第705話 またいなくなった
星を壊しかねない程の威力を持った魔力が放出されてカスの所に警報アラームが鳴る。
なんだ? 何をした?
慌ててカスはログを確認しだした。
魔神? またあいつが勝手に作りだしたのか。
くそっ、それは後だ。それより今何が起こった?
ゲイルのログを確認していくカス。フムフム、今壊れた魂は繋がりがあった魂か。そうか、奴と深く関わった魂が全て昇華するわけではないのだな。それはそうか。 ・・・ん?
カスはゲイルが繋がりのあった魂が汚れ、それが壊れた事でこの怒りと悲しみの爆発に繋がったのだと理解した。理性を失ったかのような爆発もきっちりとコントロールされ、指定された範囲のみの爆発、威力も上部へ逃がしている。それでなければ星ごとふっとんでいてもおかしくはなかった。
しかし、不安が残る。これがコントロールされてなければどうなったのかと。
人でなくなればこんな感情を持たなくて済むんだ。さっさと子供を作ってこちら側に来い。
何度かそれを見直すカス。ん?
ふと違和感に気付いた。浄化に耐えられず壊れたものだと思っていたが違う。浄化には成功している。あれほどの汚れを落として壊れない事にも驚いたがそれよりこれ・・・
魂が壊れたのでもなく、あいつが壊した訳でもない。
自ら魂を壊した ・・・だと?
なぜそんな事が出来るのだっ? 魂へのアクセス権限は限られたものにしかない。それは自らの魂であってもだ。それを自ら壊した?
バグか? 何か致命的なバグがあるのか?
もしこれが致命的なバグであれば星の生物が勝手に魂へアクセス出来る可能性が出てきてしまう。ヤバイ。
カスは全星のシステムの時間を止めプログラムの確認を行う。
魂を自ら壊した二人のログを確認する。なるほど・・・ 暗闇から光へと導かれた魂が真の闇に落ちた。それを奴に知られた事で魂を自ら壊したのか。魂が汚れるのにも色々あるのだな。
カスは二人の魂の過去ログを遡って全てを見ていく。
この魂は元々1つだった物が分裂したのか。これもイレギュラーだな。だからずっとセットで動く。同時に生まれ同時に死ぬ。
なるほど、セットだということで毎回捨てられているな。あいつが暗闇から引っ張り出した次からはまたずっと暗闇か。今回真の闇に落ちたのは仕方がないだろうな。一度光を知ってしまったからな。
プログラムを確認したところ異常は無い。しかし、なぜ想定外の事ばっかりあのあほの所から発生するのか? 分裂した事も自ら壊した事もあのあほのせいか?
理由がわからないカスは実験をすることにした。
幾度となく実験を繰り返して自らの魂を壊した理由が解る。自責の念というものだ。これ程激しい後悔がないとこんな事にはならない。が、念のためにこれも防止するバッチを当てるか。えーっと、こいつがこうなって、よし、これで大丈夫。上手くいった。
激しい自責の念でも魂を自ら魂を壊せないようにプログラムを追加し、全星に強制的に更新をかけた。止めた時間も再び動きだす。
だーーーーーっ! あのあほの星はたったこれだけの修正にどれだけ時間が掛かるんだっ!
カスはあほに怒っていた。
結局、めぐみの世界はプログラムの更新に100年程掛かり、他の星と時間が大きくずれてしまったのである。
「ぶちょー、ぶちょー! もういいよっ。私がやるからそんな顔しないでっ!! お願いっ!」
「めぐみ、大丈夫だ。お前はここに居てくれ。またお前が居なくなったらと思うと・・・」
「すぐに、すぐに帰って来るからっ。一度どんな様子になってるか見てくるだけだからっ」
「わかった。セントラルが終わったら屋敷で待ってる」
めぐみとゼウちゃんは一度天に帰る事にした。ゲイルが汚魂の処理をしなくても良く、めぐみも地上にいれるシステムをカスに作ってもらえないか頼んでみることにしたのだ。
めぐみの所からカスの所まで地上時間で約6時間。急げば半日で往復出来る。
「待っててねぶちょー」
「ちっ、あのあほの所の時間を他に合わせないとな。あいつらもあそこに一緒にいるから勝手にやっても問題なかろう」
ピピピピピピピピっ
「カスっ!」
「なんだよ? いきなり来やがって」
「汚魂を私の所で自動的に壊せるようにしてっ!」
「はぁ?」
「どうせ壊すんだから自動的に廃棄しても問題ないのっ。だから早くっ! 1時間でやって!」
「無茶苦茶言うなよっ」
「やりなさいよーーーーーっ!」
あほがカスの首を絞めていた。
「ゲイルよ、大丈夫か? 何があったのだ?」
ゲイルとラムザは屋敷に戻っていた。
「初代ゲイルの時にね。凄いお世話になった人がいたんだ。ミーシャとシルフィを俺の代わりにずっと陰で守っててくれたんだよ。その魂を俺は壊したというより、自ら壊させてしまったんだ」
「ふむ、しかしヤギに食べられるより良かったのではないか? ゲイルが浄化して最後に会えたのがゲイルで良かったではないか」
「俺だったからこそ自分で魂を壊したんだよ。俺に自分達がやってきた事を知られたくなかったんだろね」
「そういうものなのか?」
「人はそんな風に思ってしまうんだよ」
「ならゲイルはまだ人なのだな」
「え?」
「そういった事がわかるからこそ、そのような顔をしているのだろ? 辛いなら本当に人を止めればよい。もう自身で選べるのではないのか?」
そうか、俺はまだ人なのか・・・
このどうしようもない辛さは人である証拠。これも大切な記憶になっていくのだろうか・・・
戻ったあとすぐにチルチルにも孤児院に行ってもらうことに。
「え? ゲイルは行かないの? 子供構うの好きじゃん」
「すまん、俺はちょっとここで待ってないといけないんだ」
「そうなんだ。じゃ先に行ってくるね」
「ちょっと待て」
俺はそう言ってチルチル呼び止めて抱き締めた。
「目を瞑れ」
「え?」
「いいから」
パチと目を瞑るチルチル。
その隙にポケットに魔法陣を描いて魔金をセット。ウエストランドの金貨の箱を入れておいた。箱には千枚単位で入れてあるから、もう一生食べていけるだろう。
そしておでこにチュッとしておく。幸せになってくれよと願いを込めて。
「何よっ!おでこじゃないっ。期待させてっ!」
「じゃ頼んだぞ」
「いつ来るの?」
「そうだな。行けたらいくよ」
「うんっ」
ゲートを開いて直接孤児院にチルチルを送りこんだ。
(ごめんなチルチル、俺はもう恐いんだよ、他の魂と繋がるのが。だからせめてその子達だけでもお前達が救ってやってくれ。俺はお前達を最後まで見届けるから・・・)
「お、チルも来たのか?」
「ゲイルがダンの手伝いしてくれだって」
「ぼっちゃんは?」
「行けたらいくって」
「そうか・・・ 行けたら行くか」
ーーーーーーーーーーー
「え?そんな言い方あるの?」
「ごく一部しか知らないけどな。まったくわからんだろ?」
「ぼっちゃん、ぶぶづけってなんだ?」
「お茶漬けの事だよ」
「何でそれ食っていくか? って聞いたのが帰れって意味になるんだ?」
「そういう文化なんだよ。だから知らないと、わぁ、いただきますとか言っちゃうわけなんだよ」
「難しいねぇ」
「他は、行けたら行く、かな。これどっちだと思う?」
「行けるようになったら行くんでしょ?」
「まぁ、たいていは行けないという断りの言葉だ」
「じゃあ、行かないとか行けないとか言えばいいじゃない」
「それを言うと、なぜ来ないのか聞かれるだろ? だから曖昧に返事して断るんだよ。絶対に行きたくないときは行かないというけどね」
「へぇ」
ーーーーーーーーーーーーー
ぼっちゃんは俺やシルフィによくこんな話をしてたな。
行けたら行くか・・・
「チル、ぼっちゃん、お前になんかしなかったか?」
「おでこにチューしてもらったよ」
「それだけか?」
「あ、なんかごそごそされたかも。ちょっとドキドキしたんだけどなにもなかったのよね」
「ポケットになんか入ってねぇか確認してみろ」
「えっ? あーーっ何これ? 魔道バッグみたいになってるーー! すっごーい」
「箱か何か入ってねぇか?」
「え? あ、ある」
「中見てみろ。おそらく金貨が入ってる」
「えっ・・・? わっこんなにたくさん・・・」
「おいっ、何こんな所で油売ってるんだよっ。人を探すんじゃねえのかっ」
「うるせえっ! お前があんときごちゃごちゃ抜かすからこんなことになったんだろうがっっ! テメーの大切なもんはテメーで探しやがれっ!」
ダンは理由を知らないエーノルドに八つ当たりでぶち切れていた。あの時にパーティーとして討伐を受けていれば・・・ シルフィの事を口に出していなければと。
もしかしたらぼっちゃんは無意識に俺達に救いを求めてたんじゃなかろうか?
ダンはゲイルの残した「やっぱり無理だったわ」この言葉がどうしても耳から離れない。
もしかしたらぼっちゃんは何度も生まれ変わり、死ななくなったのではないか? それに付き合えるのは女神さまだけ・・・
「くそっ!」
「ダン、ウチらはゲイルに頼まれた事をしたらええ。今さら後悔しても始まらん。前を向いて進んでたらええねん。うちらはそれぐらいしかゲイルにしたられへんのやから・・・」
ぼっちゃん、すまん・・・。
すまん
すまん
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