高いドワーフ達もやむを得ずドワンの武器を手に取って戦いだす。そして自分の武器では通用しなかったのが嘘のようにゴーレムを倒す事が出来た。


「お前の武器と俺達の武器は何が違う?」


「お前らは素材というものを知らなさ過ぎる。こいつらを倒した素材からもっと良いものが作れる。奴等が逃げた方向に追うぞ。奴等を狩るんじゃっ」


ドワンはドワーフ達に街を捨てさせ、人族の街の方へと導いていった。



「ゲイル、俺達はまだ出番がないのかっ」


ジョンは日々イライラが募っていた。魔王ゲイルとマルグリッドが楽しそうにキャッキャうふふしてるからだ。


「もうすぐだよ。おやっさんがドワーフ達と人族を合流させるから。ジョンはチルチルのオートマターの対戦相手として頑張って」


「キャー、ゲイルのえってぃぃぃぃ」


魔王ゲイルはマルグリッドとスカートめくりをしたりして遊んでいた。


「くそっ!」



人族の街でアーノルド達に加えダンも剣の指導者として住民達を鍛えだす。その隙に魔王ゲイルはミケの元へ来てサバを焼いてゴロゴロ手懐けていた。


「サバ久しぶりやっ。めっちゃ旨いわぁ」


ミケは感動していた。毎日食べてたらこんなに感動しない。我慢の日々が続いたからこその味なのだ。その後、ケモミミとしっぽを撫でてミケがゴロゴロしているのをダンが発見。


「あーーっ、人がいねぇ隙に何やってんだてめぇっ」


「ミケ、またなっ」


「またはよきてやっ」


魔王ゲイルはサッと逃げていった。


「何やってんだミケっ!」


「え? 毛繕いしてもうててん。あんたぜんぜんしてくれへえんやろ?」


「俺は忙しいんだよっ!」


「ほなら別にええやん。忙しいしときや。ウチはゲイルにやって貰うさかいに。ケイタ、こっちにおいでや。お礼に抱っこしたるわ」


ミケの胸に押し付けられたケイタはミケの胸をスンスンしていた。想定外だけど今の人ゲイルは子供ボディだから別にいいか。


シルフィードは見てみぬふりをしていたが後でケイタに匂いの上書きをしていた。



ミニ魔王ゲイルが操るゴーレム討伐にダンも参戦。魔王ゲイルがチマチマとミケにちょっかいかけてくるのが相当フラストレーションが貯まっているようで手加減無しで倒しにくる。硬くしてきて正解だ。


アイナはその様子を楽しんでいた。やはり俺と似た者同士だな。さて、今度はアーノルドを使って喜ばせてやろう。


ゴーレム操作にもだいぶ慣れたのでスピードも上がってきた。アーノルドはそれをせせら笑いで追っかけてくる。


ズボッ


そして見事落とし穴にはまったアーノルド。


「キャーハッハッハッハっ!」


それを見て腹を抱えて大笑いするアイナ。


「アイナ、面白かっただろ?」


「余裕ぶって追っかけてあのざまよっ! キャーハッハッハッハ」


やはり俺と笑いのツボが同じだ。二人で腹を抱えて笑ってるところに赤オーガみたいな顔をしたアーノルドが這い出てきた。それを見てまた大笑いする二人。ナイスリアクションだアーノルド。


おっと、逃げるタイミングだな。


「じゃ、またねっ」


アイナにチュッとして俺は逃げた。


魔王ゲイルの祝福は欲を刺激するのだ。アーノルドに返せっ!ぶちゅーーをされる前にゲートから逃げたのだ。


「おっ、おまっ、何、息子に赤くなってんだーーっ」


「あら、もう息子じゃないわ。久しぶりにドキドキしちゃった」



俺は魔王城に戻ってから胸を押さえた。ヤッベ、あんなドキドキするとは思わなかった。ダメだ。アイナに魅かれる前にラムザに上書きして貰おう。


アイナと笑いのツボがシンクロし、めっちゃ楽しかった。もうチュッはやめておこう。魔王ゲイルは危険だ。



アイナも魔王ゲイルにチュッとされて驚いていた。息子だという意識が一瞬飛んだのである。


「何そんなに赤くなってんだよっ」


「だって、久しぶりだったんだもの。アーノルドがしないんだから別にいいでしょ」


アーノルドはそう言われてハッとした。そういえばまったくしてないし、しようとも思わなかった自分に。


そしてアイナにチュッとしてみたが何も感じないし、アイナもアーノルドに何も感じない。


なんだこれは・・・?



「撫でりゃいいんだろ、撫でりゃ」


ダンもミケを撫でてないことに気付いてミケを撫でるが胸とかついでに触ってた記憶があるのにまったくそんな気にならない。ミケはあくびをしてるだけで、気持ち良さそうでもなんでもない。


なんだよこれ・・・



魔王城ではジョンがゲイルにとられないようにマルグリッドを抱き上げてみたが何も感じなく、マルグリッドも面倒臭そうにしていた。


昔はこうやって寝室に連れて行くと照れ臭そうにはにかんだのに・・・ 俺もそれが嬉しかったのに・・・



旦那衆は自分の異変をようやく自覚したのである。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る