第708話 思った通りに叶えられていく

「なぁ、めぐみ」


「なーにー?」


「お前、俺の事好きか?」


「うん♪」


「男としてだぞ?」


「ぶちょーとして好き♪」


やっぱりそうか。身体を変えてくれたのは単に喜んで欲しいからなんだな。こう、俺とそうなりたくてなったわけじゃなさそうだ。


「そっか。ありがとうな」


嬉しそうにめぐみがべたっとくっついてくる。こういう時は何か言いたいのだ。


「ん? 何かして欲しいことあるのか?」


「ぶちょー、子供欲しい?」


「子供というか娘かな。まぁ、もし子供が出来て息子だったとしても嬉しいのには変わりないんだけどね」


「ふーん。どっちでもいいの?」


「どっちでもいいよ。子供は子供だ。息子なら一人の力で生きていけるように鍛えるし、娘ならおもっいきり甘やかしたい。これ本当はダメなんだけどね。だから実現しなかったんじゃないかと思うし。まぁ、どっちも無理だろうから甘やかすのはお前だけになるな」


「ぶちょー」


「ん?」


「どっちでもいいなら大丈夫な気がする」


「は?」


「娘って言われたら無理かもしんないけど、どっちでもいいなら大丈夫だと思う」


「めぐみ、いいか。したらできると言うものではないんだぞ。俺はまだ生物だけどお前は生物ではないからな。営んで子が出来るのは生物だけだ」


「なんとかなると思う」


あー、これがカスの言ってたあほの理屈は理解出来んと言ってたやつだ。俺も全く理解出来ん。


「何がなんとかなるのかわからんけど、こういうのはお互いの気持ちがそうならないとダメなんだと思うんだよね。子供がてきるかできないかはその結果だ」


「ふーん」


それから、めぐみの星に自分達だけの拠点を作り、めぐみ、ラムザ、ゼウちゃんと4人で毎日釣りをしたり、ほかの所に遊びにいったりして楽しく過ごしていく。


ただ夜になるとたいていラムザとゼウちゃんは自分のところに帰っていく。時々飲んで盛り上がりそのまま朝までとか、寝ちゃったりとかはあるけども。


めぐみをトントンして寝かせた後に海の見える露天風呂に入る。別に風呂に入らずとも問題ないのだが風呂は癒しなのだ。



凪いだ海に映る月はとても綺麗だ。それを見ながらいっぱいやるのは至福の時と言える。


お一人様を満喫しているとめぐみが起きて風呂に入って来た。


「待て待て待てっ。入りたいなら代わってやるからっ」


マネキンボディでなくなっためぐみを直視出来ないゲイル。


「一緒に入る」


「いや、さすがに裸のお前にくっつかれたら理性が持たん」


皆が俺と一緒に風呂に入りに来たのは子供だったからだ。あのミーシャですらある程度大きくなってからは一緒に入っていない。ゼウちゃんは入って来たけれども女性型であって女性ではなかったのだ。しかし、めぐみは今は女性になっている。しかも俺はめぐみの事が好きだと魂が言っている。このシチュエーションはヤバすぎる。


「別に好きにすればいいじゃない。せっかく色々と調べたのに」


そう言ってポチゃと入って来た。


「やめてくれって。お前は俺を男としてみてないだろ? だからこういうのはそうじゃないんだって」


「私はぶちょーとして見てるよ」


「だからなんだよっ!」


「ぶちょーって男なんだよね?」


「そうだけどっ」


「何が違うの?」


「ぶちょーはお前にとって名前みたいなもんだろっ?」


「ぶちょーと男って同じでしょ?」


「え?」


「だって、他のは私にとって生物だもん。男とか女じゃないもん」


ん?


「どういう意味だ?」


「だからぶちょーの言う男ってぶちょーだけなのっ」


真っ赤になるめぐみ。


なんだよ、お前にとってはそうだったのかよ・・・


しかし・・・


「お前、俺とこういうことをしたら人になっちゃうかもしれないぞ。ただでさえそうなりかけてるのに」


「人になったら何か問題あるの?」


「死んじゃうかもしれないじゃないかっ。お前が好きなだし巻き玉子を食えなくなるぞっ」


「でも死んだら私の世界に戻るでしょ?だったら元に戻るだけじゃない。そしたらまた同じになって帰ってくるから問題ないんじゃない?」


カスが言ったあほの理屈は理解出来んという言葉が脳内で再生される。


しかし、ここはめぐみの世界。もしかしたらそうなのかもしれない。


~やれば分かるさ~


どうしてあのろくでもない奴の言葉が聞こえてくる?


