第707話 バカヤロー
「これでいいんだなっ!」
「やるじゃないっ カスっ!」
「うるせぇっ。さっさと帰れっ」
「言われなくても帰るわよっ いーっだ」
「あら? これ・・・ えっ?」
「どうしたのゼウちゃん?」
「カスッ、なんでこんなに時間進んでんのよっ」
「あぁ、バグ修正すんのに全星の時間を止めて一斉に更新かけたんだよ。そしたらあほの所だけえらい時間かかってな。だから修正終わった後に他の星との時間調整したんだ。お前らあそこにいて一緒に時間進んだから問題なかったろ?」
「いつ? いつ時間進めたのよっ」
「お前らが来るちょっと前だ」
「めぐみっ! 私達がこっちに向かってる間に時間が進んでる。急いで帰るわよっ」
「えっ・・・ どれぐらい進んだの?」
「もう100年以上進んでるわっ。ゲイルくん100年以上めぐみを待ってる事になってるわよっ」
「うそ・・・」
「早くっ!」
カスはめぐみ達が星にいると思って時間を勝手に進めた。あの中にいると普通に時間が流れているのと同じだから何も問題はない。が、それはめぐみ達が出た直後に行われていた為、ゲイルは100年以上めぐみを待ち続けた事になる。
「ぶちょー!!!」
めぐみはまたゲイルから離れている間に時間が進んでしまった事に恐怖を感じた。ゲイルと離れる時、壊れそうな顔をしていたからだ。もし、もし、ぶちょーが自分がいない間に壊れてしまっていたなら・・・ 滅びを選んでしまっていたらと胸が張り裂けそうになる。
「いやぁーーーーーっ!」
「釣りとはなかなか楽しいものだな」
「だろ? こいつをめぐみに食わしてやりたくてな。ラムザも旨いと言ってただろ?」
「おお、そうだ。汚魂なんかとは比べ物にならん」
ゲイルとラムザはめぐみが帰って来るまでせっせと釣りをしていた。ゲイルは肉等のあらゆる種類の食材を買い込み、めぐみが何をどれだけ食べたいと言っても食べさせてあげられるように仕込む日々を続けた。
ダンがゲイルに残した言葉「汚魂を滅するのは救いだ」この言葉がゲイルの心を守った。キキとララの魂は消えてしまったけれど、あれ以上罪を重ねる事を止めてやれたのだと思うようになった。
「なぁ、ラムザ。あの二人は神様になるのどれぐらい掛かるんだろな?」
「さぁな、めぐみが帰って来たら聞いてみるがよい。それよりゲイル。ミケが言ってた我との子を成せというのはなかなか的を射てると思うのだが」
そう、シルフィと子供が出来なかったのはミケの言った通りかもしれない。その証拠に一度もシルフィードは子供が出来ないねとは言わなかった。そして欲しがりもしなかった。俺だけが居ればよかったのだ。二人ともお互いの愛を子供に取られる事がなく独り占め出来たのだ。
「うん、俺もなんとなくそんな気がする。でも、めぐみが嫌がりそうなんだよねぇ。だから、めぐみがいない間にそういうのをするの違う気がするんだよね」
ゲイルは自分の心境の変化に驚いている。シルフィードはシルフィード、ラムザはラムザ、めぐみはめぐみでそれぞれを好きだと素直に受け入れていた。
浮気とかそういうのではなく、そういうものだとストンと心に落ちたのだ。
「ぶちょー! ぶちょー! どこにいるのぶちょーっ!!!」
めぐみはゲイルが待つと言った屋敷に飛び込んでゲイルを探す。
主を失った屋敷は寂れ、もうずっと使われてないのが一目で解る。
「ゼウちゃんっ、ぶちょーがいない・・・」
「そりゃ、100年以上ずっとここにいるわけないでしょ。それにゲイルくんは前みたいに死なないんだから大丈夫よ。その代わりどこ行ってたんだっ! って怒られるのは覚悟しなさいよね」
「いいのっ! 怒られてもぶちょーがいたらそれでいいのっ。ゼウちゃんも探してっ」
「先に電話掛けなさいよ」
「あっ・・・・」
もう、本当にめぐみはアレよね。
ピーピー
「おっ、やっと帰って来たみたいだぞ。じゃ行こうか」
ゲートで屋敷に移動する。
「ぶちょーっ!」
めぐみはゲイルを見るなり飛び付いて泣きじゃくる
「ごめんねっ。ごめんねっ」
ずっと謝りながら泣くめぐみ。
「気にすんな。またなんかあったんだろ? お帰り」
「ひっく、ひっく。怒んないの?」
「俺の為になんかやってくれてたんだろ?怒んないよ。だから泣き止め」
その後もぶちょーと呼びながら泣くので、抱き締めてヨシヨシし続けた。
「ゲイルくん、昔に戻ったわね。もう大丈夫なの?」
「あぁ、俺の護衛とその嫁さんが俺の心を守ってくれたんだ」
「へぇ、そうだったの」
「あぁ、だからもう汚魂駆除しても心が壊れそうになることはないと思う」
「でも、もうここでそれをする必要はないわ。めぐみがカスに汚魂駆除システムを組んで貰ったから」
ゼウちゃんはめぐみの代わりにどういうシステムか説明してくれた。
「そっか・・・ もうここでやる必要なくなったのか」
ゲイルは少し喪失感を覚える。自分が汚魂を
それを見越したようにラムザがゲイルに言う
「ゲイル、自由に何でもやれるぞ。この星を守るというのは大義であったがそれは成された。めぐみも安泰だ。汚魂駆除をやりたいのなら他の星でやろう。星はその言葉通り星の数ほどあるのだ。時間は無限、好きな事は好きなだけやればよい」
ラムザは本当によく出来たやつだ。俺の気持ちをよく理解してくれる。
「そうだね。やりたいことを延々とやろう」
「ぶちょーのやりたいことって何があるの?」
「俺、娘欲しいんだよね」
「えっ?」
「この世界でさ、娘代わりの人がたくさんいて、それを満たしてくれたんだけど、やっぱり自分の娘が欲しいんだよね。こう、おもいっきり甘やかしたいんだよ」
「わっ私をおもいっきり甘やかしてくれればいいじゃないっ」
「めぐみにもそれをするよ。でもな、めぐみの匂いはいい匂いなんだよ」
「えっ?」
「めぐみとは血の繋がりがないからね。めぐみの匂いは俺を落ち着かせてソワソワさせるんだ。娘とは思えない」
「うむ、ではその娘を持つ願いは我が叶えてやろう」
「そうよ、ゲイルくんはラムザとカスの星の住人を増やす約束もあるのよ。ゲイルくんも子供欲しいならちょうどいいじゃない」
・・・
・・・・
・・・・・
「ぶちょー」
「ん? なに?」
「ラムザとするの?」
「嫌か?」
「うん」
「そっか・・・ ラムザ、すまん。お前との約束破っちまう事になるわ。ごめん」
「そうか・・・ でも今までみたいに一緒にいてくれるのだな?」
「もちろんだよ」
「では、あちこちに汚魂駆除に行こう。お前と一緒に行動しているだけで良い」
「よしっ、星巡りをしよう。ヤギ達にもオヤツやらんとダメだからな」
「ぶちょー、ラムザとしたい?」
「んー、そうだね。そうじゃなきゃ約束なんてしないからね。でもめぐみが悲しむような事はしたくない」
「・・・・・」
俺は何を言ってるんだろうか?
何も誤魔化さず素直にラムザとしたいとめぐみに言った自分に驚いている。
「じゃあ、私の後ならいい」
は?
「いや、お前の気持ちは嬉しいよ。でもな、物理的に無理だろ?」
「どうして?」
「お前の身体というか姿は幻みたいなものだろ? 俺には女性に見えるけど、性別ないだろ?」
「大丈夫。ちゃんと調べたから」
ぺろんと胸をはだけるめぐみ
「おっ おまっ それっ・・・・」
「こういうのが好きなんでしょ?」
「えっ、あっ」
ゲイルは真っ赤になる。
しかし・・・
めぐみを抱き上げて確認する。
やっぱりまた重くなってる。これ、めぐみが人に近付いてる証拠だ。
今の俺は魔神という存在だ。これがどういう者なのか自分でも理解出来ていない。
魔王にも神にもなれる存在なのだとしたら、めぐみとすると神に、ラムザとしたら魔王に変わるのかもしれん。どちらにもなれる可能性が高い。
どちらも寿命はない。が、俺は未練が無くなったら魂が昇華すると言われている。そう、未練が無くなったらだ。
めぐみとして神になったとする。そうなればラムザとする事は出来ないのかもしれない。でも俺の魂はラムザを好きだと言っている。ずっと支えてくれていたのもラムザだ。
ラムザとして魔王になったとする。そうなればめぐみとする事は出来ないかもしれない。めぐみの事も魂が好きだと言っている。というかずっと美味しいね♪ と言う顔を見たい。
どちらとしても未練が残るだろうから魂の昇華はない。
ん? 俺の魂は何を言っているんだ? どちらも好きだと?
それだけではない。やっぱり
ふと考える。俺は神と魔王と人の心を持ってるんじゃなかろうか?
神の心はめぐみを。
魔王の心はラムザを。
人の心はシルフィードを。
俺が人としてめぐみとすればめぐみは人になってしまうのだろうか?
いくら考えてもわからない。
ふと、ろくでもない友人だったやつを思い出す。
ーーーーーーーーーーーー
「お前、よくそんなとっかえひっかえやるよな? そのうち刺されても知らんぞ?」
「俺は一生やれる女が欲しいんだ。惚れた腫れたは一時の事。そんなんじゃなしにずっとやりたいと思える愛が欲しいんだ。それを探している。とっかえひっかえしてるわけじゃない。本当の愛を探しているだけだ」
「そんなのお前の勝手な言い分だろ? 向こうは遊んで捨てられたと思ってるだろうよ。向こうも遊びならいいけどさ、本気だったら刺されるぞ」
「もし、刺されて死んでもそれはそれで悪くない。お互いでなくてもそいつの愛をもらうんだからな」
「俺は一人だけでいいよ」
「俺もだ。その一人を探してる最中なんだよ。お前もそうだろ? どうやって探してんだよ?」
「お互いいい匂いと思える相手がそうだと思うぞ」
「そうか、じゃあ探し方が違うだけだな」
「お前なぁ・・・」
「俺の考えはこうだ」
~やって始まる恋もあればやれずに終わる恋もある。迷わずやれよ、やればわかるさ~
「いい言葉だろ?」
「バカヤローっ!」
バシンっ
「何すんだよっ!」
「闘魂だ。それにやれずに終わる恋ってなんだよ?」
「甘い恋だ。もしかしたらそいつが俺が欲しかった一人だとしたらとか思うと一生残るだろ? そういう甘い恋も悪くない」
ダメだ・・・ こいつの言うことは理解出来ん。
後日大勢の女性からぼっこぼっこにされても、こういうのも悪くないと言ったのには感心したけど。
まぁ、実らなかった恋が甘いというのは認めてやろう。
ーーーーーーーーーーーー
なぜあんなやつの言葉を思い出したのだろうか?
あぁ、なるほど。やればわかるさ・・・か。
そうか。そうかもしれん。
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