第714話 幸運の女神

転送の魔法陣を踏んだ? いや、これ転送じゃなくて・・・


「やったぁ! 大成功!」


チルチル?


「ここはお前の星か?」


草木などしかなく、生物がいない世界だな。なんの生物の気配もない・・・


「そう! ゲイルと私の楽園。ここなら誰も来れないからゲイルを独り占め出来るのっ」


「お前、まさか俺を召喚したのか?」


「当たりっ! 絶対上手くいくと思ったんだぁ」


チルチルは召喚魔法ではなく、召喚の魔法陣を作って俺をめぐみの星から召喚したのだ。しかも自分自身のエネルギーを使って。


「お前、魔法陣を教えた時に悪用すんなって言っただろ?」


「だって、こうでもしないとゲイルを独り占め出来ないもん。めぐみとシルフィとラムザだけズルいんだもん」


「ちゃんとお前にもあーんとかしてるだろ?」


「違うのっ! 子供じゃなしに女として独り占めしたいのっ」


なんとなく解ってた。チルチルは初めからちゃんと陽だまりの匂いがしてたのだ。シルフィードと同じく当初から女体化してたのだろう。そこまでして俺に未練があって、よく魂が昇華したな?


「絶対にゲイルに会って私に振り向いて欲しいとずっとずっと思ってたのっ。ゲイル、好きっ」


そう言って抱き付くチルチル。


俺は獣人達が生贄として蛇に差し出したチルチルを助け、そのままダンとミケの力を借りて親代わりに育てた。俺にとっては娘だけど、チルチルにとってはそうではなかったのだ。闇から救いだしてくれた王子様のような存在なのだろう。未練が残ってたのではなく、未練をより強くもって俺に会いたい一心で魂を昇華させたのだ。


それにチルチルはよく俺の匂いを嗅ぐ。チルチルにとって俺はいい匂いなのだと思う。


「ゲイル、お願い。お嫁さんにしてとはもう言わないから。一度だけでもいいから」


チルチルは俺のツボもよく知っている。ギュっと抱きついて切なそうな上目遣いでこんなに事を言われたら落とされてしまいそうだ。すでに召喚の魔法陣で落とされたけど。


「チルチル、俺の気持ちを正直に言う。倫理観を捨てたらお前は好みだ。シルフィやめぐみやラムザがいなければ親代わりに育てた娘みたいな存在であったとしてもお前に惚れただろう」


「えっ? じゃあ・・・」


「でもな、やっぱりお前は俺の大切な娘なんだよ。それにお前の匂いは大好きだけど、女性としての匂いで好きなわけではない。だからお前とはそういう関係になれない。娘だと嫌か?」


・・・

・・・・

・・・・・


ぐすっ ぐすっ


「どうしても?」


「どうしてもだ」


「本当に?」


「本当に」


・・・

・・・・

・・・・・


「じゃあ、娘として抱き締めて」


俺はチルチルをぎゅっと抱き締める。


「娘に祝福して。召喚の魔法陣を作り出した事を褒めて」


「チルチル、よくこんなのを作ったな。凄いぞ」


チュッ


ムチューーーーーッ


「こら、祝福だと言っただろが」


「フフフっ ゲイルからは祝福でもいいの。私のはキス♪」


「お前なぁ・・・」


「でもいいの。嬉しかったから」


「何が?」


「ゲイル」


「だから何?」


「おっきくなってるよ♪」


ゲッ・・・


「いや、これは魔王ゲイルがね・・・」


もう自分のこういう部分を知るのが嫌だ。物凄い自己嫌悪だ。魔王ゲイルを捨ててしまおうかと思ってしまうぐらいに。


「あー、なんかゲイルが私の事をそんな風に見てくれただけで満足しちゃったかも。なんか凄い不思議な気分。ね、もう一回祝福して。今度はちゃんと私も祝福で受けるから」


そう言うのでもう一度チュッとしておく。


「うん、やっぱりすっごく満たされる」


チルチルは俺への未練で自らの魂を昇華させた。それほど強い未練がこんなことで満たされるのだろうか?


あっ もしかして・・・


【召喚特典スキル】祝福のキス


これにも召喚特典付くのかよ・・・


しかし、神ゲイルが勝ってよかった。魔王ゲイルが勝ってたらどんなスキルが・・・


ぶるっと身震いしたゲイル。


「チルチル、おやっさんの星を皆で発展させに行くけど、手伝ってくれないか?」


「何が手伝えるの?」


「それは後から教えるよ。お前の魔法陣作成能力が役に立つぞ」


「やるっ! じゃ、連れてって」


俺はチルチルと手を繋いで魔界経由でいつもの場所に戻った。



魂が昇華してないやつらはどうなってるんだろ? あれからすごい年月が過ぎているから壊れちゃたのかな? それに魂が昇華するのは人だけなのだろうか? シルバーとクロスの魂って融合してマリアを守りきったあとどうなったのだろう?



