第704話 ヒトじゃないことを改めて自覚

二人の汚れてしまった魂を見てゲイルの凄まじい魔力が溢れだす



「ぶちょー? どうしちゃったのぶちょー?」


「めぐみ、すまん・・・ 少し離れててくれないか。俺に近寄ると危ないから」


ゲイルはめぐみに離れろと言って二人に近付いた。


「ひっ」


二人は余りの威圧感に怯える。


「ぶちょー! どうしちゃったのよ、ぶちょーっ!」


「ヤギ、おやつは終わりだ帰れっ」


ブオンとゲートを開きヤギ達は褒めてもらえず寂しそうに帰っていく。


(ぶちょーが変・・・ なんかヤバイ気がする)


めぐみはゼウちゃんを呼びに行った。ゲイルの尋常じゃない怒りを初めて見ためぐみはまずいと直感する。



「お前達は何をやったんだーーーーーっ!」


「ひぃぃぃぃっ」


ゲイルは二人の汚れた魂を掴んだ。二人の記憶が流れ込んでくる。


そうか、お前達はまた捨てられて・・・


ゲイルが知ってる二人はエイブリックに拾われて、隠密として鍛えられ影として人生を送りはじめた。しかし、今回は暗殺者として・・・


そうかこんな組織がセントラルに・・・


ゲイルは泣きながら二人の浄化を試みる。しかし、おそらく・・・


断末魔に近い悲鳴を上げる二人。聞きなれたゲイルの耳にこびり付いていく。



「ゼウちゃんっ、ぶちょーがおかしいのっ」


めぐみの説明はよくわからなかったが、汚魂駆除中に尋常じゃない怒りに包まれたと言うのはわかった。


「取りあえずラムザも連れていきましょう。私達の力だどゲイルくんを抑えきれないかもしれないから」


めぐみとゼウちゃんはラムザの元へと向かう。



ゲイルの耳に二人の断末魔がこびり付く。こんなに苦しいならいっそのこととも思うが人を殺しても平気でいられるように精神も鍛えられている。もしかしたらこれを乗り越えて魂を浄化出来るかもしれない。


よしっ、良かった。耐えてくれた。ここまで来たらもう大丈夫だ。


「頑張れっ」


「ゲ、ゲイル様・・・」


「俺だっ! ゲイルだっ。もうすぐ終わる頑張れっ」


ゲイルを見てぼろぼろと泣く二人。


「見ないで下さい・・・ 私達を見ないで下さい・・・」


「もう大丈夫だ。ちゃんと罪を償わせてやるからっ」


「ご、ごめんなさいっ。ごめんなさいっ」


パシャ・・・


あっ・・・




なんでだよ・・・? もう浄化終わったじゃないか・・・


「何でだよっーーーーーーっ!」


どぉーーーーーーんっ


辺り一帯を吹き飛ばすゲイルの魔力。盗賊集団のアジトは一瞬の元に消えさった。


暗い場所でしか生きられなかった二人の幸せを願ったゲイル。


浄化が終わった時に二人はゲイルとの大切な記憶が戻り、自分達がやったことの申し訳無さにキキとララの良心の呵責が二人の魂を押し潰した。




めぐみ達がやって来た時に見たものは辺り一帯が吹き飛び、二人の女の子の遺体を胸に抱いたゲイルの姿であった。


「ぶちょー・・・」


「めぐみ、心配すんな。俺がやってやるから」


二人を抱いたままその遺体を焼くゲイル。もちろん自身もその炎に巻き込まれるが治癒魔法で修復しながら焼いていく。治癒されるといっても皮膚が焼かれる熱さと痛みがゲイルを襲う。せめて二人は自分の腕の中で痛みを共有しながら逝かせてやりたい。今世で誰にも抱き締められることなく逝ってしまったのだから。



