第700話 やっぱり会えた

「治癒士のテストってどうやるんだ?」


「今試験官連れてきますねー♪」



「ったく、予定外の試験入れるなよっ」


片足を少し引きずった試験官がやって来た。


「さ、絶対に試験して良かったと思いますよ」


「ちっ、じゃあさっさと・・・ 験体がいねぇじゃねぇか」


「いますよここに。エイっ」


ブッシューーッ


「痛ったぁぁぁぁいっ」


ちっ、あの受付嬢、自分の腕を斬りやがった。


慌てて掛けよって傷を治す


「お前、無茶すんなよっ! 俺が治せない傷だったらどうすんだっ」


受付嬢はとんと俺に抱き付き上を向いて、


「治せると思ってました♪」


大きくて少し目尻が上がった目の受付嬢はそう言った。


まさか、お前・・・・


「こら、ギルドの受付がいち冒険者にくっつくな。他の奴等ともめるだろうが」


「えーー、ちょっとぐらい良いじゃないですか。ケイタさんなんか構ってくれそうだし」


お前はここに居たのか。


「あれ? ケイタさんどうしました?」


「いや、別に。ちょっと振り返っただけだ」


そう答えるとキョトンとした。


「お前はケイタだったな。今の治癒魔法はなんだ? 詠唱はどうした?」


「常に心の中で詠唱は済ませてある。いつ何があってもいいような」


「ほう、そんな事が出来る奴が駆け出しDランクにいるとはな」


「で、合格?」


「あぁ、Cでいい。しかし、こいつが紹介しようとしているパーティーはもうすぐSに上がる。お前とはランク差が有りすぎて俺は勧められない」


「まぁ、臨時程度ならパーティーを組んでもいいかなとは思ってる。ちょっと食料を買い込みたいんで。そいつらそれぐらいは稼がせてくれるかな?」


「そんなもん余裕だ」


「じゃ、今以上のランクに上げるには何をすればいい?」


「Aは瀕死の怪我を治す、Sは部位欠損を治すだ。これは試験では無理だから実践でやった事を報告して貰うことで認定だ」


なるほど。


「ちなみにAかSの人はいる?」


「冒険者にはおらんな。治癒院にはAクラスがいる。Sは過去に居たらしい。聖女様と聖母様だ。もう歴史の中の話だがな」


アイナとマリア以外に居なかったのか。


「試験官のオッサン、ちょっと右足を見せてくれ」


少し引き摺っている足を診る。


あー、ここの筋を傷めたんだな。


「ちょっと痛いけど我慢してくれ」


「えっ? おまっ 何をする気だ?」


魔剣を抜いてスパンと足を斬り落とし、治癒魔法をかけるとはい元通り。


斬り落とした足はボゥっと燃やして処理する。


「お、お前何者だ? それにその剣・・・」


「これは遺品だ。だからこいつで剣士になるつもりだったけど、身体がショボくてな。仕方がないから魔法でやることにしたんだ。治癒魔法士Sでいいか?」


「さっきの火魔法・・・」


「魔法は全種類使える。ただこれは臨時でパーティーを組むと決めた奴にしか言わないでくれ。ワラワラ寄って来られても困るからな。もう動くだろその足?」


「あぁ、昔の通りに動く・・・」


「ケイタさん凄いっ」


「こら、抱き付くな」


「えー、いいじゃない」


「お前にはハーフ獣人ぐらいの太く短く生きる男が似合う。寿命の長いやつは止めとけ。エルフとかな」


そう言って頭をポンポンしておいた。リンスと陽だまりにいる猫みたいな匂いのする受付嬢に。



試験官から3日後にパーティーを紹介するから来てくれと言われた。


俺はそいつらを見て思いっきり笑ってしまった。


「人を見るなり笑うて失礼なやっちゃな?」


熊獣人のハーフとその嫁の猫獣人のハーフ、もう一人は真っ赤な髪の毛の生意気そうな奴だった。


「いや、すまん。俺の知ってる奴に良く似ててな。熊はタコ、猫はサバ、赤毛は唐揚げ好きだろ?」


「なぜそんな事を知っている?」


「俺は魔法使いだからな。何でも知ってるんだ。熊は炎の魔剣を使えるか?」


「うるせぇ!」


「ならこいつを死ぬまで貸しといてやる。じゃ、エデンに行こうか。俺は金ないから電車賃貸しといてくれ。あと食料代と」


俺は有無を言わさずこいつらとパーティーになった。またしばらく楽しい日々が過ごせるだろう。お前達が昇華出来るように未練の無い人生を送らせてやる。



「ねー、ぶちょーどこに行くの?」


「エデンだ。めぐみにマグロ食わせたいからな。食いたいだろマグロ」


「うん♪」


「こいつ、何一人で決めて一人でしゃべってやがんだ?」


「えっ? エデンにいっちゃうの?」