「ぶちょー、髪の毛洗って♪」


しゃこしゃこ洗いながらめぐみに聞いてみる。


「壊れそうな魂をメンテナンスしたりするのってどうしてるんだ?」


「別に、休ませるだけ」


「長い間生まれ変わらせないと腐る事もあるんだろ?」


「保管庫に入れておくの。そうすれば長い間持つから」


冷蔵庫みたいなもんか。


「それは自動でやってるんだよな?」


「もう少しで昇華するかもしれないやつだけね。あとちょっとで壊れたらもったいないんだって」


「それ取り出すタイミングも自動なのか?」


「出すのは自分でやらないとダメよ」


「今どうなってる? お前、ずっとここにいるだろ?」


「貯まってると思うよ」


こいつ・・・


「これ洗い終わったらその保管庫・・・」


スースーっ


あー、寝やがった。全くもう。でこピンしてやろうかと思ったけど、幸せそうに寝てるからもういいわ。


洗い流してから抱き上げて髪の毛を乾かしていく。


「ふふっ、ぶちょー。私いい匂いしてる?」


寝たふりしてやかったのかこいつ。


「あぁ、してるぞ。髪の毛洗いたてだからな」


そう言うと、いつまでもふふふっと嬉しそうに笑うめぐみだった。



めぐみが起きてからめぐみの世界に行って保管庫を見てみる。なんだよ魂庫たまこって、開けたらのびちゃんっとか声しないだろうな?


もうめぐみは他の魂に全く興味がないので勝手に魂庫をあさる。


おっ、ポットとデーレンの魂発見! それにこれ・・・


「めぐみ、馬の魂は昇華するか?」


「知らなーい」


こいつ・・・


この世界だと、昔みたいにめぐみにイラっとするのはなぜだろう?


ひっひっふー、ひっひっふー


気分を落ち着かせて、めぐみにもういけるか聞いてみる。


「大丈夫じゃなーい?」


ペシッ


「痛ったーーっ。何すんのよっ」


「重要なんだよ、ちゃんと見ろよっ」


見もせずに大丈夫と言っためぐみに手が出てしまった。


「叩くことないじゃないっ」


ぷりぷり怒るめぐみに説教を食らわしてやろうかと思ったが無駄だろうと思い、祝福してみる。


「ふふふふっ♪」


めっちゃ嬉しそうな顔をしたことで俺の心も落ち着いていく。そう、喧嘩してる暇はないのだ。


大丈夫だとは思うけどめぐみにも確認させてから生まれ変わらせた。


「めぐみ、少し時間を進めるぞ」


めぐみは大量のポイント獲得しているのでこれに使っても問題ないだろう。


まずは5年ほど進ませてシルバークロスを成長させる。



「なぜ、ずっと帰って来ぬのじゃ? なぜ誰もおらんのじゃっ!」


「ミグル、早く帰ろうぜ」


「アルよ、貴様だけで帰れば良いだろうが、俺はゲイルに用があるんだっ」


「じゃあてめえだけが残ればいいだろうかっ」


「親に向かっててめえとはなんだっ」


「いつまでも親面してんなっ。もう血の繋がりはないんだっ」


「これ、止めぬか二人とも」


「ミグル、おまえどっちを選ぶんだ?」


「そうだ。俺かエイブリックのどっちを選ぶんだっ」


ミグルは二人が自分の事で争う至福の時をめぐみの星で5年間過ごしたのであった。



戻ってシルバーとクロスに座標を設置。俺を見てめちゃくちゃ喜ぶのでしばらくよしよししてやる。


「おい、人の馬を勝手に触んな」


「いや、すまんすまん。こいつらいい馬だな。もしよかったら譲ってくれないか?」


「別にいいけどよ。そんなちっとも言うことを聞かない馬」


「いくらだ?」


「金貨1枚」


そんな安値で手放すのか・・・ お前馬を見る目ないぞ。


シルバークロスを買って言い聞かせる。


「あのな、マリアが困ってると思うんだよ。助けに行ってやってくれないか?」


「ヒヒン?」


「自分の星に行ってるんだけどな、しばらく帰って来れないみたいなんだよ。その間支えてやってくれないか?」


そしてチルチルとマリアの星に行き、シルバークロスを召喚した。



「えっ? もしかしてシルバーとクロスなの・・・」


ブンブン


「うわーんっ。会いたかったのーーーーっ」


マリアはシルバークロスを抱き締めて嬉し涙でびしゃびしゃになっていく。それをシルバークロスがなめてやっていた。


シルバークロスに召喚特典が付いただろうけど見るまでもないな。マリアがシルバークロスの思い描いたあの頃のマリアの姿に変わっていく。シルバークロスは俺とダンよりマリアを選んだんだから当然だな。


これでマリアが自分の世界に戻るまでにもう一度生まれ変わって昇華するだろう。馬の魂が昇華した事例はないかもしれんが絶対にそうなる。なんせその星を作った者を守るということを成すのだからな。


それにあのスキル・・・


【召喚特典スキル】愛する者を守り続ける力


うん、もう大丈夫だ。



ポットとデーレンはドワンの星に召喚しよう。そこで活躍して星の発展に貢献すれば昇華するはずだ。


しかし、めぐみのやることは後付けかもしれんが全て最高の結果を生んでくれる。めぐみに最後の言葉を素直に残せたらこんな風になってただろうか?


100年以上帰ってこなかった時もすぐに帰ってきてたらダン達の最後ももっとあっさりしたものだったんじゃなかろうか?


そもそも俺の魂をたまたま貰って持って来てなかったら・・・


「めぐみ」


「なーに?」


「お前、幸運の女神でもあるかもしれんな」


「どういうこと?」


「そういうことだ」


「そっか、そういうことか♪」



魔界に帰るとカスとゼウちゃんが揉めていた。


「なんでめぐみと同じ設定にしても同じように発展しないのよーっ」


「そんな事知るかバカ」


「ちょっと、どうすればいいか教えなさいよーーーーーっ」


カスの首を絞めるゼウちゃん。


ゼウちゃんにデーレンの魂が入ったんじゃないよね? まぁ、これも後から見たら結果オーライになるかもしれん。



なんせここに幸運の女神めぐみがいるからな。

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