でもそうかもしれん・・・


俺はめぐみを求めている。


「めぐみ、俺とこういうことをしたいと思ってるのか?」


「うん♪」


屈託のない笑顔でめぐみが答える。


俺はこのなんの裏も無い笑顔が好きなんだと改めて思う。


「どうなっても知らんぞ」


「ぶちょーならなんとかしてくれるでしょ?」


「わかった。なんとかしてやる」


そう答えたゲイルはめぐみとひとつになった。



めぐみとのそれはとても心が満たされるものだった。


そうか、めぐみは<めぐみ>だと思ってたけど、<めぐみ>だったのか。


ゲイルはずっとめぐみから愛を貰っていたのだと理解する。


重みが増していたのはゲイルへ愛を伝える為に色々としてくれていたことでめぐみそのものといえるエネルギーを大量に使っているのが原因だった。ゲイルからの魔力というエネルギーが大量にめぐみに与えられ、めぐみは真の姿になっていく。


【名前】めぐみ

【種族】愛の女神



その後、満たされためぐみはゲイルのもうひとつの願い、娘を持つということを叶えて欲しいと言った。


ゲイルとめぐみの営みは生物を生むのではなく、無限の世界のどこかに存在するものを生み出していた。めぐみが娘は無理かもと言った理由はこのことだった。男でも女でも問題無いよとゲイルが言ったことで男で女でもないもので良いとめぐみは受け取ったのだ。



ラムザとのそれはお互いの欲を満たしてくれた。


「ゲイル、気持ち悪い・・・」


「今無理しちゃダメなんだよ。魔力だけでいいか?」


「何か酸っぱいものがいい」


ラムザは妊娠したのだろう。


「ねー、ぶちょー。娘なの?」


「どっちだろうね?」


「絶対、娘よ。私には確信あるの。ふふんっ。どゆあんだすたん?」


お前変わらんな・・・


「ゲイルくん。男の子だったらどうするの?」


「鍛えて他の星の汚魂駆除に行かせるよ」


そう、息子なら鍛えて旅立たせる。娘なら甘やかして玉のように育てるのだ。



そしてラムザはつわりが収まった直後に口から卵を産んだ。


「ラムザ、魔王って卵生なんだな」


「知らなかったのか。何度か食べただろ?」


え? たまーにラムザが持ってきた旨い玉子って、ラムザの無精卵だったのか・・・


「うむスッキリした。あの気持ちが悪かったのが嘘のようだ。もういつ求められても大丈夫だぞ」


自分の子供が卵ってとても不思議な感じだ。こんな鶏卵みたいなものからどんな子供が生まれてくるんだろうか?


まさかヤギじゃないよね?



「では他の星に行くか?」


「え? 暖めたりしなくていいのか?」


「このまま放っておけば勝手に育つ。子育ても不要だ」


「子育て不要って、お前には胸があるだろうが。母乳とかどうすんだよ?」


「魔力があるから不要なのだ。この胸はゲイルの物だ」


なるほど、だから卵を産んだ直後から俺の欲を刺激するのか。おっぱいは赤ちゃんの為にあるんやでぇというのは人だけの話なんだな。


「ぶちょー、これ茹でたら美味しいかな?」


やめろっ!


「お前はなんてこと言うんだよっ」


人の子供を茹でるとか言うなっ。


「じゃあ玉子サンドイッチ作って。ラムザの卵見てたら食べたくなっちゃった」


「うむ、それはいいな。我も酸っぱい物はもういらん。半熟のコッテリタルタルのがいい」


あんた、有精卵産んだばかりでよくそんな事を言うよな・・・


「まだ魂入ってないんだから問題ないじゃない。まだ茹でても大丈夫よ」


確か魂がまだ入ってないお腹の赤ちゃんですら肉とか言ってやがったからな。


ラムザが産んだ卵は卵のまま大きくなっていく。とても不思議だ。しかし、奥さんのお腹が大きくなっていくような愛しさを感じる。ただ鼓動とか殻で感じないので切なさもある。しかし、ぐんぐんと大きくなる心強さもある。


「そうずっと見てなくて良いと言っているだろ?」


「いや、いつ生まれるのかな? とかどんな子供かなとか思うとなんかずっとこうしてたいんだよね」


ゲイルは卵が産まれてからずっと大切にヨシヨシしていた。魔界で皆のご飯を作り、風呂に入ったり、ヨシヨシする生活だ。


そして卵がゲイルの大きさの半分ぐらいまで大きくなった時に殻にピシッとヒビが入った。


「おっ、出て来るぞ」


ラムザも殻から子供が出てくるのを楽しみにしているようだ。


「ぶちょー、娘?」


「もうすぐ解るよ」



ピシッ ピシピシピシっ


卵の殻が割れて子供が誕生した。


「ぶちょー、やったね、娘じゃんっ♪」


「えっ・・・ あ、うん・・」


ゲイルはあまりの衝撃で固まる。


「しかも二人だよっ♪」


そう卵から生まれたのは双子だった。


ゲイルは生まれた嬉しさとどう表現していいかわからない感情が押し寄せる。



「生まれて来てごめんなさい・・・」


二人の第一声がそれだった。身体は5~6歳だが最後の記憶があるようだ。


ゲイルはその一言を聞いて感情が溢れ、何も言えずに二人を抱き締めて泣き続けた。



「ゲイル様・・・ ごめんなさい・・・」


「ゲイル様じゃない。パパだ。俺はお前達のパパだ。生まれてきてくれてありがとう。本当にありがとう。会いたかった。お前たちに心から会いたかったんだよっ。心配かけやがって」


魂が壊れたはずの双子の魂がなぜ再び生まれたのかわからない。けど確かにここにいる。


ゲイルはこの二人に幸せになって欲しいと願った。だが生まれ変わってそれは叶わなかった。ゲイルは誓う。幸せを誰かに託すのではなく自ら幸せにするのだと、


「パパ・・・」


「そうだ。好きなだけ甘えろ。俺はお前たちを甘やかしてたいんだっ。だから生まれてきてごめんなさいとか言うな」


「パパ」


「うん」


「パパ」


「うん」



初代ゲイルに色々な初めてを貰ったキキとララはゲイルとラムザの子として魔界に生まれ、今度は初めて親の愛をゲイルから貰う事になるのである。




ふう、やっと俺の星に生命を誕生させやがったか。しかし、自ら魂を壊したのと分裂する実験に使ってた魂が紛れ混んでたのは誤算だったな。お陰で残りのリソースを全部食っちまいやがった。


予定より人数が足りなくなった分、あいつゲイルに手伝わせるか。それにあのあほとどれだけ俺達と同じ存在を作れば気がすむんだ? ポコポコ生み出しやがって。


星を作りしものはそう思いながらも星を作ろうのプレイヤーが増えることを喜んでいた。



「ぶちょー、今日はこっちでしょ?」


「はいはい」


ずるんとゲイルを剥いで持っていくめぐみ。


「ゲイル、あちらで二人になろう」


「はいはい」


ずるん


「パパーっ! 抱っこしてぇ」


「じゃあキキとララを同時に抱っこだぁ!あばばばばばばっ」


「きゃー! キャハハハハハッ」



「ねぇ、ゲイルくん。一度に皆の相手をするなんて大変ね。今は何ゲイルなのかしら?」


ゼウちゃんが子供達と戯れる俺にそう聞いてくる。


「いや、この【スキル】ワガママボディってのは優れものでね、さっきめぐみが連れてったのが神ゲイル、ラムザが連れてったのが魔王ゲイル。俺は人ゲイルだよ」


「どう違うのかしら?」


「さあ? 全部俺だしね。皆帰って来たら合体して魔神に戻るから問題ないよ」


そう、俺は分裂することが出来るようになっていた。ワガママボディって便利♪



「はぁ? あいつ分裂してまた合体するだと? ワガママボディにそんな能力付けてねぇぞっ」


カスはまた自分の知らない現象が発生しているのに頭を抱えていた。



(なぁ、シルフィ。俺はそっちに行けそうにないわ。もうここへの未練がありまくりだからな。だからお前からこっちに来てくれよ。ここへの道はダン達が見付けてくれると思うから)



ゲイルの望みは叶っていく。


きっと、ダン達がシルフィードを連れてここにやってくる。ドワンやアーノルド達も来るだろう。


「いつになるか解らんが、もうずっと待っててやれるからな。行けたら行くっていうなよ。俺には通用しないんだから」



「パパっ! あばあばして」


「あばばばばばばっ」


「きゃー! きゃはははっ」



「うんうん、このだし巻き玉子美味しいね♪」


「あばばばばばばっ」


「きゃっ!  もうまだ食べてるのにー」



「ゲイルよ、一休みしようか」


「あばばばばばばっ」


「うふふふふっ まだまだ元気だな」



いかん、考え事をしてたら神ゲイルと魔王ゲイルと動きがリンクしてしまった。

気を付けよう。


こうして変わらない幸せな日常が続く。



「そろそろ行くか」


「私もいくー♪」


「パパ私達もっ♪」


「ゲイルよ、皆で行くつもりか?」


「ま、ヤギもいるし大丈夫だろ。ついでに見たことない食い物さがそうぜっ」


「さんせーい!」×全員


「合体! 魔神ゲーーーイルッ!」


「きゃはははっ」


キキとララは俺が合体して魔神ゲイルになるのが大好きだ。何回やっても喜んでくれる鉄板ネタなのだ。


「じゃ、行くぞっ! 汚魂救いに」


「おーっ!」


めぐみの世界は変わらない。ずっと同じ事をしてても楽しく過ごすことが出来る。あほは幸せを呼ぶのだ。


これは星を作ろうの成功モデルになるかもしれないな。人類あほ化計画として。


のーたりんなのも悪くない。








「ぶちょー、これ美味しいね♪」


「まだあるぞ。こっちも旨いぞ」


毎日これを繰り返す。同じ事を延々と繰り返しても飽きない不思議な世界。もうすぐ仲間達も帰って来てここに加わるだろう。



「ねぇ、ぶちょー」


「なんだ?」


「一緒にいると楽しいね♪」








~おしまい~



次回エピローグ

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