第709話 エピローグ

「パパーっ! ヘルプヘルプっ!」


「どうしたっ!」


ララが慌ててゲートを通ってゲイルに助けを求めて魔界に飛び込んで来た。


「ママが私を庇って斬られたのっ! 勇者ってのがスッゴク強いのっ」


「なんだとーーーっ! 俺の女斬った汚魂は勇者だろうがなんだろうが駆除救ってってやる」


ゲイルは激怒してララにその場に案内させる。


「ゲイルっ、すまん不覚を取った。あいつの持ってる剣はヤバイっ」


ラムザが斬られた腕を先に治して勇者とやらをにらみ付ける。魂は少ししか汚れていない。恐らく今ラムザを斬ったことで少し汚れたのだろう。


汚魂になる条件が少しずつ解ってきた。自分の利益の為に人を殺したら汚れるというよりも、綺麗な魂を殺したり、傷つけたりすると汚れていく。詐欺や泥棒でも汚れが付くみたいだ。


まぁ、綺麗な魂を殺すような奴は自分の利益の為にやるようなやつだからな。


キキとララは暗殺者として洗脳状態にあり、綺麗な魂の人を殺していき魂が汚れていったのだ。自分の利益の為にでなくとも、綺麗な魂を殺したりしても汚れていくのがそれでわかった。キキとララのやったことは許されない。しかし、キキとララが悪い訳ではない。洗脳してそうした奴が悪いのだ。


二人がやった行いの罪は自らの魂を壊すということで償ったのだと俺は思った。だから生まれ変わった時に2人を一度も咎めなかった。ただ二度とそうならないように光の世界から闇の世界に行かせてはならない。大切な娘なのだから。


「ラムザ、キキ、ララ。手を出すな」


ラムザの実力ならこの勇者でも倒せただろう。だが、汚魂ではないので攻撃せずにただ防衛していたのだ。


「誰だ貴様はっ! どけっ、そいつは魔王だ。この世の悪なのだっ!」


「お前の言う悪とはなんだ?」


「人の生活を脅かし、恐怖に陥れる者だっ。そこの者は魔物を使い人々を殺してきたのだ。お前も仲間なら斬るっ」


「ではまずお前を召喚したやつからやれ」


「はっ?」


「こいつはラムザ。こっちの二人は俺とラムザの娘、キキとララだ。確かにラムザは魔王だ。お前は魔王をなんだと教えられた?」


「人間に災いをもたらす存在だ。魔王を討伐をするために俺は召喚され勇者になったのだ」


「お前の魂は綺麗だが、ラムザを斬った事により少し汚れた。これはどういう事か解るか?」


「なに?」


「お前の志は認めよう。だがな、綺麗な魂を持つものを斬ると汚れ、殺すと浄化出来ない程の汚れが付く。そうなれば貴様が勇者であろうがなかろうが俺はお前を駆除救いする。今なら自分の過ちを認め、悔い改めることで自ら浄化出来るであろう」


「お前は何者だ?」


「ラムザの夫であり、二人の親だ。そして汚魂駆除救いは俺のライフワークだ。戦いを挑む前に自ら魔王が何をしたかよく調べるんだな。殺されたという人が何をやってきたか、どんな人間だったのかをな」


「ふざけるなっ! そんな甘言に惑わされる俺ではないっ」


「ならばここで待っててやろう。まず調べてから戻って来い。それで今と同じ志で魔王を討伐すると言うなら俺が相手をしてやろう」


「ふざけるなっ」


「お前にチャンスをやると言っているのだ。まだ戻れる魂を闇に落とすのは本望ではないがどうしてもと言うなら俺は妻と子を守る夫としてお前を倒す。すでにラムザを斬られているから手加減はせんぞ。正当防衛が成り立つからな」