「ラムザ来てくれたのか?」


「あぁ」


「今からここの汚魂駆除を始める。全ヤギを使うぞ」


「我も手伝おう。来いヤギ共」


ゲイルとラムザがゲートを開くと大量のヤギが召喚されてくる。


「食い尽くせ」


めぇ~ めぇ~ めぇ~


ゲイルは光輝いてセントラル中心地の外れに向かって飛んだ。ラムザも本来の姿に戻ってゲイルに付いて飛ぶ。


「ぶちょー・・・ どうしちゃったの・・・?」


「ゲイルくん、汚魂駆除に行ったのよ。あなたの代わりに。私達が居ない間ずっとやってくれてたの知ってるでしょ?」


「あんな恐い・・・ あんな辛そうな顔でやってたの・・・」


「人が人の魂を壊すのよ。当たり前じゃない。でもめぐみの代わりは自分しか出来ないからやってくれてるのよ」


「ぶちょー・・・」



「・・・なんだよっ? なんか爆発しやがったぜ」


「もしかしてゲイルちゃう?」


「あの爆発はあいつがやったっていうのかよ? はた迷惑な奴だ」



その後、光の玉がセントラル中心地の外れに飛んでいく。ダンはゲイルだと確信した。


「ミケっ、行くぞっ!」



大量のヤギがセントラルに流れ込んでいく。恐怖に襲われる住民達。


数名がヤギに襲われていく。


ゲイルはキキとララを暗殺者に仕立て上げたアジトへ。そこは孤児院だった。


逃げる子供達の中には既に魂が汚れているものがいる。その子達は土魔法で拘束した。


子供達を犯罪に巻き込んだ張本人を見付けた。


「か、神様・・・」


ゲイルは無言でそいつの魂を握りつぶす。他の者達はラムザが引き裂いていった。その様子を見て恐怖で動けなくなる子供達。


「ぼっちゃんっ・・・・」


ダンが目にしたのは無言で魂を潰すゲイルとラムザの姿。そして拘束した子供の浄化をしていく姿だった。


「ゲイルっ、ヤギがあんなに大量に来るやなんて・・・」


ワンテンポ遅れて到着したミケは今のゲイル達が行った事を見ていない。


「ダン、ミケ。Sランク目前に申し訳無いが俺からの指名依頼受けてくれるか?」


「な、何をすればいいっ?」


「この子供達を闇から救い出してくれ。あとエーノルドにミグルを引き合わせてくれ。頼む」


「ぼ、ぼっちゃんはどうすんだよっ」


「俺は世界をめぐる」


「帰ってくるよなっ?」


・・・

・・・・

・・・・・


「ダン、ミケまた会えて嬉しかった」


そう言ったゲイルはダンのポケットに魔法陣をスーっと描いていき、魔金をセットした。そこに一つの箱を入れる。


「依頼報酬とこの子達を救いだす資金を入れておいた。といっても元々お前に渡した残りだけどな。好きに使ってくれ」


「おいっ、ぼっちゃんっ!」


「ごめんな。俺は人じゃなくなってるからさ、やっぱり一緒にいるの無理だわ。久しぶりに一緒に飯を食えて楽しかった。あ、子供達の面倒は自立出来るまででいいからな」


「ぼっちゃん・・・」


「チャンプっ来いっ」


「ぶちょーっ!」


「めぐみ、おいで」


「えっ? あ、うん」


呼び出されたチャンプにめぐみを抱いたゲイルは飛び乗った。そこにラムザとゼウちゃんも乗る。


ヤギ達はそのまま東に向かって時折咀嚼しながら進んでいった。



「ぶちょー・・・?」


ゲイルはめぐみを抱き締めたまま声を殺して泣いていた。



「ぼっちゃん・・・」


「ゲイルどないしたんや・・・ あんな顔してからに。あんな顔をしてまでやることちゃうやんかっ!」


「人じゃねぇって・・・ なんだよそれ・・・」




「ねぇ、ぶちょー? ぶちょー?」


「あぁ、ごめんな。ちょっと知り合いの魂だったもんで。背景はどうあれ判断基準は汚魂かどうか。それは変わらない。また増えたみたいだから世界を回ろう。ラムザ、チャンプ手伝ってくれるか?」


「もちろんだ」


「うむ問題ない」


「めぐみはどうする? 屋敷で待ってるか? それとも一緒に世界を回るか? 待ってるなら毎晩帰るけど」


「ぶちょー・・・」


「ん? 待ってるの嫌なら一緒に行こう。各地を案内してやるよ」


「ぶちょー・・・ もういいよっ、私がやるからっ。だからそんな顔をしないでっ」


「えっ?」


「だってぶちょー、ずっと泣いてるじゃないっ! そんな顔しないでっ」


「めぐみ、これはお前のせいじゃない。それにもう同じ事を幾度となくやって来た。汚魂にならない仕組みはエデンにしか作らなかった俺が悪いんだ。だからキキとララをあんな目に・・・ 俺は取り返しの付か・・ない事を・・・」


「ぶちょー・・・」


「ラムザ、すまん。俺は元に戻れるかどうかわからん。今の俺は神でも人でもない何かだ。元に戻れなかったらカスに謝っていたと伝えてくれ。約束を守れなかったと」



ゲイルは尋常じゃない怒りの魔力を自分に込めた。それはゲイルを新たな種族へと変えていた。




【種族】魔神





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