受付嬢は驚く。


「お前はここに居ろよ」


「やだっ! 私も行くっ」


「おい熊、知り合いなのか?」


「昔魔物に襲われていたところを助けてやってからの知り合いだ」


「じゃ、お前も来い」


「いいのっ?」


「その代わり、お前のことはチルと呼ぶ。異論は許さん」


「えっ? いいけど・・・」


「熊はダン、猫はミケ、赤毛は赤毛だ」


エイブリックの名前は歴史に残ってるだろうからな。


「赤毛じゃねー、俺はエーノルドだっ」


ややこしい。


「赤毛でいいわ。ややこしい名前付けんなっ」


こうして俺達はエデンに移動する。



「ここがエデンか・・・」


ここでまずい事が発生する。


ケルベロス達が俺を見て反応したのだ。


俺は危険人物として警戒されるがケルベロス頭達は一斉に俺を舐めはいだ。よだれまみれになったのは言うまでもない。


オッタマゲーにも反応せずエデンに入った。街の様子はあまり変わらず人だけが変わっていた。



「俺はちょっと人に会わないといけないから明日ギルドで待ち合わせね」


グリムナがまだ代表をしてくれている。もう最後だと伝えた手前会うのは恥ずかしいがちゃんとシルフィードがどうなったかを伝えないといけない。きっとそれはグリムナの未練になるだろうから。



「貴様はゲイルか?」


一発で俺を見抜くグリムナ。


「うん、今回は色々あってね、召喚者としてこっちに来たんだよ。元気そうだね?」


グリムナはすでに老いていた。もう先があまりないのかもしれない。


グリムナに魂の話とシルフィードの魂が昇華した事を伝える。それはそのうちに神になる存在であることを。


「そうか、我が娘が神になるのかもしれないのか。お前に託して正解だった。さぞ幸せな人生を歩んだのだろう。礼を言うぞゲイル」


「いや、俺も本当に幸せだった。シルフィードをこの世界に生まれるようにしてくれてありがとう」


俺は自分の言葉ではっとする。そう俺に残ってるのは失った辛さだけではない。何回も生まれ変わって一緒に過ごせた幸せが残ってるじゃないか。こんな経験が出来るのは世の中の魂のなかにどれだけいるのだろう。記憶を消したらこの幸せも消えてしまってたかもしれない。


「で、また女神と一緒にいるのか?」


「俺がこうして存在出来ているのはこいつのお陰でね。シルフィと幸せな時間を過ごせたのもこいつのお陰なんだ。そのお礼に旨いものを食わしてやりたくてね。ずっと一緒にいるんだ」


「そうか。お前も幸せそうで何よりだ。その女神さんをシルフィードのように大切にしてやってくれ。俺達の恩人だ」


「うん」


そうか、俺はめぐみと居ると幸せそうな顔をしているのか。



グリムナから預かりものだと遺産を渡された。国庫に入れる必要もなくそのままだったみたいだ。魔道バッグごと返して貰った。


俺の屋敷は俺が買い取った事にしてそのまま使えと言われた。


夜ご飯はめぐみと二人で屋敷で食べる。


「やっぱりぶちょーのだし巻き玉子は美味しいね♪」


こいつに食べたいものを食べさせてやれて本当に嬉しい。


寝る前に魔道バッグに何を入れてあったか確認する。バッグから保存魔法を掛けてある箱がたくさん出てきた。ほとんどが食糧。もう凄い月日が経ってるのになんともない。


「えーっと、これは何が・・・ あっ、昔のダウンジャケットとかじゃん。よくこんなの残ってたな。それにこれは・・・」


箱の中の箱に大切にしまわれていたのはシルフィードの耳を隠す為の帽子。耳を出すようになって被らなくなったけど、俺からのプレゼントだから預かっててと言われた奴だ。


スンスンすると子供の頃のシルフィードの匂いがした。


チクッと胸が痛んでホロッと涙がこぼれる。でも嬉しい。あの頃の事がだーーっと脳内で再生される。あぁ、記憶が残ってて良かったと心の底から思えた。


ゲイルは改めて思う。楽しい記憶も辛い記憶も全て大切なものなのだと。元居た世界の成れの果てはこういうものが無くなってしまった世界。だから滅びるのだろう。



「ぶちょー、また泣いてんの?」


のーてんきにそう聞いてくるめぐみの手を引っ張って抱き寄せる。


「めぐみ」


「なに?」


「ありがとう」


「何が?」


「お前が居てくれて」


「私が居るのが嬉しいの?」


「そうだ」


「そっか♪ ぶちょーは私が居て嬉しいんだ♪」


「うん」


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