「パパっ、カッコいい!」


「そうか? そうだろ。一度こんな事を言ってみかったんだよ。あばばばばばばっ」


「きゃっ! もうそんな事される歳じゃないよーっ」


娘の成長は嬉しくもあり、寂しくもあるなぁ。二人が成長したらまたラムザは又子供生んでくれないかな・・・


勇者はちょー親バカのゲイルを見てドン引きした。しかし、攻撃しようにもまったく隙が無く、こちらにも攻撃してこない。


「本当にここで待つつもりか?」


「ん? ここまで来るのが面倒なら付いていってやろう。お前を召喚した国は汚魂が多そうだ」


何者だこいつは? 汚魂が多そうだと言ったこの男から出る威圧感は勇者の背筋を凍らせた。自分はまだ勝てないと。



付いて来なくて良いと言った勇者は帰って死んだ者を調べる。するとあの男が言った通り、殺されるに値する人物ばかりだった。しかし、それでも裁くのは法律であるべきなのだと勇者は思う。



戻ってきた勇者が目にしたものは魔王とイチャつく男の姿であった。


「取り込み中のところをすまん」


「おっ、どうだった?」


「お前の言わんとすることは理解した。しかし、悪人を裁くのは法であるべきだ!」


「お前は文明が発達した世界から召喚されたのだろう。こっちの世界は元の世界と比べて人の命が軽いと感じなかったか?」


図星を付かれて黙る勇者。


「俺達が駆除するのは法で裁いても汚れが取れない魂の奴だけだ。それは生まれ変わっても同じ事を繰り返す。そして綺麗な魂がその犠牲になるのだ。俺達は汚魂に二度と悪事を働かせないように救うんだよ」


「なに?」


「チャンプっ! 来いっ」


ブオン


「もー、寝てたのにぃ」


こいつどんどん幼児化していくな。


「ド、ドラゴン・・・」


「特別に乗せてやる。上から見たら今から放つヤギが無差別に人を襲ってないのが解るだろうよ」


俺は勇者を乗せてこの国へ飛ぶ。


「ヤギ、おやつだ」


めぇ めぇ めぇ


大量のヤギを召喚し、こいつを召喚した国を浄化していく。


「よく見てろ、恐らくお前を召喚した王達も食われるはずだ」


チャンプが飛来し恐怖で逃げ惑う人々。一部はヤギに咀嚼されていく。


そして王や勇者召喚をした中心の魔法使いが食われた。


「子供達がこけて怪我をしているではないかっ」


「大丈夫だ」


一通り汚魂食い、寝そうになってるヤギを返して国中に治癒の魔法を掛ける。


「これで完了だ。召喚された者は皆召喚した者の言うことを鵜呑みにし過ぎる。召喚特典が何かしらんが、それを復興と世直しの力に使え」


「お前は一体・・・」


「まあお前がそれを何度生まれ変わってもやってれば俺が何か知ることが出来るかもしれんな」


勇者を下ろしてこの世界を後にする。まっすぐな奴だったから上手く行けば世界を導くだろう。



「ゲイル、帰ろうか。魔神で来ているからめぐみが拗ねているかもしれん」


「そうだね。すぐ帰るつもりだったからな」



「あっ! 帰って来た♪」


「ごめん、遅くなった」


「お帰りー」


めぐみは俺にまとわりついて離れない。やはり寂しかったようだ。


「じゃ皆で飯食おうか。めぐみ、ゼウちゃん呼んで。島の拠点で食べよう」


「うん♪」



「ゼウちゃん、ここの仲間が存在する者になったとして、めぐみの世界を見付けられると思う?」


「どうかしらねぇ。一つずつ見て探すしかないわね」


「もしゼウちゃんがいるときに訪ねて来たらここに連れて来てくれない?」


「いいわよ。でもゲイルくん幸せになってよかったわ」


「ありがとうね」


めぐみ、キキ、ララがあーんしているので、親鳥をしながらゼウちゃんに皆が来たら導いてと頼んでおいた。


「お供えってまだ届いてる?」


「ありがとう、ちゃんと届いてるわよ。毎日大量に」



「おっ、シルフィも近くだったな」


「ダンっ! ミケ!」


「あれからどれぐらいたってんねんやろな?」


「さぁな、どうする? おやっさんとか探すか?」


「さぁ、他は勝手に行くんちゃう? ウチらはシルフィードさえ連れてったったらええねん」


「そうだな。じゃ、探しに行くけど手がかりねぇよな」


「大丈夫や。ゲイルは女神さんとこにお供えしとったやろ。旨そうな匂いのする方に行ったらええねん」


「そうだな。後シルフィ、ぼっちゃんのこったがな・・・」


「解ってる。私にゲイルとめぐみさんのエネルギーが入ってきてたの。ゲイルに会えるの嬉しいけどなんか複雑。何したか想像付くもん。それにある意味ゲイルの子供みたいなものでしょ私」


「カッカッカッカ。まぁ気にすんな。俺らもおんなじだ。もう人じゃねえんだからよ。シルフィもぼっちゃんと子供バンバン作ってやりゃいいんだ。それが他のやつらのエネルギーになるんじゃねぇか?」


「そっか♪」


「そうそう、子供や言うたかて血の繋がりはあらへんのや。なんも気にする事あらへん。やりたいことやったらええねん」


そしてダン達は匂いのする所を探しだした。



「ゼウちゃん、煙ってお供えしたらどうなるの?」


「多分届くと思うけど、私の所に臭い染み付かないかしら?」


「今滅びを待ってるところなんだよね? 自分の所に帰る必要ある?」


「別にないわよ」


「じゃあここにいればいいじゃん。手紙もお供えしておくから、俺が作ったのを食ったら解るからその時に迎えに行ってあげて」


「ずっとここに居ていいの?」


「めぐみ、別にいいよな?」


「大丈夫よっ」


「本当にいいの?」


「いいけどどうしたの?」


「ありがとうゲイルくんっ」


あ、ゼウちゃん寂しかったんだ・・・ めぐみもずっとここにいるしな。


「ちょっと、ゼウちゃんっ。そんなにべたべたぶちょーにくっつかないでっ」


「あら、くっつくぐらいいいじゃない。ゲイルくんにくっついてると落ち着くのよね」


神ゲイルは癒し系だからな。めぐみは何ゲイルでもいいみたいだけど。


「ねぇ、魔王ゲイルくんはどんな感じなのかしら?」


「多分、欲望を満たす感じみたいかな」


「へぇー」


なんかいらんこと考えてないよね?


その後、ゼウちゃんの世界は焼き鳥とサバを焼いた匂いで充満していくのであった。



「よう、ぼっちゃん。探したぜぇ」


「いい暇潰しになったろ? シルフィは一緒じゃないの?」


「あっちで拗ねてるよ。女神さんと良い仲になってんのバレてるからな」


「覚悟しといた方がええで」


ダンとミケはニヤニヤしながらそう言った。


女の勘は鋭いからな。そうだとは思ってた。



「シルフィ、お帰り」


嬉しくて涙が止まらないかと思ってたらそうではなく、当然帰って来るものだという感覚の方が強い。ダン達にもそうだった。朝出掛けて夕方帰って来たみたいな感覚だ。不思議で仕方がない。


「たっ、ただいま」


シルフィもそんな感じだ。


「ぜんぜん変わらないね」


「どういう意味よっ!」


「え? 何怒ってんの?」


「いくらやっても変わんないのっ」


「何が?」


「ゲイルの好みの姿になれるんでしょっ! それなのに・・・ それなのに、いくらやってもめぐみさんみたいにならないのっ」


「なんだ、そんな事か。変わる訳ないだろ」


「え?」


「シルフィはシルフィのままが良いんだから」


「でも、めぐみさんみたいに胸も・・・」


「胸は別に大きくてもそうでなくてもいいんだよ」


「ほっ、ほんと?」


「そう、シルフィはシルフィだからそのままがいいんだ。だから何も変わらないんだよ」


「ゲイル・・・」


「お帰りシルフィ」


「ゲイルーーーっ!」




「なんじゃ、坊主が増えた以外何も変わっとらんじゃないか」


「ちょっとーっ! めぐみさんっ、ゲイルにそんなべたベたしないでっ」


「なんで? ぶちょーは私のだよ?  ねぇぶちょー」


「ど、ど、ど、どういう意味よーーっ。ゲイルは私のなんだからっ。ラムザもベタベタしたらダメっ」


「ん? 魔王ゲイルは私のだぞ。早い者勝ちだ」


「パパは私達のなんだからねっ」


「みんなずるいっ」



「カッカッカッカ、ぼっちゃんはあの頃から変わらんのが望みなんだろよ」


「ゲイルのあのうんざりした顔見てみ、笑かすわ。うんざりしとうて仕方がなかったんやろ」



そしてアーノルドとアイナも到着。


「おう、ゲイル。お前増えるとか相変わらず面白い事やってんな」


「ゲイル、ミーシャとマリアもチルチルも一緒よ。もっと増えないと大変よ」



ジョンとマルグリットも無事に到着。


「あら? もう皆来てらしたのね。へぇ、ゲイルって増えるの? 私も一つ頂こうかしら?」


クスクスクス


「お、お前までゲイルの事を・・・」


「最後まで綺麗だと言ってくださったのはゲイルだけなのよ。ずっとそう言ってて欲しいわ」


「俺がずっと言ってやるからーーっ」


「ジョン、ベントは来てないのか?」


「サラを待ってるみたいだよ」



チルチル登場。


「ねー、ゲイル。私にも専用ゲイルちょうだいっ。今度こそ結婚してもらうんだぁ。ねっ、ケモミミとしっぽあるの好きなんでしょ?」


俺の心の中にしまってあったものがプロファイリングされていく・・・


ミーシャは俺の面倒を見ていた頃の姿でマリアとやってきた。


「ぼっちゃま。お肉焼いて下さい♪」


「ぼっちゃま、マリアもこのままが一番いいのよねっ。マリアにもぼっちゃま一つちょうだいっ」


「なんや、くれ言うたらゲイル貰えるかいな。ウチ貰とこかな」


「何すんだ?」


「サバ焼いてもろたらええやん。サバ焼き専用ゲイルや」


「おまえらいい加減にしろーっ。そんなに増やせるかっ」


「えーーっずるいっ」×大勢



まぁ、賑やかで楽しいからいっか。


本当はまだ増やせるけど内緒にしておこう。キキとララはもう手が離れて来てるから人ゲイルはシルフィのだな。



ミグルがエイブリックとアルと共に到着。


「ぬおーっ! ゲイルがたくさんいるのじゃっ、ワシにも一つくれっ」


「売り切れだ」


「お前はまた意地悪するのかーーっ! 生んでやったじゃろうがっ」


「生んだ? どういう事が聞かせて貰おうかゲイル?」


「父上っ、何で俺のミグルを連れて行くんだよっ」


「アルよ諦めろ。一緒に昇華したのは俺だ」


「やめるのじゃっ、ワシの為に争うのはやめるのじゃっ」


ミグル、嬉しいそうだなおい。


「あっ、エイブリックさん、ドン爺は?」


「撒いてきた」


酷ぇ・・・




こうして収拾がつかなくなる日常が帰って来た。



お帰りみんな。また楽しくやろう。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


【ぶちょー、今度の人事異動は異世界ですって】の本編はこれにて完結です。最後までお読み頂きましてありがとうございました。


これより、スピンオフとして書きました【魔人ゲイルは忙しい】編に続きます。本編でなぜゲイルがモテモテだったのか、アーノルドが子供相手に本気で勝負を挑んできたりしていた理由が分かるかもしれません(笑)


続きも読んで下さると光栄です。


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