第698話 ゲイルの魂に刻まれためぐみへの思い
ぐすっ ぐすっ。
「アホだ、アホだと思ってたが、記憶をいじった事を本人に言うヤツがいるか? すべての記憶に疑問を持つだろうがっ」
めぐみはここでも怒鳴られていた。
「だって、ちゃんと説明しろとぶちょーが言ったから説明したのに怒られたーーーっ 説明しろって言ったのぶちょーだよね? 私が悪いんじゃないわよねっ?」
ゼウちゃんは返答に困った。カスの言い分の方が正しいから。せっかく自分の星を犠牲にしてまでやったことが水の泡になってしまう。犠牲といっても、時間を進めただけで結果を早く見ただけの話ではあるが。
カスが全ての魂が帰ってきたらゼウちゃんの星をリセットしてくれるらしい。汚魂は全て破棄し、残りの魂は再利用する。ゼウちゃんは星のステータス振り分けからやり直すつもりにしている。
「で、ゲイルくんはどうしてるの?」
「ラムザとゴニョゴニョ話して私の星に行った」
「ねぇ、カス。私達をあなたの星に行き来できるように出来るかしら?」
「仕方がない。事態をお前とうちので収拾してくれ。このアホの所にも行ける様にしといてやる」
ゼウちゃんはまずラムザに会いに行った。ゲイルがどこに行ったかわからないからだ。
「ねぇ、ゲイルくんはどこに行ったの?」
「我とまぐわうのにこの貧相な身体だと嫌だろと言って鍛えに行ったぞ。場所は知らんが剣を取りに行くと言っておったな」
あー、最後に死んだ所に剣を2本置いてたわね。そこに見に行ってみましょ。
ゼウちゃんはゲイルが最後に死んだ所に向かったら、走ったり剣を振ったりしているゲイルがいた。ゲイルはラムザの為にというより、ダンが鍛えてくれた事を無駄にしたくなかったのだ。
「ゲイルくんっ」
「あ、ゼウちゃん。どうしてここに?」
「いえ、めぐみのことでね・・・」
ゲイルは事の顛末を聞かされる。2回目の生まれ変わりの時に記憶をダウンロードされたことから。そして最後に俺が記憶を消してくれと頼んで死んだ後のめぐみの状態、なぜこのような事をしたのか全て聞かされた。
「あいつもちゃんと言えよな。嬉しそうに記憶を弄ったとか言いやがってっ」
「で、ゲイルくんの記憶ってどうなってるの? まだあの娘の魂が昇華したのが辛いかしら?」
「そうだね。魂が壊れるのと昇華の違いはわかったよ。でももう二度と会えないのは俺の心に穴をあけたままだよ。祝福で嬉しいとかにはならない。どう記憶をいじられたのかは知らないけどね」
「そう・・・ じゃあ、その記憶はゲイルくんが自分で取り戻したもの。というか消えなかったんじゃないかしら?」
「えっ?」
「記憶は完全に消去したのは私も確認しているわ。その身体の記憶はある?」
「いや、アニメとかで見たような世界だった。理想なのかもしれないけどつまらないね。両親の顔すら覚えてないや」
「覚えてないんじゃないの。知らないのよ」
「えっ?」
「あそこは私の世界の未来なの。ゲイルくんが元々居た星よ」
「どういうこと?」
「ゲイルくんって他の魂とすごく強く結び付くの。普通に生まれ変わらせるとまた他の魂と結び付きができて辛い思いをさせてしまうんじゃないかと思ったのよ。だから身体が成長するまで他の魂と接触しない場所に送る必要があったの。それが私の星の未来だったってわけ」
「何したの?」
「星の時間を進めて滅びの一歩手前で止めてそこに転生したの」
「滅び・・・?」
「発展し過ぎて魂の汚れがない世界。勉強や経験とか全部仮想世界で行うの。もう少し進むとそのまま仮想世界の中でだけ生きて死ぬ。私達と同じただ存在するだけの世界になって滅びるらしいわ」
「・・・・・」
「だから家族や友達とかの記憶が無いのか・・・ それより以前の記憶は本物? それとも偽物?」
「私達が記憶を弄ったのはシルフィードの魂が昇華して辛いという気持ちだけ。辛いを祝福するに変えてもらったの。初めはシルフィードそのものの記憶を消すと言われたのをめぐみが反対したのよ。そんな大切なものを消したらぶちょーがぶちょーでなくなるって」
「そうだったのか・・・ しかし辛い気持ちは消えてないぞ?」
「ゲイルくんが自分で記憶を取り戻したのよ」
「え?」
「めぐみを見た瞬間に記憶が戻ったのよ。その後に記憶のダウンロードしたけど上書きされたかどうか分からなかったのよ。でも辛い気持ちが残ってるなら上書きされてないわね。それはゲイルくんが自分で取り戻したものよ。私達がいない間に死んじゃった時の気持ちがよっぽど強かったんじゃないのかしら?」
「俺はめぐみに最後の言葉を残そうと・・・」
留守電にしか吹き込めなかったことがずっと心に残っていた・・・
「ゼウちゃん。二人には魅了とかのスキルある?」
「私達には何も無いわよ。ただ存在するだけ。前にも言ったわよね。でも気にいった魂の理想の姿にはなれるわ。それだけよ」
「そう。色々と教えてくれてありがとう」
「あとね、昇華した魂がどうなるか知りたい?」
「え? 昇華した魂の続きがあるの?」
「初めてはゲイルくんのご両親だったわ。それが混ざりあって初めての事象を産み出してるの」
「初めての事象?」
「そう。ゲイルくんと関わった魂が昇華されてどんどん一つになっていってるわ。最終的には私達と同じ存在になるそうよ」
「え?」
「だから二度と会えないんじゃないの。最終的に一つになれるのよ。永遠にね」
「そうだったのか・・・」
「まだ辛いかしら?」
「いや、ありがとう。大切な事を教えてくれて」
「昇華するには魂が汚れないこと、そして経験を積んで最後の時に本当に幸せに満足して、なんの未練も残さずに逝くこと。これが揃わないと昇華しないの。だからゲイルくんも昇華するように幸せで未練が残らない人生を歩んでね。振り向くより前を向いた方が幸せになれるんじゃないかしら?」
「え?」
「後ろ向いて走るとこけるわよ」
昔話より未来の話か・・・
「ゼウちゃん、ありがとう、近々またなんか作るからご馳走するよ」
「楽しみにしてるわよ。ゲイルくん」
しばらく剣を振ったあと、自分にクリーン魔法を掛けた。
よしっ、呼ぶか。
「めぐみっ 早く来いっ」
ポンっ
「何よ?」
まだ泣いてたのか・・・
「お前、俺が最後に伝えたかった言葉聞きたいか?」
「えっ? 何よ今さら」
「そっか。確かに今さらだな、じゃ、いいわ。あとさっきは怒鳴って悪かった。勝手に記憶を弄くったとか言うから怒ったけど、詳細はゼウちゃんから聞いた。お前は悪くない。俺が悪かった」
「もういいわよっ。どうせ私がなにかしてもぶちょーは怒るんだから」
「そうだな。俺はお前に対する理解がまだ足りなかったんだな。もうちょっとしたら街で何か仕入れて作ってお供えしておいてやる」
「何でお供えなのよ。お下がり不味いんでしょ?」
「お前一人分くらい不味いの食っても問題ないよ。旨くても不味い時があったからな」
「何よそれ?」
「俺の気持ちの問題だ。気にするな」
「旨くても不味いって何よ」
「マグロだ。でっかい魚でな。刺身や寿司で食うんだよ。それの事だ」
「食べてみないとわかんないわよ、そんなの」
「そうだな。今度釣ってお供えしてやるよ。ちゃんと不味くなると良いけどな」
「だから何でお供えなのよっ!」
「お前、怒られたからしばらく俺の顔見んの嫌なんだろ? だからお供えしてやるっていってるんだよ」
ぐすっ ぐすっ
「何で泣くんだよっ」
「人の気も知らないで・・・」
「お前、人じゃないだろ?」
「そうだけどっ。私の気も知らないでっ」
「なんだよ? まだ謝り足りなかったか?」
「言いなさいよ」
「悪かった。ごめん」
「違うっ」
「じゃなんだよ?」
「最後の言葉よ。私に何を伝えようとしたのよっ」
「今さらなんだろ?」
「今さらでも聞きたいのっ!」
・・・
・・・・
・・・・・
「めぐみ、目を瞑れ。もしくはこっち見んな」
「何よそれ?」
「いいから早く」
パチと目を閉じるめぐみ。
「俺はお前と会えて嬉しかった。最後に会えなくて寂しいけどサヨナラだ」
「え?」
「何回も言わん」
「私に会えて嬉しかったの?」
「何回も言わんと言っただろ」
「私がいないのが寂しかったの?」
「だから何回も言わんと言っただろ」
「怒ってばっかりだったのに?」
「怒った回数そんなにないだろが。一緒に飯食った時の方が圧倒的に多いだろ?」
「本当に寂しかったの?」
「うるさいなっ」
「ねぇ、ぶちょー。もう一回言ってよ」
「あー、めぐみに電話掛けても繋がらない。お供えをしても不味くならない。お下がりを食って旨いままだったのが嫌だったんだ。何回も言わせんなっ」
「ぶちょーっ」
ゲイルに抱き付くめぐみ。
「お前、次にいなくなるときは何年いなくなるとかちゃんと言え。それが俺の55歳を越えるようならその時に最後のお別れを言ってやるから」
ゲイルもめぐみを抱き締めてそう伝える。
「もう居なくならないわよ。ずっといる」
「そんな事したらお前の仕事が貯まるたろ?」
「自動にしてあるから大丈夫。汚魂はほとんどぶちょー達が駆除してくれたから」
「問題ないならいいけどさ」
ん?
スンスン
めぐみから女の子の匂いがする。リンスの匂いもするけれど、うっすらと甘い香り。
「なぁ、めぐみ」
「なに?」
「お前、リンスの匂いの他になんかした?」
「してないよ」
「本当に?」
「本当」
スンスン。気のせいなのだろうか?
「ぶちょー」
「なんだ?」
「私の匂い好き?」
「やっぱりなんかしたのか?」
「してない」
おかしいな・・・
まぁ、問い詰めるとまた怒鳴ってしまうかもしれんからな。もう聞かないでおこう。
そのあと、俺達は土魔法の小屋で寝た。
マット無しは辛かったけど、めぐみは関係なしにスースー寝ていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます